「保守と革新」「反動と進歩」の空中戦型発想では多党化時代に対応できない、共産党は野党最下位グループに沈んだ、2025年参院選の結果から(番外編3)
2025年参院選の最大の特徴は、野党が「躍進組」「停滞組」「凋落組」の3グループに分かれたことだった。躍進組は国民、参政、れいわ、日本保守の4党、停滞組は立憲、維新の2党、凋落組は共産、社民の2党である。3年前の2022年参院選と比較すると、国民は比例得票数315万票(5.9%)から762万票(12.8%)、議席数は公示前4議席から17議席へ躍進し、参政も176万票(3.3%)から742万票(12.5%)、1議席から14議席へ躍進した。れいわは231万票(4.3%)から387万票(6.5%)、2議席から3議席へ前進し、日本保守は298万票(5.0%)、2議席を獲得した。
これに対して、立憲は677万票(12.7%)から739万票(12.5%)に増えたものの、国民、参政の後塵を拝して「野党第3党」になった(議席数では野党第1党)。維新は784万票(14.8%)から437万票(7.3%)へ激減したが、議席数は(大阪を中心に)6議席から7議席に増えた。悲惨なのは、共産と社民である。共産は361万票(6.8%)から286万票(4.8%)と75万票(2割)を失い、7議席から3議席に半減した。社民は125万票(2.3%)から121万票(2.0%)と辛うじて1議席を死守したが、危機的状態にあることには変わりない。
保革対決時代の革新勢力の主力だった立憲、共産、社民が停滞・凋落し、国民、参政などのポピリズム政党が躍進しているところに、多党化時代の変化が見て取れる。世論の多様化と政党離れを背景に、その時々の有権者の気分やニーズを掬い取るポピリズム政党が躍進する一方、体制批判やイデオロギー批判を前面に出して戦う革新政党は敬遠されるようになった。共産は「時流に流されず正論を貫く政党」だと強調しているが、このことは「時流=有権者のニーズ」を軽視し、「正論=体制批判」を重視するイデオロギー政党の特質をよくあらわしている。
今回の参院選で一段と明らかになったことは、前年の衆院選と同じく、共産が無党派層と若者世代からもはや「投票先と見なされていない」という冷厳な事実である。民放NNN系30局と読売新聞、NHKが合同で投票日当日に全国47都道府県で行った約20万人の出口調査によると、その傾向は前年よりもますます顕著になってきている。無党派層と若者世代の野党投票先(%)は以下の通りである。
①無党派層、参政15.6、国民15.1,立憲12.6,れいわ7.8,維新7.2,日本保守6.5,
チーム未来5.2,共産4.0,社民2.4
②20代、国民24.7,参政24.2,立憲7.2,日本保守6.6,れいわ6.4,維新4.8,
チーム未来3.8,共産3.1,社民0.9
③30代、参政23.2,国民18.7,れいわ8.6,立憲7.4,日本保守6.8,維新5.8,
チーム未来5.0,共産2.5,社民1.0
④40代、参政18.7,国民14.2,れいわ11.6,立憲9.2,維新7.4,日本保守5.8,
チーム未来3.0,共産3.0,社民1.1
これらのデータをみると、野党9党のうち共産と社民は、無党派層はもとより若者世代のいずれの年代をとってみても最下位(8位、9位)に位置している。左派・右派の違いを問わず、既成政党・新興政党の違いを超えて、共産と社民は最下位に位置しているのである。多党化時代とはいえ、政治動向に敏感な無党派層や未来を担う若者世代から両党が忌避されていることは、今後の革新勢力の発展に暗い影を投げかけずにはおかない。
しかし、こんなデータが赤旗に掲載されることは滅多にない。1人、2人の若者の入党がクローズアップされる一方、マクロな出口調査(20万人)の結果が完全にネグレクトされている。これでは、党員や支持者が共産の置かれている状況を客観的に把握することもできなければ、党再生の手がかりを掴むこともできない。世の中の動向を正確に伝えるのがジャーナリズムの役割だとすれば、党にとって都合の悪い事実を伝えない赤旗は、本来のジャーナリズムの使命を果たしているとは言えない。これでは、政治的プロパガンダの手段だと言われても仕方がない。
こうした中で打ち出された新しい方針が、極右・排外主義の〝反動ブロック〟の危険に正面から対決する〝新しい国民的・民主的共同〟の呼びかけだった。保革対決を担った革新勢力が雲散霧消する中で、今度はそれよりもはるかに大規模な「反動対決」に立ち向かう国民的共同を結成するという〝空中戦型発想〟の戦法である。国語辞典を引くと、「保守=今までの状態・考え方・習慣などを根本から変えようとしない態度」であるのに対して、「反動=歴史の流れに逆らい、進歩を阻もうとする保守的な傾向」とある。保革対決が主として政策上の対決であったとすれば、反動対決は歴史観を含むイデオロギー対決の様相が格段に濃くなることは間違いない。凋落一途の少数政党の共産が、果たしてこんな大それた国民運動を起こせることができるのだろうか。また、物価高など目の前の生活困窮に日々直面している国民に、このような雲の上からの訴えは届くのだろうか。
また、自民、公明、国民、維新、参政などを一括りにして〝反動ブロック〟と決めつけているが、政局が流動化する多党化時代においては、その時々の政治情情に応じて与野党間の組み合わせが多様に変化するのが常となる。消費税減税一つをとってみても、国民の切実な生活要求に応えるためには、主義主張を異にする政党間の協力が必要になるかもしれない。そんな時に〝反動ブロック〟の政党とは手を組めないことになると、共産はますます孤立を深めることになる。
共産の衆参両院選挙における比例得票数は、2014年衆院選606万2962票(11.3%)、2016年参院選601万6194票(10.7%)をピークに、その後構造的に縮小している。2017年衆院選440万4081票(7.9%)、2019年参院選448万3411票(8.9%)、2021年衆院選416万6076票(7.2%)、2022年参院選361万8343票(6.8%)、2024年衆院選336万2966票(6.1%)、2025年参院選286万票(4.8%)と、僅か10年の間に半減した。原因は言うまでもなく、共産の権威主義的体質に拒否感を示す無党派層や若者世代の「共産離れ」にある。「普通の人」が「エリート支配」に異議を唱えるポピュリズム運動の高まりが、共産の「寡頭的支配=エリート支配」にも向けられるようになったのである。このような傾向に歯止めをかけるためには、党の閉鎖的・権威主義的体質とイメージを刷新するしかない。このことはまた、若者世代の比率が極端に低く、「縮小再生産」に陥っている党組織の凋落に歯止めをかける必要最小限の条件でもある。
然るに6中総決議は、現在の党体制を維持したまま2025年9月~12月末までの4カ月を「世代的継承を中軸に質量ともに強大な党をつくる集中期間」と位置づけ、①5千人の新しい党員を迎える、②日刊紙1万人、日曜版5.7万人(紙2.7万人、電子版3万人)を増やす、③第30回党大会(2026年1月)までに党員27万人、赤旗読者100万人を回復させる、と決定している。1カ月平均にすれば、党員1250人、日刊紙読者2500人、日曜版読者1万4250人を増やさなければならない。だが、出だし1カ月(9月)の実績は惨憺たるものだった。入党者は目標の2割にも満たない218人にとどまり、機関紙読者は日刊紙851人減、日曜版3943人減、電子版28人増と逆に後退している。
赤旗訃報欄に掲載された9月の党員死亡数は135人、掲載率4割とすると死亡数は約350人になり、これだけでも入党者218人を大きく上回ることになる(公表されない離党者を加えるとその数はもっと大きくなる)。ところが、10月2日の赤旗は「9月実績」を小さく伝えただけで、その数倍もの大紙面を使って志位議長の活動を大々的に報じている。1面トップには「労働者階級の自覚と誇りつちかう学習運動とともに、志位議長 全労連役員と懇談」、政治総合面トップには「綱領、党大会決定、『赤本』『青本』を広く国民のものに、志位議長の講義から」といった具合である。志位議長の本を読めば、まるで世の中が変わるかのような大宣伝が連日行われ、足元の厳しい現実は無視されている。
「集中期間」推進本部長の小池書記局長は10月3日、「政治的・理論的確信広げ、10月こそ目標達成を」との訴えを行った(赤旗10月4日)。この中で小池書記局長は「9月、1人の入党者も迎えられなかった地区委員会が189地区となっています(略)。いま全党的には、党員拡大の動きが多くのところで止まった状態から抜け出せておらず、これを打開するには、支部に『やろう』というだけでなく、党機関から具体化を図らないと、運動化できない現状にあります」と実情を明らかにしている。この訴えを読めば、地区委員会の人材枯渇と支部の高齢化が相まって、党勢拡大運動がとっくに限界を超えていることが分かる。
だが、共産はこのような党組織の実態(窮状)に真正面から向き合うのではなく、外部に向かっては「参政党批判」がクローズアップされ、内部に対しては「志位本」の大学習運動を中心に動いている。赤旗の紙面も参政党批判と志位本の大学習運動を軸に編集されている。参政党批判は、「主張」に加えて政治部長による7回の連載「参政党 新憲法『構想案』を読む」(9月28日~10月5日)が掲載され、志位本の大学習運動は、志位議長が国会内で党国会議員団と事務局を対象とした講義内容(9月26日)を大紙面(10月2日、6~10日)で5回も連載するという熱の入れようである。
これらの編集方針は、外部に攻撃対象を設定することで党員や支持者の目を内部矛盾(党勢後退・凋落の原因)から逸らすことにつながり、志位本の大学習運動は志位議長を祭り上げ、党指導部の衆参両院選挙における敗北責任を棚上げしようとするデモンストレーション効果を狙ったもの――としか思われない。だが、資本論を「錦の御旗」にして党の正統性を主張し、党組織の後退・凋落という現実に向き合わない空中戦型戦法は、いずれ雲散霧消する運命を辿るほかない。志位議長を頂点とする「寡頭的支配=エリート支配」がこのまま維持されれば、これを拒否する無党派層や若者世代の共感は得られない。今必要なのは「足元を掘れ、そこに泉が湧く」との言葉があるように、足元を見つめ直す指導部なのである。
(つづく)
初出:「リベラル21」2025.10.23より許可を得て転載
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