政治家の言葉(3)~困ったときの常套句

 「誤解を招くようなことがあれば」「慎重に対応する」

  台湾有事をめぐる高市首相答弁をめぐって、首相自身は、従来の政府の方針を変えるものではない、最悪のケースについて述べたに過ぎない、という主旨の発言をしている。11月21日、木原官房長官は記者会見で「誤解を招くようなことがあれば、今後は極めて慎重に対応しなければいけない」と述べている。失言や虚言を指摘されて謝罪する折に使われる「誤解を招くようなことがあれば」「慎重に対応する」はこれまでも幾度となく聞かされてきたフレーズである。まるで、指摘した側や受け手が誤解した、誤解してしまったかのような表現で、あたかも「誤解した」相手側に非があるかのような意にとれる。だったら、真意は何であったのかを説明すべきなのに、深く頭を下げて「謝罪」したり、「反省」したりして、終わりというケースが多い。今回はそれさえもなく、「慎重な対応」で収めようとしているが、具体策は見えず、中国側の反発は続き、その行方は定まらない。同様の主旨のフレーズに「適切に対応する」などもある。

 「誤解」といえば、「あえて誤解を恐れず言えば」とか「誤解を承知の上で」という言い回しもあるが、さすがに、政治家の発言には少ないが、「評論家」や「コメンテイター」に多いのではないか。だったら「誤解されないような」発言をすべきとも思うのだが、これも「逃げ」の一種だろう。

 また、いまだに収まらない小川晶前橋市長の”ラブホ密会”の件で、市長は、9月24日の記者会見「誤解を招く軽率な行動であったことを深く反省しています。」と述べ、タレントの不倫疑惑報道後のコメントでも、これらのフレーズはよく使われる。たとえば、永野芽郁は、ラジオ生出演の場で「誤解を招くような行動、心から反省」すると謝罪しているという(Sponichi Annex /スポーツニッポン新聞社、2025年4月29日)。

「高い緊張感をもって注視する」

 11月19日、植田日銀総裁との会談を終えた片山財務大臣が「市場の動向に対しては、高い緊張感を持って注視する」と語っていた。円安、株安、債券安の「トリプル安」による財政悪化が進行しているなか、「注視するだけですか」「何も手を打たないのですね」と返したくなる。そういえば、このフレーズも、定番で、かつての岸田首相も「高い緊張感を持って注視したい」を連発していたことも思い出す(「トップが絶対に使ってはいけないフレーズ 岸田首相の口癖に学ぶ」『NEWSポストセブン』2022年9年24日)。

「慎重に検討していく」「慎重に対応する」「慎重に議論を重ねる」なども同様の場面で使用されことが多く、「無策」と言っていいだろう。

「あらゆる選択肢を排除せず」

 2025年10月22日、小泉進次郎防衛大臣は「着任訓示」で「我が国の抑止力を向上させていく上では、(中略)あらゆる選択肢を排除せず、抑止力・対処力を向上させていくための方策について検討していかなければなりません」と語っているのをニュースで知った(詳しくは、「防衛省/自衛隊HP」)。これって、小泉進次郎は前にもどこかでも言ってなかったっけ、と調べてみると、2025年5月21日の農林水産大臣就任記者会見で、記者からの「備蓄米入札の見直しについて」の質問に対して「今回随意契約という形で、そして詳細な制度設計をした暁に、(中略)明確に政治の意思を持って(価格を)さげていく。そういった中で、あらゆる選択肢を排除しないで制度設計をしていく」と答えていたのである。テレビでも、この辺りが切り取られていたかと思う(詳しくは「農林水産省HP)。小泉進次郎が好きなフレーズ?と思いきや、このフレーズをネットで検索してみると、出るわ、出るわ・・・・。

・2021年12月6日、岸田首相は「所信表明演説」で「国民の命と暮らしを守るため、いわゆる敵基地攻撃能力も含め、あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討し、スピード感をもって防衛力を抜本的に強化していきます」と語っている。(官邸HP)

・2022年2月21日、衆議院予算委員会で、ガソリン税価格高騰への対策を問われて「あらゆる選択肢を排除せず、さらなる対策を検討する」と答えている。

・2022年8月31日、岸田首相は、記者会見で、原発の新増設について問われて「次世代革新炉の検討も含め、あらゆる選択肢を排除せず、有識者の皆様方検討をお願いしている」と答えている。

・2024年3月28日、予算案と税制法案の成立を受けての記者会見で、為替介入を問われて「政府として、高い緊張感を持って為替動向についても注視していきたいと思いますが、行き過ぎた動きに対しては、あらゆる手段を排除せず適切な対応を採りたい」というのが政府の基本的な考えであると述べた。また、賃金と物価の好循環やデフレに後戻りしない状況をつくり出すための日銀の追加利上げについて問われると、日銀と政府は、密接に連携していかなければならない、デフレからの完全脱却、新たな成長型経済への移行への正念場にあって「政府としても、あらゆる政策を総動員していきたいと思います」と答えていた。

 さかのぼれば、もっとこのフレーズは出てくるのかもしれない。小泉進次郎の「抑止力を向上するためには」「コメの価格を下げてゆくには」としてこのフレーズを発信している。岸田元首相は「防衛力の抜本的強化のためには」「ガソリン税価格高騰対策として」「原発の新増設について」「デフレ脱却、新たな成長型経済にむけて」・・・、どんな政策を問われても「あらゆる選択肢を排除せず」とするのだが、それでは「どんな選択肢があったのか」聞いてみたい。従来からは「万全を期す」といういい方もあったが、それをより強めたかったのか。

 上記の「誤解を招くようなことがあれば」は、当事者が「非」を認めようとしない場合に重用される。「高い緊張感をもって注視する」は、主体的には、何もしないつもりの方便だし、「あらゆる選択肢を排除せず」も、具体的な方策がない場合に多用される。
 要するに、具体策が講じられないので、ひたすら「懸命にやっているぞ」感を前面に出すだけで、中身がない、空疎な言説に過ぎない。

 困ったときの政治家の言葉には、まだまだ、さまざまな常套句があるが、繰り返されれば、繰り返されるほど、政治への信頼は、ますます、地に落ちてゆく。(つづく)

初出:「内野光子のブログ」2025.11.25より許可を得て転載
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〔opinion14542:251126〕