本間宗究(本間裕)の「ちきゅうブッタ斬り」(496)

著者: 本間宗究(本間裕) ほんまそうきゅう( ほんまゆたか) : ポスト資本主義研究会会員
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2024.12.11

1930年の関税法

トランプ次期大統領の政策の一つに「関税率の上昇」が想定されているが、その結果として、現在、大きな注目が集まり始めているのが、「スム―ト・ホーリー関税法とも呼ばれる1930年の関税法」である。具体的に申し上げると、「1930年6月17日に成立した関税法」については、「20,000品目以上の輸入品に関するアメリカの関税を記録的な高さに引き上げた。そして、多くの国は米国の商品に高い関税率をかけて報復し、アメリカの輸出入は半分以下に落ち込んだ。一部の経済学者と歴史家は、この関税法が世界恐慌の深刻さを拡大した、あるいはそれ自体を引き起こしたと主張している」というような状況だったとも説明されているのである。

そのために、今回も、「1929年の大恐慌が再来するのではないか?」というような意見が出始めるとともに、「実体経済の落ち込み」と「再度のゼロ金利政策」を想定する人々が増えているが、実際には、「まったく違った状況」のようにも感じている。つまり、「1929年」と「現在」とでは、「経済の規模」や「金融システム」などにおいて、大きな違いが存在するために、単純な比較ができない状況であり、また、重要なポイントとしては、「米国の大恐慌は、1923年にドイツで発生したハイパーインフレを過度に恐れた結果としての出来事だった」という事実が指摘できるものと思われるのである。

より具体的には、「当時のアメリカでは、金貨本位制が採用されるとともに、第一次世界大戦で巨額の外貨を獲得した状況」だったが、実際の展開としては、「ハイパーインフレの再発を恐れた米国政府が、金融引き締めを実践し、民間銀行の連鎖破綻を引き起こした」という状況だったのである。つまり、「高い関税率」よりも「民間金融機関の連鎖破綻」の方が、実体経済に、より大きな悪影響を及ぼしたものと想定されるが、この時の注目点は、「国家財政は、現在とは違い、きわめて健全な状態だった」という事実である。

そのために、今回の「トランプ関税」については、当時と同様に、「実体経済の悪化」は想定されるものの、より大きな問題点としては、「税収の減少がもたらす国家財政の悪化」と、その結果として予想される「金利の急騰」が指摘できるのである。つまり、「1991年のソ連」などと同様に、「国債の買い手」が消滅した結果として、「長期金利のみならず、短期金利までもが、きわめて短期間のうちに急騰する事態」のことでもあるが、この結果として発生した事態は、「インクが無くなるまで大量の高額紙幣が印刷された展開」であり、また、「ルーブルの価値が、短期間のうちに3000分の1にまで急減した状況」だったことも思い出される次第である。

2024.12.17

金融機関の信用消滅

7月の「野村証券営業マンによる強盗殺人未遂と放火の罪で起訴された事件」に続き、最近の日本では、10月に「三菱UFJ銀行の貸金庫窃盗事件」が発生したが、このことは、すでに進行している「世界的な信用消滅」を象徴する具体例のようにも感じている。つまり、現在の「世界的な金融ステム」や「信用本位制と呼ぶべき通貨制度」については、根底に存在する「人々の信用」が基本となっているものの、現在では、「信用を裏切るような事件が頻発する状況」となっているのである。

より詳しく申し上げると、「1971年のニクソンショック」から始まった「人類史上、未曽有の通貨制度」については、ご存じのとおりに、「実物資産との関連性が完全に断たれた状況」となっており、その結果として、「糸の切れた凧」のような状態となり、急激な「マネー大膨張」を引き起こしたことも理解できるのである。別の言葉では、「グローバル共同体」の誕生に伴う「共同体の規模拡大」により、「世界的な信用量の増加」が「大量のデジタル通貨」を産み出した状況のことである。

しかも、今回は、「世界的なコンピューターネットワーク」の発展により、「お金」と「商品」とが直接に結び付く関係性が出来上がったものの、この結果として発生したのが「さまざまな詐欺事件」だったことも理解できるのである。つまり、今までは、「問屋」などの存在により、「商品や取引の信用」が保たれていたものの、現在では、「ハッカーなどの取引相手を騙すことに特化した集団」までもが、大量に発生する状況となっているのである。

そして、この原因としては、やはり、「800年ごとに交代する東西文明の存在」が挙げられるものと思われるが、実際には、「西暦1200年から2000年」までの「富の時代を象徴する西洋文明」が終焉の時を迎えた可能性のことである。つまり、「西暦400年から1200年」までの「神の時代を象徴する東洋文明」の時に醸成された倫理観が、その後の800年間に、完全に失われた状況とも理解できるのである。

そのために、これから想定される展開としては、やはり、「1600年前の西ローマ帝国の崩壊時に発生した大混乱」が考えられるが、唯一の救いとなるのは、「11次元にまで進化した自然科学」が、今後、「3次元にとどまっている社会科学」に対して、「どれほどの影響力を与えられるのか?」であり、実際には、「キリスト教のアセンション」のように、「人々の精神レベルの上昇」の結果として、「戦争や軍備力を必要とせず、世界全体が信用により結ばれた社会が誕生する可能性」のようにも感じている。

2024.12.19

ソ連崩壊の悪夢が蘇る時

「ウクライナ戦争の行方」については、現在、「トランプ次期米国大統領の誕生」などにより、「いつ、停戦が実施されるのか?」が、世界的に注目を浴び始めているが、この点に関して気になるのは、「なぜ、ロシア国民が、プーチン大統領を、依然として支持しているのか?」という点である。つまり、「ロシア国民の関心事」としては、「ウクライナで戦争が発生し、多くの人々が亡くなっている事実」よりも「安定した自分の生活を送ること」であるとも理解されているようだが、この時の注意点としては、「1991年のソ連崩壊」が挙げられる状況とも思われるのである。

より詳しく申し上げると、「プーチン大統領の高支持率」の背景としては、「1991年のソ連崩壊後に、ハイパーインフレで国民が塗炭の苦しみを味わった事実」が指摘できるものと感じている。つまり、「戦争の苦しみ」よりも「ハイパーインフレの苦しみ」の方が、人々の記憶に鮮明に残っているために、いまだに、「安定した生活を与えてくれたプーチン大統領に対する信頼感」が存在する状況のようにも思われるのである。

そのために、今後の注目点としては、すでに始まった「ロシアのハイパーインフレ」に関して、「ソ連崩壊時の悪夢が、いつ、ロシア国民の脳裏によみがえるのか?」が指摘できるものと想定されるのである。別の言葉では、「国民の生活が苦しくなった時に、プーチン大統領への支持率が低下し、独裁者の存続が危うくなる事態」が発生する可能性が指摘できる状況のようにも思われるのである。

より具体的には、「1991年と同様に、国債の発行が難しくなり、大量の紙幣が増刷される可能性」のことでもあるが、当時の思い出としては、「きわめて短期間のうちに、ルーブルの価値が3000分の1にまで急落した状況」が指摘できるのである。しかも、この時には、「安くなったソ連の株式に対して、海外からの買いが殺到した」という状況だったものの、結局は、「1991年だけではなく、1998年にも、大インフレが再来した」という展開だったのである。

このように、現在の「ロシア国民」としては、「再び、1990年代の悪夢が襲ってこない状況」を望んでいるものと思われるが、最近の変化としては、「プーチン大統領の特別軍事行動」そのものが、「さまざまな要因により、かつてのハイパーインフレを再発させかかっている状況」が指摘できるとともに、「プーチン大統領そのものが、国民の安定した生活を脅かし始める存在に変化した可能性」も考えられるようである。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
〔opinion14073:250124〕