(2023年6月9日)
本日、現職の天皇(徳仁)の結婚30年だとかで、各紙の朝刊に宮内庁提供の最近の家族写真が掲載されている。「結婚30年」、当事者や身内には感慨あっても、とりたてての慶事ではない。もちろん、まったく騒ぐほどのことでもない。
通常、結婚は私事だが、生殖を任務とする世襲君主の場合は特別である。結婚と出産が最大の公務となる。とりわけ、男系男子の血統の存続を至上目的とする天皇後継者の結婚は、男子出産のための公務と位置づけられる。愚かなことではあるが、男子出産を強制される立場の当事者にとっては、さぞかし辛いプレッシャーなのだろう。
周知のとおり、このプレッシャーによって、皇太子(徳仁)の妻は「適応障害」となったと発表されて療養生活を余儀なくされた。周囲からの冷たい目に心折れた、ということだろう。夫は健気にも、妻のことを「僕が一生全力でお守りします」と宣言し続けてきた。何から守ると明言してはいないが、この夫婦も「天皇制なるもの」を相手に闘ってきたごとくである。まことに気の毒な境遇と言えなくもない。
本日の紙上の宮内庁提供の天皇夫婦とその子の家族写真を見て思う。実に質素で飾り気がない。あの儀式の際の、滑稽極まるキンキラキンの洋装和装とはまったく趣が異なる。威厳や、神秘性や、気品や、華美や、伝統やらの虚仮威しがない。この家族写真の天皇は、雲の上の人でも、大内山の帳の向こうの人でもない。徹底して、「中産階級の核家族」「マイホーム・ファミリー」を演出しているのだ。
この事態、右翼諸氏には苦々しいことではなかろうか。本来は神秘的な宗教的権威があってこその天皇である。国民に、「天皇のためになら死ねる」「天皇の命令とあれば死なねばならない」との信仰が必要なのだ。それゆえに、かつて国民の目に触れる天皇の肖像は、本人とは似ても似つかぬ威厳に満ちた御真影であった。「真の影(姿・形)」とは名ばかり。実はフェイクの肖像画を写真にしたもの。天皇制のまがい物ぶりを象徴する逸品と言わざるを得ない。
ところで本日、性的少数者に対する理解を広めるための「LGBT理解増進法案」が衆院内閣委員会で審議入りし即日採決された。まことに、不十分な実効性を欠く法案であるにもかかわらず、これほどに右翼の抵抗が強かったのは、天皇制の存続への影響に危機感あってのことである。
天皇制とは、天皇信仰であるとともに、「イエ制度」を所与の前提とし、「家父長制」に国家をなぞらえて拵え上げられたイデオロギーである。妻は夫に仕え、子は親に孝を尽くすべきという「イエにおける家父長制」の構図を国家規模に押し広げて成立した。
だから、右翼は「イエ」「家父長制」の存続に極端にこだわることになる。統一教会も同様であり、安倍晋三もしかりである。ジェンダー平等も、フェミニズムも、夫婦別姓も、同性愛も、同性婚の制度化も、ましてや性自認の認容などはあり得ない。その一つひとつが、天皇制存続の危機につながることになるからだ。国民の自由や多様性と天皇制はは、根本において矛盾し相容れない。今、そのことをあらためて認識しなければならない。
このことを説明して得心を得ることは、そう容易なことではない。しかし、極右自らが語るところを聞けば、自ずから納得できるのではないか。その役割を買って出た人物がいる。有本香という、よく知られた極右の発言者。オブラートに包むことなく、率直にものを言うのでありがたい。
ZAKZAKという「夕刊フジ」の公式サイトがある。フジサンケイグループの一角にあるにふさわしく、臆面もない右翼記事が満載。昨日(6月8日)午後のこと、そのZAKZAKに有本香の一文が掲載された。長い々い表題で、「LGBT法案成立は日本史上『最大級の暴挙』 岸田首相は安倍元首相の『憂慮』を理解しているのか 『朝敵』の運命いかなるものだったか」というもの。右翼がジェンダー平等やLGBTを敵視する理由が天皇制にあることを露骨に述べている。これ、「語るに落ちる」というべきか、「積極的自白」と称すべきか。
全部の引用は無意味なので、抜粋する。要点は、以下のとおり。
LGBT容認は、万世一系の皇統を危うくする。皇統を危うくする者は「朝敵」である。これを喝破していたのが安倍晋三。安倍の恩顧を忘れてLGBT容認の法案成立に加担する自民党議員も「朝敵」である。もはや、自民党ではない保守の「受け皿」をつくるべきだ。
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安倍晋三元首相の亡い今、岸田文雄首相(総裁)率いる自民党は、おそらく日本史上でも「最大級の暴挙」をしでかそうとしている。LGBT法案を強引に通そうとしているのだ。
LGBT法案について、安倍氏は法案の重大な問題点を指摘していた。「肉体は女性だが、性自認が男性の『トランス男性』を男性と扱うことになれば、皇位継承者を『皇統に属する男系男子』とする皇位継承の原理が崩れる」。神武天皇以来、万世一系で約2000年(ママ)続く、日本の皇統。これを崩壊させんとする者は「朝敵」である。
皇統の重要性は、皇統が崩壊すれば、日本が終わると言って過言でない。その暴挙を為そうとしている自覚が、岸田首相と政権の人々、自民党幹部にあるのか。同法案推進に努めた古屋圭司氏、稲田朋美氏、新藤義孝氏ら、〝安倍恩顧〟であるはずの面々は、安倍氏の懸念を何一つ解消させないまま、進んで「朝敵」となる覚悟をしているのだろうか。
古来、朝敵の運命がいかなるものだったかは、あえてここに書かない。万世一系を軽んじ、自分たちが何に支えられてきたかも忘れてしまった自民党の奢(おご)りを、私たちは看過すべきではなかろう。
多少の政局混乱はあるだろうが、それをおそれず、自民党以外の保守の「受け皿」を国民有権者自らがつくるべきだ。
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極右の目から見ると、自民党も「朝敵」なのだ。恐るべきアナクロニズム。こう言う連中が、かつては安倍晋三を押し上げ、また、安倍晋三の庇護の元にあった。
あらためて、天皇(徳仁)の家族写真に問うてみる。
「LGBT容認は、万世一系の皇統を危うくする。皇統を危うくする者は『朝敵』なんだそうですよ。徳仁さん、もしかして、あなたも『朝敵』ではないのかな」
初出:「澤藤統一郎の憲法日記 改憲阻止の立場で10年間毎日書き続け、その後は時折に掲載しています。」2023.6.9より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=21250
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion13068:230610〕