宮城晴美さん講演を聴いた~沖縄における門中制度の遺制

沖縄における「集団自決」についての記事を書くにあたって、以下のような「沖縄タイムス」の記事を知った。

「男性だけの家族で『集団自決』は起きていない」 沖縄女性史家・宮城晴美さん調査 犠牲者の8割超…(『沖縄タイムス』2025年4月6日)https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1559089

沖縄女性史の研究者である宮城晴美さんの調査によると、下記の表のように、「沖縄の『集団自決』の犠牲者の8割以上が女性や12歳以下のこどもであったという。ここには、日本の家父長制が大きく影響していて「『米軍に襲われ純潔性を失うよりは、死んだ方がまし』との考えも植え付け、男性が女性や子をあやめる土壌をつくったという」

 といえば、さきの集団自決についての当ブログ記事でも触れた、曽野綾子撰文による「戦跡碑」にあった「一家は或いは、 車座になって手榴弾を抜き或いは力ある父や兄が弱い母や妹の生命を断った。そこにあるのは 愛であった。」の一文を思い起こす。

 折も折、宮崎晴美さんが「沖縄と天皇制」について講演するという。WAM(女たちの戦争と平和資料館、新宿区西早稲田)は、毎年4月29日「昭和の日」は、祝わない日の一つとして、講演会を開いている。オンデマンド配信で視聴することにした。

 宮城さんは、1879年(明治12年)の琉球処分、教育による同化政策、1886年、官民一体となっての皇民化教育から説き始めるが、その中で、王国時代からの「門中制度」が果たした役割に着目する。「門中制度」とは、当時の士族層が男性血統による嫡子相続を固守する父系血族集団で、儒教思想を基盤とする、いわば琉球版家父長制といわれている。結婚も家格を重視、親同士が決めるという。一方、一般の平民は、所有権のない土地を耕作するので相続は生ぜず、男女平等、結婚は「モウ遊び」と呼ばれる自由恋愛だったという。1898年1月、北海道、小笠原諸島と共に沖縄にも徴兵令が施行され、7月に民法が公布された。士族層にとっては、門中制度が民法によって法制化され、歓迎され、平民に対しては、日本語教育、琉装廃止、モウ遊び禁止、改名運動など、同化政策は強化されていった。

 昭和期に入ると、県民自らの日本風の改姓・改名運動や方言撲滅運動が見られた。戦争末期の沖縄戦において、集団自決がなされたのは、軍民一体となっての軍事活動がなされていたので、日本軍は、敵への投降はスパイとなって機密が漏れるのを怖れるということで厳禁、女性は強姦されるか慰安婦になるとの恐怖に陥れた。そして日本軍は、地元の指導者を伝令として、家長に集団自決を命じた。結果、男性家長は妻子・母・姉妹を殺めることになった。

 1945年9月7日、米軍と日本軍の降伏文書調印により、米軍単独の沖縄占領が始まり、1947年9月20日のいわゆる「天皇メッセージ」により、米軍の占領は長期固定化した。新民法により女性は解放されたはずだが、その実態は 良妻賢母教育がなされていた。「祖国復帰」運動は、「日の丸」と一体となっているという中で、1972年本土に復するが、米軍基地は、むしろ強化の一途をたどる。しかし1975年の国際婦人年を境に女性たちが声を上げ始めたという。にもかかわらず、男性の場合は、長男は県外に出にくかったり、次男・三男は養子に出され「位牌」継ぎ、女性の場合、親の位牌を継げず相続できないこともあったり、結婚すると男子の出産を要求されたりする。1985年以降、離婚率が全国一位といった実態もあるという。(注)

(注)ここでいう離婚率は、人口1000人当たり の離婚件数か。婚姻件数の離婚件数を比べての割合は相対離婚率というらしいが、これも沖縄県は上位を占める。

 宮城さんは、こうした「家」制度、「門中制度」の遺制が根づいている現状を「疑似天皇制」名付けている。私が沖縄を訪ねた折、亀甲墓を見かけたり、清明祭の話を聞いたりして、沖縄では祖先を大事にする人たちなんだと言った認識しかなかったが、その根底には、「門中制度」あったのだと、いまさらながら知るのだった。

宮城さんの講演当日のレジメより

 平成期の天皇が、「八・八・八・六」を基調とする、沖縄の短歌「琉歌」を作っていたことと、琉球処分以降、政府による皇民化教育の一手段として、日本語教育、方言撲滅、標準語励行運動などの母語奪ってきた歴史との整合性を思わずにはいられない。

  なお、宮城さんの講演は、「wamセミナー天皇制を考える」シリーズの第17回目であった。WAMが祝わない日は、4月29日のほか、2月11日、2月23日、11月3日である。ちなみに、私は、第3回2021年2月23日に「〈歌会始〉が強化する天皇制」について話している。

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 「ナイチャーと結婚するな」と妹に相撲を見つつ祖父が言うなり
 帰ること無かりし祖父のふるさとは平らかにして米軍機並む
   屋良健一郎歌集『KOZA』(ながらみ書房 2025年3月)

初出:「内野光子のブログ」2025.5.6より許可を得て転載
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2025/05/post-6d7332.html

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
〔opinion14208:250507〕