カズオ・イシグロ(イギリス、1954~)の人となり――壮大な感情の力により、幻想的感覚に隠された深淵を暴く
スカズオ・イシグロは長崎市内で1954年に生まれた。父は海洋学者で、1960年に両親と共にイギリスへ移住。1974年にケント大学英文学科に、1980年にはイースト・アングリア大学大学院に進学。
小説を書き始める。卒業後、グラスゴーとロンドンで社会福祉事業に従事する傍ら、作家活動を始める。1982年、英国に在住する長崎の女性の回想を描いた処女作『女たちの遠い夏』(のち『遠い山なみの光』と改題』)で王立文学協会賞を受賞し、九か国語に翻訳される。1983年、イギリスに帰化。1986年、長崎を連想させる架空の町を舞台に、戦前の思想を持ち続けた日本人を描いた第二作『浮世の画家』でウイットブレッド賞を受賞し、若くして才能を開花させた。
1989年、英国貴族邸の老執事が語り手となった第三作『日の名残り』で英語圏最高の文学賞とされるブッカー賞を受賞し、イギリスを代表する作家となった。1995年、第四作『充たされざる者』を出版。2000年、戦前の上海租界を描いた第五作『わたしたちが孤児だったころ』を出版、発売と同時にベストセラーとなった。2005年、『わたしを離さないで』を出版し、同年のブッカー賞最終候補に選ばれた。
2015年、『忘れられた巨人』をイギリスとアメリカで同時出版。アーサー王の死後の世界で、老夫婦が息子に会うための旅をファンタジーの要素を含んで描く。2017年、「壮大な感情の力を持った小説を通し、世界と結びついているという、我々の幻想的感覚に隠された深淵を暴いた」としてノーベル文学賞を受賞。
2017年10月までに日本で翻訳出版された小説全八作の累計発行部数は二百万部を超える。『タイムズ』の「1945年以降の英文学で最も重要な50人の作家」のひとりに選出。作品の特徴として、「違和感」「虚しさ」などの感情を抱く登場人物があいまいな記憶や思い込みを基に会話したり、過去を回想したりする形で進行。人間の弱さや互いの認知の齟齬が浮かび上がるものが多い。非キリスト教文化圏の感受性を持ちながらも、英国文学の伝統の最先端にいる傑出した現代作家とされる。十代の頃はシンガーソング・ライターを志望し、作家となって以降もピアノやギターをたしなみ、ボブ・ディランのファン。ノーベル文学賞受賞の際には、「(前年の受賞者である)ボブ・ディランの次に受賞なんて、素晴らしい」と語った。
1995年に大英帝国勲章(オフィサー)、1998年にフランス芸術文化勲章、2018年に日本の旭日重光章を受けた。同年にナイト・バチェラーに叙され、サーの称号を得た。日本との関わりでは、谷崎潤一郎ら多少の影響を受けた日本人作家はいるものの、むしろ小津安二郎や成瀬巳喜男ら1950年代の日本下映画に加えて、幼い頃に過ごした長崎の情景から作り上げた独特の日本像が反映されている、とされる。
「リベラル21」2025.11.12より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net
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