二十一世紀ノーベル文学賞作品を読む(21-下)

トーマス・トランストロンメル(スウェーデン。1931~2015)の人となり

著書『悲しみのゴンドラ』(思潮社:刊)の巻末には「略歴」としてこう記される。
――1931年ストックホルム生まれ。スウェーデン詩人。心理学者、ピアノ演奏にも優れる。十代よりその優れた詩才で注目を集め、『十七の詩篇』(1954年)によるデビュー以来、スウェーデンの叙情詩表現に驚異的な革新をもたらした。現在、北欧の代表的詩人とされる。心理学者としての実務も並行してきた。

これまでの著作刊行は、『十七の詩篇』(1954)、『途上の秘密』(1958)、『未完成の天』(1962)、『響きと軌跡』(1966)、『闇の視界』(1970)、『小径』(1973)、『バルチック海』(1974)、『真実のとりで』(1978)、『野生の広場』(1983)、『生者と死者のために』(1989)、『記憶がわたしを見る』(回想記、1993)、『悲しみのゴンドラ』(1996)の12冊で、比較的寡作だが、その翻訳は既に45カ国を超え、内外に傾倒する読者を持つ。

学位論文のテーマ、文芸誌のテーマ・ナンバー刊行など詩質研究対象としての扱いも多い。氏が受けてきた数多の文学賞のうち近来のものとして、パイロット賞(1988,日本)、
北欧協議機関賞(1990)、オクラホマ大学ノイスタッド賞(1990,米)、スウェーデン・アカデミー賞(1991)、ホルスト・ビエネク賞(1992,独)、などが挙げられる。

1990年秋、重い脳卒中がこの詩人の右半身の自由と言葉を奪ったが、六年後、その沈黙の境界から、病詩人の心象風景を描いた新作品が送られてきて、湧き上がる喜びとの称賛を受けた。1996年刊行の詩集『悲しみのゴンドラ』である。
詩人の渾身の詩作は、短詩形への凝縮を見せながら彫りを深めて続き、詩集刊行は『収監所』(2001)、『大いなる謎』(2004)、『若き日の詩』(2006)を加え、現在15冊を数える。

卒業した高校時代から六十年来の友人という文学者クリステル・デューク氏は言う。「『TT』の愛称を持つトーマスはモダニストの詩人だが、普通の市民や外国人が読んでも理解できる詩を書いてきた。日常的な題材に始まり、突然、詩的な魔法によって全く別なイメージに変容する。読者を人生の呪縛から解き放つ。国民的詩人と呼ばれるのは、子供の洗礼から結婚式、誕生日、葬式まで、日常生活の様々な場面でいつも彼の詩が読まれているからだろう。この詩人の目くるめくメタファー(隠喩)は「トランストロンメルの絵」として広く知られる。
異なった要素を持つ言葉を結び併せ、簡素な日常語に最大の機能を与えて描き出すこの絵は、読む者の心に深い共感を呼び起こし、その痛みを慰める。この稀有な資質には北欧の情感が濃い。ストックホルムよりバルチック海に至る水路に浮かぶ母方の家の島での自然との接触が、その起原であろうか。氏はその作品の中でも、憩いのためにも、しばしばこの多島海に回帰する。

「リベラル21」2026.02.17より許可を得て転載
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