「子どもの権利条例」を活かしている自治体から -‐小金井市・泉南市・川崎市での取り組みに学ぶ

2024年2月10,11日に東京都小金井市で、「『地方自治と子ども施策』全国自治体シンポジウム2023」が、自治体職員など約200人が参加して開かれました。「子どもの思い、考え、意見を真に反映した子ども施策、子ども支援・子育て支援、まち・コミュニティづくりをどのようにすすめていくかなどについて検討してきた」集会で、2002年の第1回以来20回目の開催でした。
全体会と、子どもの相談・救済、子どもの虐待防止、子どもの居場所、子どもの参加、子ども計画、子ども条例の6分科会で、報告と論議が行われました。筆者(長谷川)は参加できませんでしたが、分厚い『報告資料集』を入手し、リポーターの資料を頂いたり、電話取材などにより、報告内容を整理確認して、この原稿を書いています。
相模原市からの参加者は2人いたことは確認できましたが、参加者に感想や意見を聞くことはできませんでした。わかっているのは、参加者は非正規の職員が私費で参加したこと。非正規の人も含め若い職員を、なぜ公費で公務として参加させないのか、学んで市の子ども政策に生かそうとしないのか? 市の姿勢、やる気が問われます。
◆相模原市の条例と取り組みに欠けているもの
各自治体の取り組みとその姿勢を見て,相模原市の子どもの権利条例そのものと取り組みとに欠けているものは何か、と考えさせられました。
第1に、条例の実行と推進のための行動計画の策定と、その実行の状況および子どもの権利・人権の実態に関する検証・調査と報告の規定がないこと。たとえば川崎市では、条例制定から20年の間に8回の実態・意識調査を実施し公表しており、政策の見直しにも役立てているのです。
第2に、条例の執行状態を検証し、見解を公表する「権利条例委員会」の規定がないこと。条例の実施状態を見守り意見を述べる委員会は、不可決です。
第3に、「子ども会議」を規定しなかったこと。参加や意見表明の大事な仕組みであるとともに、「育ち」の主体としての子どもたちの学習と意識を高めるための仕組みでもあると言えます。前回紹介した『条文解説』でも、充実した取り組みを求めています。川崎市では、子どもと大人の対話の場にもなっています。
第4に、子どもが「育ち・学ぶ」場(施設)での権利保障について明示していないこと。これは、学校や教育委員会の役割や責任にも関係するように思います。子どもにとって、身近で最大の社会というべき学校こそ、権利の実現と学習体験のできる場、環境であることが必要、と言えるはずです。
第5に、条例の目的として、単に諸権利とその保障の規定だけでなく、子どもの権利・人権の根差す文化がある社会づくり(子どもにやさしいまちづくり)が明示されていないこと。まさにこれは、人権尊重のまちづくりにとっての基本、と言っていいでしょう。子どもの権利・人権の保障は、すべての人々の権利・人権の保障の基盤と捉えるべきなのです。
そして第6に、子どもの権利条例を支持し推進する市民の動きがないこと。市の行政にも、この条例の実行を市民との協働で、という思考がないこと。もちろん、この市民参加・協働には子どもの参加が極めて重要で不可欠です。
◆先進自治体と市民の取り組みに学ぶもの
《小金井市》 集会の全体会の冒頭で子どもにやさしいまちづくりについて報告した白井亨市長は、オンブズパーソンに触れて、その目的は「子どもの権利の侵害に関する相談及び救済に取り組み、もって子どもの権利を実現する文化及び社会をつくる」ことと説明、子どもを含めた参加・協働・まちづくりを進める、と語りました。
子どもの権利に関する条例を制定したのは、2009年。2001年に条例づくりの方針を掲げ、翌年に市民参画による検討委員会を求める陳情が採択され、2003年に策定委員会が発足。策定委員会は、希望する市民全員参加の市民会議(大人会議と子ども会議)を開催、市民参加が進みます。子ども会議の議論により、条例前文に大切なこととして愛情・意志・環境を盛り込むよう決めたそうです。
条例の制定時には、当初は「権利」がなかった条例名に「権利」を加える陳情が採択され、修正可決されました。オンブズパーソンの設置も、条例と権利の推進のための行動計画と、実施状況の検証とその担い手の権利条例委員会設置を求める陳情も、市議会で採択されています。市民の活動と市議会(委員会)の連携が、よくできているのです。
行動計画と権利条例委員会・検証は今後の課題ですが、これらの陳情にかかわってきたのが、「子どもの権利条例をいかす会」。策定委員会の発足時に「つくる会」として始まり、条例制定とともに活動を引き継いでいます。
市民の権利学習として、公民館が主催した「子どもの人権講座」にも注目しておきたいと思います。条例制定前の2007年から2023年までに、幅広いテーマと講師により、100回を超える講座を続けてきたのです。
子ども条例分科会で報告した「いかす会」の阿部寛子(のりこ)さんは、自治体の子ども施策に欠かせないのは、首長の熱意・行政のキーマン・官民連携だとして、市民の積極的な働きかけの活動の大切さを指摘していました。今の相模原市には欠けている、と言わざるを得ません。
《泉南市》 子どもの権利政策でトップ級との声もあるのが大阪府南部の泉南市です。まず最初に、同市の子どもの権利に関する条例(2012年制定)の前文の一部を紹介します。権利条例制定の動きと並行して子ども会議(泉南・子ども・語ろう会)の活動も始まり、4回の話し合いで決めたものが、前文の中核に収められたのです。条例づくりは、まず参加ありで、同市の条例の第1の特徴とされています。
《(前略14行)私たちは 泉南の子どもです。/私たちは、子どもの平和のために3日間かけて話し合いました。/私たちは、泉南の自然が多くて、元気なところが、好きです。/そんなまちが好きだからこそ、私たち子どものことを大切にしてください。(おかあさんやおとうさん おうちのひとへ、学校の先生へ、まちのおとなへ の項は省略)/私たちの気持ちをきくときに大切にしてほしいことは/話を途中でさえぎらないで最後までちゃんときいてください。/きいたあとは、やさしく接してください。/すぐに評価するのは待ってください。/私たちは、他のひとの気持ちや意見をきくことも大切にします。》 この後に、ユニセフの「私たちにふさわしい世界」の文を引き、子どもと大人が互いにパートナーとして「子どもにやさしいまち」の実現に取り組むことを唱っています。
こういう条例を持つ泉南市ですから、もちろん「せんなん子ども会議」の活動も盛ん。小4から18歳までが対象で、行政の担当は教育委員会人権教育課です。ここでは詳しく触れませんが、権利学習の取り組みと、権利条例の実施状況を検証する権利条例委員会・市民モニターについて少し触れておきます。
権利条例委員会は、条例の運営・実施状況を定期的に検証しますが、その検証に役立つ活動をするのが市民モニター。子どもモニターとおとなモニターが各8人ほど委嘱され、年2回ほどの会議に出たり、感想や考えを出し合ったりします。具体的な子どもの参加の仕組みの一つです。
後でも取り上げる同市立鳴滝小学校長の奥田好幸さんは、学校での権利学習について、報告でこう述べています。「本校では、全学年で子どもの権利学習を系統的に実施している。低学年では『4つの権利』と『泉南市子どもの権利の日』について、中学年では『子どもの権利条約』と『せんなん子ども会議』について、高学年では『子どもの権利条約』の条文について、それぞれ1~2時間の授業を実施している」。学年ごとにプログラムに従っての実践です。
これらの権利学習はなんと、幼稚園、保育施設などでも行っているのです.また、子どもの権利の日(11月20日)には、すべての園や学校で学習やイベントを行っています。
《川崎市》 全国に先駆けて子どもの権利に関する条例を2001年に制定、子どもの権利政策をリードしてきた川崎市。同条例に基づく居場所としての「子ども夢パーク」はテレビなどでも詳しく紹介されよく知られています。夢パークには、フリースペース「えん」も併設されています。
先進地の川崎ですが、2018年の調査による条例の認知度は、「知っている」が子ども16.4%、大人10.3%、「知らない」が48.0%、60.6%で、30%前後は知っているが内容は知らないでした。「知っている」が少しずつ増えているそうすが、大きな都市だけに課題は少なくないようです。
ここでは、子ども会議と学校での取り組みについて触れることにします。条例の主管はこども未来局ですが(なぜ、今ではなく未来なのでしょうか?)、子ども会議は教育委員会の生涯教育部地域教育推進課、学校での権利学習は政策室人権・多文化共生教育担当が所管しています。
子ども会議は、条例施行10年目ごろに関心の低下があり、仕組みの改革をして、現在は小学生を中心に約40人が参加、月に2回、10~15時の話し合いをしていますが、時間を超えることもしばしば。大人との話し合いもしています。相模原市からは、視察に来ているそうです。
権利学習では、市の教育プランの基盤として人権尊重を据え、小1,5と中1に『子どもの権利学習』を資料して配布。子どもの権利の日前後の1週間を権利週間として、全校で学習などの取り組みをしています。第7期の子どもの権利委員会は2022年の答申で、「学校における子どもの権利学習を教育課程に位置付けることによって、子どもの権利学習を全ての学校において優先的に行うこと」を求めています。
◆「権利条例のある自治体の学校」という認識
先に触れた奥田校長の報告のタイトルは「」子どもの権利条例を持つ自治体の公立小学校で」。子どもの権利条例のある自治体の学校という認識、意識の持ち方に初めて出会いまいした。とても大事だと思いますが、こういう意識を持った教育関係者は、ほとんどいないでしょう。
奥田さんは報告で、子どもの権利、権利主体としての人格を理解する教員にとって、一方で子どもは共に学校生活を送る「対象」であり「指導の対象」でもあり、対等な人格相互の関係との矛盾を抱えている、と指摘しています。
手元に「子どもの参加は 学校を変える 子どもを変える」という21年も前の印刷物があります。日教組教育研究全国集会の自治的諸活動と生活指導分科会での、北海道幕別町の中学校教員の報告です。近年、同分科会では、このような報告が途絶えていると言われますが、20も年前の先進的な課題は、まさに今の課題だと言わざるを得ません。
子ども施策・計画や指導・教育や管理の《対象》ではない子どもが育つ「子どものにやさしいまち」へ。自治体からの変革が動き始めているようです。相模原市もこの動きに乗れるよう、市民の活動の高まりを願いたいものです。

初出:「季刊 相模原市民がつくる総合雑誌 アゴラ」108号(2024春号)より許可を得て転載

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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