感染が急上昇
4月は新型コロナウィルス感染が急増した月でした。一日ごとの登録された感染者数を以下に示します(カッコ内は感染累計)。
【2021年4月】
1日=39(634), 2日=34(677), 3日=37(714),
4日=記録なし, 5日=52(766), 6日=13(771),
7-8日=98(877),9日=70(947), 10日=61(1008),
11日=38(1046), 12日=28(1074), 13日=12(1086),
14日=17(1103), 15日=35(1138), 16日=55(1193),
17日=43(1236), 18日=70(1306), 19日=62(1368),
20日=84(1452), 21日=57(1509), 22日=148(1657),
23日=82(1739), 24日=69(1808), 25日=89(1897),
26日=52(1949), 27日=99(2048), 28日=76(2124),
29日=66(2190), 30日=86(2276).
4月22日、一日の感染者数が148人という跳び抜けて高い数字が記録されました。一日の感染者数が百名を超えたのはこれが初めてです。しかし5月になるとさらに悪化してきました。5月10日までの一日の感染者数を以下に示します(カッコ内は感染累計)。
【2021年5月】
1日=120(2396), 2日=48(2444), 3日=80(2524),
4日=129(2653), 5日=133(2786), 6日=84(2870),
7日=95(2965), 8日=146(3111), 9日=116(3227), 10日=126(3353).
このように5月では百名以上の一日の感染者数はもはや珍しくなくなってしまいました。
また、4月22日と5月2日そして5月9日にそれぞれ死亡者一名が出てしまい、5月9日現在で累計死亡者は5名となりました。
氷山の一角
89人の新規感染者が登録された4月25日、危機管理統合センターのルイ=マリア=デ=アラウジョ医師は、ディリ(Dili、ディリ)地方の感染者数が急上昇していると警告を鳴らし、以下のような趣旨のことを述べました―――4月2日~15日、ディリ地方で実施された検査の合計は7564(ランダム検査とディリ地方から移動する人にたいする検査の合計)であり、このうち264が陽性反応を示したので、感染率は3.5%である。4月16日~22日、同様に実施された検査の合計は5799、このうち425が陽性反応を示したので、感染率は7.3%となる。ディリ地方の人口にこの7.3%という数字を適用すれば、ディリ地方の住民の約2万人が感染していることになり、ディリ地方で確認されている1612という感染者数は(4月25日の時点で)、統計的に氷山の一角といえ、大半の感染者が確認されていないことを示している(『タトリ』、2021年4月25日より)―――。
また、東チモール政府ホームページのなかの「COVID-19 東チモール計器盤」というコーナーに以下のような内容の文章が載っています―――4月18日~24日の7日間にある目的のために実施された3311の検査のうち、271(8.2%)が陽性反応を示した。信頼性を95%として計算すると、ディリ地方における感染率は7.3~9.2%ということになる。ディリ地方の住民は30万と見積もられているので、感染率を7.3%とするとディリ地方に21900人の感染者が住んでいることになる。これはディリ地方では約2万人の感染無症状者がいて、感染拡大の危険性があることを示している(covid-19、疫学的要約、2021年4月25日より)―――。
感染急上昇の原因
上記の『タトリ』(2021年4月25日)ではまた危機管理統合センターによる次のような指摘が紹介されています。つまり、3月~4月、外出制限がされているなかでの人びとの集まり、4月4日に起こった洪水後の人びとの集まり、そして4月12日~15日にベラクルスの隔離施設で起こった出来事による人びとの集まり、これらが感染の原因となっているという指摘です。
「洪水後の人びとの集まり」とは、避難所で余儀なくされる人びとの集まりだけではなく、被災現場における人びとの集まりも含まれていると思われます。東チモールはコロナ禍のなかで発生した自然災害にたいする向き合い方を研究する必要がありそうです。
また、「4月12日~15日にベラクルスの隔離施設で起こった出来事」とは、死亡した新型コロナウィルス感染者の遺体の埋葬を巡って起こったシャナナ=グズマンを巻き込んだひと悶着のことです(前号の東チモールだよりを参照)。
いずれにしても「人びとの集まり」が感染を急上昇させている原因と危機管理統合センターはみています。『テンポチモール』(2021年5月2日)は、タイベシとマンレウアナの市場(どちらも首都の代表的な市場)に生活必需品を求めるためにやって来る買い物客のなかには、マスク着用や社会的距離をとるなどの行動規則を守る者もいればそうでない者もいて、これら二ヵ所の市場が新型コロナウィルスを蔓延させる傾向にあると報じています。
ワクチン接種
東チモール独立以来最悪といわれる大洪水に襲われた4月4日の翌5日、Covax(180以上の国・地域が参加し、高・中所得国がワクチンに共同出資・購入して、途上国などに無償でワクチンを提供する)の枠組みで新型コロナウィルスのワクチン(アストラゼネカ社製、2万4000回分)が首都ディリ(Dili、デリ)に到着しました。
4月7日、まず初めにタウル=マタン=ルアク首相とアニセト=グテレス国会議長とサントス控訴裁判所長そして二人の副首相をはじめとする一部の閣僚などが接種を受けました。接種後、首相と国会議長は接種証明書なるものを手に持ちながら別の手でVサインをしてテレビカメラに向かって笑顔で応えていました。政治指導者のほか優先される接種対象は新型コロナウィルス対策に従事する医療・軍・警察などの関係者です。『タトリ』(2021年4月27日)によれば、4月23日までにワクチン接種を受けた人は2万526人とのことです。
Covax枠組みによって人口20%分のワクチンが無償提供されることになっているのでしょう、残り80%についてタウル=マタン=ルアク首相はオーストラリアと中国に支援を求めたと述べています(『テンポチモール』、2021年4月8日)。
この求めにたいしオーストラリアはただちに行動を開始しました。オーストラリアは3万回分のアストラゼネカ製のワクチンを東チモールに供給することにし、5月5日、まず2万回分が東チモールに空輸されました。オーストラリアには中国に水をあけられた観のある東チモールでの存在感を取り戻そうとする政治的な動機があるかもしれませんが、積極的な人道支援はそれはそれで結構なことです。
5月10日政府は優先接種対象を60歳以上の”高齢者”とし、ワクチン接種第二段階を始めました。なお、野党CNRT(東チモール再建国民会議)の国会議員はアストラゼネカ社製のワクチンに懐疑的な姿勢を示し、接種を拒んでいます。このことがワクチン接種の進捗にどのように影響されるかが心配されます。
一日の感染者数が二百名を超える
感染状況がさらに悪化してきました。5月11日~16日までの一日の感染者数は以下のとおり(カッコ内は感染累計)。
【2021年5月】
11日=140(3493), 12日=133(3626), 13日=253(3879),
14日=239(4118). 15日=161(4279), 16日=179(4458).
5月13日と14日のそれぞれの一日の感染者数が二百名を超えました。検査数が増えていることを考慮すべきですが、先述したような感染率の上昇を考えると緊迫感を与える数字であることに変わりはありません。また5月13日、感染者の死亡者が一度に3名、そして16日にも2名出てしまい、これで累計死亡者は10名となりました。
大統領による非常事態宣言は13回目(5月3日~6月1日までの30日間)を迎え、14日間(4月30日~5月13日)延長されたディリ地方における移動規制はさらに14日間延長されました。
非常事態宣言や人の流れを規制する措置、そして集団的なPCR検査とワクチン接種……新型コロナウィルスと闘う東チモールはもうすぐ「独立回復」19周年記念(5月20日)を迎えようしています。
青山森人の東チモールだより 第436号(2021年05月16日)より
青山森人 e-mail: aoyamamorito@yahoo.co
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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