アウンサンスーチーを救出せよ!――次男キム・アリス氏、世界世論に訴える

アリス氏 DVB(ビルマ・民主の声)

 国際通信社ロイターはじめ多くの内外の新聞社が、9月初めにアウンサンスーチー氏にかかわるトピックを久しぶりに報道した。それによれば、2021年2月のクーデタ以来拘束が続いているミャンマーの民主派指導者アウンサンスーチー氏(80)の次男で英国在住のスーチー氏の次男キム・アリス氏はスーチー氏の心臓疾患が悪化しており、緊急の医療処置が必要と訴えた。拘束は「残酷で命を脅かす」として、即時解放を訴えたという。スーチー氏の母親のド・キンチーは心臓疾患で亡くなっているだけに、余計心配であろう。キム・アリス氏の切迫感が、ひしひしと伝わってくる。

 キム・アリス氏によれば、いままで氏はロンドンのミャンマー大使館、英国外務・英連邦省、国際赤十字社を通じて、母親と面会したいと何度も軍事政権に要請してきたが、なしのつぶてであったという。アリス氏によれば、母親は重病で歯茎のトラブルに悩まされ、食事もままならない状態だったと聞いていると話した。「めまいや嘔吐を繰り返し、一時は歩けない状態だったそうである」。この情報は、ミャンマーの独立系メディアとソーシャルメディアから得たものだと述べている。また本年3月に3700人以上が死亡したザガイン・マンダレー大地震の際には、スーチー氏も腕にけがを負ったという情報も流れていた。しかし軍事政権は、「健康に問題はない」と紋切り型の回答をするだけである。

 スーチー氏は2021年の軍事クーデタ当日に逮捕された。その後、ネピドー刑務所で19件の罪で非公開裁判にかけられ、最終的に懲役33年の刑を言い渡された――その後、刑期は27年に減刑された。その後アセアンの指導者が、軍事政権にスーチー女史との面会要請をしたが、タイの外相との短い接見を除いては、ことごとく拒否された。

2024年5月、タクシン、フンセン両氏の面会要請を拒否するミンアウンフラン司令官 イラワジ 

 スーチー氏は、都合15年間ヤンゴンの自宅で軟禁状態にあった。しかしその時の待遇条件は、今の独房の監禁状態と推測される拘束条件より、はるかにましだったであろう。あのときは、外からの面会も許され、慰問の小包や手紙を受け取ったり、書籍の購入も秘書に頼むこともできた。ところが、未確認情報ではあるが、いっときは冷房もなく蚊の入る独房に監禁されていたという話もある(熱帯の蚊のすごさは、想像を絶する)。

 さらにキム・アリス氏は、どのルートかは不明であるが、中国にも母親への緊急治療と解放に尽力してくれるよう要請したという。また詳細は不明であるが、アリス氏はイタリア議会でもスーチー氏の釈放に力を貸してくれるよう要請したという。軍事政権にいうこと聞かせられる唯一の権力者は中国であろう。その意味で、アリス氏の要請は的を射ているが、しかし12月の総選挙前にスーチー氏の待遇に変化を与えることは、不測の事態を招きかねないので、軍部にはその勇気はないであろう。

<アラカン軍の総司令官も、釈放要求>

 ミャンマーの反政府武装勢力でこの間破竹の勢いで進撃を続けてきたアラカン軍(AA)――自民族の領地であるラカイン州の8割方を制圧し、そのうえ隣国のイラワジ管区にまで進出したきた。ラカイン州で抑えていないのは、シットウェ、チャウピュー、マナウンの3郡区のみである。つまり政権支配下にあるのは、州都シットウェと中国の最重要インフラー「一帯一路」や「中国・ミャンマー経済回廊」の集中するチャウピュー、マナウンの一帯だけである。制圧しないのは、できないからではなく,大国中国の利権を慮っての外交的配慮からであろう。

 アラカン軍は、2024年10月に北シャン州で始まった「1027作戦」では、ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)やタアン民族解放軍(TNLA)とともに戦って、勝利に大きく貢献した。しかし後者の二大武装勢力が中国の脅しに屈して進撃を停止し、占領地域からも撤退したのに対し、アラカン軍は占領地から一歩も引かず、支配を固めている。

そのアラカン軍のトップ・トンミャナイン司令官が、地元ポータルサイトのイラワジで、この10月、次のような談話を発表している。

――もし本当に真の選挙を実施し、国民の信頼を得たいのであれば、80歳を超えたアウンサンスーチー氏を釈放すべきです。政権は仮に釈放したとしても国民の信頼を取り戻すことはできないかもしれませんが、選挙結果を少しでも世論に沿わせたいのであれば、彼女を釈放すべきです。そうしなければ、どうして正当性や承認を期待できるでしょうか」

アラカン軍総司令官  トンミャナイン氏

 軍事政権は、現在国土のわずか30~40%しか実効支配していないといわれるが、しかしそれは大部分が、ビルマ族歴代王朝が支配してきたイラワジ川流域地帯であり、牙城である。大都市を含むその地域を攻めるにはパルチザン部隊による遊撃戦では不十分で、やはり重火器を備えた正規軍を必要とする。中国、インド、ロシアが軍事政権を全面的に支援する形を整えたいま、どのような反転攻勢が民主派抵抗勢力に可能なのか、長期抵抗路線への転換の必要性・可能性もふくめ考えどころであろう。スーチー氏の子息キム・アリス氏が嘆いたように、ウクライナへの支援の数パーセントを振り向けるだけで、ミャンマーの戦局は劇的に変わるであろうのに。スーチー氏だけではない、ミャンマーの内戦そのものが忘れ去られかねない。内戦は悲劇だけではなく、英雄的な戦いの舞台でもあること、歴史の進歩に掉さす闘いであることにもぜひ注意を向けていただきたい。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
〔opinion14465:251010〕