現政権への不信感が高まる
2025年2月の議会選挙から既に10か月近くが経ってしまいました。中断していた本題を書き進める前に、ドイツの政治現状を少し概略しておきます。どこから始まり、どこに向かうのか、それなりの道筋が見つけだせると思うからです。
CDU/CSU―SPD 現政権への世論調査結果が11月23日付「Bild am Sonntag」紙(センセーションな記事を特徴とするスキャンダル紙-筆者注)に公表され、満足するが22%、不満足が67%で、満足ポイントは11月7日の調査結果と比べて2%減少しているといいます(注1)。 そしてこの傾向は引き続き維持されていくと十分に予想され、その先に何が、がここでの主要テーマになってきます。
続いて11月11日から24日にかけて行われた別の世論調査では、現政権が4年間維持できると回答した人たちは29%、反対に維持できないと答えた人たちが54%という結果が出されています(注2)。
社会の動向に猜疑を持ちつつ、同時にいつ現政権が崩壊するかに市民の関心が向けられていることになります。そこからは何も新しいものを生み出せない現政権への不信感が募り、将来への不安が市民の中に広がってきてきているのが読み取れます。それは単に統計結果といわず、日常の感覚でもそうした感じが伝ってくるところに現実性と危機感があります。
(注1) Frankfurter Rundschau Montag,24. November 2025
(注2) t-online-de
右傾化する「家族経営団体」
この事実を象徴するかのように、10月8日にベルリンで「家族経営団体」の定例会合が開かれ、そこにAfDが招待され、意見交換が行われたというスキャンダルが暴露されました。
この報道に接したとき、「家族経営」ですから家族ぐるみで何世代かを継いで営まれてきた事業を連想し、〈そこまで経営が厳しくなっているのか〉と思う一方で、身近な衣食住の日常生活需要を確保していく経済関係の中軸が危機に陥っている現状を知らされました。見方を変えれば、コロナ、エネルギー危機に際して政府の経済政策に見られた問題点が浮き彫りにされ、それが現在も解決の展望なしに継続している現状を示す結果となりました。
他方で、そこからAfDに!、という点で当然にも30年代――厳格には33年にナチが政権を奪取する過程で、同じく家族経営者が左右の間で動揺し、最終的にナチ政権に加担していく歴史的体験が蘇ってき、批判の集中砲火が浴びせかけられます。
経済界では、AfDとの「コンタクト禁止」決議があるため、それを破棄、タブーを破ったことになり、いくつかの知名な加入メンバーは団体から脱会することになりました。この流れは、間違いなくまだこれからも続くでしょう。
外国人排斥、人種主義、ナショナリズム、EU離脱―親ロ路線のAfDとドイツ経済が緊急に求められている現在の課題――あらゆる産業分野での外国人労働者・専門家・研究者の必要性、EUの安定、グローバル化と人権擁護――とまったく相反する二つの世界には対立こそあれ、共通点などさらさらないのは一目瞭然です。
にもかからわず、団体議長がなぜAfDを定例会合に招待したのか? 私の関心はここにあります。極右派とファシズムはどこから、どうしてという観点から、いくつかの問題点を指摘してみます。
AfDに対する「防火壁」(Brandmauer)が機能しなくなかった
団体の女性議長(Marie-Christine Ostermann)は、個人的な記憶では12年ほど前でしたかTVの政治討論番組に頻繁に登場し、経済の自由化を訴える論陣を張っていました。当時というのは2010年前後から始まるユーロ危機の時代で、2013年に新自由主義派がEU-ユーロ離脱、Dマルク再導入を掲げAfDを設立した時期です。自由主義経済学者が中心になっていたことから、「ユーロ批判教授の党」と揶揄されていました。彼女は、自由経済という観点からそれに歩調を合わせるような議論を展開していた記憶が残っています。
この時点で既にAfDとの関係をどうするか団体内部で議論が行われ、多数の共通部分のあることが確認されながら、ユーロ離脱に関する一点では共同歩調の取れないことが明らかになったとはいえ、しかし水面下での関係性は継続されていたような報道記事が各新聞紙上、オンラインに散見されます (注)。
その後2015年の難民問題を契機にAfDがラディカル化し極右派に転換していく過程で、団体内部ではAfDとのコンタクト禁止措置が取られてきたといいます。今年の初めにこの決定を同盟議長オスターマンが覆し、10月の定例会合へのAfDの招待につながったというのが、この間の経緯です。
(注)各報道局、新聞紙のオンライン
議長のオスターマンは、自身も創業四代目にあたり、NRW(ノルトライン・ヴェストファーレン州)FDPの会計担当で、ラディカルな経済の自由主義を目的に、気候政策に強固に反対するロビー団体(Friedrich-Hayek-Gesellschaft)のメンバーでもあり、さらにここが決定的な問題になってくると考えられるのですが、CDUの超保守派シンクタンク〈Republik21〉の会員でもあります。前者のロビー団体にはAfDの中心的な国会議員が参加しています。
家族経営団体、ロビー団体、CDU内シンクタンクをつなぐ一本の糸は、極右派AfDに対する従来の隔離戦略、所謂「防火壁」(Brandmauer)が機能しなくなかったという観点から、路線をAfDとの対話を求め、要は、政治の行き詰まりを極右派との連携から突破しようとしていることです。
今回の決定が果たして議長個人によるものか、団体内でどのような議論が行われてきたのかは、はっきりした内部資料が示されていません。それがまた、団体会員メンバーが脱会していく重要な一つの要因とも指摘されています。
経済界で強まる極右派傾向
政治レベルと同時に、こうした経済界での極右派傾向は、以前に少し触れたように、一例として自動車産業組合内に極右派の労働組合が組織されてきていることと併せて、注目していく必要があると思われます。
それと同時に、経済界・経営団体自体のAfDとの接触が陰に且つかなり根深く形成されてきていることです。この点に関しては、今回のスキャンダルを契機に表面化されてきたといっていいでしょう(注)。」
(注)Der Spiegel Nr.47|14.11.2025 In der Krise mit Merz
Der Spiegel Nr.49|28.11.2025 Loecher in der Brandmauer
「家族経営団体」とは
次の問題は、「家族経営団体」の歴史に関してです。現在の団体が結成されたのは1949年で、自称6500の家族経営者が参加しているといわれます。新聞紙の読者投稿欄に、興味深い記事が見られるので、以下要約してみます(注)。
投稿者(Hermann Roth, Frankfurt)によれば、1945年以前に設立された家族経営者1250の経営史に関する調査が行われ、その内8%がNS時代との学術的に裏図けられた歴史的な総括を行っただけで、残りの98%は、今日まで十分な検証が行われていないか、あるいは全く無反省にNS時代とのかかわりに取り組んでいないといいます。
(注)Frankfurter Rundschau Samstag,29.November 2025
戦後ドイツの民主化に向けた共通確認は、ナチ時代の誤りを二度と繰り返さないために「過去を克服」し、「歴史を記憶にとどめよう!」でした。政治面からのアピールでは確かにそうといえますが、しかし経済面から見れば、戦後の国家再建過程で、実際には〈過去が忘れられ、忘れようとされ〉、〈目をつぶってきた〉歴史の歪が現在噴き出してきた一例を示しているのではないかと考えられるのです。
各報道機関、新聞紙の記事を読みながら、この点に言及している記事が皆無であったことに先行きへの不安が持たれます。
もう一点、投稿者によれば、2024年6月22日、上記した急進自由主義派ロビー団体は、アルゼンチン大統領(Javier Milei)を「善の枢軸」(元米大統領ブッシュの「悪の枢軸」に対抗して-筆者注)と顕彰し、メダルを贈呈したといいます。
家族経営団体議長オスターマンの決定は、以上の経過から単なる個人的な先走りではさらさらなく、政治-経済-ロビー団体を広範に網羅するネットワークからの、積極的な民主派へのカウンター・パンチであったことが窺われます。これが彼らの狙いで、政治社会に荒波を立てなければならないのです。そしてここにこそ謀略・陰謀論の本質があると考えられることです。
轟々たる集中批判、団体会員の脱会を受けて数日後には議長が誤りを認め、謝罪しました。それを真に受け入れられないのは、以上のような諸点に関して何も深い議論がなされていないからです。
保守派、そして自由主義派と極右派
次の問題は、保守派、そして自由主義派と極右派との関連についてです。以上の経過が示しているのは、政治変動の中でそれぞれの政党がどう変化し、どう糾合しながら発展していくのかという点です。
この一例をコロナ禍の議論から自由主義派の動向を振り返ってみなす。
ワクチン接種の是非をめぐる「個人の自由」権です。この観点から接種義務付けに対して医者ぐるみで偽造の診断書を手に入れ――個人的にも何人か知っています――猛然と反対したのが、極右派(謀略論者)及び市民の「自由」を自称するグループのデモでした。この時、保守派-自由主義派-極右派の境界は見定めがつかなくなっていたように思われるのです。
もちろん、議論はそれだけに終わることなく、国家、経済、政治の役割という問題も含まれているのですが、そうしたテーマの根本にあったのが、「個人の自由」権であっただろうと私は考えています。
「個人の自由」が、果たしてどう確保され、保障されていくのか。その時、〈自分の自由〉への選択が、〈他者の自由〉とどのような関係にあるのかという自問でした。これを、論点を変えて他者の自由のないところに自分の自由はないという視点からとらえ返せば連帯の道も開かれ、民主主義的な議論も可能になるだろうという思いでした。こうして私たちは、接種センター勤務に自主志願しました。
同様なことは、難民援助活動にも言えるはずです。
当時も現在も議論は端緒についたばかりで、それ以上には深められてはいないのですが、思いをめぐらせば必ずこの点に戻ってきます。
〈自由〉と〈自由主義〉の違いだと思われます。自由主義は、個人をある一定のシステムに組み込み、それに適さない部分を排除していく理論だとすれば、自由は、個人を相互に結び付け連帯を作り上げ、個々人の開かれた活動――社会活動を保障する理論だといえます。
以上は、コロナ禍そして難民問題での私の個人的な体験にすぎません。
「家族経営団体」の今回のタブー破りの真意がどこに
前置きが長くなりました。では、「家族経営団体」の今回のタブー破りの真意がどこにあったのかという決定的な問題です。保守派、そして自由主義派を取り込んで極右派とつながる戦線の狙いとは何か?
結論から書けば、CDU少数派政権の成立と閣内外からのAfD及び自由主義派-FDPが仮に議席を確保した場合には-による協力という青写真が見えてきます。SPD-緑の党―FDP「信号政権」でまとまりのない国会運営に業を煮やし、CDUに速やかな政策決定を期待した2025年2月の連邦議会選挙でしたが、SPDとの連立で同じく忍耐の限界を知らされ、その結果が今回のタブー破りであったことが鮮明になってきます。
ここまで書けば、2019年チューリンゲン州選挙の記憶が蘇ってきます。この時、「左翼党」首相が過半数を確保できないと見るや、CDUとAfDの首相選協力によってFDP候補が首相に選ばれました。この流れは、途切れることなく形と姿を変え今日まで底辺深く続いてきていることを証明しています。
その例は、以前報じた憲法裁判所(最高裁判所)の裁判官認定選挙についても言えます。この時は、政治内容がさらに明確になっていました。自由で解放された多様な社会(関係)を「過激派左翼」、「共産主義」といい含め徹底的に解体し、歴史過程から一掃し、過去の保守伝統的な社会に逆戻りすることを目的としていました。
ファシスト勢力が、いかに政権に食い込んでくるのか、そして最終的にいかに政権を奪取しようとしているかの、典型的なモデルといえます。
以下に、遅くなったとはいえ、引き続いて2月の選挙結果の意味を整理してみます。
ドイツの議会選挙が終わって、得票結果が確定されるまで約一ヵ月間かかりました。先週、ようやくその最終結果が発表され、各党の得票率は以下の様になります。
CDU/CSU:28,5%、AfD:20,8、SPD:16,4、緑の党:11,6、左翼党:8,8、BSW:4,98、FDP:4,3
得票率の確定公表が遅れたのは、BSWが選挙直後の得票率では4,97%であったところ、その後集計ミスが指摘され、BSWからは全投票の洗い直しを要求し、その訴えが裁判で拒否されるまで時間を費やしたことによりました。一部の選挙区で投票の再チェックが行われ、BSWは0,01%追加することができても、5%には至らず議会進出は実現しませんでした。
この過程を投票数で見れば、選挙直後の約1万4千票から最終的には約9500票が、5%ラインに不足しています。約4000票の集計ミスが発覚されたことを意味します。
BSW党代表サーラ・バーゲンクネヒトの政治目的は、単に東ドイツ地域の州議会だけではなく連邦議会への進出に、ある意味ではそこに政治生命をかけていましたから、何がなんでもその可能性を執拗に追求しました。BSWには昨年行われた東ドイツ地域の3州議会選挙での勢いがあり、<東ドイツの党>ではなく、〈全国党〉を目指していたことから、なおさら最後の0,02%の追加票に期待をかけることになりました。
一部のメディアでは、「(バーゲンクネヒトは―筆者)いつも他人に責任を押し付け、自分を批判して顧みることがない」と書きました。この実情は、東ドイツ地域三州の選挙で明らかにされたところで、今回の連邦議会選挙に向かう過程でBSWの致命的な問題点になることが指摘され、議論もされてきました。
党代表バーゲンクネヒトが、これ以降も引き続き組織を運営していくのか、あるいはこれを機会に組織活動から離れるのか――早い話が投げ出すのか、が議論されていますが、その議論よりもそうした議論が起きてくるというところに、彼女の政治性格と組織の何たるかが一目瞭然となってきます。
BSWの動きに注目されるのは、ただ集計ミスにとどまることなく、BSWが議会進出をはたした場合、2党間連立は不可能になり、3党連立の可否が問われるところから、そこでAfD(と)の政治駆け引きが取りざたされてくるからです。その一例として、難民対策案の審議決議に見られるようなCDUが議会内のAfD賛成票をあてにした国会運営も十分に考えられることです。
以上、BSWとAfDの動向を背後に控えた議会選挙というのが、今回の投票を特徴づけることになるでしょう。
この観点から、選挙結果を以下に検討していきます。
AfDと左翼党の躍進と、他方でのSPDと緑の党の打撃的な敗北の要因
得票から読み取れる諸点。
1. 与党に対する野党の勝利。SPD-緑の党‐FDP「信号政権」が内部倒壊したことによりCDUへの期待票が、選挙事前には32%の支持率を見込まれていましたが、CDU 首相候補メルツの対AfD「防火壁」への不確定な対応に不信感が持たれ、最終的には28%強に終始しました。党内には第一党になったとはいえ、メルツへの信頼は揺るぎ、その後も今日(2025年12月)まで事あるごとに取りざたされることとなります。
2. CDUメルツは、AfD票を保守派に奪回するために極右派の政治方針を意識的に導入しましたが、極右派支持者はコピーよりはオリジナルな選択をすることとなり、特にドイツ東地域では全域で他党を凌ぐことになりました。
CDU党決議では、〈AfDとの組閣、政策協力は絶対拒否する〉と明言されているにもかかわらず、AfDの強い東地域市町村では、CDUは「無視できない」状況から共同の政治行動を組むところがでてきて、その声は強まりこそすれ弱まることはありません。ここが党内議論の論点となり、CDUの超保守派シンクタンク〈Republik21〉が公然と立ち上げられてくる決定的な背景となっています。AfDの勢力増、得票率20%強に応じてCDU内の潮流分岐も明確になってきました。
3. この力関係の中でメルツは、3つの論点を持ちだしてきているように思われます――というのは確定的で一貫した方針が見つけ出されないからです。それはまた党全体の問題であるように思われるのです。(1)連邦レヴェルでは、AfDとの共闘、協力はあり得ない。(2)州レヴェルでは、状況が異なる。州の独自判断による。(3)連邦、州においてはCDUの政策提案にAfDが同意、賛成していて、その逆ではない。
その一例として、CDUの難民規制強化案にAfDが賛成した国会議論に見ることができます。
4. 次のテーマは、BSWと左翼党の動向です。選挙前には、相互に票の奪い合いが起きるのではないかと予測され、特に昨年の州議会選挙でドイツ東地域で盤石の強さを見せつけたBSWが左翼党の票田を食い尽くし、左翼党が消滅していく可能性も出てくるのではないかと語られていました。それに加えて、右派ポピュリスト化しているBSWが、どこまでAfDの票田に食い込んでいくかというのが、もう一つの重要なテーマでした。この点に、唯一の「反ファシズム」勢力を自称するBSWは政治生命をかけていました。
投票結果は、興味深いことにそのいずれも該当しないことを示しています。三つ巴の票の争奪戦は、起きていないのです。では、何が起きているのか? それを次に見ていきます。
5. 選挙の勝利者となる左翼党ですが、8.8%と各調査機関の予想を完全に覆しています。どこが得票源になっているのかを、ARD公共第一放送局の選挙分析に従ってポイントを整理してみます。
★都市部の若い女性票35%で左翼党が断トツです。ここは従来の緑の党の基盤でしたが20%と低迷し、農村部の年配男性票では、逆転現象が起きCDU/CSUが41%と群を抜いています。
★左翼党全体の男女投票比較は、女性11%(前回2011年比6ポイント増)、男性7%。
年齢別で見ればさらに明確で、18-24歳25%(17ポイント増)
★職業別では、左翼党に失業者13%と大きな変動がないことから、他党に飽き足らない従来の棄権者票を投票に動員できたといわれ、新しい票田の開発に成功しています。経済状況悪化を投票理由にした支持率でAfDが39%(20%増)、この点では左翼党には大きな変化がなく、SPD 12%(15%減)で支持率を50%以上も激減させています。
★初めての選挙権取得者の得票率で左翼党27%(19ポイント増)、それに次いでAfD20%(14増)、緑の党10%(13減)となります。
★左翼党への投票動機は社会的公正、環境、東ドイツ問題で、以上の分析と併せて若い年齢層の声を吸収したといわれます。その結果、選挙直後には左翼党の党員数が倍増していきます。
各報道機関によれば、2024年に党員数52,127名であったところ、選挙直前直後の入党が増え110、300名まで倍増し、この傾向はその後も続いていました。平均年齢も、42、2歳まで若返っています。BSWが分裂する以前の左翼党は、東ドイツ地域の年金生活者が組織の中軸になっていましたから、この部分がBSWに残り、若い活動的な年齢層が現在の左翼党に新旧共に結集していることが理解されます。
6. 一方、AfDに見られる特徴は、労働者階級への浸透です。従来、労働者階級といえばSPDの戦略的な組織基盤でした。そこをAfDに侵食され、路頭に迷ってしまっているSPD の姿がみえてきます。SPDが明確な政治、組織方針を出せない原因は、ここにあるといえるでしょう。足場が固まっていないことから、党組織が揺らいでしまっているのです。残るは党の自己保身です。
以下にSPDとAfD の労働者からの得票率を比べてみます。
SPD:12%(前回2021年と比較して14ポイント減) AfD:38%(17ポイント増)
従業員、自営業者、年金者、失業者部門についてもAfDは満遍なく10から20ポイント増となっているのに対して、SPDは10ポイント減で、この傾向が認められるのは、年間移行のグラフを見れば前回2021年の連邦議会選挙を境にして逆転しています。問題は、少なくともこの4年間、対AfD‐極右派「防火壁」を声高に叫ばれながら、なぜ功を奏さないで、逆に燎原の火災に至ろうとしているのかという点です。誰が油を注ぎ、誰が風を吹き込み、誰が拍手をしながら野次馬よろしく見守っているのかを見分けると同時に、出火原因がどこにあるかを究明しなければならないのですが、それがなされてきたかどうかが、今こそ問われているだろうと思われます。
7. 同様の問題は、緑の党についても言えます。2023年秋でしたか、2024年に控えた東地域の州選挙に焦点を合した党大会が開かれ、手薄になっていた東地域の組織化が訴えられますが、東地域の経済・社会状況と党政治との間にはギャップがあり、それをつなげる現実的な方策が見つけられず、掛け声だけに終わっていた印象が残っています。貧困、格差、差別、失業、住居、高齢化、そして医療・介護、そのための社会インフラの欠落、一言でいえば社会資本不足と社会参加への不可能な市民の日常生活に、自然環境、エネルギー転換、人権がどのような意味があるのか。この点で、緑の党は意味を訴えこそすれ、社会の諸条件に規定されながら、二つの要素がどう現実に発展していくのかに関しては、〈語り始め〉はあるが〈最後の結論〉までは考え抜かれていなかったということです。
理屈っぽいことではないのです。個人的な一例を挙げてみます。プーチン・ロシアのウクライナ軍事侵攻を受けて、エネルギー・光熱費が沸騰しました。この時、私たちも屋根上にソーラーを設備する計画を立て、専門家に依頼し可能性を調査してもらったところ、「家が古いので不可能です」と。そこで、ブームになっていた「ヒート・ポンプ」(というのでしょうか)の設置を問い合わせたところ、家が断熱壁になっていないので「意味がない!」とこちらもダメになり、新しいガス・ボイラーに入れ替えました。そんな訳でエネルギー転換に理解を示しながら、いまだにガス利用です。
2024年東地域の州選挙で壊滅的な敗北を喫した緑の党は、党内議論が激化し、特に青年同盟の指導部を筆頭に連邦、州、地方で「新しい左派運動を組織する」と多数の活動的なメンバーが離党していきました。今まで、この部分のその後の具体的な動きは伝わってきていません。
以上が、選挙での一方にあるAfDと左翼党の躍進と、他方でのSPDと緑の党の打撃的な敗北の要因といえるでしょう。
右傾化、家父長・男権主義、ミソジニー強まる今後に求められるもの
…「そうなった時」にはもう遅いのです。その前に…。
新しい社会・政治運動に必要な要素は、しかしここから明らかになってきます。
・ 18歳から24歳、更に35歳までの若い年齢層の政治参加が、絶対的に求められているということです。彼(女)らが高齢者、年金生活者を含めた年金制度及び税制改革にどう取り組むかによって、青年層を犠牲にするといわれる世代間の対立を取り除いていけるはずです。あるいは逆に、高齢者の青年世代への連帯も可能にするはずです。
・ 女性の政治参加です。保守派、極右派の家父長・男権主義的な政治思想には女性差別、女性蔑視が露わになっています。それは歴史的、社会的に取り組まれてきた女性の自主解放闘争、社会と性の多様性に真っ向から反対し、その現実過程を抹殺してしまうことで、行きつく先は「優生思想」の再現です。反対者に対する暴力と抹殺行為の源泉がここにあります。A
fD-極右派を批判しながら、この点に言及されることが、一部の学者から語られているとはいえ、真の危険性にはまだ十分には触れられていないように思われます。
・ 以上を踏まえて、労働者階級と労働組合の将来は、この二つの要素を取り込むことができるのかどうかにかかっているといえるでしょう。若い男女労働者の将来と展望を、生活保障、家族計画、子供教育、不安のない高齢生活の実現におき、そのための彼(女)たちに語れる言葉を見つけださねばならないのです。左翼党に同調するしないかは別にして、選挙戦の勝利を決定しているのはこの点だと思います。
・ 一方で、ファシスト派の輪郭は明らかになりつつあります。保守派の急進主義化による党内対立に自由主義派が結び付き、AfD-極右派を取り込みながら、極右派メディアとシンクタンクのキャンペーンを手引きに少数派政権をも辞さないという構えです。これを明らかにしたのが、「家族経営同盟」による今回のスキャンダルでした。
では、それに対抗できる戦線とは何か? これが今後の議論になっていくだろうと思われます。
・ BSWから出されていた選挙投票の再集計要求は、11月末に国会委員会で拒否され、BSWが引き続き憲法裁判所に提訴したことにより、最終結論はその判断待ちとなりました。連立内の路線対立と併せて、〈少数派政権樹立〉に向けた準備がファシスト勢力の間で進んでいることは間違いないところです。
成立したときには、もう遅いのです。その時、〈ドイツ国籍を有しながら、ドイツ人ではない自分の身柄は?〉と考えてしまうのですが、〈もしかしたら〉ではなく、それが実現しないためには、何をなすべきか、どう考えるべきか、の思いでこれを書きました。
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