大賞は沖縄タイムスの「沖縄戦80年 鉄の暴風吹かせない キャンペーン」

 2025年の平和・協同ジャーナリスト基金賞

反核・平和、協同・連帯、人権擁護等を推進するための報道に寄与したジャーナリストらを顕彰する活動を続けている平和・協同ジャーナリスト基金(PCJF。代表委員=ルポライターの鎌田慧、明治大学名誉教授の中川雄一郎の両氏ら)は12月3日、2025年度の第31回平和・協同ジャーナリスト基金賞の受賞者・受賞作品を発表した。

基金に寄せられた応募、推薦作品は93点で、内訳は活字部門41点、映像関係部門52点。今年度は、これらの候補作品のテーマが極めて多様多彩であったことが、まず選考委員の目を引いた。今年が「戦後80年」という節目の年であったことから、それに関連した作品が多かったのは予想の通りだったが、これに加えて、沖縄、環境破壊、冤罪、ジェンダー、子どもへの性暴力などいったテーマに肉薄した作品が多数寄せられ、しかも力作が目立った。

基金運営委員会が委嘱した選考委員会は、これらのうちから8点を入賞作に選んだ。内訳は基金賞(大賞)1点、奨励賞6点、荒井なみ子賞1点である。

◆基金賞(大賞)=1点沖縄タイムス社編集局「沖縄戦80年 鉄の暴風吹かせない キャンペーン」
◆奨励賞=6点

★川上泰徳・合同会社きろくびと「壁の外側と内側 パレスチナ・イスラエル取材記」
★信濃毎日新聞報道部「連載・ともにあたらしく ジェンダー 地域から」
★下野新聞社編集局取材班「平和のかたち とちぎ戦後79・80年」
★テレビ朝日「黒川の女たち」
★東京新聞編集局「安保関連法成立から10年に関する一連の報道」
★長崎新聞社報道部若手記者取材班「被爆80年連載・山川先生の平和ゼミ」
◆荒井なみ子賞=1点
加藤宣子・Stop!辺野古埋め立てキャンペーン共同代表「<会社>と基地建設をめぐる旅」 <ころから>

入賞作品対する選考委の講評は次の通り。

■基金賞=大賞に選ばれたのは、沖縄タイムス社編集局の『沖縄戦 鉄の暴風吹かせない キャンペーン』である。同編集局の応募文によれば、約20万人の犠牲をもたらした沖縄戦も、体験者が年々減少し、継承が危ぶまれている。そこで、「鉄の暴風を再び吹かせないためのキャンペーン」を始めたという。

「鉄の暴風」とは、住民を巻き込んだ米軍の熾烈な艦砲射撃や空襲のすさまじさを表す言葉で、当時の記者が言い始めた表現という。「鉄の暴風を吹かせない」ためのキャンペーンとは、いうならば沖縄戦のような戦争を再び繰り返させないという決意の表明であったのだろう。それを裏付けるように「ありったけの地獄を集めた」と称される沖縄戦の実態が紙面に再現されていたが、選考委員を驚かせたのは、「平和の礎」に刻まれている24万2567人の氏名全員を13日間、計52ページにわたって紙面に掲載したことだった。編集局によれば、全国各地から問い合わせがあったという。「もう、これだけで大賞に値する」。これが選考委員の総意だった。

■奨励賞には活字部門から4点、映像部門から2点、計6点が選ばれた。まず、活字部門だが、信濃毎日新聞報道部の『連載・ともにあたらしく ジェンダー 地域から』か選ばれた。ジェンダー平等問題に対し、総合的、多面的な観点から深く切り込んだ報道で、選考委では「我が国でも女性が、あらゆる面でいかに苦闘してきたかが明らかにされている。よくぞここまで書いてくれたなと思う」「信濃毎日新聞は新聞界に新しい取材分野を切り開いたのではないか」との賛辞が述べられた。

同じく奨励賞となった下野新聞社編集局取材班の『平和のかたち とちぎ戦後79・80年』は、力のこもった重量感のある大作として注目を集めた。推薦者によれば、同社は戦後70年の際に戦争体験者の証言をできる限り記録し、戦争の全体像を捉える報道に取り組んだ。が、その後、多くの方が亡くなったので、「語り継ぐ」行為の重要性を痛感し、再び戦争体験者の証言集めに取り組んだという。紙面には、どこで、こんな戦争体験者を探して来たんだろうと思わせる人が登場する。選考委では「戦争体験は次第に風化してゆく。どうしたら戦争体験を未体験者に引き継いでいけるかを考える時、下野新聞のこの試みが参考になるのでは」との声が上がった。

やはり奨励賞となった東京新聞編集局の『安保関連法成立から10年に関する一連の報道』は、同紙が9月18日から同20日にかけ、一面、二面、社説、特報、社会など各面を使って展開した一連の記事でる。

10年前に成立した安保関連法は集団的自衛権の行使を容認するものであったから、以来、他国の軍隊との共同訓練や武器輸出が行われるなど、日本の軍拡が急速に進んでいる。東京新聞の一連の記事はその実態を伝え、「日本は専守防衛に立ち返れ」と主張する。他紙も同様の報道をしていたが、「東京」が一番積極的な紙面だった。選考委では「安保関連法を一般の人に知ってもらいたいという熱意を紙面から感じた」との発言があった。

長崎新聞社報道部若手記者取材班の『被爆80年連載・山川先生の平和ゼミ』も奨励賞を受けたが、その取材・執筆方法が選考委員の注目を集めた。それは、報道部の若手記者4人が、長崎で被爆した元教師の“平和ゼミ”に入門し、インタビューをしたり、元教師を囲んだ座談会を行うなどして得た情報を企画記事として連載したものだ。これにより、長崎原爆の被害とその後の市民生活の実相が一層明確になった。選考委では「実に新鮮でユニークな取材だ」とされた。

■映像部門から奨励賞に選ばれたのは、まずテレビ朝日の『黒川の女たち』(松原文枝監督)である。1945年に満州開拓に渡った岐阜県の黒川村開拓団は、ソ連兵の暴行や集団自決から住民を守るため、18歳から20歳までの未婚女性15人に“性の接待係”を依頼し、帰国を果たした。しかし、村幹部の要請に泣く泣く応じた女性たちは傷ついた心身を癒やされることなく、誹謗中傷にもさらされ、辛い戦後を生きてきた。

選考委では「女性への性暴力が止むことのない現在、戦時下の“性の接待”を記録し、歴史に刻むことは非常に意味のあることである。文句なしの力作」とされた。

次に選ばれたのは、製作:川上泰徳、製作協力:きろくびと、川上泰徳監督の『壁の内側と外側 パレスチナ・イスラエル取材記』である。2023年、イスラエルに分離壁で封鎖されたガザ地区からイスラム組織・ハマスが越境攻撃を行い、戦争が始まった。2024年、ジャーナリストがガザへ入ることが困難な中、川上氏が分離壁で区切られたヨルダン川西岸を取材した記録だ。選考委では「百聞は一見にしかず。パレスチナの現実がグッと身近になった。兵役を拒否するイスラエルの若者たち。同国内にも、自分の信条を曲げずに戦っている若者たちがいることに希望を感じた。この時期に、この映画を世に出してくれたことに敬意を表したい」とされた。

■荒井なみ子賞に選ばれたのは加藤宣子さんの『〈会社〉と基地建設をめぐる旅』だ。当基金の創設に尽力した荒井なみ子さん(生協運動家)を記念する賞で、女性ライターに贈られる。この著書は、沖縄本島の辺野古で米軍基地を建設している日本の大手ゼネコンの歴史と建設工事の実態を明らかにしたもので、同書の帯には「ただの請け負い業者なのか? それとも、現代の死の商人か⁉」とある。選考委では「発想がいい」「視点が面白い」とされた。

なお、朝日新聞記者・高木智子さんの『連載・壊された朝鮮人追悼碑』、毎日新聞記者・鵜塚健氏の『治安維持法から100年に関する一連の報道』、林博史氏の『沖縄戦 なぜ20万人が犠牲になったのか』<集英社新書>、徐台教氏の『分断八〇年 韓国民主主義と南北統一の限界』(集英社クリエイティブ)、中日新聞社会部の『特集・BC級戦犯の実相を追って』と『連載・兵士が負った罪』が最終選考まで残った。

「リベラル21」2025.12.04より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/                            〔opinion14552:251204〕