「私の言いたかったこと」を報告しましたが~大嘗祭に思うこと

  3月8日、新・フェミニズム批評の会の例会で、即位・大嘗祭違憲訴訟の東京高等裁判所での陳述において「私が言いたかったこと」を報告することができました。私のパソコンのzoomの不調で、ご迷惑かけましたが、なんとかお話しすることができました。質問や感想も多く出されました。とくに印象に残ったのは、私の陳述では直接触れていませんが、皇室典範を改正して、女性天皇、女系天皇をまず実現する方がよいのではないか、と言うものでした。昨年5月の毎日新聞の世論調査でも、女性天皇容認が81%を占めています。

  一見、平等原則に近づくようには思えますが、陳述で述べたように宗教色の濃厚な違憲性の高い儀式や伝統ならざる“伝統”的な皇室行事に放り込まれるわけですし、法的根拠のない伝統・慣例という名による基本的人権が損なわれるという厚い壁に直面するのは明らかです。

  もう1件は、まったく実現性のない議論をしても仕方がないのではないか、今日の議論は余り参考にならなかったという趣旨の発言でした。

 以下は、今回、話したわけではないのですが、日頃思っていることなので、そんな気持ちが、報告にも出てしまったかもしれません。たしかに、少し古い2019年4月の毎日新聞の世論調査でも天皇制の廃止に賛成する人は、わずか7%に過ぎません。他の世論調査でも5%前後を推移しています。一挙に廃止するのは、たしかに困難かと思うのですが、現在の皇族方の特権を外し、基本的人権を保障し、同時に予算も縮小し、皇居も有効活用し、一般国民の生活に近づき、しずかに暮らしていく中で自活の道を切り開いもらいたいです。そうした過程で、憲法第一章を無化し、憲法改正を進めることくらいしか、私には思い浮かびません。

 天皇制を維持しようとする人たちには、それを利用しようとする人たちと、なんとなくあってもいい、愛子天皇も悪くない程度に考えている人たちとがいて、後者が多いのです。しかし、皇族たちの暮らしやあちこち出かけて一流のホテルに宿泊し、慰霊や祈念をしたり、イベントで挨拶したりしている姿を目の当たりにするうちに、それらの費用は、すべて私たちの税金、国費でささえていることに気づくはずではないでしょうか。となると、天皇ってなに?あの広い皇居ってなに?とその存在意義が問われてくるのではないかと思います。

 報告が終わってから、そう、今日は国際女性デーだったことに気づき、旧居近くのお宅の庭をはみ出して、咲いていたミモザの樹を思い出したのです。

 当日、配布した報告概要と参考資料なのですが一部補充しました。
=============================

<報告概要>

    (新・フェミニズム批評の会 2025年3月8日)

「即位・大嘗祭違憲訴訟」の陳述で言いたかったこと〈報告概要〉     

1.即位・大嘗祭違憲訴訟の裁判の経過

2018年12月10日 東京地裁に提訴(原告241名)

2024年1月31日 東京地裁判決棄却

 政教分離原則は、制度的保障であって私人の信教の自由を直接保障しない。
 政教分離原則違反の国の行為が直ちに、私人の信教の自由を侵すものではない

2025年2月28日 東京高裁判決棄却

 諸儀式に国費を支出したことは、憲法20条1項の信教の自由は制度的保障であって個人の信教の自由を保障するものではない。諸儀式へ     の参加の強制には当たらず、宗教的活動したとはいえず、諸儀式が個人の宗教的感情や思想と相容れないものであり、内心の葛藤があ    ったとしても、国が不当な圧迫や干渉があったというのは余りにも間接的であって損害賠償の対象とはならない。

2.剣璽等承継の儀【19年5月1日】の違憲性

  神話等にもとづく三種の神器の承継(宗教性が高い):信教の自由の侵害
  儀式の法的根拠がない:主権在民原則違反、政教分離原則違反

「天皇陛下の御退位及び皇太子殿下の御即位に伴う国の儀式等の挙行に係る基本方針について 」「閣議決定」【18年4月3日】その内容は:

 ・ 憲法の趣旨に沿い皇室の伝統等を尊重
 ・ 基本的な考え方や内容は平成の代替わりを踏襲=1909年公布「登極令」
 ・ 国事行為(国費)

3.即位礼の違憲性

賢所大前の儀:賢所(天照大神を祀る)・皇霊殿・神殿各所でのお告げ文(宗教性が高い):信教の自由の侵害
即位礼正殿の儀:儀式の根拠は「閣議決定」のみ(法的根拠がない):主権在民原則違反
高御座・御帳台/首相が天皇仰ぐ祝辞と萬歳三唱:平等原則、主権在民原則違反

4.大嘗祭【19年10月22日~23日】の違憲性

 例年は皇室行事で行う新嘗祭が代替わりのときに限り大嘗祭となる

儀式の根拠:「閣議口頭了解」【18年4月3日】、1989年の「閣議口頭了解」の踏襲。その内容は:
 ・ 皇位継承の一世一度の重要な儀式
 ・ 神への安寧・五穀豊穣・への感謝、国家・国民のため安寧・五穀豊穣祈 
   念は宗教上の儀式である
ことを否定できない
 ・ 国が立ち入ることできない性格の儀式なので国事行為とするのは困難
 ・ 国の関心と挙行への手立ては 当然なので公的性格あり ・ 皇室行事として宮廷費から支出

 悠紀殿・主基殿の秘事
 日付をまたいで、天皇と神とが寝食を共にすることによって皇位継承がなされる
 供え物の産地(都道府県)を決めるのは亀卜という占いによる

 儀式の根拠 宮内庁文書「大嘗祭について」【19年10月2日】=「貞観儀式」「登極殿」の踏襲

5.私の主張:以上の儀式は、廃止された「登極殿」などを踏襲する「閣議決定」「閣議口頭了解」を根拠とするもので、主権在民原則違反であり、これらの儀式が国費をもって実施されたことは政教分離原則違反、信教の自由の侵害による精神的苦痛は多大かつ持続しているので国に対する損害賠償を求める。

政教分離原則:憲法上にこの文言はないが、以下の規定を言う。

宗教団体に特別の法的地位、特権の付与の禁止及び宗教団体による政治上の権力の不行使(憲法第20条1項後段)
国の政治活動の禁止(第20条3項)
宗教上の組織に対する公金支出の禁止(第89条)

第二十条 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。
いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
② 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。
③ 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
第八十九条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

制度的保障:公権力、特に立法による人権制限がなされないよう、制度を守ること。「信教の自由」を守るために政教分離原則という制度を守る

 ====================================

<参考資料(2025年3月8日新・フェミニズム批評の会配布資料)>

1.類似裁判判決
1977年7月13日津地鎮祭最高裁(大法廷)判決:目的効果基準の採用

起工式は、宗教とかかわり合いをもつものであることを否定しえないが、その目的は建築着工に際し土地の平安堅固、工事の無事安全を願い、社会の一般的慣習に従った儀礼を行うという専ら世俗的なものと認められ、その効果は神道を援助、助長、促進し又は他の宗教に圧迫、干渉を加えるものとは認められないのであるから、憲法二〇条三項により禁止される宗教的活動にはあたらないと解するのが、相当である。(藤林益三裁判長、5人の少数意見藤林、団藤重光ほか)

1995年3月9日大阪市民による即位礼大嘗祭訴訟の大阪高裁判決:納税者基本権に基づく諸行事への国費支出差し止め、精神的苦痛の損害賠償請求(←1992年11月24日大阪地裁)
(「反天皇制市民1700」創刊~)
即位礼支出差し止めは、すでに支出済み、納税者の地位にもとづいて国に対して国の具体的な行為是正などを求める訴訟提起することは制度として認められず、いずれも不適法。大嘗祭について、「大嘗祭が神道儀式としての性格は明白であり、これを公的な皇室行事として宮廷費をもって執行したことは、前記最高裁大法廷判(津地鎮祭判決1977年7月13日)が示したいわゆる目的効果基準に照らしても、少なくとも国家神道に対する助長、促進になるような行為として、政教分離規定に反するのではないかとの疑義は一概に否定できない」
 即位の礼についても 「国事行為として実施することは法令上の根拠にもとづくものと解せられる(憲法7条10号、皇室典範24条)。しかしながら現実に実施された本件即位礼正殿の儀は、旧登極令及び同附式を概ね踏襲しており、剣、璽とともに御璽、国璽がおかれたこと、海部首相が正殿上で萬歳三唱したこと等、旧登極令及び同附式よりも宗教的の要素を薄め、憲法の国民主権原則の趣旨の添わせるための工夫が一部為された。
*神道儀式である大嘗祭諸儀式・行事と関連づけて行われたこと、天孫降臨の神話を具象化したものといわれる高御座や剣や璽を使用したこと等、宗教的な要素を払拭しておらず、大嘗祭と同様の趣旨で政教分離原則に違反するのではないかとのうたがいを一概に否定できないし」**天皇が主権者の代表である首相を見おろす位置で、「お言葉」を発したこと、首相が天皇を仰ぎ見る位置で「寿詞」を読み上げたこと等、国民を主権者とする現憲法の趣旨に相応しくないと思われる点が存在することも否定できない。

2.剣璽承継の儀 2019年5月1日(松の間写真/配置図)

Photo_20250312000702
Photo_20250312000501

3.賢所大前の儀 2019年5月1日

賢所に向かう皇后
歯を食いしばっているようにも見えます。裾を持ってかがんだまま移動する女官の姿と言い、美しい姿には見えません。


賢所に向かう皇族たち
2019年5月1日は雨風の強い日でしたから、ドレスの裾が汚れないか心配でもありました。2枚の写真のちぐはぐさには”伝統”なるものが感じられませんでした。

Photo_20250312000701

 4.代替わり関連予算/宮内庁関連予算

費目金額参考事項
即位礼正殿の儀*17億6700万  
国事行為(国費)
饗宴の儀4億6600万  
祝賀御列の儀 1億2800万
大型モニター30台1億4900万
オープンカー  8000万
賓客用滞在費50億8000万
警備費 38億1900万 
儀仗など   2億8700万
大嘗祭 27億1900万皇室行事(宮廷費)
総額167億4100万123億9000万(昭和から平成)

「即位儀式と両陛下の歩み」jijicom(2019年10月配信)より作成
*195か国からの賓客などの接待費用で、前回の5倍超になる
**大嘗宮の設営関係費は解体費も含め19億700万の予算がとられた

2024年度宮内庁関係予算


宮内庁費*

                       126

皇室費

宮廷費

        95

内廷費

       3.2

皇族費

   2.6億

合計

      226.8億

*宮内庁には、別途国家公務員として特別職70人、一般職986人の職員がいる。二為に使用される

通常の宮内庁予算と比べてみて、代替わり予算がいかに多いのかがわかります。2019年10月22日・23日の2日間しか使用されない大嘗宮のために19億も支出されるとは。また通常の宮内庁関連予算と千人以上の国家公務員を抱える宮内庁と知って、少し驚きました。数少ない皇族方のため、いったい何をしているのかとも。皇居も含め、あちこちにある天皇陵や御料地などは国立公園などにして、緑を残し周辺の環境整備をし、御物と言うものがあるなら国立博物館として、開放してはどうかとなどとも思うのでした。

初出:「内野光子のブログ」2025.3.10より許可を得て転載
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2025/03/post-8e4b75.html

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/ 〔opinion14140:250312〕