トランプ政権のトリセツ(中)

世界の疫病神になったトランプ

トランプに刃物
ついにトランプ政権は大規模な軍事行動に出た。イスラエルとともに始めたイラン攻撃である。アメリカにとってのメリットは皆無である。動機として考えられるのは、トランプ氏の個人的なものと、トランプ氏がイスラエルのネタニヤフ政権に利用されたことである。イスラエルにとってイランは、中東世界において常に最も敵対的な大国であり、少しでもその勢力を削いでおくことは自国の安全に繋がる。またトランプ氏個人の動機としては、後述のエプスタイン問題で追い詰められていたことと、自身の病的性格である。

第一期の就任後トランプ氏は、憲法上は最高指揮官である自身が米軍を思うようには指揮できないことに不満を漏らしていたという。たしかに憲法上、宣戦布告の権限は議会にあるし、軍幹部たちは自分の部下である軍人・兵士を危険に晒す軍事行動に対して抑制的である。病的な全能感に浸るトランプ氏は、派手な軍事作戦を一度は指揮したかったのだろう。

第二期就任の際、ピート・ヘグセスという、政治にも軍事にも全くの素人である人物を国防長官に任命し、また国防省を戦争省に名称変更((議会は未承認))したことは、その条件を整えるためだったと考えられる。ヘグセスはトランプ氏をヨイショすることで知られるテレビ局のインタビューアーで、軍歴がないこと、酒癖の悪さなどの不品行で知られ、議会の承認も危ぶまれていた。今回の大規模な軍事作戦は、第二期就任直後からトランプ氏が任期中に一度は試したかったものだったのではないか。トランプ氏という病的な人物が世界最強の軍隊((刃物))を振り回す環境ができてしまっていたのである。

病気は進行中
一部の精神病理学者の見立てでは、トランプ氏の認知症は、記憶障害が主な症状であるアルツハイマー型ではなく、前頭側頭型認知症であるとされる。その主な障害は、人格変化、衝動的な行動、規則の無視、意味不明な行動、さらに言語障害などとされる。これらの障害から誇大妄想の症状を示すこともあるとされる。その症状は、最近の集会での演説や記者会見などで見られる言動から窺うことができる。

誇大妄想症の患者は、その全能感から巨大な建造物を建てたり、目立つ施設などに自分の名を冠したりすることを好むといわれる。トランプ氏は、すでに議会に無断でホワイトハウス東棟を取り壊し、巨大な宴会場の建設を進めようとしている。中央の建物と肩を並べるような大きな建築物が予定されており、民主党議員などを中心に議会からも懸念の声が上がっている。また市内に建国250周年記念として、巨大なアーチ建設も予定されている。「トランプ・アーチ」と呼ばれることになる高さ76mの凱旋門である。連邦議事堂の高さが88mだから、いかに巨大な建造物が予定されているか分かるだろう。

さらには暗殺された大統領の名前を冠して1971年に開設されたアメリカを代表する文化公演施設であるケネディセンターは、トランプ氏が第二期就任後に自身が理事長になり、多くの支持者を理事に任命したうえで、センターの名称に「ドナルド・トランプ」を加えることを決定した。すでに壁面には彼の名前が掲げられている。しかし名称変更後、公演を予定していた多くのアーティストたちが公演をキャンセルし、開店休業状態となった。トランプ氏は、大規模な修復が必要だとして「最低でも2年間の閉鎖」を決定してしまった。

この他にも、ワシントン郊外のダレス国際空港とニューヨークの鉄道駅であるペンシルバニア駅を、それぞれトランプ空港、トランプ駅への名称変更を要求している。ここまでくると、その異常性は誰の目にも明らかであるが、コアのトランプ支持者の間では、彼は英雄視されているため、一定の支持率は維持される。しかし、そのコアの支持層の間にもエプスタイン問題を巡っては動揺が広がっている。

エプスタイン問題とトランプ氏
トランプ氏はエプスタイン問題を大統領選において最大限に利用した。MAGAと呼ばれるトランプ氏を熱烈に支持する人々の間では、ワシントンの政府は表の顔で、裏にはディープステート=闇の政府組織があり、民主党の幹部や政府高官や大富豪などが小児性愛を共通の趣味として繋がっている、という陰謀論が真剣に信じられていた。そのネットワークの核にジェフリー・エプスタインという男がいたという話になっていた。

エプスタインは1980年代以降、経済破綻した東欧からの難民などの女性((少女))らを人身売買によって確保し、性的な嗜虐趣味をもつ政財界の有力者たちにその機会を提供してきたといわれる。トランプ氏もエプスタインと一緒の写真や動画など親密な関係を示す多くの資料が知られており、本人もある時期に親交があったことは認めている。

エプスタインは2009年、14歳の女性が性被害を訴えたことによって逮捕され懲役刑が言い渡されている。その後、刑期を不自然な形で短期間に終えて出所し、再び、愛人のマクスウェルの協力を得ながら、政財界の大物たちを相手にニューヨーク、カリブ海に浮かぶ私有地の島、ニューメキシコ州にあったゾロ牧場などで性的接待をしていたとされる。

その後、エプスタインは19年に人身売買と性的暴行などの容疑で改めて逮捕され起訴されたが、収容先のニューヨークの拘置所内で自殺したとされている((他殺説もあり))。この間、逮捕、訴訟のために収集された資料は、600万ページともいわれる文書のほか多数の画像、音声などからなっていた。トランプ氏は選挙中、当選した暁には、これらの資料を全面公開し闇の政府を炙り出すと繰り返していた。

しかしトランプ氏は、当選後、「あの話は民主党がでっち上げたガセネタである。いつまでそんな話をしているのだ」として否定的になる。担当の司法長官パム・ボンディ((21年1月6日の議会襲撃事件で弾劾裁判にかけらえたトランプ氏の弁護を務めた))も6月にはエプスタイン問題は終わったと資料の公開を否定した。

これに対し、最も熱心なトランプ氏支持者として知られていたマージョリー・テイラー・グリーン下院議員は議員辞職して抗議するなど、共和党議員の間からも批判の声が上がるようになった。昨年12月には、上院の共和党議員と民主党議員が共同で資料の公開を命ずる法案を提出し可決された。順次公開されることになった文書には「被害者が特定されることを避けるため」として相当部分の黒塗りが行われ、さらに300万ページが公開された時点で、公開を終了するとした。トランプ氏に都合の悪い資料を隠蔽するためではないかという批判が続いており、公開の追加が要求されている。

トランプ氏は、エプスタインとは20年前に絶交したと主張しているが、その後も両者の会食の打ち合わせと思われるメールなども確認され、トランプ氏は文書中に最も多く出てくる1人だとされる。最近では13歳の時にトランプ氏に性的虐待をされたという女性の調書があるはずであるが、公開文書のなかには見つからないという指摘もされている((3月5日に公開された))。またゾロ牧場の敷地には虐待された挙句に死亡した2人の若い女性の死体が埋まっているという証言もでて、地元の検察官が調査に乗り出すなど、このスキャンダルは出口の見えない事態になっている。

トランプ政権の行方と日本
イラン戦争の見通しも出口が見えない。そもそも目的も目標も曖昧なまま始めているから、トランプ政権としては、いつでも「目的完遂、勝利」と宣言して終了できる。しかし、イランは旧ペルシャであり、イラクやシリアとは違う大国である。アメリカにとってもベネズエラのような「裏庭」と異なり、この地域の兵站を長期間にわたって維持する負担は大きい。またイランの宗教指導者はシーア派の指導者でもあるから、仮にイランに親米政権が成立したとしても、地域の安定化が保証されるわけではない。

早晩、戦争の拡大によって多くの米軍兵士から死傷者が出る、戦費がかさんで政府赤字が膨れ上がるなどの深刻な問題が表面化するだろう。イスラエルは米軍を巻き込んで戦果を享受するだろうが、トランプのアメリカは疲弊するだけである。アメリカ国内での政権評価は下がる一方となろう。

またエプスタイン問題は、鎮火の見通しの立たない山火事のようなもので、新しい情報が出てくるたびに、大きな炎が上がり、政権を苦しめることになる。議会の要求の矢面に立つのはパム・ボンディ司法長官であるが、役者としては三流以下で議会証言を求められる度に火に油を注ぐような事態となっている。

今年の11月に行われる中間選挙で下院は民主党が多数を占めることが予想され、上院も微妙な情勢である。選挙結果の如何にかかわらず、アメリカ政界は28年の大統領選挙に向けて一斉に動き出す。トランプ党になってしまったといわれる共和党内もトランプ氏との距離を取るものが増え、トランプ氏の政治力は急速に衰える.日本政府としてもそろそろトランプの顔色を窺うのをやめて、民主党の大統領候補などとも接触を増やし、アメリカ政治の情勢変化に対応できる体勢を取るべきであろう。

初出:「リベラル21」2026.03.12より許可を得て転送
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