ひめゆり発言を「事実は事実」と正当化する〝強行突破路線〟、西田氏が参院選京都選挙区で当選できる可能性、共産党は従来型の選挙活動で現有議席を維持できるだろうか(5)
6月に入って参院選京都選挙区は風雲急を告げている。西田昌司氏が風神雷神図屛風の「風神」よろしく肩を怒らせて選挙戦に臨んでいるからだ。建仁寺の風神雷神図屏風は、京都国立博物館の「日本、美のるつぼ」で目下展示されているが、西田氏の形相は屛風の風神そっくり。風袋を膨らませた風神が凄まじい形相で強風を吹き付けている様子は、西田氏がひめゆり発言を「事実は事実」としてあくまでも居直る姿勢と重なって見える。
毎日、朝日両紙は、6月に入って西田氏の動きをいち早く伝えた。以下はその要旨である。
――自民党の西田昌司参院議員は5月30日発売の月刊誌「正論」に寄稿し、沖縄戦の慰霊碑「ひめゆりの塔」の展示説明を「歴史の書き換え」とした自身の発言を巡り、「事実は事実」と正当性を主張した。戦後の日本の歴史観に疑問を投げかけ、「政治家として修正を試みることが責務だ」とも言及した。党は発言を「不正確な認識」としており、再び物議を醸しそうだ。
西田氏が「事実だ」と記したのは、5月3日の那覇市講演で取り上げた「日本軍がどんどん入ってきて、ひめゆり隊が死ぬことになった。そしてアメリカが入ってきて沖縄が解放された」という部分。正論では、これを「『日本軍は悪、米軍は善』という東京裁判史観そのものだ」と批判し、「主権と引き換えに『歴史の書き換え』を余儀なくされる悲しい選択を強いられた」との持論を展開した(毎日新聞、2025年6月1日)。
――自民党京都府連は6月1日、定期大会を開いた。西田昌司参院議員は「ひめゆりの塔」の展示内容を「歴史の書き換え」などと発言したことについて「皆さまには大変ご心配をおかけいたしました。選挙戦に向けて謙虚に反省し、この問題に対処していきたい」と述べた。西田氏は月刊誌「正論」7月号に寄稿しており、会場ではコピーが配られた。沖縄県議会が西田氏の発言をめぐり謝罪と撤回を求める決議をしたことについて「批判や非難は事実に冷静に向き合っているでしょうか。TPOを欠いた発言はお詫びしなければならないが、事実は事実」などと記している。
大会冒頭の府連会長のあいさつで、西田氏は「『正論』をお読みいただきますようお願いします」と述べた。大会後、西田氏は報道陣から「沖縄の方は納得すると思うか」と問われたのに対し、「『正論』に書いて説明している。十分説明責任を果たしている」と話した。西田氏の発言をめぐっては、石破茂首相が5月20日に沖縄県知事に「自民党総裁として深くお詫び申し上げる」と陳謝。28日には自民の森山裕幹事長が那覇市内の講演で「不正確な認識。改めて党を代表しておわび申し上げる」と謝罪している。これについて、西田氏は「発言をどれほどご理解いただいているか分からない。コメントする状況にない」とした(朝日新聞、6月2日)。
この期に及んで、西田氏があくまでも「ひめゆり発言」を撤回しないと言い張るのはなぜか。党トップの石破自民党総裁と森山幹事長が公式に謝罪しているというのに、それを「自分の発言に対する理解不足」と強弁するのだから、事態は除名されてもおかしくない状況だ。しかも「正論」のコピーを府党大会の会場で配るという挑発的行動に出ている。このことは自民党の公式見解に従わないという態度を明らかにしたものであり、その上で参院選に臨むというのである。
沖縄県議会の代表団は5月29日、自民党本部で森山裕幹事長と面会し、沖縄戦の慰霊碑「ひめゆりの塔」の展示説明を「歴史の書き換え」とした西田昌司参院議員の発言について「満身の怒りをもって抗議する」との決議文を手渡した。森山幹事長は一連の発言に関し謝罪し、「決して県民の苦労を軽んじることはない。党としてしっかり教育を頑張る」と応じた。県議団は続いて国会内の西田事務所を訪れたが、日程の都合を理由に西田氏本人とは面会できなかった。県議団の山内末子団長は「西田氏の謝罪を聞くのが上京の目的だった。反省もなく、真摯に受け止めたくないのではないか」と不快感を示した。決議文は、西田氏の発言を「沖縄戦の実相を認識せず、歴史を修正しようとするものだ」と指摘。沖縄戦体験者の証言をゆがめ、否定する発言だったと認めた上で謝罪、撤回するよう西田氏に求めた。自民に対しては、西田氏への厳格な処分と沖縄戦への認識を示すよう要求。再発防止に向けた党内教育体制の再構築も促した(共同通信、5月29日)。
沖縄県議団は公明党も含む超党派議員団であり、決議文は全会一致で採択されている。西田氏は沖縄県民の総意に基づく決議文に対しては逃げ隠れするだけで一言も反論できず、居留守を使うしかなかった。ところが「正論」誌上では、決議文を「批判や非難は事実に冷静に向き合っているでしょうか」と改めて持論を展開し、あまつさえそれを自民京都府連の定期大会で代議員に配布するという挑発的行動に出たのである。
この行動は自民党の公式見解に反することが明らかである以上、自民党本部は西田氏に対して公認の取り消しを含む厳格な処分を行わなければならない。また、西田氏に推薦を出している公明党は直ちに推薦を取り消さなければならない。このことを曖昧にしたままで選挙戦に臨むことは、沖縄県民に対する侮辱であると同時に、京都府民を愚弄するものでもある。もし自民・公明両党が西田氏の言動を放置したままで選挙戦に臨むようなことがあれば、京都府民は党派にとらわれることなく厳正な審判を下すに違いない。
2019年参院選では、西田氏は42万1731票(得票率44.2%)を得票して断トツ1位だった。しかし、2022年参院選の自民得票数は、大量の保守票が維新に流れたために29万3071票(得票率28.2%)で前回の7割にも満たなかった。今回は元自民府議で元公安委員長を父に持つ二之湯真士氏が無所属で出馬している。京都府の有権者総数は205万6千人、2議席をめぐって8人の候補者が争う乱戦となっている。
注目されるのは、国民民主候補者の出馬が遅れたうえに支持率が最近になって大幅に下落していることだ。玉木代表が政府備蓄米の放出を「家畜の餌」と発言するに及んで、ネットでは「庶民に対する侮辱的発言」との批判が殺到し、謝罪しても支持率低下が止まらない事態になっている。JNNが5月31日~6月1日に実施した世論調査によると、国民支持率は前回の10.2%から3.4ポイント減少して6.8%になり、立憲は前回の5.6%から2.6ポイント上昇して8.2%と逆転した。京都選挙区でも、国民民主はもはや「その他候補」にランクされている有様だ。
となると、保守票を西田氏と二之湯氏が奪い合うことになり、西田氏が必ずしも楽勝というわけにはいかない。西田氏は、今大会の役員改選で2019年から務めてきた府連会長を退任した。府連会長の地位を降りた西田氏がどれほど勢力を維持できるかは予測がつかない。京都新聞の候補者インタビューで二之湯氏は「今回は家族の生活に迷惑をかけずに挑戦できると思ったから立候補を決めた」(京都新聞、5月30日)と語っているように、相当な自信を持っているようにも見える。二之湯氏が勝利することも考えられるし、場合によっては「二人共倒れ」の可能性も囁かれている。西田氏が〝強行突破路線〟を策したのは、「一か八か」の賭けに出たとも言える。
そうなると、共産の倉林氏、立憲の山本氏、れいわの西郷氏の女性3候補に陽が当たることも考えられる。3人の女性候補の中から誰が抜け出すかは目下不明だが、ひょっとしたら女性候補が2議席を独占するかもしれない。とかく噂が絶えない参院選京都選挙なのである。(つづく)