政治家の言葉(1)~高市首相のキャッチフレーズが怖い

 11月5日、今年の流行語大賞候補が30ばかり発表されたが、意味や背景がわかるのは、ほぼ三分の一。どうやって決まったのか、もう高齢者には縁がないのかもしれない。

   5月だったか、米不足のさなか、江藤拓農水相は、自分の家には米は「売るほどある」「買ったことがない」との放言で更迭された。この「売るほどある」も入っているかなと思ったが、入っていなかった。政治むきの言葉では、「戦後80年/昭和100年」「トランプ関税」「物価高」「フリーランス保護法」のほか「働いて、働いて・・・」の高市首相の施政方針演説のフレーズが入っていた。

2025年流行語ノミネート30選
https://www.oricon.co.jp/news/2416616/full/

  30選には選ばれてはいないが、高市首相の「責任ある積極財政」「財政出動」「戦略的互恵関係」など、一見、確固たる自信を持っての発言は、いかにも決断力と実行力が伴うかのような強いイメージをいだかせる。しかし、私などには、具体的になにを意味するのか分かりにくく、のっけからうさん臭さを感じてしまう。国会での質疑や新聞報道などにより少しづつ見えて来るものがある。

   国会での質疑といってもなかには、どうしようもない質問にイライラすることもあるのだが、重要政策については、首相答弁の結語は、「検討する」「協議する」に終始し、これまでの政権と同様、「先送り」の感がある。
  そんな中で、高市首相のキャッチフレーズにひそむ嘘とリスクを思わずにはいられない。
  首相は、11月4日、岸田、石破両政権下の「新しい資本主義実現会議」の看板をおろし、「日本成長戦略本部」の設置を閣議決定し、11月10日、初会合を開き、人工知能(AI)や半導体など17分野に重点投資する方針を決定した。「新しい資本主義」も成果が見えない中、キャッチコピーは「成長と分配」から「責任ある積極財政」に変えたというわけである。

「責任ある積極財政」って!?

  高市首相は10月24日の所信表明において、防衛費を2027年度に国内総生産(GDP)比2%に増額する目標を、25年度中に前倒しする方針を示した。

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「『責任ある積極財政』を掲げる高市首相の発言」『北海道新聞』11月6日配信。日本の債務残高の対国内総生産(GDP)比は今年時点で234.9%と先進7カ国(G7)の中で突出して高い。

  株価は5万円を超えたが不安定だし、円安は進んで一挙に150円を超え、11月12日には154円と値下がりした。大規模な財政支出で経済成長を目指すというが、「新しい財源調達」といっても、11月5日の衆議院本会議の代表質問に答えて、国債発行も否定しなかった。これまでも、金融緩和政策として、日銀に巨額の国債を背負わせ、日米の金利差による円売りから円安をもたらし、輸入に頼る食料やエネルギーの価格上昇により物価が高騰して来た。日銀は、円安が進行しても、金利を上げることに慎重だったのは、政権への「忖度」、政治的配慮があったとされる。もともと、前総裁選で「今、金利を上げるのはアホ」とまで言っていた高市首相である。現に、10月30日、日銀は、金利を0.5%に据え置き、上げることはしなかったことにより、日銀の独立性が危ぶまれている。黒田前総裁の自信ありげな発言も気にくわなかったが、植田総裁の状況を「見極める」「注視する」だのどこかおどおどした振る舞いも気になるところである。

 最重要課題としている物価高対策といっても、ガソリン税減税や所得税の非課税枠の引き上げをしたところで、加速化した物価の高騰には追いつかないだろう。電気やガス料金への若干の補助がなされても、「おコメ券」「プレミアム商品券」などを配ってみても、その程度では“消費マインド”が高まるなどとは考えにくい。食料品の消費税引き下げ・廃止ができず、社会保険料や医療費の引き上げと重なるとなれば、政府への不信は高まり、国民の将来への不安は募るばかりだ。


 物価高対策や社会保障費の財源を、現行の税制制度で、税収の上振れへの期待や国債増発、都道府県への交付金などでは根本的な解決にはならない。「挑戦」というならば、早急になすべきは、法人税の税率引き上げ、所得税の累進課税の徹底、金融資産所得を含めた所得への総合課税、富裕税の創設などによって、富裕層への「増税」に踏み切るべきではないか。世界の潮流でもある。富裕層への優遇措置は、税の公正・公平を削ぐものにほかならない。財源確保というならば、上記税制改革と次に述べる防衛費の増額・前倒しストップではないか。

<参考>
ガブリエル・ズックマンって誰?~富裕層には、「富裕税」を!: 内野光子のブログ

「戦略的互恵関係」って?!

  10月24日、高市首相は、所信表明演説において、防衛費を2027年度に国内総生産(GDP)比2%に増額する目標を、25年度中に前倒しする方針を示した。外交・安全保障では、中国、北朝鮮、ロシアの軍事動向などを前提に、日米同盟の強化を表明し、その後のトランプ米大統領の来日、会談でより明確に示された。


 10月28日、 横須賀米軍基地にて。かなり恥ずかしいし、おかしくないですか。

   防衛費増を視野に入れた安保関連3文書については、日本を取り巻く環境の変化を踏まえ、「我が国として“主体的”に防衛力の抜本的強化を進めることが必要だ」と強調し、安保関連3文書の26年中のさらなる改定を目指し、検討を始める考えも明らかにした。
   11月7日の衆院予算委員会では、米中衝突も予想される「台湾有事」が日本が集団自衛権を行使できる「存立危機事態」にあたる可能性があると明言、若干トーンダウンしたものの本音が出たと思われる。さらに、11月10日、小泉防衛大臣は、他の国も持っているから、日本にも原子力潜水艦は必要にも言及した。アメリカ従属の何物でもないだろう。朝日新聞の報道によれば、自民・維新の会連立与党内では「殺傷能力のある武器輸出拡大に向けて協議会を設置するという。2014年に制定された「防衛装備移転三原則」の「救難・輸送・警戒・監視・掃海」の五類型に限定されているのを、完成品をも輸出できるように撤廃する方針だという。

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住まいの近くに、なんとなく気になっていた店、転居10カ月にして、ランチでもと入ってみた。パスタのBコース、3種から選べてコーヒー、デザートが付く。下はその前菜。お客さんは、一人も多く、リピーターらしかった。

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初出:「内野光子のブログ」2025.11.13より許可を得て転載
http://dmituko.cocolog-nifty.com/utino/2025/11/post-8f41d4.html

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
〔opinion14519:251114〕