「金(ゴールド)」と「お金」
先日、アメリカの議会で、たいへん興味深い議論が行われたのだが、それは、「ロン・ポール」という著名な議員が、「バーナンキFRB議長」に対して、「あなたは、金(ゴールド)が、お金だと考えるのか?」という質問を行ったことである。そして、バーナンキ議長の返答としては、「ノー」というものだったのだが、このやり取りについて感じたことは、「表面上は、とりとめのない質問」のようだが、実際には、「今後の金融政策に関して、たいへん意味のある質問だった」ということである。
つまり、「ロン・ポール議員」というのは、以前から、「FRBの監査」や「フォートノックスに存在する、金在庫の調査」などについて、「法律により、強制的に行う」ということを主張してきたからである。そして、「なぜ、このような事を主張するのか?」という点については、「FRBが、あまりにも無謀な金融政策を行っている」ということと、「フォートノックスには、金の在庫が無くなっているのではないか?」というような疑いが存在すると考えているからである。
より詳しく申し上げると、「1971年のニクソン・ショック」以降、「FRB」という「アメリカの中央銀行」の業務が大きく変化し、本来の役割とも言える「金の在庫を保有し、その金をもとに、紙幣を発行する」ということが、軽んじられてきたのである。しかも、1980年代以降に起きたことは、「金は、その役割を終えた」というような考えのもとに、「世界各国の中央銀行が、金を売却した」ということであり、また、多くの「メガバンク」が、各国の中央銀行から、金を借りて、市場で売却するということまで行われたのである。
つまり、現在の「金融システム」においては、バーナンキ議長のコメントのとおりに、「金(ゴールド)は、お金ではない」という考えが主流になっているのである。そして、「コンピューター」の中に存在する「単なる数字」が、「通貨」となり、かつての、「金」の役割を果たしているのだが、このような結果として起きたことが、「デリバティブ・バブル」であり、また、「国家債務の大膨張」だったのである。そのために、これらのことを熟知した「ロン・ポール議員」は、批判的な意味を込めて、冒頭の質問を行ったようだが、結果としては、「金は通貨ではない」という回答となったのである。しかし、私の感想としては、「今回の議論は、間もなく、大きな意味を持ってくるのではないか?」ということであり、実際には、将来、「アメリカの債務不履行」が起きた時に、「はっきりとした回答が出る」ということである。(7月26日)
日本のインフレ指数
世界的な金融混乱と物価上昇については、誰もが認識することとなったようだが、不思議な点としては、「日本の財政問題だけが、まったく無視されている」ということである。そして、この要因としては、「日本のインフレ指数」に、原因の一つが存在するようだが、実際には、「消費者物価指数」だけが、依然として、「前年比で、マイナスになっている」いう統計になっているのである。つまり、「6月の輸入物価」については、前年比で「+10.5%」、「卸売物価」は「+2.5%」にまで上昇しているのだが、「消費者物価指数」については、依然として、「下落局面」と考えられているのである。
確かに、「輸入物価や卸売物価が上昇した後に、消費者物価が上昇する」ということが、過去のパターンでもあったのだが、今回は、再度、「CPIショック」とでも呼ぶべき状況が起きようとしているのである。つまり、「消費者物価を測る指数」の中には、いろいろな商品が存在しているのだが、5年前に起きたことは、「値上がりした商品を削除し、値下がりした商品を組み込んだ」という「操作」だったのである。そして、今回も、「8月」に、同様の調整が行われたのだが、このことは、「統計数字の誤魔化し」とでも呼ぶべきことだと考えている。
つまり、「なぜ、このような事が起きるのか?」というと、それは、「ゼロ金利政策」を継続しながら、同時に、「長短金利の上昇を抑える」ということが、政府の目的であり、そのためには、「デフレの演出」が行われている可能性が存在するのである。しかし、かりに、この推測が正しいとしたら、現在の「実質金利」は、「大幅なマイナスの状態」となっており、このことが意味することは、「預金や現金が、実質的に、大幅な目減りを始めている」ということである。
より詳しく申し上げると、「一年後の預金や現金で買える商品の量が、現在よりも、少なくなっている」という事態が考えられるのだが、このことが、本当の意味での「インフレ」であり、このような事態に遭遇すると、多くの人は、「換物運動」という「お金を商品に交換する」という動きに繋がるのである。しかも、今回は、「基軸通貨国のアメリカが、デフォルト(債務不履行)の危機に瀕している」というような状況でもあり、今後の日本は、「絶対的な借金の総額」、そして、「GDPに対する債務比率」のどちらから見ても、「アメリカよりも、はるかに、危機的な状況にある」とも考えられるのだが、すでに、時間的な余裕はなくなっており、後は、「実際の混乱が始まるのを、待つだけの状態」とも言えるようである。(7月27日)
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