ラムズフェルド米国防長官(2003年当時)が普天間飛行場を空から視察、「世界一危険な飛行場」と驚いてから8年。――移設交渉のメドは全く立たず、混迷は深まるばかりだ。2011年9月の日米首脳会談でオバマ米大統領から「早期決着」を要請され、野田佳彦政権の動きがにわかに慌しくなってきた。
パネッタ米国防長官も10月末来日し、野田首相らと相次ぎ会談、日本政府に強い要請を繰り返した。一川保夫防衛相との会談では、防衛相が「普天間飛行場(宜野湾市)を辺野古(名護市)に移設するとの日米合意に向けて、海面埋め立てなどに必要なアセスメント(環境影響評価)の評価書を年内に沖縄県に提出する」と説明、パネッタ長官の同意を求めた。この日米防衛相会談に先立って、一川防衛相は10月17日、仲井真弘多・沖縄県知事を訪ねて、同趣旨の「評価書」提出を要請。これに対して知事は改めて「県外移設」を主張して譲らず、歩み寄りはいぜん見られなかった。辺野古沖埋め立ての許認可権限は知事にあり、実現の道は極めて厳しい。
米側圧力に翻弄される日本政府
民主党政権誕生から2年余。防衛相ら関係閣僚が沖縄を訪問したのは18回。鳩山由紀夫首相(当時)が2回、菅直人首相(同)も3回足を運んでいるが、いずれも「最低でも県外」の約束を反故にしたお詫びの繰り返しで、今回の一川防衛相も同じパターンだ。野田首相も10月27日と28日、上京した仲井真知事と会談、新たな沖縄振興策などにも触れて、知事に柔軟な対応を求めた。
野田政権が年内のアセス提出にこだわるのは、米政府の事情を忖度したためと見られる。普天間移設と連動している海兵隊の一部グアム移転に関する米議会・予算審議は年末が大詰め。普天間移設のメドが立たなければ、移転費が認められない雲行きという。
「パネッタ米国防長官来日の前にアセス評価書提出を明確にしておけば『移転に向けて必要な手続きをやっている』(外務省幹部)として、米側への説明もできるというわけだ」と、朝日新聞10・18朝刊が指摘。読売新聞同日朝刊は「防衛省幹部は沖縄がアセスを受け入れる公算は五分五分と見ているが、『政府方針を押しつければ、沖縄全体に反基地運動が起こりかねない』(外務省幹部)と懸念する声もあり、今回の政府の対応は危うさもはらんでいる」と述べており、他紙も同様な見方を示していた。
「米軍再編見直し」の政権公約に立ち返れ
「防衛相は、日米合意の進展を促す米国の声に唯々諾々として従い、知事に方針を伝えただけだろう。県民から見れば、米政府のご用聞きとしか映らない。基地が極端に集中する沖縄の現実を自身の目で見て、自分の頭で解決策を考えることだ。普天間飛行場を県内に移すのが正しいことなのか。沖縄以外の99・4%の国土に、あるいは国外に移せる場所はないのか。沖縄の民意を冷静に分析すれば、県内移設は不可能だと分かる。できもしない日米合意に固執するのは県民のみならず米国の信頼も失う。政府・民主党は『米軍再編見直し』の政権公約に立ち返り、オバマ米大統領に日米合意の見直しを求めるべきだ」と、琉球新報10・18社説の主張はもっともだ。
沖縄タイムス10・26社説も「鳩山元首相が主張した『少なくとも県外』が失敗し、政権を投げ出した『鳩山トラウマ』が民主党には残っている。米国の虎の尾を踏んだとの思いが強く、菅前首相は何もせず、野田首相は米側の圧力を受け、辺野古移設を進める考えだ。なぜ沖縄か。海兵隊が沖縄でなければならない特段の理由がないというのは、もはや常識である。米軍基地を沖縄に閉じ込めておけばいいという考えはおかしい。思考停止は戦後ずっと続いている。国会議員も国民も対米関係を真正面から問い直す気概を見せてほしい」と指摘している。
辺野古移設案が「絵に描いた餅」に過ぎないことを日米外交当局は先刻承知なのに、ドラスティックな打開策を打ち出さない消極的姿勢は、まさに〝沖縄差別〟そのものではないか。
振り返れば、日米特別行動委員会が「在日米軍再編『最終報告』」を決定したのが2006年5月。米国が国際軍事環境の変化に対応するため「グアムを拠点とした軍事再編」に舵を切ったわけで、その一環として「沖縄海兵隊8千人を14年までに移動させる」との方針を提示したが、米国は一部海兵隊の辺野古移設に固執し続けてきた。09年9月発足した鳩山・民主党政権が「最低でも県外移設」を持ち出したものの、米国の圧力に屈して「辺野古移設」に逆戻り。次の菅政権、野田・現政権も〝新提案〟を練るどころか、米国軍事戦略の意のままに翻弄されているのが、日本外交の悲しい姿である。
米財政難で〝軍事予算削減〟の動き
この間、財政悪化に悩むオバマ米政権が打ち出した「軍事予算大幅削減」の方針が、議会や軍事関係者に重くのしかかってきて、米軍再編論議が高まっている。レビン氏ら米上院軍事委員会幹部ら3人が5月11日に来日、「国防省の再編計画は非現実的で実行不可能。巨額の費用をかけて辺野古に移設するよりも、嘉手納基地への統合を検討すべきだ」との新提案を打ち出したことは、記憶に新しい。菅政権は全く反応を示さずに先送り、野田政権になっても打開策模索の気配すら感じられない。「レビン提案」は〝次善の策〟にすぎないかもしれないが、「普天間飛行場の固定化」を阻止するため、対米折衝の糸口にするのも一案かもしれない。将来的には米軍基地を海外に移転させるべきだが、当面は沖縄県外への分散移転の検討も進め、沖縄県に〝加重負担〟を強いてきた政策に終止符を打たなけれならない。6月21日の日米安全保障協議委員会では、「14年までに辺野古へ移設する目標」を断念。「できるだけ早い時期に」と言わざるを得なくなった手詰まり状況を見せ付けられると、「辺野古案」では解決できないと思える。ところが、野田政権は、米国の顔色を窺うばかりだ。
「外交が野田首相のアキレス腱になりかねない。辺野古移設に日本政府が具体的に着手した瞬間に沖縄全体が〝島ぐるみ闘争〟を展開する。その結果、日本の国家統合が危機に瀕する危険がある」との佐藤優氏の警告(東京新聞9・2朝刊コラム)を真剣に受け止めてもらいたいと思う。
「在沖米海兵隊は米国西海岸に移動を」
最後に、琉球新報が11月7日、注目すべき社説を書いていたので紹介しておきたい。
「日米関係・安全保障論で有数の専門家、マイク・モチヅキ米ジョージワシントン大教授とマイケル・オハンロン米ブルッキングズ研究所上級研究員が、CNNサイトに論文を発表。現下の米国の財政事情、米軍の能力・役割、沖縄の政治・社会情勢を踏まえて合理的に論じており、説得力がある。両氏は、在沖海兵隊員8千人の移転先をグアムではなく米本国の西海岸にすべきだと主張する。戦争時またはその直前に配備すべきだという『有事駐留』に近い。論拠は二つ。一つは沖縄の政治情勢だ。『仲井真知事が埋め立て申請を拒否するのは確実』と述べており、9月訪米での知事の講演が実を結んだ感がある。二つ目は『計画があまりに高額過ぎる』ことだ。米政府監査院(GAO)の見積もりによると、従来計画は最低291億㌦(2兆2756億円)を要する。日米それぞれ1兆円以上もの負担だ。これに対し、両氏の主張通り事前集積船を日本近海に展開する戦略だと、それぞれ3900億円で済む。どちらが合理的か、誰の目にも明らかだろう。そもそも米軍再編は、軍事技術革命(RMA)を踏まえた米軍の合理的な再配置が目的だった。戦費負担に苦しむ米国、震災復興需要を抱える日本と、巨額の財政支出を避けたい事情は両国に共通する。合理的結論に早く目を見開くべきだ」との分析は鋭い。
普天間飛行場を固定化させるな
世界の多極化、二国間軍事同盟見直しをにらんで〝軌道修正〟することは、将来の日米関係にとって好ましい選択と言えよう。「辺野古移設」にこだわることで、結果的に普天間飛行場が継続使用(固定化)される心配が残る今、日米両政府は、沖縄の政治情勢の現実に目をそむけず、日米合意の見直しを含めて真剣に検討すべきである。
初出:(財団法人新聞通信調査会「新聞通信調査会報」2011 年12月号「プレスウォッチング」より許可を得て転載 ――編集部)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/
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