東チモールの国会は、総額22億9100万ドルとなる来年度2026年度国家予算の一般案が、11月5日~7日に審議され、11月7日、賛成42票、反対ゼロ、棄権23票で承認された。週明けの10日から各部門への予算分配についての論戦が始まる。
2026年度国家予算案にかんする国会審議が開始された11月5日、シャナナ=グズマン首相の演説があった。東チモール政府のホームページにその演説の全文が掲載されたので、以下、粗訳してみる。
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2026年度国家予算案を提出に際するカイ=ララ=シャナナ=グズマン首相の演説
ディリ、東チモール国会
2025年11月5日
国会議長ならびに国会副議長
国会議員そして政府関係者のみなさん、
淑女・紳士のみなさん、
わたしは大きな義務感と責任感をもって、この名誉ある聴衆の前に、2026年度一般国家予算案を提出する。
これは疑いなく国家の歴史における重要な瞬間である。とりわけ財政管理手段について、国の政治的戦略と選択をもって、民主的な討論の場で議論するのである。
したがって国家予算に関する議論はたんに数字を熟考するにとどまらない。われわれは、これらの数字に意味を与え投資に表情を与えるために、ここにいるのだ。この投資とは、国民の生活向上に貢献し、国民に力を与え、健康と教育をかたちづくり、起業家を育成するための手段なのである。
われわれは、国家発展のビジョンを実現する唯一可能な方法である政策・事業・改革の継続性を理解しつつ、2011年に立案された戦略計画を実行するためにここにいる。
われわれは、マリアナの農家からエルメラのコーヒー生産者まで、ディリの大学修士学生からスアイの職人まで、アタウロの漁師の男女からバウカウの雇用者、そしてオエクシ/アンベノで学校に子どもを連れて行く母親にいたるまで、東チモールのすべての家族のために働くためにここにいる。
この予算はかれらの物語であり、東チモールの歴史である。そして、彼らの未来を築くものなのである。
東チモール国民のみなさん、
独立という勇気ある選択(*)をしてからから26年が経ったが、国家としての最近の成功について少し振り返ってみたい。
(*訳注)住民投票のことを指す。
われわれの国が若く平和で有望な国家であるため、受け入れられるという特権を得て、近年、国家元首や政府首脳、国連事務総長、国際海洋法裁判所の所長、その他の要人、そして故人となった親愛なるフランシスコ教皇を大きな威厳と誇りを持ってこの国に迎えするという栄誉に恵まれた。フランシスコ教皇は歴史的に忘れられない瞬間をわれわれの国にもたらしてくれた。
東チモールはここ数カ月のあいだ、国際舞台におけて統合議題に向けて着実な歩みを進めてきた。2024年にはWTO(世界貿易機関)に正式に加盟し、先の10月26日に東チモールにとって歴史的出来事であり変革であるASEAN(東南アジア諸国連合)正式加盟を果たした。
WTOとASEANに加盟することは新たな市場と機会への入り口となる。現在、東チモールの石油以外の輸出は年間約2,100万ドルにすぎず、そのほとんどがコーヒーである。この事実は課題と好機の両方を示している。
WTOまたはASEANの枠組みのなかで新しい市場を開拓することで、われわれが地域における存在感を確かにしながら、それぞれの数字を増やすことができる。ASEANの場合、潜在顧客数は約6億8000万人にのぼる。
しかし機会には常に新たな責任が伴う。われわれの隣国であるASEAN諸国は、東チモールが約束を守り、資源を賢明に管理し、より良く機能する制度を堅固にする、という信頼できるパートナーであることを期待しているのだ。
また機会にたいする責任という状況において東チモールは、地域的な決定がされる場で、紛争ではなく平和、分裂ではなく対話を選んだ声を届けることができる。
世界は戦争・不安定・非妥協によって乱されているが、東チモールは宗教と政治を含め平和・和解・寛容の模範であり、より良い世界の実現に貢献することができる。
もう一つの複雑かつ現在進行中である地球規模の課題として気候の不安定化がある。これは数百万もの人びとの生活に深刻な影響を及ぼしている。東チモールは、今度の国家予算にあてられる緑の気候基金の設置を含み、持続可能性と生物多様性の促進と保全という国際目標にとりくみながら、気候回復計画に投資してきた。
一方で第9次立憲政府は、東チモールの現在および将来の世代そしてこの惑星の利益のために、可能な限り気候変動の影響を防止・軽減するために、海洋を活動の中心に据えたのだ。
われわれの国が目指すブルーエコノミーとは、海洋資源の経済的潜在力を国の持続可能な開発に活用すると同時に、海とその生態系の保護と保全を確実にすることである。
そこでわれわれは去る6月、「東チモールにおける強靭で持続可能な海洋経済の促進のための政策と行動計画(2025~2035年)」に盛り込まれた統合的かつ包括的なロードマップを承認し、あらゆる団体や国民が、われわれの国と一人ひとりの生活にとって非常に重要な問題について意見を共有できるように、このロードマップに基づいて幅広い意見公募を実施した。
10月21日に開催され、全国から750人の代表者が集まった公開セッションから生まれた最終版は、地方自治体や地元の指導者からの意見を含むすべての意見を盛り込んでいるのだが、今年末までに承認される予定であり、これにより国内外のパートナーと政府の目標の整合を図ることができるのである。
ブルーエコノミーの推進と実践というこの使命は、持続可能な開発に取り組む責任ある利他主義的な国としてのわれわれの可能性を示すもう一つの例だ。つまり、チモールはTASI(T= Timor[チモール]、A= Azul[ブルー]、S= Sustentável[持続可能]、I= Inovador[革新的])なのである!
(*訳注)Tasi【タシ】とは東チモールの公用語の一つであるテトゥン語で、「海」を意味する。
ご存知のとおり、領海の主権をめぐる国の闘いは経済発展と環境保護の問題も考慮されている。
達成されたオーストラリアとの領海画定、およびインドネシアとの領海画定は、われわれの海底への権利(石油とガスの採掘権を含む)と排他的経済水域にたいする権利(漁業権などの権利、すなわち海洋観光部門の発展)など、権利の完全性を意味する。
したがってインドネシアとの領海画定交渉が今年再開できたことをたいへん嬉しく報告したい。去る8月にディリで第1回正式交渉が実施され、第2回目の交渉は来月インドネシアで開催される予定である。
インドネシアとの領海画定によって得られる法的確実性は、国庫と海洋環境に深刻な損害を与えてきた違法・無報告・無規制漁業との闘いを含んで、われわれの開発未来像にしっかりと貢献するであろう。
みなさん、
政府は、社会資本とインフラ投資の強化とともに、経済の多様化と雇用創出に引き続き取り組んでいく。
この将来像の実現に向け、われわれは国内投資家の長期的な資金調達環境の整備に貢献できる金融商品の研究に取り組んでいく。
先月われわれは、生産的な投資を支援し民間部門の経済成長を促進するBNDTL(東チモール国立開発銀行)の設立を承認した。
この「国立開発銀行」は、国際的に最良な実践を参考にして、とくに農業・観光・製造業・インフラ・社会サービスなどの優先分野で経済的・社会的影響の大きい事業に資金を提供することを目的としている。
信用へのアクセスを促進することで、われわれは生産部門に活力を与えるだけでなく、地域の結束と社会的包摂も強化する。「国立開発銀行」はこの国の経済の将来にとって基盤となる柱となるであろう。
これと並行して、デジタル行政管理の取り組みも進められている。デジタル識別の導入により、銀行とモバイルマネープロバイダー間の最新の情報システムを通じて、より正確な受取人確認、より厳格な給与管理、送金における情報漏洩の低減が可能になる。
これには、税金・関税・年金・民事登録システム間のデータの相互運用性、そしてコンプライアンスの強化と収入基盤の拡大が含まれる。
すでに述べたように、東チモールのASEAN加盟は、拡大された市場を利用することのみならず、われわれが同意しなければならなかった規制によって強化された投資家の信頼においても、われわれの国にとって変革をもたらす画期的な出来事である。
しかし、これらはどれも単独で実施しても成功しない。だからこそわれわれは国際的な接続性を向上させるために海底光ファイバーケーブル事業に投資した。これにより、首都圏や遠隔地を問わず、市民や企業がより手頃な価格でより高速インターネットを利用できるようになる。2026年、海底ケーブル・地上光ファイバー・ユニバーサルデジタルアクセスを統合した国家デジタルインフラの運用をするため、われわれはこの投資を継続していく。
また接続性についていえば、すでに進行中のニコラウ=ロバト議長国際空港の改修と拡張の工事より、地域の接続性も向上し、貿易と観光が促進され、東チモールが地域市場に開放されることになるだろう。
国会議長ならびに国会議員のみなさん、
第9次立憲政府は、公的機関への誠実さ・専門性・信頼性を促進しながら、汚職や官僚主義と闘う近代的で透明性のある効率的な制度枠組みによって支えられる経済成長目標の追求を擁護する。
われわれはこうした価値観と信念をもって2023年に宣誓就任したあと、国民・国家の建設過程が停滞しているという政治状況に対応した。
国の安定を確実にするためには改革が必要だとわれわれは感じた。国民はこの第9次立憲政府を選択した。東チモールの人びとは前政権による不正行為を是正する政府を選んだのである。
この政権は発足当初、国家の公的資金へ損失と損害をもたらし石油基金に損害をもたらすという、説明責任の欠如、透明性の欠如、計画性・戦略的ビジョンの欠如を助長する財政制度に直面した。
優れた公共政策の実施に不可欠な要素である効率性と透明性そして倫理性にたいする政治指導が欠如しており、不活発な行政、さらに言えば、不満と不信感を生む劣悪な行政状態をわれわれは認識した。われわれはそれゆえ、完全な〝無秩序〟と、国家建設における国民の信頼を得ることも、東チモールの人びとの持続可能な発展と福祉に貢献することもないという司法制度に直面しているのである。
先ほど、公共政策の効果を上げるためには継続性が重要だと述べたが、前政権が「戦略開発計画」(2011~2030年)に賛同しなかったため、あらゆるものが停滞したことを現政権は確認した。
われわれは現在、すべての東チモール国民の参加を得て、基本的なインフラ・教育・保健サービスを優先するという点で、国家機関の構築と強化の両方の観点から、「戦略開発計画」の継続に必要な道を再開しているところである。
みなさん、
このような意味から来年からわれわれは、東チモールの人びとが能力を伸ばし、経済発展のプロセスに参加するよう動機づけ奨励するために、国内の小さい零細企業への大きな支援に投資していくことになる。
これこそ統合である! われわれが国内市場と地域市場に参入できることだ。ASEANへの統合によって東チモールに可能となる新たな経済の力強さにわれわれの家族や事業家が参加できなければ、何も利点もないのである。
これこそが独立である!そうでなければ、われわれは他のアジア諸国の経済的優位性の延長線上に存在するにすぎず、同等の技能・威厳そして交渉力をもって交渉のテーブルにつくパートナーになりえないのだ。
だからこそ、2026年度国家予算は財政計画以上のものなのである。これは、東チモール国民とわれわれの契約であり、対等平等の立場でわれわれが参入するこの地域へのわれわれの約束なのである!
国会議長そして国会議員のみなさん、
国の改革・地域統合・包括的開発への投資をテーマにして、2025年度予算と比較して5.2%増となる22億9,100万米ドル(連結総額)の来年度予算案には、それぞれの金額に基本的な方向性の原則があるのである。
これは、東チモールの家族が今日よりも明日、良い暮らしをするのに役立つのか?
2024年が公共部門の機関・制度・プロセスに見つかった弱点を修正する年であり、2025年が政策と戦略を定義し、改革と監査を実施する年であったとすれば、2026年は経済を変革する年となるだろう。
みなさん、
ただし、この変革は確固たる内部基盤に成り立つものでなければならない。予算書と報告書にはマクロ経済見通しと財政戦略の詳細が記載されている。
この戦略は、強みを活かし弱みを軽減するという技術的・財務的な前提に基づいている。例えば、非石油部門のGDPは2024年に4.3%成長し、2025年と2026年には4.5%に加速すると予想されており、これは東チモールにおいて過去10年間で最高の経済成長率となる。この前向きな勢いは、われわれの国民に具体的な利益をもたらす機会を呼び込む。
われわれは、われわれが使うそれぞれの金額を方向づける4つの基本目標に責任をもって取り組んでいる。
まず第一に、とくに若者のための雇用創出だ。
東南アジア諸国のなかで、東チモールは2015年から2022年にかけて年間人口増加率が1.8%と最も高い国である。東チモールは世界で最も若い国の一つであり、人口の約65%が30歳未満という非常に若い人口構成となっている。これは課題であるが、活力とアイデアを備え即戦力となる大きな労働力をわれわれは擁していることになり、これは何よりも好機でもあるのだ。
われわれの優秀で聡明な若者の多くは、自分の国で有意義な仕事が見つからないため、オーストラリアやポルトガルへ出国しなければならないと思っている。
若者が海外で将来を探すことなく自分の国で希望を抱けるようにするのは、国の責務である。
2026年度予算は、急速な成長と大規模な雇用創出が見込まれる生産部門を支援する。実際、包括的かつ持続可能な経済成長を促進するプログラムへの資金は昨年比で55%以上、インフラ開発への資金は62%と、それぞれ増加した。
われわれはたんに道路を建設しているのではなく、雇用への道を建設しているのである。農業を支援するだけでなく、父親の収穫物に付加価値を付けて東南アジア全域に販売したいと願う農家の息子を支援しているのである。大学を卒業する若者は、ここ東チモールで未来を見るべきである。
そのためには基礎インフラへの投資が不可欠である。主にインフラ基金を通じた道路・橋梁事業への2億2,300万ドルの投資から、水・衛生事業への2,580万ドルの投資まで、水インフラ拡張事業の拡大と、全国における飲料水への公平なアクセスの確保にたいする政府の責任ある行動を再確認するものである。
この予算では、電力網の改善を目的とした事業に1億3,850万ドルを割り当てるとともに、再生可能エネルギーによるエネルギー源の多様化事業にも投資をする。
一方、空港地区に4,630万ドルを投資することで、接続性だけでなく、地域統合の範囲内で、観光・商業・産業部門の成長のための経済の多様化にも投資する。
農業部門には、若者の成功のための基本条件である食糧安全保障と雇用創出を促進するために4,340万ドルの予算を割り当てた。
若者たちは首都ディリだけでなく全国にいる。地方分権化に3,710万ドルを配分することで、地方インフラへの投資と地方自治体の発展を解き放ち、全国においてより高い生活の質とより包括的な機会をもって国全体の持続可能な発展に尽力したいとわれわれは考えている。
第二に、慎重な財政運営による安定である。
「石油基金」はわれわれの貯金箱ではない。未来の世代のものである。それは神聖な信託であり、世代間の契約である。われわれの海の下にある石油とガスは、われわれだけのものではなく、われわれの子どもたちの、そしてまたその子どもたちのものである。
現在、「石油基金」は約180億ドルを保有する。これは巨額であり、非石油部門GDPの約9倍に相当し、世界でも有数の高水準である。しかし、主要な油田が枯渇した今、この基金は永遠に続くものではなく、現状のまま進めば、「石油基金」は今後10年以内に完全に枯渇する可能性がある。
政策の立ち上げについては、国会だけでなく、われわれを継承する子どもたちにも正当化されなければならない。われわれは、納税者を圧迫するのではなく、より多くの人びとが収入を得て、公平に貢献できるような活力のある経済を創出することで、国内歳入を拡大していく。2024年の国の支出は約19億3000万ドルだったが、そのうち国内歳入で賄われたのは約2億3000万ドルにすぎず、13億ドル以上が「石油基金」から賄われたのである。
この「石油基金」への依存は持続可能でない。われわれは民間部門を成長させ、税基盤を拡大しなければならない。そうすれば将来、予算の大部分が石油収入ではなく、繁栄する東チモールの企業と労働者によって賄われるようになるだろう。2026年度予算では、この世代間の契約を尊重し、生産性の向上とすべての東チモール人の機会創出につながる保健・教育・インフラへの投資もおこなう。
このため、われわれは引き続き石油と鉱物資源の富を活用し、この戦略的分野に1億9,410万ドルを投資し、「タシマネ計画」・「グレーターサンライズ」ガス田そして「バユウンダン」油田の処置、さらには東チモールへのガスパイプラインの将来的な敷設と運用を含む重要な投資をおこなっていく。
われわれの成長と多様化への成功の基盤は人的資本である。健全で有能な人材がいなければ、「石油基金」への依存の罠から抜け出すことはできない。
予算からの多額の投資が人的資本に配分されることは必然である。教育分野に1億8,170万ドル、保健分野に1億3,830万ドル、そして社会保障・包括分野に5,400万ドルを投入することで、より健全で、より能力があり、より公平な社会の構築に投資する。これは、発展途上にある国の社会経済基盤にとって基本的な条件である。
一方でわれわれは職業訓練への投資も継続し、SEFOPE(職業訓練雇用庁)および技術・訓練機関に1,280万ドルを配分し、とくに若年層の起業家精神を奨励する。この戦略には、農業・観光・製造業の分野における生産性向上に重点を置く中小企業・協同組合・代理店など、民間部門を支援するための3,210万ドルの投資も含まれている。
第三に、有能な制度を構築することである。
市民が公共サービスを受ける際には、敬意と効率性をもって対応されるべきである。企業が免許を申請する際は、そのプロセスは透明性と予測可能性を備えているべきである。そして、ASEAN諸国と約束をする際には、われわれの制度はそれを守れるだけの力を持つべきである。
自国においてまず有能な政府でなければ、海外で信頼できるパートナーとなることはできない。われわれはこの基準を満たすために、制度の強化に取り組んでいる。
東チモールは、過去5年間で世界汚職認識指数において7位上昇しており、透明性と説明責任の進歩を反映している。実際、この指数で東チモールを上回っているのはASEAN諸国の中でシンガポールとマレーシアの2カ国のみである。
われわれは行政管理の改善にも情報技術を活用している。新しいデジタル識別システムの導入により、受益者の識別精度が向上し、給与管理が厳格化され、公共プログラムにおける情報漏洩が削減される。
さらに、調達プロセスの強化、財務管理システムの更新、そして明確な業績指標に基づいた計画と予算の整合を図ることで、われわれは政府の機能改革を継続している。教師が給与を待つ間や請負業者が学校を建設するときに、システムが効率的かつ透明性をもって機能するようにしている。
これにかんして政府は国家財政運営の近代化と透明性に向けて、財政運営における構造改革を継続的に実施していくとだけわたしは述べることができる。これには、専門的で責任ある行政の確立を目的とする人的資源の管理への620万ドルの投資が含まれる。
第四に、すべての国民の尊厳を保証することである。
山岳部で基本的な医療を受けるために何時間も歩いているおばあちゃんや、学校に十分な設備がないために能力が制限されてしまう子どもにわれわれの成長が届かなければ、何の意味もない。社会の融合とはたんなる約束ではなく、われわれが築こうとしているすべての基盤なのである。
電気へのアクセスは、2010年の人口の約38%、今年そして2026年までには残りの183村に電気が供給される予定である。飲料水の利用可能な割合は、国際機関の推計によると、2014年に人口の70%、そして2024年には約87%となる。
これらの改善により日常生活における尊厳と機会が回復した。しかし依然として多くの家族が生活に苦労していることをわれわれは承知している。
そしてこのことから2026年度の国家予算において、公的移行の部門は主要なものとなっている。これには、RAEOA(オイクシ/アンベノ特別行政地域)と地方自治体への地方分権化の移行に加えて、年金・障がい者向けの給付金・児童扶養と社会保障などの直接的な移行が含まれる。
わたしが責任を負う政府において、国民全体の犠牲なしには今日存在し得なかったであろうこの国において、社会的包摂と所得再分配を擁護せざるを得ない。ほんのわずかな行為がわれわれの独立に貢献し、それゆえに独立国家のほんのわずかな貢献が今、われわれの国の社会基盤の尊厳に貢献しているのである。
みなさん、
われわれが直面しているいくつかの課題についても率直に話すことをお許し願いたい。
輸入と輸出の不均衡、予算を圧迫する気象現象、支出能力を超える支出の誘惑などは、予算を準備するさいに考慮しなければならないリスクである。
2026年度予算は、これらのリスクを隠すものではなく、むしろそれらに立ち向かうものである。
われわれは自分たちの予測と国際機関の予測を比較し、保存的な予測と慎重な計画を用いて、直面する不確実性について正直に受け止める。
差し迫った課題は輸入製品への依存である。具体的には、昨年東チモールは約9億2,300万ドルの物品を輸入したが、石油以外の輸出は約2,100万ドルで、これは支出の大部分が国内経済に循環するのではなく、外国製品の購入に投じられていることを意味し、これは地方産業にとって深刻な問題である。
一方、干ばつ・洪水・サイクロンといった気象現象は、国民にもたらす苦しみに加え、財政にも大きな負担をかける。2021年にこの国を襲ったサイクロン「セロジャ」は、誰もがはっきりと憶えているだろう。この自然災害により、政府の災害対策支出は想定外の620万ドルを超えたのである。
だからこそわれわれは、保存的な計画を立て、支出の実行においてより高い質を目指し、住民がその影響を最も直接的に感じる地方自治体レベルで、真の相乗効果を生み出す事業に投資を集中しているのだ。
最終的にわれわれは財政リスクにたいして現実主義でなければならない。自然災害や外的経済ショックが予算に影響を与える可能性があることをわれわれは知っており、準備を怠るわけにはいかないのである。比較的低い債務水準は守るべきである。現在、公的債務はGDPの約13%に過ぎず、これを低く抑え持続可能な状態を維持することが目標である。
米ドルを通貨として使用することでわれわれは為替レートの変動から保護されるが、「石油基金」の保護がさらに重要でなる。
先ほど言及したとおり、われわれは税制を近代化し、最も弱い立場の人びとに過大な負担をかけるのではなく、誰もが能力に応じて貢献できる、より公平な制度を構築している。
付加価値税の導入は、整備され、国民の準備が整った段階で実施する。実際、専門家の試算では、付加価値税は最終的にGDPの約1%の歳入増加につながり、これで財政を押し上げられると考えている。しかし、適切な協議と低所得世帯への保護を前提に、慎重に実施できるようになるまでは、これを実施しない。
われわれは財務管理の改善に取り組んでいるが、それは官僚的な完璧さに到達するためではなく、各資金が確実に目的の場所に届くようにするためである。このことは、財務管理システムの強化、調達プロセスの改善、そして報告および監査基準の引き上げを意味する。
われわれは、各プログラムに明確な指標を設け、各資金によって実際に達成したことを、われわれとみなさんに知らせるよう、計画・スケジュール・予算を調整している。
これらは技術的な改革に見えるが、給料を待つ教師、学校を建設し期日通りに支払いを受けるに値する請負業者、そして政府がどのように自分たちのお金を投資しているかを知る権利を持つ市民にとって、非常に重要なのだ。
調達が透明で競争力のあるものであれば、品質と価格のバランスが向上し、地元企業への機会が生まれる。財務管理が強固であれば、緊急事態や新たな機会に迅速に対応できる。報告書が明確かつ誠実であれば、市民はわれわれの約束に責任をとらせることができるのである。
WTO加盟は、公正な貿易ルールを確立し、われわれの農家・漁師そして中小製造業者に予測可能な海外市場へのアクセスを提供するとともに、投資家へは国内に工場を建設し雇用を創出するために必要とされる確実性を提供するのである。ASEAN加盟は、地域供給網への統合、物品輸送コストの削減、そして観光からデジタル商業に至るまで、サービス分野における新たな機会を拓くのである。
実際、ASEAN加盟によって東チモールの国際的な知名度と投資家の信頼はすでに高められている。このことは、われわれの国の産業への投資にたいする外国からの関心の高まり、多くの観光客がわれわれの海岸を訪れること、そして我が国企業が利用できる繋がりの拡大、を意味するのである。
しかし、これらの機会はどれも自動的に実現するものではなく、国民と制度がそれらを活用できるように準備しなければならないのだ。
現在のわれわれの仕事とは、これらの国際的な構造を具体的な支援で具体的な利益につなげることなのである。
だからこそこの予算では、新しい建設と維持の両方、中央政府の計画と地方自治体の能力の両方、そして約束と遂行の両方を強調しているのである。維持ができず、優秀な教員を雇用できないのであれば、新しい学校を建設しても役に立たず、2年で荒廃してしまうような道路を建設しても意味がないのである。
民間部門の成長とインフラ事業のために資金の調達を目的とする「国立開発銀行」や、とりわけ石油や鉱業に関連した事業における南部海岸沿いの戦略的投資の優先化などの新たな取り組みは、産業能力を拡大し、新しい成長源を開拓できる具体的な支援なのである。
すでに述べたように、ブルーエコノミーはわれわれの遺産と未来の両方を代表している。持続可能な漁獲・養殖そして観光への投資は、家族を養うだけでなく、雇用を創出し、必要な収入を生み出し、同時に私たちの自然の豊かさを守ることなのである。
みなさん、
わたしは海外を訪問するとき、われわれの国民の歴史を連れていく。世界の指導者たちに、われわれのような小国に必要なのは慈善ではなく、パートナーシップだとわたしは話す。われわれには提供できる解決策があり、共有できる経験があり、貢献できるものがあるのだ。しかし、公正なルール、手にできる気候変動対策資金、そして小規模輸出国に真に開かれた市場が必要なのである。われわれは世界と関わることで国内目標を強化するのである。
ニューヨーク、国連、ジュネーブ、WTOにおいて、われわれは開発と平和は密接に関連していると一貫して主張してきた。われわれのような小国は、国内の回復力を構築しなければならないのと同時に、近隣諸国や海外のパートナーとの連帯を築かなければならない。
われわれは小島嶼開発途上国や後発開発途上国の声に耳を傾ける多国間システムを支持する。それは慈善事業としてではなく、価値ある視点と解決策を持つパートナーとしてである。
この視点はわれわれの外交を形づくり、商業的な関係を形づくるであろうものであり、それはわれわれの主権や価値観を損なうことなく市場を開放し、機会創出の協力である。
これがわれわれが ASEAN にもたらす精神だ。尊厳のある統合、目的のある改革、そして生身の人に触れる成長です。
闘争の後に平和あり、分裂の後に対話あり、紛争の後の和解は抽象的な理想ではないという東チモールの歴史を、われわれは世界に語り続けるのだ。
最後に、開発パートナーのみなさんに申し上げたい。われわれは、能力を育成し、永続的な価値を創り出す投資を満足をもって歓迎する。財務諸表だけでなく、われわれの組織制度を強化する予算支援にわれわれは感謝する。
デジタル技術の開発野心、「戦略開発計画」の実施、政府プログラムそしてブルーエコノミー政策の実施、われわれはこれらを整える必要がある。
ここで、最も重要なこと、つまり東チモール国民の話に戻ることをお許し願いたい。
民間部門のみなさんへは、次世代の東チモール人起業家育成にご支援をお願いする。設立される正式な企業の一つひとつ、育成される若者一人ひとり、展開される輸出市場の一つひとつ、これらが国全体を強くしていく。WTOとASEANへの加盟がもたらす新たな機会を活用すること、技能研修育成プログラムを通じてわれわれの若者たちへ投資すること、これらをお願いしたい。
若者のみなさんへは、研修と雇用の機会を活用してほしい。自分自身に投資することは、国に投資することである。みなさんの手のなかにあるこの国の未来に誇りをもって貢献してほしい。
献身的な公務員のみなさんは、政府の約束と国民の現実をつなぐ架け橋である。誠実さと緊急性をもって働いてほしい。国民はまさにそのことを期待している。そして、みなさんが処理する書類一枚一枚、提供するサービス一つひとつ、下される決断の一つひとつが、生きた希望と需要を抱く生身の家族に影響を与えていることを忘れないでほしい。
最後に、関係機関、とくに国家機関のみなさんにお願いする。北から南、西から東、若者から高齢者まで、官民一体となって共に働こう。われわれの力は、石油埋蔵量や戦略的地理にあるのではなく、国民にあるのだ。強靭さ、創造性、そして子どもたちのためにより良い未来を築こうとする決意が、国民にあるのだ。
財政規律、改革の野心、国の目標への団結、これらを抱きながらともに前進していこう。そうすればいかなる困難に直面しても克服できる。
それゆえ、われわれはここに思慮深く均衡のとれた国家予算について議論をする準備ができている。国会議員のみなさんによってさらにこれを改善できる。
毎年おこなわれる国家予算の民主的討論で、経済社会の生活向上という共通の目標のもとに国家機関が団結するというわれわれの民主主義の力が試されているのである。
どうもありがとうございました。
資料編13(2025年11月8日)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion14509:251109〕











