比較的穏やかだった年末年始
東チモールの年末年始は、警察が出動する騒ぎが起こったところもありましたが、全般的に穏やかに迎え、そしてすごしたといってよいでしょう。わたしが個人的に最も懸念していた年末年始の騒音問題は、去年・一昨年と比べて深刻さの度合は低減化されたので、まずは比較的穏やかな年末年始だったといえます。しかしながらあくまでも比較において少しマシになったという程度です。不要な大音響の音楽は近所迷惑の何ものでもありません。隣近所にさまざまな人間が暮らしているという想像力の欠如なのか、騒ぐときは騒いでよいという隣近所の合意を得ているのかはわかりません。音楽の大音響の度合が明らかに人間の許容量を超えていることが問題なのですが……。
曇りときどき雨の日が続く首都
首都デリ(ディリ、Dili)の空模様は年末から年始にかけて、そしても現在にいたるまで、曇りときどき雨というはっきりしない日が続いています。おなじ曇りでも薄い白い雲がレースのカーテンのように青空を覆うときは少し弱めの陽がさします。このときは気温があまり上昇しない晴れの日という感じの良さを覚えます。空が雲にしっかり覆われる本格的な曇りのときは不思議なもので気分もつられて曇りがちになり、かといってまったくの晴天となると暑すぎて体調維持が難しくなります。“レースのカーテン”が青空を覆うときがわたしにとってちょうどいい天気です。
首都の道路拡張工事にとって、曇りときどき雨の天気は天の恵みといってよいでしょう。首都ではまだ大雨の災害にみまわれていませんが、地方での大雨による被害は報じられています。大雨による被害は今回の雨季でまだ首都では発生していません。首都の道路拡張工事は年末年始のあいだ大型重機が路上に登場しなくなり、人の手による工事だけ続けられていました。1月5日の週の後半から、大型重機が路上の工事現場に再登場するようになり、本格工事の再開です。大型重機が路上に現れると歩く者にとってどうなるかというと、大型重機、深くえぐられたままの状態になっている路肩、路上駐車する多数の車両、そして道路を走る車・バイク、これら“四者”に挟まれれて危険極まりない場所を歩かなければならないということになるのです。そして障害物を避けたり乗り越えたりする体力を要することになるのです。危険なのはもし大雨が降れば路肩が緩んで崩れることで重大事故が起きるかもしれないという地点があることです。いまのところ事故が起こっていないのは幸運の何ものでもないといえるほど荒っぽい工事が続いています。
……とかなんとか書いていると、1月10日の午後4時40分ごろ、「吹けよ風、呼べよ嵐」よろしく、強風が吹き荒れ雨が激しく降り出しました。強風と豪雨が1時間ほど続き、その後、小雨が降り続きました。激しい雨は少なくともわたしが滞在するベコラ地区では今年初めてのことです。この激しい雨が降る40~50分前にわたしはベコラの大通りを、先述の“四者”に苦慮して歩いていました。もしそのとき強い雨に降られていたら、相当に危険な目にあっていたであろうと想像に難くありません。重機が絡んだ事故に巻き込まれるのは真っ平御免です。
その後、オンラインカジノ問題は?
シャナナ=グズマン首相は、2025年11月に2026年度国家予算案が国会を通過そして発布されたのち、インドネシアのジョグジャカルタへ12月6日に移動し、12月8日~10日、インドネシアとの領海画定交渉に臨みました(*)。その前にシャナナ首相は、今や違法となったオンラインカジノを秘密裏に行っている疑いのある首都デリの「グランド ドラゴン宝くじ」という店・事務所への警察によるガサ入れの陣頭指揮をとりました。警察は3人の容疑者を拘束しました。オンラインカジノは許さんぞというシャナナ首相による強い意思表示です。
しかしシャナナ首相は年末に、オンラインカジノの拠点になりかねなかったRAEOA(ラエオア、Região Especial de Oe-Cusse/Ambeno=オイクシ/アンベノ特別地域、 以下、オイクシ地方)に行ったとき、国境画定交渉の焦点となっている村の住民との交流をしただけで、アジオ=ペレイラ内閣長官がおこなったいわば公な“内部告発”の内容にかんする調査には陣頭指揮をとらなかったようです。ネルソン=デ=カルバリョ検事総長は12月19日、RAEOAや「グランド ドラゴン宝くじ」などでのオンラインカジノについて調査を継続していると述べているものの(『タトリ』、2025年12月19日)、「国際犯罪組織」や「われわれの国の魂を売ろうとする者たち 」(東チモールだより 第546号)などという重大な事案についてシャナナ首相が何も言及しないのは不自然でなりません。「グランド ドラゴン宝くじ」へのガサ入れの陣頭指揮はたんなる演出で、「悪い奴ほどよく眠る」なのでしょうか。
(*)東チモールとインドネシアとの国境画定は2005年に暫定協定がされたのち、陸地国境画定はほぼ完了しているが、まだ一部明確にされていない箇所がある。現在その箇所を含め領海の境界を定める交渉が重ねられている。次回の交渉は2026年4月に行われる予定。東チモール側は、かつてチモール島を分割したオランダとポルトガルが定めた境界を踏襲するという立場をとっているが、オランダとポルトガルが境界条約を締結した当時(1904年)と現在では自然環境が変化していることから異なった解釈が可能になるという事態になっている(『タトリ』、2025年12月1日)。
パイプラインの行方は?
去年2025年は、「グレーターサンライズ」ガス田からひかれるパイプラインについてまったく展開・進展のない一年でした。明けて2026年は果たしてどうなるのでしょうか。
今年1月9日、オーストラリアから「グレーターサンライズ」ガス田開発事業の特使と称される人物が東チモールを訪れ、シャナナ首相・アジオ=ペレイラ内閣長官・モンテイロ石油鉱山資源大臣、そしてラモス=オルタ大統領などの要人と会っています。当然、パイプライン交渉の進捗状況について何かしらの発表・発言があるかとおもいきや、それらしきものはありませんでした。二国間の協力態勢を確認した、パイプラインの重要性が協議された、という程度のことしか政府から発表はありませんでした。この特使はなにしに東チモールに来たのでしょうか?
2024年の11月~12月では2025年1月にパイプライン交渉に決着がつくような雰囲気を漂わせていたシャナナ首相でしたが、それから丸一年経過して、この話題は意図的に表舞台からはずされている様相を呈しています。オーストラリアのアルバニージ首相が東チモールを訪問(1月28日)することが発表されても、パイプライン交渉について期待をもたせる言及がほとんどありません。勇ましい楽観主義がすっかり影をひそめたことは腑に落ちません。
首相の手のひらの大統領
2025年は 強制立ち退き問題で批判の矢面に立たされているSEATOU(地名都市計画庁)による情け容赦ない家の取り壊しで始まった年でしたが(東チモールだより 第526号)、これを象徴するかのように年末もSEATOUの話題が持ち上がりました。12月17日、大統領がクリスマス行事用に開放した大統領府敷地にあった屋台をSEATOUが無慈悲にも壊したのです。同じ場所で11月28日の「独立宣言の日」を記念する同じような行事があったときは、SEATOUはやって来ませんでした。この違いは連絡不足・誤解があったからといわれています。ラモス=オルタ大統領はSEATOUを批判し、SEATOUは釈明に追われました。
ラモス=オルタ大統領は、SEATOUの行動は横暴であると批判し、シャナナ首相はSEATOUの仕事ぶりを見るべきであると述べます(『チモールポスト』、2025年12月22日)。しかしこの批判はこっけいです。なぜか。首都のさまざまな場所で長期間にわたって発生しているSEATOUの仕事ぶりを大統領は継続的に批判し制止しようとしないで、たまたま視界に入る大統領府で起こったときに文句をいうのですから。そしてそもそもSEATOUはシャナナ首相の指揮下にある政府機関なのですからシャナナ首相を批判しないのは茶番です。SEATOUのゲルマノ=サンタ=ブリテス長官自身も、SEATOUは現政権の第九次立憲政府によって公共の空間をすべての人々に自由に利用してもらうために組織された政府機関であり、大統領府で起こったことはデリ地方自治体のいたるところで起こっていることだ、と“釈明”しています(『タトリ』、2025年12月24日)。
すわちSEATOUの横暴さを批判するならば、第九次立憲政府を率いるシャナナ首相を批判しなければ筋が通りません。大統領府での行事の屋台が壊されるという出来事が起こったから文句をいうだけでは、大統領という地位が泣きます。ラモス=オルタ大統領はシャナナ首相を決して批判しません。首相を批判しないでSEATOUを批判することで、大統領は首相の提灯持ちであることを改めて露呈したといえます。
シャナナ政権はちょっと立ち止まるべき
今年2026年の優先事項の一つに最高裁判所の設置があります。現在は控訴裁判所が最高裁判所の役割を果たしています。最高裁判所の設置に向けて具体的な作業がすでに始まっていますが、去年、控訴裁判所長の大統領による任命が憲法違反(東チモールだより第541号) であるという非難・批判はまだ収まっていません。この状態で最高裁設置に邁進することが司法制度の改革になるのか、大いに疑問です。
そして大統領制の導入も去年末から具体的な話題として登場してきました。東チモールは現在、準(セミ)大統領制です。大統領制の導入となると憲法改正が必要になります。憲法改正の検討セミナーが年末に開かれました。大統領制導入はこの国の仕組みを変えます。そして憲法改正には野党を含めて幅広い分野を巻き込んだ論議と検討の作業が必須となります。
これら二つは、去年、2026年度国家予算が国会を通過し発布されてから浮上した案件で、今年の話題の中心になることでしょう。これら重要事項を大鉈をふるい続けるシャナナ首相は息を切らすことなく敢行できるでしょうか。
公共の土地だからと不法に居留する家族を力で追い出して進める都市整備、影響を受ける住民との話し合いが不十分なままに強引に進められる道路拡張工事、これらのうえに出来上がったモノは成果として評価されるかもしれませんが、内実は強権政治の“賜物”です。ASEAN(東南アジア諸国連合)への正式加盟に代表されるように順調な政権運営をしているようにみえても、シャナナ政権によって摩擦・軋みが社会に蓄積されています。シャナナ首相は第九次立憲政府に過度な前のめりの姿勢をとらせています。これは危険です。
第九次立憲政府はいま任期5年の折り返し地点にいます。シャナナ首相はちょっと立ち止まって大鉈を手から離し、前半を野党指導者とともに振り返ることが必要であるとわたしはおもいます。対立する者同士の対話を重視し包括していくのが東チモール解放闘争のスタイルであったし、それが東チモールらしさというものです。
第549号(2026年1月13日)
〈出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net//
[Opinion14619:260113]












