近代の市民社会国家の見取り図を描いたヘーゲルの「法(権利)の哲学」において、最も重要な概念は何かというと、それは「自由」であることには何人も異論はないでしょう。たしかに自由という概念の用例は、全編に満ち満ちています。ところがどうでしょう、我々が通常ほとんど自由と同義と言っていいほどの扱い方をする「民主主義」という概念は、どこにも見当たらないのにある時気づきました。ちなみに「ヘーゲル事典」(加藤尚武ほか 弘文堂)では、「自由」の項目は、加藤尚武教授自ら筆を執り、相当の分量の説明を加えています。ところが案の定というべきか、「民主主義」は項目すら存在しないのです。「すべて高貴なものは稀であるとともに困難である」(スピノザ・エチカ)がゆえに、ヘーゲルは、民主主義という用語を安直には使わないというわけでもないでしょう。
この点に関し、滝口先生から、「1817‐18年講義録」の§141の注解で、ポジティブな意味でヘーゲルが民主制の原理に触れているとのご指摘がありました。たしかに当該箇所では、コルポラツィオンの民主的な機能について明示的に説明されています。ただすぐそのあとで「より教養形成された、より大きな国家では、民主制の国制が維持できない」と説明されており、それも民主主義の使用に制限がかけられていることの理由のひとつになっているのかもしれません。
こんにちでは、我々は自由と民主主義をリベラル・デモクラシーとしてワンセットで使うことに慣れています。しかし自由と民主主義は、もともとは出自を異にする概念です。自由は近代社会になってはじめに全面的に展開されるようになったものですし、民主主義は古代ギリシアにまで遡れます。
そのことも念頭に置きつつ、ヘーゲルの市民社会国家論の立体的な構造を解明すべく、「法(権利)の哲学」を鋭意読み進めて行けたらと思います。
記
1. テーマ:ヘーゲルの市民社会論
中央公論社「世界の名著」の「ヘーゲル・法の哲学」から第三章 国家(§257~§360)を講読会形式で行ないます。今回は§270内p.507からです。
★国内では数少ないヘーゲル「法(権利)の哲学」の専門家であり、法政大学などで教鞭をとられた滝口清栄氏がチューターを務めます。
1. とき:2025年3月29日(土)午後1時半より
1. ところ:文京区立「本郷会館」Aルーム
――地下鉄丸ノ内線 本郷三丁目駅下車5分 文京区本郷2-21-7 Tel:3817-6618
1.参加費:500円
1. 連絡先:野上俊明 E-mail:12nogami@gmail.com Tel:080-4082-7550
参加ご希望の方は、必ずご連絡ください。
※研究会終了後、近くの中華料理店で懇親会を持ちます