アウシュビッツの恩赦妄想
「極限状態に追いつめられると、人間は、どのような行動を取るのだろうか?」という疑問を持ちながら、初めて、フランクルの「夜と霧」という本を読んだが、現時点における感想は、「アウシュビッツの恩赦妄想」が、現在の「国家財政が破綻しない意見」と重なって見えたことだった。つまり、「アウシュビッツに収容された人々は、ほとんどが、恩赦妄想を持った」と説明されているが、このことは、「最後の最後まで、自分の命が助かるのではないか?」という期待を抱いていた状況を表しているのである。
また、この点に関して注目すべき事実は、「飢餓による思考停止状態」とも思われるが、実際のところ、「極端な飢餓状態に陥った人々にとって、興味の対象となるのは食べ物のことだけだった」とも解説されているのである。つまり、「欲望」という言葉が意味するように、「自分に欠落したものを望む状況」が窮まると、「それ以外のことが考えられなくなる状態」が発生する事態が指摘されているのである。
そして、この点を、現代にあてはめると、「1999年2月」から始まった「日本の実質的なゼロ金利政策」が、同様の「妄想状態」を表しているようにも感じているが、実際には、「国家の債務が増えながらも、日本の国家財政は破綻するはずがない」と信じ込まれている状況のことである。より具体的には、徐々に、「日本人の預金や現金」が「国債」に移行していった展開のことでもあるが、この理由としては、「日銀が、国民の預金を借りて国債を買い付け、超低金利状態を作り出した状況」が指摘できるのである。
ただし、この点に関して不思議な点は、「いまだに、ほとんどの人々が、自分の預金が安全である」と認識している状況である。つまり、「預金や国債を持つことがリスクオフであり、金融混乱期でも生き延びることができる」と理解している状況のことだが、この点については、まさに、「一種の思考停止状態」を表しているものと感じている。別の言葉では、「怖い事態は見たくもないし考えたくもない」というような心理状態に陥っているものと思われるが、実際には、「国家も、個人と同様に、借金が増え続けると、必ず、破綻状態に陥る」という真理が存在するのである。
つまり、「過去100年間で30か国以上がハイパーインフレに見舞われた」という状況のことだが、現在の「人々の心理状態」は、「お金の呪縛に囚われた人々が、デジタル通貨という目に見えないマネーを求めて、必死にもがいている状況」であり、結論としては、「金融界の白血病」に見舞われた時に、「心の闇や霧」が晴れるものと考えている。(2020.12.28)
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マイナス金利の正体
現在、ヨーロッパを中心にして、「マイナス金利の副作用」が憂慮され始めているが、この点に関して必要なことは、「マイナス金利の正体」を理解することだと考えている。つまり、「なぜ、マイナス金利が発生したのか?」に関して、歴史的観点、そして、具体的な数字で検証することだが、実際には、「国家の借金」である「国債」と、「紙幣の増刷」という「インフレ課税」の「中間的な状態」を意味しているものと感じている。
より具体的には、「国家の運営」を考えると、「税収」で「歳出」が賄えなくなったときに、「国家の借金」である「国債」が発行されるが、「国家の債務残高」が増え続けると、最後の段階で、「紙幣の増刷で、国家の借金が棒引きされる」という「インフレ課税」が課されるのである。そのために、私自身は、この点を注意深く見守ってきたが、実際には、「信用本位制」という通貨制度、そして、「デリバティブ」や「デジタル通貨」などの存在により、「インフレへの道筋」に、大きな変化が発生したことも見て取れるのである。
つまり、人類史上、未曽有の規模で「マネーの大膨張」が発生し、その結果として、政府や中央銀行に、新たな「時間稼ぎの手段」が誕生したわけだが、具体的には、「国民の預金」を間接的に借りて、「マイナス金利」という「国民から資金を搾取する方法」が産み出されたのである。別の言葉では、「紙幣の増刷」の場合、「国家が紙幣を発行することにより、目に見えないインフレ税が課される状況」となるものの、「マイナス金利」については、「民間金融機関などから、金利を徴収する」という効果が得られるのである。
より具体的には、「100円の一年国債」を、日銀などが「101円」で買うことにより、「一年後に、国家が1円の償還益を得る状況」のことである。しかし、現在では、「日銀」においても、更なる「国債の買い付け資金」が調達不能な状態に陥りつつあり、実際には、「国民の預金」を使い果たすとともに、「民間金融機関の経営悪化」により、「金融システム」が危機的な状況に陥り始めたのである。
しかも、「メガバンク」については、「オフバランス(簿外)で、約6京円ものデリバティブを保有している状況」となっており、そのために、「わずかな金利上昇で、ほぼ瞬間的に、世界の金融システムが崩壊する可能性」も存在するのである。つまり、「1991年のソ連崩壊」と同様のメカニズムが、現在、世界的に働き始めているために、現在は、「マイナス金利の副作用」などの悠長なコメントを発している段階ではなく、「インフレの大津波」に備える時とも感じている。(2020.12.30)
本間宗究のコラムhttp://www.tender-am.com/column.html より許可を得て転載。
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〔opinion10520:210203〕