チモールが新聞のトップ記事に
2025年11月17日の『毎日新聞』は、「詐欺組織 東ティモールに拡大 経済特区 若者狙い巧妙求人」と題する記事を第一面トップに載せました。日本の新聞の第一面トップに東チモ-ルが登場するのは、もしかして住民投票とその後の大規模な破壊活動が報じられた1999年8~9月以来のことではないだろうか?……とおもわれるほど極めて珍しいことなので、『毎日新聞』に敬意を表して記事の内容について若干の解説を試みたいとおもいます。
オンラインカジノの免許取り消し
『毎日新聞』のこの第一面記事の内容は、詐欺組織による飛び地RAEOA(ラエオア、Região Especial de Oe-Cusse/Ambeno=オイクシ/アンベノ特別地域、旧名オイクシ地方、『毎日新聞』では「オエクシ」と表記しているが、わたしの耳には「オイクシ」と聴こえるので従来通り「オイクシ」と表記することにする)での〝仕事〟(実は詐欺行為)の求人広告に応募した若い女性の体験談が紹介され、それに続く国際面ではアジオ=ペレイラ内閣長官へのインタビュー記事が、「『腐敗と闘おう』異例告発」、「東ティモール首相側近『汚職官僚 犯罪手助け』」という見出しが付けられて載りました。
『毎日新聞』のこの記事の内容は、東チモールでは10月初旬に大きな話題になりました。東チモールで話題にのぼり、『毎日新聞』の記事には含まれていなかった鍵となる用語として、「オンラインゲーム」「オンラインカジノ」あるいは「オンラインギャンブリング」をあげなければなりません。
2025年10月1日、アジオ=ペレイラ内閣長官は閣議において、すでに政府が発行したオンラインカジノの事業許可を取り消しました。それより約半年前、2025年4月、東チモール政府はGRU(ゴールデンリバーユニバース)という会社にオンラインによるカジノ事業の免許を与えたのです。GRUと政府関係者などが8ケ月にわたって規則を協議し、安全で透明性があり、世界的に適合したオンラインギャンブリングの仕組みを確立したうえで免許が発行されたと報じられ、これが東チモールのデジタル分野の発展に貢献するとか、国際観光に寄与するとか、新たな収入源や雇用につながるなど(『タトリ』、2025年4月11日)、めでたいニュースとして報道されたことにわたしは非常な違和感を覚えたものです。ギャンブル依存症による生き地獄を味わう人をなぜ東チモールから生みださなくてはならないのか、と。
さてこのGRUと契約を交わした政府側の人間は誰かというと、経済観光環境担当調整大臣であり副首相でもあるフランシスコ=カルブアディ=ライです。副首相が署名して付与したオンラインカジノ免許を内閣長官が閣議で取り消すという事態は、カルブアディ副首相がどうのこうのという意味ではありませんが、政権内で抗争が起こっていることを示しているのではないでしょうか。
忍び寄る詐欺・人身売買・マネーロンダリング
オンラインカジノ業者が即、国際犯罪組織と結託した組織であると結論づけることはもちろんできませんが、「オンラインゲームの禁止が東チモールの組織犯罪を止めるのに十分か、市民は疑問を抱く」(2025年10月9日)という題の記事が『ディリジェンテ』(DILIGENTE)というニュースサイトに載りました。この『ディリジェンテ』の記事では、UNODC(国連麻薬犯罪事務所、United Nations Office on Drugs and Crime)の警告をうけてアジオ=ペレイラ内閣長官はオンラインカジノの免許取り消しに踏み切ったと伝えています。
また、それより前の『ディリジェンテ』(2025年9月27日)の「国際犯罪組織の脅威のもとにある東チモール」と題された記事では、シャナナ首相はオイクシで起こっていることはすでに承知していると伝えています。
さて上述したUNODCによる報告ですが、「海外からの犯罪的な直接投資が、脆弱な管轄区域を標的にして東チモールを脅かす」と題され、2025年9月11日に発表されました。この報告は、東チモール当局によるオイクシのホテルへのガサ入れで得られた押収物により、詐欺センター・サイバー犯罪・ギャンブル業者がネットワークでつながっていることを示していると分析し、国際犯罪組織がオイクシ(脆弱な管轄区域)に浸透していると強調して、東チモールの国家機関が国際犯罪組織と怪しげなつながりをもち、詐欺・人身売買・マネーロンダリングという犯罪の新たな拠点に東チモールがなりつつあると警告しているのです。
なお、『ディリジェンテ』(2025年10月9日)に登場する女性の発言内容と、『毎日新聞』(2025年11月17日)の第一面トップ記事の内容(オイクシでの〝仕事〟の求人広告に応募した体験談)とが重なる部分があるので、もしかして同じ人物が『ディリジェンテ』と『毎日新聞』にインタビューされたのかもしれません。
「国の魂を売ろうとする者たち」とは誰?
『ディリジェンテ』(2025年9月27日)の記事では、アジオ=ペレイラ内閣長官が『毎日新聞』(2025年11月17日)で、国外からプライベート機で税関検査なしで持ち込まれたと指摘している1100万ドルについてさらに生々しく記述されています。この1100万ドルとは総額4500万ドルの一部であり、「われわれの国の魂を売ろうとする者たちの懐に流れ込んだ」、「空港関係者はこの汚職のやり取りを目撃し、政府の人間は不正に得た利益を得意がり、国の最高位に就く際に数百万ドルを分配しようと目論んでいる」(アジオ=ペレイラ)。
こうした状況をうけアジオ=ペレイラ内閣長官は危機感を覚え、まずはオンラインカジノの免許取り消しというやれるところから着手したのかもしれません。
それにしても「国の魂を売ろうとする者たち」とは誰なのか、「国の最高位に就く」可能性のある人物なのか、それともただたんにこの人物は大金が懐に入って浮かれて戯けた発言をした下っ端役人なのか、この人物はちゃんと捕まって裁判にかけられ罰せられたのか……非常に気になります。
国際犯罪組織から国民を守れ
オンラインカジノの免許取り消しで犯罪組織から東チモール市民を守れると思うかという『ディリジェンテ』(2025年10月9日)の問いに答えた市民からは、免許取り消しだけでは不十分だ、捜査機関が厳格であるべきだ、オンラインゲームの免許発行に署名したカルブアディ副首相は責任をとるべきだ、などという意見が出ました。また、『毎日新聞』(2025年11月17日)でも紹介されている市民団体「マヘイン」(テトゥン語で[守護者]の意)の代表は、国際協力を得た徹底的な調査と大統領による組織犯罪にたいする公式な闘争宣言が必要だと述べています。
オンラインカジノの免許取り消し以降の進展がない(あっても公表されない?)のが気になります。いまは鳴りをひそめているだけなのでしょうか。11月21日に国会を通過した(賛成42票、反対ゼロ、棄権23票)総額22億9100万ドルとなる2026年度国家予算案がラモス=オルタ大統領によって発布され、政治的行事にひと段落ついたとき、RAEOA(旧オイクシ地方)に侵入したとされる国際犯罪組織に手を貸した政府の人間の問題が何らかの形で表面化するかもしれませんし、分かる形で捜査が展開されなければ東チモール人は安心できないことでしょう。
『毎日新聞』のインタビューに応じた女性は危うく詐欺集団による犯罪に巻き込まれるところでした。仕事がなく家族を助けたいと願う東チモール人をだまして犯罪に巻き込もうとする輩の犯罪は決して許されるべきではありません。ASEAN加盟もけっこうですが、東チモールは国際犯罪組織から国民を守らなければなりません。
第546号(2025年11月23日)
〈出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net//
[Opinion14539:251124]














