共産党はいま存亡の岐路に立っている(その69)

著者: 広原盛明 : 都市計画・まちづくり研究者
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自民党は全国の党員・党友が投票に参加する総裁選挙を実施する、共産党は志位議長ほか党指導部の〝信任投票〟さえ実施する意思はないのだろうか、2025年参院選の結果から(7)

自民党は紆余曲折があったものの、石破茂総裁が参院選敗北の責任を取って辞任し、全国100万人規模の党員・党友が投票する党員参加型(フルスペック型)の総裁選挙を9月22日告示、10月4日投開票の日程で実施することを決定した。党員参加型総裁選挙は、国会議員の衆参両院議長を除く295票と、同数の295票が党員・党友票に割り当てられ、計590票を争うことになる。立候補は、茂木敏充前幹事長(69)、小林鷹之元経済安全保障相(50)。林芳正官房長官(64)、小泉進次郎農林水産相(44)、高市早苗前経済安全保障相(64)の5人が有力視されている。

自民党が党員参加型の総裁選挙を行うことを決めた翌日、朝日新聞と日経新聞は奇しくも同じ論調の記事を掲載した(9月10日)。両紙とも今回の自民党総裁選方式の背景には党員流出への危機感があり、党員・党友が投票に参加する総裁選が党員をつなぎ留める有効な手段になると見ているからだ。朝日新聞は1面トップで「総裁選 カギ握る党員票、自民国会議員票と同数」と大きく取り上げ、2面では「緊急時に異例の『フル型』、党勢低迷、党員の声反映アピール」と見出しで詳しく解説している。この他、朝日紙面は4面にわたって各方面への影響なども分析しており、異例の大型記事となっている。要旨は次の通りである。

――自民党は9月9日、臨時の総裁選では異例の「党員参加型」(フルスペック型)で「ポスト石破」を選ぶことを決めた。深刻な党勢低迷に陥る自民、「党内民意」と向き合うことで支持層の流出を防ぎ、新総裁の正統性を得る狙いだが、選出方法そのものが総裁選の行方に影響を与えそうだ。
――自民党はこれまで総裁が任期半ばで辞任した場合、党員票を除く「簡易型」で対応してきた。過度の政治空白を避けるためだが、(今回は)党勢低迷を受け、「簡易型」では党員・党友に反発が生じると判断した。党員参加型を選択したのは、国政選挙の連敗により、衆参両院で少数与党になった政治状況を重く見たからだ。
――逢沢一郎・選対委員長は記者団に「『解党的出直し』の自民にふさわしい総裁選としたい」と語り、異例の対応であることを強調した。鈴木俊一総務会長は記者会見で「我が党の浮沈がかかった総裁選。党員・党友の声を幅広く反映させる方式が、こういう時こそ望ましい」と強調した。ある閣僚経験者は「自民が『国民からずれている』との批判がある今こそ、党員の意見を聞かないと大変なことになる」と表明した。

日経新聞の見出しは「自民、党員減少に危機感、『フル方式』総裁選でつなぎ留め、政治空白の批判覚悟」というもの。自民党の党員数の推移に基づいてその背景を詳しく解説している。

――自民党の党員は、2024年末時点で102万人と1年で6%減った。減少幅は2012年の政権復帰後で最も大きい。およそ10年ぶりで100万人を割りかねず、120万人目標には程遠い。原因は「政治とカネ」問題による政治不信が響いたとみられる。最近は自民支持層が国民民主党や参政党に移ったとの見方があり、党員数は足元でさらに減っている可能性がある。
――自民党は9月2日公表の参院選総括で大敗の一因として、「長年、党を支えてきた保守層の一部に流出が生じた」と記した。党員や党友に認めている総裁選の投票はつなぎ留めの有効な手段だ。長年にわたり自民党総裁が首相を務めており、「事実上の首相が選べる」などと説明できる。近年の総裁選は最近2年間の党費支払いや20歳以上とする投票資格を「特例」で緩めていた。党費の支払いを1年間としたり、18歳以上に引き上げたりして新規入党のインセンティブを高めていた。今回は特例措置を見送るものの、党内では投票資格を恒久的に緩めるべきだとの意見がある。

一方、赤旗は同日「解決不可能 四つの矛盾」と題して1面トップで自民総裁選を取り上げ、この動きを一刀両断の下に切り捨てている(要旨)。
――石破茂首相(自民総裁選)の退陣表明を受け、各メディアが「総裁選レース号砲」「ポスト石破争い」などと同党総裁選を巡る動きを大々的に報じています。しかし、総裁選候補として取り沙汰される人物は昨年の総裁選と同じ顔ぶれで、アメリカ言いなり、財界・大企業中心の行き詰った古い自民党政治を加速させてきた面々です。誰が総裁になろうと、参院選で国民から拒否された同党の政治姿勢と政治路線は変えようがありません。
――自民党は国民との間に解決不可能な矛盾を抱えており、総裁選を延々と繰り広げても、これらの矛盾に対する答えを出す条件は全くありません。矛盾の1つは裏金事件への無反省、2つ目は物価高のもとで暮らしを守る方策を示せないこと、3つめはアメリカ言いなりの大軍拡、4つ目は参院選であおり立てられた極右・排外主義の潮流に自民党がどう対応するのかという問題です。
――自民党は、どの問題でも打開の方策を示せず深刻な矛盾に陥っています。出口のない状況を打開するために、〝新しい国民的・民主的共同〟を広げ、自民党政治を終わらせるしかありません。

しかし評論家の政治評論ならともかく、これだけでは自民党と同じく参院選で大敗した共産党が、これから党勢低迷や党員減少にどう立ち向かうかという姿勢が全く見えてこない。赤旗記事の特徴は、自民党の党員参加型の総裁選方式には一切触れず、候補者の顔ぶれから国民が当面する矛盾の解決は不可能であり、「参院選で国民から拒否された自民政治は終わりにするしかない」と断言するところにある。

「顧みて他を言う」との故事がある。直面している問題や状況から目を逸らして、関係のない他のことを話すことを意味する言葉だ。参院選で大敗したのは自民党だけではなく、共産党も同じく大敗した。だとすれば、「参院選で国民から拒否された自民政治」という言葉は、ブーメランのように共産党にも返ってくる。参院選で国民の拒否対象となったのは、自民政治だけではなく共産党の体質もそうだったからである。自民党の政策と同じく、共産党の閉鎖的・権威主義的体質も国民から拒否されたのである。

勝負の世界や選挙の勝敗の機微を象徴する言葉に「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」というのがある。「負けるときは、負けにつながる必然的な要因がある(不思議な点はない)」。しかし「勝つときには、(どうして勝ったのかどうも思い当たらないという)不思議な勝ちがある」との意味である。今回の参院選で自民党と共産党がともに大敗したのは、両党がそれぞれ「負けにつながる必然的な要因」を抱えていたからであって、自民党は国民の生活課題を解決できない政策上の矛盾がそれであり、共産党は国民感情から遊離した党組織の閉鎖的・権威主義的体質がそれに当たる。

今回の自民党総裁選における党員参加型の選挙方式は、共産党にとっては「泣きどころ」を突かれたようなもので記事にすることができなかった。党規約に党員・党友の総裁選における投票権を保障している自民党と違って、共産党は「民主集中制」の党規約の下で、党代表選出における党員の直接投票権に関する規定は何もないからである。志位議長をはじめ党指導部は参院選大敗の責任を取らずにそのまま居座っているし、参院選の選挙総括も上から下へと一方的に流され、党勢低迷や党員減少を食い止める手立ては何1つ考慮されていない。党勢拡大の号令が百年1日の如く繰り返されているだけである。

共産党は次期党大会を待つまでもなく、臨時党大会を開いて党規約の抜本的改革に取り組むべきではないか。その準備が整わないのであれば、取りあえず志位議長、田村委員長、小池書記局長の3人に限って全党員による「信任する」「信任しない」の〝信任投票〟を実施してはどうか。党規約上の拘束力はないとしても全党員の意思が明らかになれば、志位議長といえども安閑としてはいられない。志位本の「Q&Aいま『資本論』がおもしろい」の普及もいいが、為すべきことは〝出処進退〟のケジメをつけることではないか。(つづく)

初出:「リベラル21」2025.09.17より許可を得て転載
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