皇室情報はなぜ増えたのか
新聞、テレビ、ネット情報の中で、最近、とみに拡大してきたのは、皇室情報である。当ブログ記事でも何度か触れてきたが、2023年4月1日に宮内庁に広報室が新設されて以来、皇室情報は一気に増した。24年4月1日にはインスタグラムが、25年3月28日にはユーチューブの公式チャンネルが開設され、皇室行事の動画が配信されるようになった。ヤフーやニフティを開くと、desktopには必ずと言っていいほど、愛子さん、佳子さん、悠仁さんの画像が散見できる。どうしてこんなことになったのか
毎日新聞は5月17、18日に全国世論調査を実施し、皇室への関心の有無を聞いている。それによれば、「今の皇室に関心がある」は「大いに」と「ある程度」を合わせて66%、「あまり」と「全く」を合わせた「関心がない」の33%の2倍に達した。ただ、年齢層別にみると、18~29歳では「ない」が50%で、「ある」の49%をわずかに上回った。年齢層によって関心の度合いは違い、年齢層が上がるほど関心も高くなる傾向があった。女性天皇容認は70%という結果だった。
若い人の皇室への関心が薄れている傾向がよくわかる。18~29歳、10代・20代の層にいかにアピールするかが広報室の課題であり、今の皇室情報の氾濫は、宮内庁広報室の焦りにも感じられる。若い皇族たちの皇室行事への参加、視察先、外遊先などの模様に加えて、今春からは、悠仁さんのキャンパスライフにかかる情報も多くなった。
それにしても、彼らの動線の前後や脇は厚い警備が巡らされているのである。視察先の受け入れ側の警備や対応は、むしろ負担なのではないか。国民と触れ合う、寄り添うと言っても、あらかじめ用意された人々との無難な交流や会話は、いかにも仕組まれたという感は免れない。
皇族数確保策はまとまるのか
今国会の会期末が一カ月後の6月22日に迫る中、国会の場での取りまとめを、今国会中には何とかまとめるように必死であった両院正副議長。皇位継承を維持するための、皇族数確保に向けて、各党の協議がなかなかまとまらない。そんな中、5月15日の読売新聞の社説と特集記事「皇統の安定と現実策を」によって、安定的な皇位継承の確保を求めて「皇統の存続を最優先に」「象徴天皇制 維持すべき」「女性宮家の創設を」「夫・子も皇族に」の4項目の提言を行った。
これに先立ち、4月11日、東京新聞の社説「皇位巡る議論 安定的な継承のために」では「女性・女系天皇を認めることは、男女同権を目指す社会の在り方とも一致する」として「女性・女系天皇」容認を掲げた。さらに、4月19日の「社説」下の「ぎろんの森」では、さきの社説には読者から多くの意見が届き、「そのほとんどが『社説は国民の常識・感情に寄り添ったものだ』などと賛意を示すものだった」との記事。さらに、5月17日の「ぎろんの森」では、さきの読売の社説を受けて、「『女性・女系』提言を歓迎する」として、東京新聞は、日頃、読売新聞とは「憲法改正の是非や安全保障、原発などの問題を巡り主張が異な」るが、今回の読売新聞の提言は「本誌と主張をまったく同じ内容であり、歓迎する」としている。
一方、毎日新聞は、社説「皇族確保の政党間協議 もう先送りは許さない」(2024年4月10日)「皇族確保の与野党協議 安定継承を念頭に結論を」(2025年3月16日)、朝日新聞の社説「皇位の継承 国民の声踏まえ協議を」(2024年5月7日)も、関連記事を報道する中で、世論調査や研究者などの意見などの形で、男系男子による皇位継承に固執した案では、国民の幅広い理解を得られるものとは言いがたく、女性・女系天皇を後押しして来たともいえる。従って、主要メディアは、女性・女系天皇容認へと傾く中で、4月19日の産経新聞の社説<主張>は「<皇統と読売提言>分断招く「女系継承」は禁じ手だ(論説委員長 榊原智)」と近年の持論を展開した。もっとも、森暢平によれば「女性天皇推しだった『産経新聞』の変節」(週刊エコノミスト Online サンデー毎日 2025年1月27日)したという。2001年小泉純一郎政権下の「国家戦略本部」により女性天皇を含む皇室典範改正が検討される中、産経新聞は社説<主張>において「女性天皇 前向きな論議を期待する」と発表していたのである(2001年5月11日)。
おりしも、自民党の「安定的な皇位継承の確保に関する懇談会」(麻生太郎会長)は皇族確保策を巡り「女性皇族の夫と子『皇族とせず』」との見解を示した( 2025年5月21日)。これまでの、いわゆる<保守>が分断の様相を見せ始めたのである。
私が不思議に思うのは
ところが、これらの社説を読んでいて、私がいつも不思議に思うのは、各社、その冒頭に、前提としてつぎのように述べていることだ。
『朝日』は「憲法が定める国の重要な制度に関わる問題だ。広範な合意のないまま、数の力で押し切ることはあってはならない。」と。「毎日」は「皇室制度の維持は、国のかたちにかかわる重要な問題だ。安定的な皇位継承の実現を念頭に議論を進めることが欠かせない。」としている。
国の決め事に際して議論を尽くせという一般論は当然のことだが、「皇位継承問題」が「憲法が定める国の重要な制度に関わる問題」、「皇室制度の維持は、国のかたちにかかわる重要な問題」という認識は、国民共通のものになっているのだろうか。たしかに、憲法の「第一章」は「天皇」である。いま、この「第一章」を失ったとしても、「国のかたち」が変わるのだろうか、国民生活に何ほどの影響があるのだろうか。むしろ国民にとっては、「主権在民」の基本原則がすっきりとした形で腑に落ちるのではないか。
また、『読売』は、「日本の伝統、文化を守り伝え、常に国民に寄り添ってきた皇室を存続させていくことは、多くの人の願いだろう。」「だが、皇族数の減少は深刻で、このままでは皇室制度そのものが行き詰まる恐れがある。何よりも重視すべきは、皇統の存続だ。」と断定する。前の文章では、世論調査などを念頭にしているのかもしれないが、日本の皇室が「日本の伝統、文化を守り伝え、常に国民に寄り添ってきた」とするが、皇室が守って来た伝統、文化は、宗教色の濃厚な、基本的人権に反するものも多々あり、伝統といっても、たかだか明治以降に形成されたものでしかないものもある。「国民に寄り添ってきた」というが、いわゆる、法的根拠のない「公的行為」を拡張してきた平成期以降の皇室に過ぎないのではないか。「何より重視すべきは、皇統の存続だ」という一文に至っては、「存続のための存続」となり、主権者たる「国民」の姿が見えてこない。
『産経』に至っては、政権により変節するという都合のよさに加えて、「歴代の天皇と日本人が大切に守ってきた、この男系継承こそ現憲法が記す『世襲』の根幹だ。これを守らなければ、天皇の正統性は損なわれ、皇統の土台が崩れてしまう。女系継承の容認は日本の皇統断絶を意味する。」と。長い日本の歴史の中で、そもそも、守らなければならない「天皇の正統性」が担保されているかも危ういのではないか。

旧堀田邸内の門から「さくら庭園」を望む。

施設内、中庭の柿の木の下で。こんなに身を落としてしまって、秋は実をつけるのだろうか。
初出:「内野光子のブログ」2025.5.23より許可を得て転載
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2025/05/post-98bae1.html
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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