共産党はいま存亡の岐路に立っている(その70)

〝反動ブロック〟の危険と対決する〝新しい国民的・民主的共同〟の提唱、比例得票数286万票、得票率4.8%の少数政党が、比例得票数3744万票、得票率63.2%の〝反動ブロック〟諸政党に対決するという荒唐無稽な方針、2025年参院選の結果から(8)

志位議長は、共産党が一定の比例得票数を獲得していた〝中堅政党〟の頃のことが忘れられないらしい。共産党は過去3回の参院選(2016~2022年)ではいずれも比例得票数第5位の位置を確保し、〝中堅政党〟としての存在感をそれなりに発揮していた。2015年に始まった安保法制の廃止と立憲主義の回復を掲げる「市民と野党の共闘」は、立憲民主党と共産党の連携を軸として生まれたが、それは共産党が立憲民主党に次ぐ「野党第2党」の位置を占めていたからであり、共産党が取るに足らない少数政党であれば、「市民と野党の共闘」が実現していたかどうかは分からない。

ところが、志位議長は2025年参院選で共産党が大敗を喫し、各党の最下位に位置する〝少数政党〟に転落したにもかかわらず、その厳しい現実を自覚することなく(したがって責任を取ることもなく)、6中総の「中間発言」では以前と同じような感覚で発言している(赤旗9月6日)。

――私は、昨日の幹部会での議論と確認をふまえ、決議案を深める立場で二つの点にしぼって発言します。一つは、決議案が日本の重大な歴史的岐路にあたって、自民党、公明党、維新の会、国民民主党、参政党などによる〝反動ブロック〟の危険に正面から対決し、暮らし、平和、民主主義を擁護する〝新しい国民的・民主的共同〟をつくることを呼びかけていることです。

――この提唱は、まず何よりも参議院選挙後に生まれた情勢、その危険性とともに新しい可能性と条件を分析して打ち出したものです。選挙後、わが党は他の野党のみなさん、市民運動のみなさんとさまざまな形で意見交換をすすめてきました。新しいたたかいに協力してとりくんできました。私たちは、そういう意見交換やとりくみを通じて、現在の情勢を前向きに打開する〝新しい共同〟をつくりあげていく条件は大いにあると感じてきました。こうした呼びかけをすることは日本共産党の責任だと考えて、決議案で提起したわけであります。

――私たちがこの方針を打ち出すにあたっては、欧州における極右・排外主義とのたたかいの経験を参考にしました(略)。イギリス、ベルギー、ドイツの左翼・進歩勢力のたたかいに共通する教訓は何でしょうか。極右の伸長はたしかに社会にとっての深刻な危機です。左翼・進歩勢力がそれに押される局面もあります。ジグザグも起こってくる。しかし断固として正確なたたかいを貫けば、つまり古い保守への正面からの批判と民主的対案・希望を語りながら、極右・排外主義との断固たるたたかいを貫けば、危機はチャンスにもし得る。このことを教えているのではないでしょうか。

――日本でも決議案が述べているように、日本共産党が自民党政治の「二つのゆがみ」を正す改革にとりくむ。同時に極右・排外主義ともたたかう。この「二重の役割」を果たしながら、さらに〝反動ブロック〟の危険に対決する〝新しい国民的・民主的共同〟を追求する。この仕事を本当にやり抜けば、日本の情勢を前向きに変えられるし、日本共産党の新しい前進をつくり得る。これをヨーロッパの教訓としてしっかり私たちも学んで、ヨーロッパの同志たちに負けないがんばりをしようではないかということを訴えたいのであります(以下、略)。

壮大なアジテーションだが、これまで掲げてきた「市民と野党の共闘」を「新しい国民的・民主的共同」と言い換えざるを得なかったところに、共産党の苦境が見てとれる。志位議長の「中間発言」の背景には、野党共闘の主たる相手だった立憲民主党の立ち位置の変化がある。立憲民主党の枝野幸男最高顧問は8月31日、地元さいたま市での講演で、「『野党共闘』の時代は終わった」と指摘した。枝野氏は2017年に旧立憲を立ち上げ、「自民1強」とされた第2次安倍政権に対抗するため、野党の協調路線を重視していたが、政治状況は大きく変わったとの認識を示した。同氏は、多党化のなかで野党各党の政治理念や基本政策の隔たりが拡大していることを念頭に、「野党が一つにまとまれると言う人たちは、現実を見ていない」「今の野党で連立政権を組んでも、主張が違うのだから3日後に崩壊する」「共産党と参政党がまとまるか。夢を見ているとしか思えない」と強調し、立憲単独での政権交代をめざすべきだと訴えた(各紙、9月1日)。

これに対して共産党の小池書記局長は9月1日、立憲民主党の枝野元代表が「野党共闘の時代は終わった」と発言したことに対し、「終わったどころかますます必要になる時代に入った」と反論した。小池氏は、記者会見で枝野氏の発言について問われ、「『終わった』というのは時代認識としてはずれている」と反論。また、7月の参院選の「1人区」で立憲などと候補者の一本化をした17選挙区の12選挙区で勝利したとして、「過去最高の成果だ」と強調した。さらに「自民党・公明党の補完勢力である国民民主党や、排外主義的な主張を掲げてきた参政党などが台頭している」として、「民主主義を守るために力を合わせていかなければいけない」と述べた(朝日新聞、9月2日)。

小池書記局長は表向き反論したが、共産党はこの時点で「市民と野党の共闘」が事実上崩壊したと判断せざるを得なくなったのではないか。立憲民主党にとってこれまで選挙活動に(一方的に)協力してくれる共産党は貴重な存在だったが、政治の世界は非情かつ冷酷であり、しかも信じられないような利害と打算が支配している。共産党が参院選で大敗したことは、立憲民主党にとっては「野党共闘」の利用価値がなくなったことを意味し、集票機能の衰えた共産党と共闘を組むことは却って「マイナス」との打算が働くことになったのだろう。立憲民主党の野党共闘への態度が180度変化したのは、このためである。

決定的になったのは、9月12日に就任したばかりの立憲民主党の安住淳幹事長が14日、NHK「日曜討論」に生出演し、党が目指す立ち位置として「保守から革新まで思想的なことで言うと、私たちは穏健・中道・リベラルというところに軸を置いてやっていく政党だ」と発言したことだった。「言葉は辛辣(しんらつ)かもしれないけれど、コテコテの保守とガチガチの左は勘弁してもらって、穏健・中道・リベラルで、中庸な政治をやっていく」と述べたのである。「ガチガチの左」が共産党を指すことは明白だから、党運営の要である安住幹事長の発言は、立憲民主党が共産党との共闘関係に事実上の終止符を打ったと考えてまず間違いないだろう。

安住氏は、さらに政策面での方向転換にも大胆に踏み込んでいる。これまでの「市民と野党の共闘」の要だった「安保法制の廃止」などには一切触れず、「格差社会で苦労している人、一番影響を受けている人に自分たちに身近な政党だと思われるメッセージをもっと強く出すことで、党の立ち位置を明確にして政権交代を目指す」と述べ、所得・物価政策を党活動の中心に据えていくことを明らかにしている。これは「コテコテの保守」と「ガチガチの左」を除いた〝中道政権〟の成立を目指すもので、連立する政党の幅が(保革を超えて)大きく広がっていくことを意味する。そこには自民党の一部までも取り込んだ「穏健・中道・リベラル」の政権構想が展望されており、野田代表や枝野元代表も同じ方向で動いている。

こうした政治情勢の激変の中で、共産党にはもはや打つべき「野党共闘」のカードがなくなり、〝新しい国民的・民主的共同〟を提唱するしか道が無くなったのだろう。そこで、欧州の左翼・労働党が市民に直接働きかけて支持者を増やしていった経験に学び、日本でもその方向で共産党の前進を図ることを強調した。その一例としてベルギー労働党が10年、20年を費やして労働者階級のコミュニティでキャンペーンを展開し、一軒一軒を訪ね歩いて要求を聞き、希望を語り労働者を一人一人獲得していった経験を挙げられている。だが、今の共産党のどこに一軒一軒の家を訪ね歩いて要求を聞くような活力が残っているのだろうか。実態は党組織が高齢化して活動力が著しく低下し、死亡者が増加して党組織が縮小するという「質量の弱体化」が進んでいるのであって、この実態を直視しない活動方針はいかなる場合も成功しない。

また、〝新しい国民的・民主的共同〟が対決するとする〝反動ブロック〟の線引きの仕方も滅茶苦茶だとしか言いようがない。「市民と野党の共闘」が一定の政治効果を発揮したのは、保革勢力が比較的拮抗していたからであって、政権交代の可能性があったからである。だが、自民党、公明党、維新の会、国民民主党、参政党を十把一絡(じゅっぱひとからげ)に〝反動ブロック〟として線引きすると、上記政党の2025年参院選の比例得票数合計は3744万票、得票率は63.2%に達する。これに日本保守党などを加えると、〝反動ブロック〟の比例得票数は4千万票、得票率7割を優に超え、政界の大半を占める勢力になる。これに対して、共産党は僅か286万票、4.8%の〝少数政党〟にすぎず、それと対決するなどというのは、「アリと象」の戦いのようなものになる。これをいくら〝新しい国民的・民主的共同〟などと称しても、こんな荒唐無稽な方針は誰からも相手にされないだろう。

また、得票率が7割を超える諸政党を〝反動ブロック〟などと決めつけることは、国民大多数の政治判断・政治選択を否定することになりかねず、延いては議会制民主主義そのものを否定することにもなりかねない。この論法で行くと、最終的には共産党以外の支持者は全て〝反動〟ということになり、共産党は国民からますます孤立することになる。大衆前衛党の政治理念は「赤く小さく固まる」ことを避けることだとされてきたが、志位発言に象徴される〝新しい国民的・民主的共同〟の方針は、「赤く小さく固まる」道へまっしぐらということになる。

だが、共産党の危機は志位発言だけにあらわれているのではない。6中総決議案と志位議長の中間発言、田村委員長の結語は、出席した中央委員176人、準中央委員24名の〝全会一致〟で採択された。こんな荒唐無稽な方針が〝全会一致〟で採択されるなどいうのは、只事ではない。そこでは、客観的で現実的な議論ができないような「マインドコントロール」状態が支配しているかのようであり、これでは科学的社会主義もなにもあったものではない。

6中総決議を読んで、「共産党の前途危うし!」と思ったのは筆者ひとりではないと聞く。今からでも遅くない。党中央や地方組織の中から「時流に流されず正論を貫く」メンバーが出てくることを期待したい。(つづく)

初出:「リベラル21」2025.09.29より許可を得て転載
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