トランプ政権のトリセツ(上)

不動産業者トランプとの付き合い方

第一次政権から、トランプ政治はトランプがその「原因(cause)」ではなく「結果(consequence)」なのだとアメリカの多くの識者が指摘してきた。consequenceは「さまざまな出来事の積み重ねが生み出した状況」というニュアンスがある。具体的にはアメリカ経済における工業の衰退と情報・金融産業へのシフトから、分厚い中間層が解体され、一部の極端な富裕層と多くの貧困層に国民が分断され、社会のあり様を冷静に判断できる層が失われ、貧困層に根を張ったポピュリズム的環境がトランプ政権を産んだとされる。

権力の座に据えられたこの危うい人物によって政治と社会が大きな影響を受けることになる。トランプによって、この1年、世界中が振り回されてきた。しかしトランプという人物の来歴から考えれば、彼の言動は意外と理解しやすいのではないか。トランプ政権に歯止めをかけ、世界の安定を取り戻すためには、国際社会とりわけ自由主義諸国が結束すること、そして中間選挙を控えるアメリカ国民たちがトランプ政権に対して厳しい判断をしてくれることに期待するしかない。その前にトランプとは何者かを理解しておきたい。

病人トランプ
まずトランプが深刻な病気を抱えている可能性が高いことを確認したい。彼は選挙運動中から就任後も、自分の健康状態が完璧であることを、不自然なほど繰り返し強調してきた。バイデンを老人呼ばわりしてきたものの、自身も在任中にアメリカ史上最高齢の大統領になるから、その批判を封じたいのであろうが、それはまた自身の健康不安の裏返しでもあったと思われる。

第一期の段階から、アメリカ国内の多くの精神科医は、トランプについて、自己偏愛など性格的な極端な偏りと認知症の兆候を指摘し、大統領職の適性を疑問視していた。(Bandy X. Lee、”Profile of a Nation: Trump’s Mind, America’s Soul” 2020など)。彼の父親は認知症が進行して亡くなり、兄はアルコール依存症で亡くなっている。本人もこの2つの病気には非常に敏感で、公式晩餐会なども含めてアルコールは一切口にしない。しかし、ハンバーガーが大好きで、ダイエットコークをがぶ飲みするような食生活から肥満は避けられず、何らかの疾患を抱えているはずである。しかし歴代大統領が公表してきた診断のデータは示さず、主治医の名前で大統領は健康体であるとする「診断結果」を発表しているだけである。

二期目に入って彼の健康状態について大きな関心を集めたのは、昨年秋、足首の異様な腫れと右手甲の大きな黒ずんだ痣の画像がマスコミやネットで広く知られた時だった。報道官は足首の状態は、高齢者にありがちな下肢静脈不全による浮腫みであり、健康上は全く問題ないと回答し、手の痣は握手の回数が極端に多かったためだとした。トランプはその後、記者たちの前でデスクに座っている際は、必ず右手の甲を左手で覆ったり机の下に置いたりして隠すようにしている。

その後、さらに左手の甲にも注射針の痕が映る画像が流れた。一般的に肥満体の患者では腕の静脈は見つけにくいので、手の甲の静脈を利用して点滴を打つという。一部の医療関係者からは、認知症の進行を遅らせる薬剤の点滴が定期的に行われているのではないかとの疑問も呈されている。

またトランプは、ことあるごとに自分は完璧な健康状態だと、医師たちが太鼓判を押していると主張しているが、ある機会に記者からの質問があったわけでもないのに、自らMRI検査を受けたと発言した。検査結果について、これほどの健康体を見たことがないとまで医師が言っていた、とも強調した。しかしMRI検査は、常識的にいって何らかの病気が疑われる患者に対して精密検査として実施するものであって、通常の健康診断程度で行うようなものではないから、医師たちは何らかの病気の進行状態を確認したかったのではないかと推測されている。その他にも、会議中に居眠りする様子の映像が流れたり、集会での演説がとりとめのないものになったり、彼の体調や精神状態については不安が尽きない。

不動産業者トランプ
ケネディ以降の歴代大統領12名について前歴を確認しておこう。7名が連邦議会議員(6名は上院)、州知事が4名である。連邦議会議員にとっては、社会のあり様をコントロールするために立法活動するのが自分たちの仕事であり、州知事を経て大統領になった者にとって憲法や法律は、行政という仕事の基本的ガイドラインである。彼らは立法や行政の世界で経験を積み、それぞれの世界の常識を身につけたうえで大統領になっている。

トランプのキャリアは、不動産業界のみである。しかも4回(数え方によっては6回)、自分の会社を倒産させている。その都度、個人資産を殖やしてきたといわれる。トランプは不動産ビジネスで天才的な能力を発揮して巨大な富を築いてきた、というのが本人の自己評価であり、バイデン政権でどん底に落ちたアメリカ経済を回復させることができるのは自分だけだ、というのが彼の売りであった。しかし、実際のところは質の悪い不動産業者というところだろう。

悪質な不動産業者にとって法律とは、グレーゾーンを利用して自分の利益を最大限にする、あるいはその穴を探して利用者を騙してでも利益を出すためにのみ存在する。さらには明らかに違法であるが、相手が簡単には気づかないような数字を誤魔化して利益を上げる。トランプは数多くの訴訟を抱えるが、そのいくつかは自己資産を不当に過大評価して不正に資金を得ていたというものである。

つまりトランプがアメリカ大統領だと思うから、人々は戸惑うのであって、不動産業者が大統領になって、自分の資産を増やすためにホワイトハウスを拠点にしてビジネスを展開としていると考えれば、彼の「仕事振り」は理解可能である。例えば彼の最初の外遊先はサウジアラビアであった。近年の大統領の最初の外遊先は、父ブッシュはカナダ、子ブッシュメキシコ、クリントンとオバマはカナダ、バイデンはイギリスであった。このうちのいくつかは国際会議の準備などを兼ねていた。

トランプがサウジアラビアを最初の訪問国に選んだのが異例であり、その理由が彼と彼の親族の資産を増やす以外には考えにくいのだった。この時、トランプは息子を同行させており、サウジアラビアでのホテル建設などの話もまとめているという。彼の粗野で粗暴な言動も、彼が不動産業者だと思えば不思議ではない。彼は徹頭徹尾、不動産業者なのだ。

トランプは今年に入ってアメリカが獲得したベネズエラ原油の売却代金は、アメリカとベネズエラのために使われると主張した。しかし、民主党議員などの調査によれば、アメリカ側の収入になるべき790億円の資金が、なぜか連邦政府の国庫に送られず、カタールの金融機関に送金されていて、その不明朗な動きが問題視されている。トランプのやることは、一事が万事、不動産ビジネスで得た手法なのだ。

トランプはデンマーク領グリーンランドを領有(acquire)したいと言い出した。理由は島の周りを多くのロシアや中国の船が周回していて防衛上問題だというのである。しかしデンマークはNATO加盟国である。グリーンランドの防衛体制に問題があるというのであれば、NATOの会議で対応策を議論すればいいことである。そんな理屈も通じないということは、グリーンランドの不動産としての価値=鉱産資源を目当てにしているとしか理解できない。「領土獲得」に拘り、軍事力の行使さえ匂わせているが、万一、ヨーロッパ諸国の軍とアメリカ軍が交戦する事態になれば、NATOは完全に終了する。

トランプはグリーンランドの住民たちに1万ドル以上の現金を給付しようとも言い出している。これは日本の不動産バブルのころに各地で発生した「地上げ」に似たビジネスだろう。狙った不動産に借地権や居住権を持つ人たちがいれば、彼らに現金を握らせて退去させ、強引に所有者に手放させるというやり口である。

このようなトランプ政権に対して日本がどのように対するべきか。NATOの解体さえ意に介しないトランプ政権にとって、日米安保など、はるかに軽いものだろうと考えたら、日米安保命と思い込んできた日本の政治家や外務官僚たちにとっては、夜も眠れない事態のはずである。日本の問題は次稿で論じたい。

「リベラル21」2026.01.26より許可を得て転載
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