共産党はいま存亡の岐路に立っている(その71)

〝保革対決時代〟の終焉と〝多党化時代〟の幕開け、2025年参院選の結果から(番外編1)

戦後日本の政治構造を貫く太い糸は、「保守と革新の二極対決=保革対決」だった。国政においても地方においても「自民・無所属」の保守勢力と「社会・共産」の革新勢力が対決し、憲法9条、軍備・自衛隊、外交・安全保障、国土・都市開発、税制・社会保障などの基本政策をめぐって激しい攻防が繰り広げられた。しかし、社会党の消滅を機に革新勢力が後退する一方、自民党は公明を巻き込んで勢力を拡大し、保守支配体制が確立した。民進党の分裂後、立憲と共産が「市民と野党の共闘」を通して革新勢力の命脈をつないできたものの、それも立憲の中道路線化によって消えようとしている。

「市民と野党の共闘」に基づく保革対決がピークに達したのは、2021年10月の総選挙だった。枝野代表と志位委員長が党首会談で、①次の総選挙において自公政権を倒し、新しい政治を実現する。②立憲民主党と日本共産党は、「新政権」において、市民連合と合意した政策を着実に推進するために協力する。その際、日本共産党は、合意した政策を実現する範囲での限定的な閣外からの協力とする。③次の総選挙において、両党で候補者を一本化した選挙区については、双方の立場や事情の違いを互いに理解・尊重しながら、小選挙区での勝利を目指す――の3点について合意した。志位委員長はその喜びを次のような言葉であらわしている(『前衛』2022年2月臨時増刊号)。

 ――今回の党首合意は、全体として市民と野党の共闘を大きく発展させる画期的な内容になったと思います。とくに「新政権」において両党が協力していくことが合意されたことは、きわめて重要な前進です。こうした合意を得たことを心からうれしく思っています。

――日本共産党にとっては、99年の歴史のなかでこうした合意を得て総選挙をたたかうのは初めてのことになります。2015年9月に国民連合政府を呼びかけてから6年間、野党が協力して新しい政権をと訴えてきましたが、それに向けて大きな一歩を踏み出す合意が得られたことを重ねて心から歓迎します。

 ――「限定的な閣外からの協力」という合意になりましたが、わが党は一貫して「閣内協力も、閣外協力もありうる」と言ってきました。ですから、こうした合意になったことにとても満足しています。(略)市民連合と合意した政策は、あれこれの部分的な政策ではありません。9年間の安倍・菅自公政権をチェンジする要となる政策がしっかりと盛り込まれています。「新政権」において、そうした政策を実現するために協力することが合意された意義はたいへん大きいと考えます。

しかし、歴史的成功を収めるはずの「市民と野党の共闘」は、「新政権」樹立に至らなかった。比例得票数でみると、自民1991万票(34.6%)、公明711万票(12.3%)、合わせて2702万票(47.0%)となり、自公はそれ以前の総選挙の2017年2553万票(45.7%)、2014年2497万票(46.8%)よりも多くの得票数を確保している。議席数も自公が293(自民261、公明32)と3分の2近くを占め、2017年310(自民281,公明29)、2014年325(自民290,公明35)から若干後退したものの、依然として絶対過半数を維持していることに変わりない。

これに対して野党共闘は、立憲1149万票(20.0%)、共産416万票(7.2%)、国民259万票(4.5%)、れいわ221万票(3.8%)、社民101万票(1.7%)、合わせて2148万票(37.3%)と振るわなかった。立憲、共産、国民、れいわ、社民の野党5党は、全289選挙区のうち217選挙区で候補者を一本化したが、当選した野党5党の候補は野党系無所属を含めても62人で、公示前の51人から大きく上積みできなかった。議席数も立憲96、共産10,国民11,れいわ3、社民1,計121議席となり、自公の4割強にとどまった。立憲は、小選挙区は公示前の48議席から57議席に増えたものの、比例代表は公示前62議席から39議席に大幅に減らし、110議席から96議席に落ち込んだ。共産は結党以来のチャンスを生かせず、2014年606万票(11.3%、21議席)、2017年440万票(7.9%、12議席)、2021年416万票(7.2%、10議席)と後退が止まらない。

「新政権」樹立を目指した「市民と野党の共闘」が、期待に反して敗北したことの意味するところは大きい。共産が「保革対決」の総仕上げと位置づけた枝野代表と志位委員長の党首合意が全く機能せず、両党は比例得票数、得票率、議席数のいずれにおいても後退したのである。その一方、日本維新の会は、公示前の11議席を大きく上回る41議席を獲得し、比例得票数でも旧希望の党との競合で伸び悩んだ前回から500万票近く上積みして805万票(14.0%)を獲得した。思えば、この時が「保革対決時代」の終わりの始まりであり、「多党化時代」の幕開けではなかったか。

翌年の2022年参院選ではこの傾向がさらに明確にあらわれた。保革対決時代は終焉の時を迎え、自公にとって立憲・共産はもはや足元を脅かす相手ではなくなった。比例得票数を見ると、自公が2443万票(46.0%)、議席数は公示前の69議席から76議席へ増えた一方、立憲は前年衆院選1149万票(20.0%)から618万票(12.7%)へ激減(半減)し、公示前の23議席から6議席減の17議席となった。共産も416万票(7.2%)から361万票(6.8%)へ後退し、6議席から4議席への2議席減となった。それに比べて維新は勢いを持続し、784万票(14.8%)を得票して公示前を6議席上回る12議席を獲得した。

保革対決時代が終焉を迎えた背景には、支持層の構造的な変化があった。保守勢力の支持層が相対的に安定していたのに対して、革新勢力の支持層は大きく変貌していたのである。立憲支持層は労組の影響力が弱まって流動化し、無党派層の動向に大きく左右されるようになった。立憲の比例得票数が僅か1年で半減したのは、泉代表の「提案路線」が保守勢力に呑み込まれて成果を挙げることができず、これに失望した無党派層が一気に離反したからだとされている。一方、共産支持層は減る一方でしかも高齢化が著しい。共産党の閉鎖的・権威主義的体質が若者世代から嫌われ、支持層の再生産が進まず、高齢化と縮小の一途をたどっているからである。これでは、志位委員長がいくら「結党以来のチャンス」と力んでも、それに応えるだけの基礎体力(共産はこれを「自力」と呼んでいる)が失われているのだから仕方がない。

最近刊行された注目すべき本がある。碓井敏正著、『日本共産党、再生への条件――この組織を消滅させないために』(花伝社、2025年9月)である。「リベラル左派」を自称する哲学者の碓井氏は、これまで革新勢力の持続的発展を願って数多くの著作を発表してきた。その中でも今回の著作は、そのタイトルが示す如く危機感に溢れたものとなっている。「まえがき」の1節を紹介しよう。

――今回、日本共産党の問題を選んだのは、この間の各種選挙に現れた共産党の退潮が、日本の将来にとって好ましくないという危機感からである。このまま行けば、共産党は取るに足らない弱小政党へと後退する可能性が高い。そのことは日本の将来にとって好ましくないだけではなく、これまで自らの人生を革新運動に捧げ、共産党を支えてきた多くの人々の意思に背くことになるであろう。

――本書では、共産党の凋落を招いた要因を共産党という政党の性格、組織原則(民主集中制)、政策などにわたり多面的に分析した。中でも特に重視したのが組織のあり方である。その理由は、一般の市民が抱く違和感の大本が閉鎖的で権威主義的な組織のあり方にある、と思われるからである。

碓井氏は、共産党凋落の根本原因である閉鎖的・権威主義的な組織のあり方、すなわち「民主集中制」の放棄を主張している。この主張は全編にわたって展開されているが、ここでは「第1章、求められる日本共産党の組織改革」の要旨を紹介したい。

――共産党の組織改革を考えるための重要な前提は、近年における社会の変化、特に政党一般と市民との関係の変化である。この点でまず挙げるべきは、既成政党の党員減少や無党派層の拡大にあらわれているように、国民の政党離れが進んでいることである。このことは、国民が階級や職業またはそれに関わる組織や団体の一員としてよりも、一人の自立した個人として政治的選択をする傾向が強まったことを示している。

――このような市民意識の変化は、政党活動のあり方に変化を求める。党員や機関紙、支持母体などの勢力拡大は余り効果を持たなくなり、その時々の国民的課題に対して政策的に正確な対応をすることが重要になる。情報化が進む現代においては、その変化に敏感に反応するため、党組織の開放性が求められる。

――共産党の「民主集中制」は、少数の専従幹部による組織の「寡頭的支配」として体質化している。組織の重要事項が、自由で民主的な議論抜きに一部の幹部によって非公開で決められ、それがそのまま組織全体の決定事項になるといった専制主義に転化している。「民主集中制」を放棄することは、専従幹部層の利害と直結しているだけに容易なことではないが、この「寡頭的支配」体制を打破しない限り、共産党の明日はない。

これらの問題意識は筆者とも完全に一致する。「番外編2」では、自公が少数与党となった2024年衆院選と2025年参院選において、この歴史的変動に対応できなかった共産党の敗北の原因を分析しよう。(つづく)

初出:「リベラル21」2025.10.10より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
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