緑内障目薬の日米価格差

著者: 藤澤豊 : (ふじさわゆたか):ビジネス傭兵
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二〇一四年だったと記憶しているが、健康診断で白内障の初期症状がみえるから、進行を防ぐ点眼薬をといわれた。白内障?たいしたことないだろうと高をくくってはいても気にはなる。翌年の健康診断を前に眼科で処方箋もらって薬局によって、毎日三回きちんと点眼していた。二〇一七年に家族の都合もあって横浜から池袋に引っ越した。数ヶ月後には設備の整った眼科を見つけて通い始めた。通院して半年ほどたったときに言われた。「白内障もあるけど緑内障の方が問題だから、緑内障に重点をおきましょう」

爾来毎日欠かさず緑内障の目薬をさし続けている。白内障と緑内障が進んだのか、この数年細かい字が読みにくくなってきた。とはいうものの車を運転するわけでなし、メガネなしでも日常生活にたいした支障はない。PCの画面なら拡大すればいいだけだし、そんなに小さな活字の本を読むこともなかった。ところがトルコの本を読み始めた途端、そうもいってられないほど悪化していることに気がついた。英語でもスペルの想像がつくから、一文字一文字判読することもない。ただ何も知らずに始めたトルコ語では勝手が違う。英語のアルファベットにおまけのついた文字を判読できずにバールーペまで買ってきた。バールーペで判読はできるが、なんとも不便でしょうがない。メガネを新調するかと三十年近くお世話になってきたメガネ屋にいった。視力検査を終えて言われた。「メガネで矯正できるギリギリなので、まずは白内障の手術をしてからメガネを作りましょう」ということで白内障の手術を受けた。白内障専門のクリニックで言われた「左目は緑内障が進んでいるから、手術をしても視力は右目の半分0.5ぐらいしかならないでしょう」要はデジカメの画素落ちのようなもので、左目の視神経が弱っていて視野情報を半分ほどしか感知し得ないということだった。そう言われて、左目だけ、右目だけで回りを見てみれば、左目で見える画像は暗くぼやけていて、右目は明るくてぼやけが少ない。二〇一七年に眼科で緑内障といわれたが、これが初めての自覚症状だった。

手術をしてから二ヵ月、まだ多少の違和感はあるが、来月にはメガネ屋にいって白内障対策が終わる。終わりがみえてきたら、緑内障が気になってきた。一度傷んだ視神経が回復する可能性はないというから、進行しないように点眼する以外にやりようがない。薬の常で副作用があるから、点眼は一日に一回まで……、とあれこれ考えていたら、おかしなことに気がついた。三月(みつき)に一回眼科に行って検査してもらって、処方箋をもらって薬局によってなのだが、支払を気にしたことがない。三ヶ月に一回にしても、何千円もすれば気になっていたはずなのに……。何年も前に目にしたアメリカの記事を思いだした。

NPR(National Public Radio)が掲載した記事だが、発信元はProPublicaで信頼がおける。両社の記事のタイトルとurlは下記の通り。

<NPR>
http://www.npr.org/sections/health-shots/2017/10/18/558358137/drug-companies-make-eyedrops-too-big-and-you-pay-for-the-waste
<ProPublica>
https://www.propublica.org/article/drug-companies-make-eyedrops-too-big-and-you-pay-for-the-waste

「Drug Companies Make Eyedrops Too Big, And You Pay For The Waste」読まなくても題を見れば何を言おうとしているのか想像がつく。要は容器の口が大きすぎるから一滴の点眼量が多すぎる。そのせいで高価な点眼薬が目から溢れて無駄になってしまう。そもそも点眼薬があまりに高価すぎる。製薬会社が暴利をむさぼっているとしか考えられないと批判している。
この記事を整理して「眼薬一滴、七倍多すぎる」と題した拙稿を二〇一八年一月二十日付けで、ちきゅう座に掲載していただいた。urlは下記の通り。
https://chikyuza.net/%E7%9C%BC%E8%96%AC%E4%B8%80%E6%BB%B4%E3%80%81%E4%B8%83%E5%80%8D%E5%A4%9A%E3%81%99%E3%81%8E%E3%82%8B/

点眼薬の価格を比べる前に、日米の点眼薬の主成分が同じであることを確認しておく。違う目薬の価格の違いを云々しても意味がない。NPRの記事からアメリカの点眼薬の商品名はAzopt。日本の点眼薬の商品名は眼科で頂戴した処方箋からチモプトールXE点眼液。
両者の主成分をぐぐったら、下記の説明がでてきた。
チモプトール点眼液
https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00051545.pdf
チモロールマレイン酸塩―Timolol Maleate
https://www.kegg.jp/medicus-bin/similar_product?kegg_drug=D00603
Azopt点眼薬
Active ingredient of Azopt-Google Azopt contains the active ingredient brinzolamide 10 mg in 1 mL (1%). Excipient with known effect Benzalkonium chloride 0.1 mg/mL as a preservative. For the full list of excipients, see section 6.1. Eye drops, suspension.
主成分のbrinzolamideとは何かとググったら、
Is Azopt the same as timolol?
When used on its own, Azopt was less effective than timolol. Azopt caused a reduction in eye pressure of between 2.7 and 5.7 mmHg over 18 months, compared with a reduction of between 5.2 and 6.0 mmHg with timolol.
Azoptはチモロールより薬効が弱いということになるが、同等として話を進めることにする。

ここで価格(患者の負担額)を比較する。
処方箋にはチモプトールXE点眼液0.5% 12.5mLと明記されている。
チモプトールXE点眼液0.5%
参天製薬(先発品)の価格:408.3円/mL
408.3円/mLx12.5mL =5,104円
手持ちの健康保険証をみたら、東京都国民健康保険高齢受給者証と記載されていて、患者の個人負担は七十歳から七十四歳までは二割負担と書かれていた。従って、
5,104円x0.2=1,021円
三ヶ月分の点眼薬(2.5mL入りの容器五本で12.5mL)の個人負担は計1,021円になる。
千円ちょっと。なんでも高くなっているから、まあラーメン一杯分と言ったところか。
ところが、「眼薬一滴、七倍多すぎる」で報告したNPRの記事には下記の記述がある。
ニュースで取り上げている点眼薬は緑内障用のもので、商品名はAzoptR (brinzolamide ophthalmic suspension)。5 mL(日本の標準的表記)入りの一ビン(約百滴分)が295ドル(三万円以上)もする。メーカは、スイスに本社をおく巨大製薬会社Novartis Pharmaceuticals傘下のAlcon Pharmaceuticals。
Azoptには参天製薬のチモプトールXE点眼液0.5%の内容量2.5mLの二倍も入っているが、一ドル百五十円で換算すると、なんと四万円以上になる。二倍の容量だからチモプトールXEと比較するために半額になるが、それでも二万円以上する。
国民健康保険を適用しなければ、5,104円/5本=1,000円/本になる。Azoptの5mLと同じ量で比べれば、Azoptの二万円以上に対して参天製薬のチモプトールなら二千円ですむ。後発品(ジェネリック)も多数出ていて、安いものでは5mL二百円程度で買える。

日本の薬事行政と国民皆保険制度のおかげということなのだろうが、それにしてもアメリカの薬代は高すぎる。アメリカは医療費が高すぎて、ちょっと咳が、熱があるからと医者には行けない人たちが信じられないほど多い。
二〇〇三年のことだから、もう二十年以上前の話になるが、赴任の準備と引っ越しでバタバタしていて、かかりつけの歯医者に行きそこなった。ボストンに赴任して一息ついて、同僚の行きつけの歯医者を紹介してもらった。まだ保険に入って日が浅いから保険は使えないといわれて、全額負担になった。
歯のクリーニング代は九百ドルだった。確かに念をいれたクリーニングだったが治療ではない。ただのクリーニングに、当時の為替レート(一ドル百二十五円)で換算すれば十三万五千円。歯医者が医者より高いということもないだろうから、アメリカではよほどこことでもなければ医者にはかかれない。歯医者や医者が高ければ、それに引きずられて薬も高いということなのだろうが、それにしても高すぎる。医者や歯医者の世話になるたびに、日本でよかったと思う。
あまりに個人の経験で参考になるか気にはなるが、アメリカの医療費がどれほどもものか想像するには十分だろう。
2025/1/28 初稿
2025/3/3 改版
Private homepage “My commonsense” (http://mycommonsense.ninja-web.net/)にアップした拙稿に加筆、編集

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion14127:250304〕