日本共産党の機関紙「しんぶん赤旗」が発行危機に直面しているという。だが、「100万人読者回復・10億円募金」(赤旗2025年1月12日)を掲げた拡大運動は、出だしから勢いがない。「1月の党勢拡大の結果について」(赤旗2月2日)によれば、日刊紙640人減、日曜版3583人減、電子版50人増となり、依然として減勢傾向から抜け出せないようだ。党員拡大は1247人に入党を働きかけ、新人党員は152人にとどまった(50代以下49人)。
第29回党大会決定は、(1)毎月2万人以上に働きかけ、2千人以上の党員を迎える、(2)毎月1200人の日刊紙読者、6000人の日曜版読者の増勢をはかる、(3)党員拡大の6割、7割を青年・学生、労働者、真ん中世代で迎える、というものだった。2024年1月時点の党勢は、党員25万人、赤旗読者85万人だから、この方針が実現していれば、2025年2月時点では2万6000人以上(2000人×13か月)の新人党員が加わり、赤旗読者は9万3600人(日刊紙読者1200人×13か月、日曜版読者6000人×13か月)の増勢となり、2年後の党員27万人、赤旗読者100万人の目標に近づくはずだった。だが、第29回党大会から13か月後の現在時点の到達点は、入党5004人(月平均385人)、日刊紙6919人減、日曜版3万5029人減、電子版1020人増という厳しい数字が並んでいる。党員拡大は目標の19.2%しか達成できず、赤旗読者は4万928人減となって80万人割れが目前に迫っている。
このような事態を打開するために打ち出されたのが、「500万要求対話・党勢拡大・世代的継承の大運動」である。これまでの党勢拡大運動に加えて、新たに「500万要求対話」が打ち出されたのはなぜだろうか。田村委員長は4中総の結語でこう説明している(赤旗1月12日、要旨)。
――「要求対話・要求アンケートで新しい結びつきを広げる」活動を、戦略的大方針にすえるという提起が大歓迎された。要求対話を行うことは、それ自体が国民に対して「国民の声に耳を傾け、国民の声で政治を動かす党」というメッセージを発することになる。〝国民によく見える形〟で党の姿が伝わる取り組みを始めよう。
――「要求対話・要求アンケートで新しい結びつきを広げる」活動は、選挙勝利と党づくりの両方に新しい前進の大きな条件づくりだすことになる。だが、それは自動的に進むものではなく、「要求対話・要求アンケートで新しい結びつきを広げる」活動と一体に、支持拡大目標を正面にすえ、支持拡大に取り組み、担い手を広げる取り組みを意識的に進めることが必要である。
――党づくりについては、「要求対話・要求アンケートで新しい結びつきを広げる」活動を通じて広がった条件を生かして、党大会で決定した目標の達成を正面にすえ、党員拡大と読者拡大の独自の追求を行うことが絶対に不可欠である。
田村委員長の結語についての私の分析は、以下の通りである。
(1)従来通りの党員拡大・読者拡大一辺倒の党活動では、これ以上の党勢拡大が進まないので、新しい方法として打ち出されたのが「要求対話・要求アンケートで新しい結びつきを広げる」活動なのだろう。
(2)この活動は、選挙勝利と党づくりの両方に新しい前進の大きな条件をづくりだすものと強調されているが、それは支持拡大と一体のものであり、党員拡大と読者拡大も独自に追求しなければならないというので、支部活動にとっては二重の負担になる。
(3)赤旗の「党活動」の頁には、党勢拡大活動の報告しかなく、地域での住民運動や市民運動の経験や交流の報告はほとんど見られない。党活動が党勢拡大活動一辺倒になり(矮小化され)、党活動が地域住民の生活から乖離して影響力がなくなり、それが党勢後退の最大の原因となっていることがあまり認識されていない。
(4)今回の「要求対話・要求アンケートで新しい結びつきを広げる」活動の提起は、これまでの党活動が地域住民の要求に向き合わず、対話してこなかったことの「裏返し」とも言える。日常活動の原点である住民要求実現のための党活動が、党機関(党中央)を維持するための党勢拡大運動に矮小化されて住民要求をなおざりにしてきた結果、改めて「要求対話・要求アンケートで新しい結びつきを広げる」ことが必要だと言わざるを得なくなったのである。
(5)「要求対話・要求アンケートで新しい結びつきを広げる」活動を地に就いたものにするには、これまでの党勢拡大活動の目標や方法を抜本的に見直さなければならないだろう。「党大会で決定した目標の達成を正面にすえ、党員拡大と読者拡大を独自に追求することが絶対に不可欠だ」と上から枠をはめながら、新しい結びつきを広げる活動を強要することは、高齢化して疲弊した党支部をさらに絶望的な状況に追いやるだけでしかない。
(6)今後、赤旗「党活動」の頁には、おそらく「要求対話・要求アンケートで新しい結びつきを広げる」活動の達成率が毎月掲載されることになるのだろう。だが、「要求対話」の達成率を数字で計ろうなどとするのは、現場を知らない党幹部の官僚的発想にすぎない。ソ連共産党の崩壊を導いた「ノーメンクラツーラ」(計画を数字で点検する特権的党幹部やそれを構成する人々)の再来を想起させるだけである。
山下副委員長(党建設委員会責任者)は、党勢拡大活動報告の1月締め切り直前、「緊急の訴え」(赤旗1月29日)を行った。そこでは、「全体として、運動が止まってしまっている」という現状が明らかにされている。
――党勢拡大の具体化と独自追求は弱く、党員、赤旗読者とも1月に大幅後退の危険から脱却できていません。1月26日時点での読者拡大は、日刊紙832人、日曜版4027人であり、前進のためには、今日から申請までの5日間で日刊紙1900人、日曜版9000人の拡大が必要です。
――1月の党員拡大の現状は、入党の働きかけは942人、入党申し込みが110人となっています。全体として、運動が止まってしまっている現状にあります。この現状を1月から2月には何としても打開することを訴えたい。
2025年1月26日には、初の政令指定都市・北九州市の市議選が行われ、各党は幹部総出で選挙戦を戦った。共産党も田村委員長、小池書記局長をはじめ多くの幹部が応援に駆け付けたが、結果は1議席を失い、得票数は前回3万8232票(得票率12.0%)から1万716票を失って2万7516票(得票率8.9%)に後退した。各紙は自民党が3議席を失ったことを中心に伝えているが、共産党が4分の1以上の得票を失って後退したことはあまり知られていない。田村委員長就任から1年、党再建の道は限りなく遠い。党活動の抜本的見直しを図り、党活動を本来の姿に戻すのが新委員長の使命だと思うが、その兆しはまだ見えてこない。
このままズルズルと志位路線を踏襲するのか、それとも思い切った党改革に着手するのか、田村委員長に与えられた使命は限りなく重い。(つづく)
初出:「リベラル21」2025.02.07より許可を得て転載
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