二十年以上前に目にした新聞記事を思いだした。ちょっと信じられなかったが、記事を読んでいって、さもありなりなんと妙に納得してしまった記憶がある。うろ覚えだが、次のようなことが書いてあった。
「ロスアンゼルスでは六台に一台は無免許運転で危なくてしょうがない。もしそんな車にぶつけられでもしたら、保険なんかには入ってないからぶつけられ損になる」
アメリカには日本にいては想像しがたい事情で運転免許をとれない人たちがいる。州による違いはあるにせよ、アメリカの筆記試験は簡単なもので、余程のことでもなければ誰でも受かる。実技試験もパラレルパーキング(縦列駐車)がちょっと神経をつかうだけで、ビデオゲームの運転の方がはるかにむずかしい。ニューヨークやボストンやシカゴでもちょっと郊外にでれば、ぶつかるものもないから小学生でも運転できる。それでも取れない人たちがいる。中には英語が不自由で筆記試験に合格できない人もいるが、多くはワケありで素性がバレることを恐れてのことだろうと想像している。
アメリカは(自家用)車社会で、公共の交通手段があるところのほうが珍しい。自動車を運転しなければ仕事もできないし、牛乳一本、煙草一箱買えない。車での移動は必須で、ワケありだろうがなんだろが、運転免許があろうがなかろうが運転しなければ生きていけない。
ワケありの人の多くが不法移民で、なかにはアメリカに密入国したのは十年も前のことで、今じゃ結婚もしていて、ちゃんと働いて税金も納めている。生活は安定しているが、それでも運転免許がない。なぜないのか?運転免許をとりにゆくと、入国記録(I-94)がないことが判明してしまう。アメリカ生まれだと主張しても、米国での出生証明(Birth Certificate)がないから不法移民だとバレてしまう。即国外退去を求められるか、強制送還になりかねない。
国外退去ということでは、ちょっとした経験がある。
入国時にもらう滞在許可は一年間しか有効じゃないから、一年になる前に更新しなければならない。それを知らずに七十八年の夏、ナイアガラでカナダ側に渡ろうとして国境警備隊に捕まった。一月ほどたったころ、不法滞在ということで国外退去の命令の封書が届いた。はい、そうですかと帰国すると、前科がついて以降アメリカへの入国が難しくなってしまう。ニューヨーク支社が手配した弁護士に同行してもらってImmigration Officeに何度も出頭して、不注意だったことで許してもらったことがある。驚くことにその弁護士はそこそこの日本語を話して、日本人駐在員の不注意をメシの種にしていた。
ことの顛末を「国外退去命令-はみ出し駐在記」と題して、二〇一五年の末にちきゅう座に投稿した。
https://chikyuza.net/%E5%9B%BD%E5%A4%96%E9%80%80%E5%8E%BB%E5%91%BD%E4%BB%A4%EF%BC%8D%E3%81%AF%E3%81%BF%E5%87%BA%E3%81%97%E9%A7%90%E5%9C%A8%E8%A8%98%EF%BC%88%EF%BC%97%EF%BC%91%EF%BC%89/
二十年前より今日の不法移民の問題のほうが大きいだろうからと、ちょっとググってってみた。
「how many percent of drivers in LA do not have driver’s license」(ロサンゼルスで運転免許証を持っていない人の割合は?)と入力したら、下記が出てきた。
「According to a 2024 news article from the Fort Worth Star-Telegram, California has a 22.31% rate of unlicensed drivers」機械翻訳すれば下記になる。
「フォートワース・スターテレグラム紙の2024年のニュース記事によると、カリフォルニア州の無免許運転率は22.31%である」
二十二パーセントは、カルフォルニア州全域での数値で、ロスアンジェルスや南部の移民の多い地域ではニ十五パーセント(四分の一)を越えるだろうし、貧しい地域にいけばさらに跳ね上がるだろう。
高速道路を走っていて周りの車の五台に一台が無免許運転だったらなんて考えたら、普通の神経じゃ運転できない、と思うのは日本に生れて日本に住んでいるからのことで、アメリカにいったら、そんな柔なことじゃ生きていいけない。
ちょっと調べたら下記がでてきた。無免許運転の率以外は日本でも普通のことで驚くことでない。
「カリフォルニア州では、有効な運転免許証を持たずに運転することは、有罪判決を受ける可能性のある犯罪行為です。有効な運転免許証を所持せずに自動車を運転することは軽犯罪です」
「2024年には、アメリカの成人の91%が運転免許証を所持している」
「カリフォルニア州は他のどの州よりも免許取得者が多く、免許取得者は2,700万人を超える」
「米国の成人の10%はノンドライバーであり、車や他の乗り物をめったに運転しないか、まったく運転しないと答えている」
ことのついでにどの州が無免許運転が多いのかググってみた。
「which state has more unlicensed drivers in the US」
「ニューメキシコ州の無保険ドライバーは全米で2番目に多く、24.9%が無保険である。ミシシッピ州は全米で最も無保険運転率が高い」
「無免許運転による死亡事故が多い他の州には次のようなものがある」
「テキサス州:死亡事故を起こしたドライバーの24.16%が無免許であった」
「ハワイ:死亡事故を起こしたドライバーの23.14%が無免許だった」
「カリフォルニア州:死亡事故を起こしたドライバーの22.31%が無免許だった」
「ルイジアナ州:死亡事故を起こしたドライバーの20.70%が無免許だった」
「成人アメリカ人の約9%が有効な運転免許証を持っていない。免許を持っていない割合が最も高い年齢層は、19歳以下(60.5%)、85歳以上(30.9%)、20歳から24歳(19.0%)である」
「カリフォルニア州では、許可証(運転免許証)のテストは46問あり、少なくとも38問は正解しなければならない。ドライバーズハンドブックを読めばテストは難しくない」
正答率38/46=82.3%で合格する。
アメリカは州ごとに運転免許が発行される。取得した運転免許は全米で有効だが、帰任すると免許を更新できないから取り直すことになる。個人の運転免許取得歴は下記の通り。
七十七年にニューヨーク州で最初の運転免許を取得した。
八十八年にオハイオ州の免許を取得した。
二〇〇三年にマサチューセッツ州で取得した。
三州とも問題は二十問で正答率八割で合格できる。日本で運転免許を取得したことはない。いわゆる外免からの書き換えで、未だに日本の交通標識にははっきりしないものがある。
個人の経験からだが、アメリカ筆記試験の文章は明瞭で答えは四択で簡単。英語の不自由な人でも過去問を一晩見ていけば、落ちる可能性はゼロに近い。
アメリカの筆記試験がいかに簡単か、笑い話のような話しがある。
2015年3月15日付けでちきゅう座に掲載していただいた拙稿「運転免許―はみ出し駐在記(4)」の一部を書きうつしておく。urlは下記の通り。
https://chikyuza.net/%e9%81%8b%e8%bb%a2%e5%85%8d%e8%a8%b1%e2%80%95%e3%81%af%e3%81%bf%e5%87%ba%e3%81%97%e9%a7%90%e5%9c%a8%e8%a8%98%ef%bc%884%ef%bc%89/
「アメリカ支社に赴任したばかりで英語で四苦八苦している状態でとるものだから歴代駐在員のなかには語り継がれる笑い話を残してゆく人がいる」
「英語がほとんど分からないから歴代駐在員の過去問を文章の最初の数文字だけを模様のように丸暗記した。問題用紙をもらっても見るだけで問題も答も読まない。最初の箇所を見て正解を選んでチェックするだけだから時間という時間がかからない」
「あっと言う間に終えて係官のおばちゃんに。どうみても不慣れな東洋系の頭の良さ?にびっくりしたおばちゃん、よせばいいのに凄いねって褒めた。褒められたのだからどんなもんだとでもいう態度をとればよかったのだろうが、かなしいかな英語で言われても何を言われているのか分からない。きょとんとしているのを変だと思ったおばちゃん、新たな試験問題を打ち出して、これをやってみろと。また、さっさと終わらせて百点。何回やらせても八十点にいたらない結果はでないだろうが、英語ではほとんど何も分かっちゃいない」
実に個人的な経験からだが、識字率は無免許に関係するのか?と訊かれれば、ほとんど関係ないだろうが相関関係はしっかりあると思う。
アメリカの成人の識字率については、4月9日つけで掲載していただいた拙稿「モスクワの茶番ータッカー・カールソン」で触れている。urlは下記の通り。
https://chikyuza.net/?s=%E3%83%A2%E3%82%B9%E3%82%AF%E3%83%AF%E3%81%AE%E8%8C%B6%E7%95%AA%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%83%83%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%82%BD%E3%83%B3
「全米平均で、2022年には米国成人の79%が識字能力を有する。2022年には全米の成人の21%が非識字者である。成人の54%が小学校6年生以下の識字率。2022年には18歳以上のアメリカ人の21%が非識字者である」
無免許運転の理由はなんからの事情で免許停止になってしまったか、取るに取れない事情がほとんどだろうと想像している。そしてそれが経済的困窮にもつながることは間違いない。逆の因果関係もしっかりある。貧しい社会の人たちにはきちんとした社会生活をと思う気持ちが十分ではない可能性がある。そこでは面倒な筆記試験から逃げる姿勢が醸成されるだろう。
経済格差を生むものの一つに学歴がある。その差が生活水準を規定する。そして平均寿命にまで影響する。これに関しては稿を改める。
2024/12/16 初稿
2025/2/11 改版
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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