重要政策で一致する中小政党は大異、小異を留保して大同を共通公約に

著者: 醍醐聡 だいごさとし : 東京大学名誉教授
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中小政党には重要政策での一致点がある
ひとつ前の記事で、今回の衆議院総選挙にあたり、「3つどもえ」と称される3党―――民主党、自民党、日本維持の会―――の公約なり政策には、(消費税の地方税化、それと引き換えの地方交付税の廃止を提唱する維新の会と、消費税を国と地方で4:1の割合で配分する現行税制を維持したうえで消費税の増税を実施することにしている民主・自民両党の違いは別にして)大異は見出しにくく、公約の不透明さにおいて共通すると書いた。

これに対し、上記3党以外のいくつかの中小政党の間には、重要政策(再稼働なしの脱原発、TPP参加に反対、消費税増税の阻止)で貴重な一致点がある。これらの一致点は、上記3党とその他の中小政党が掲げる公約とに一線を画する点にもなっている。
また、こうした認識が共有されているためと思われるが、12月3日、日本未来の党と社民党は、原発の運転再開を認めないことを含めて脱原発を目指すこと、消費税増税法の廃止を目指すこと、TPP協定への交渉参加を阻止することなどで合意し、これらの課題を実現するために、今回の衆院選で可能なかぎり双方の候補者を互いに支援するなどの選挙協力を行うことにした。また、この合意を発表した記者会見で日本未来の党の副代表・森ゆうこ氏は「ほかの政党とも、こうした3つの政策で連携できるなら、可能なかぎり連携していきたい」と述べた。

みどりの風も、この11月30日に発表した党の「政策集」によると、再稼働なしの原発ゼロを目指す、国家主権を侵害するTPPへの参加に反対する、消費税増税は凍結する、という点で他の中小政党と重要な一致点がある。

日本共産党は憲法や集団的自衛権をめぐって、日本未来の党との間に重要な政策の違いがあることなどを指摘したうえで、選挙後の国会では、消費税増税阻止、原発ゼロ、TPP阻止、オスプレイ配備反対など、一致する課題があれば、どの政党とも“一点共闘”を行い、政治を前に動かすことを約束するとしている。

みんなの党は、農業を聖域とせずTPP交渉に参加して攻めの開国を目指すとしている点で他の中小政党との間に大異がある。また、エネルギーー政策については、新規の原発設置を禁止、世界標準の新基準に適合しない限り原発の再稼働を認めないを前提に40年廃炉を徹底するとしている。この点では、他の中小政党の政策との異同は一概にいえないが、大同があるといえないことは確かである。
他方、みんなの党は消費税については、増税に先立って、国会議員と国家公務員の定数削減などを提唱している点で他のいくつかの中小政党との間に重要な不一致があるが、消費税増税の凍結を唱えている点では共通項がある。
死票論に立ち向かう一致点での大同を
このように見てくると、主な政策に関して、「三つどもえ」の政党以外の中小政党の間にも大小の不一致があることは確かである。そして、各党は選挙戦を通じて、これらの不一致点についても有権者の前で理性的な論戦が交わす必要がある。

しかし、国民の声がますます政治に届かなくなっているという有権者の不満、怨嗟を直視して、大局的な観点に立つなら、政治への不信を生んだ最大の責任を負う従来の政権与党に対峙すべき中小政党は、小異はもとより、いくつかの大異をめぐって理性的な論戦を交わしながらも、重要政策での最大公約数的な一致点―――再稼働なしの脱原発、消費税増税法の凍結など―――で具体的な連携をすることが強く求められている。以下、私がそう考える理由を記しておきたい。

中小政党も、その他の政党と同様、自らが掲げる政策をベストと確信して選挙に臨むのは言うまでもない。特に中小政党の中には自党の存亡をかけて今回の選挙に臨む党もある。
しかし、選ばれる側のそうした主観はともあれ、有権者の中には、個々の政党が掲げる政策の中身とは別に、自分の1票が目下の国政にどの程生きるのかを強く意識した投票行動を採ると考えられる。各種の世論調査で、「支持政党なし」が一貫して相対多数を占めているのは、政権交代が「政党交代、政策継続」で終わったことに失望しながらも、かといって他の中小政党が国政におよぼす影響力は乏しいと冷めた目で見る「死票意識」の反映と考えられる。
それだけに、中小政党は、こうした死票意識に(多くの死票を生む小選挙区制の害悪に対する批判とは別次元の問題として)どう立ち向かうかを深刻に検討する必要に迫られている、と私は考えるのである。

もちろん、そういう私の考えは、政策の大異を棚上げして、政党なり個々の議員なりの生き残りを至上のこととした合従連衡(野合)を促す趣旨では全くない。私が言いたいのは上記のように多くの国民の希望に沿う重要政策で貴重な一致点がある事実を汲みつくし、それを国政への現実的な影響力として結実させる可能性を有権者の前に具体的な姿、形で示す必要があるということである。
このようにいうと、それぞれの党が独自の政策を掲げれば有権者はそれを判断材料にして投票をするのだから、選挙の結果を受けて個々の政策ごとに連携の協議をすればよい、選挙とはもともとそういうものだ、という意見が返ってくるかも知れない。しかし、私はそうは思わない。

私に言わせると、それでは順序が逆なのである。今、問われているのは、選挙後の連携云々ではなく、今後の日本の政治、外交、経済の行方に重要な影響を及ぼす今回の衆院選における有権者の投票行動を見極めたうえで、選挙の結果をより望ましいものとするための現実的方法である。しかも、その方法とは、個々の中小政党の努力とは別次元の努力―――複数の政党が重要政策をめぐる一致点をばらばらの一致にとどめず、文書化された「共通公約」として有権者の前に提示することである。
そうすることで、「これだけの政党が結束して選挙後の国会で共同行動を取るなら、たとえ政権に参加しなくても、消費税増税の実施を凍結させることができるかもしれない」、「与党内でくすぶる異論とも重なって、TPPへの参加を阻止し、脱原発を確かなものにできるかも知れない」という希望を有権者の間に広げることができるに違いない。中小政党が目指すべきは、有権者、特に支持する政党なしの層に、こうした希望の灯をともすシナジー効果―――1+1は2ではなく、3にも4にもなるという共同の相乗効果―――を汲みつくすことである。

共通公約運動の具体的提案
そのためには、単に政党間で連携を呼びかけ合うにとどめず、次のような行動が必要と思う。
1.上記のような重要政策での一致点を十分すり合わせ、文書化して、各党の党首が出席する記者会見の場で公表し、遵守の誓約を交わす。
2.共通公約に加わった政党の当選議員は、どの政党かを問わず、選挙後の国会では、共通公約の実現のために、法案の共同提出を含め、共同行動を取る。
3.各党間の一致点に付随する不一致点―――たとえば、消費税増税を凍結する間に消費税増税に代わる財源をどう確保するか、原子力に代わるエネルギーを、代替エネルギ-源の確保なり、節電プログラムなりで、どのように確保するのかなど―――について各党の分野ごとの政策責任者が同じテーブルにつき、専門家の協力を得ながら、協議して、その結果を国民の前に示す。

不一致点をめぐる理性的な対話が一致点を固め、広げる
翻って、ここまで書いてきたことを広げていうと、最近、不一致点を留保しながら一致点を大切にするという通用語にいささか抵抗を感じている。そう思うのは、左記の通用語とは逆の、「一致点を留保しながら、不一致点について理性的に対話する」ことの意義も、もっと強調されてしかるべきではなにかと感じさせられる体験が少ないからである。これは不一致点にこだわることを特段勧めたいからではない。その逆である。
不一致点をめぐって理性的な対話をする作法を身につけること、不一致点に入り込むと人間関係まで壊和しかねないという非理性的な相互抑制、自己抑制心を克服して、不一致点についても理性的な対話をする能力を磨くことが、一致点にもとづく共同をより強固なものとし、一致点を広げる成果にも繋がると思うからである。
この点は最近の私の社会科学観や市民運動論にも連なるテーマなので、読みかけの中島義道『<対話>のない社会 思いやりと優しさが圧殺するもの』(1999年、PHP新書)を読み終えたうえで、別の記事としていつか書き留めたい。

求められる国民の後押し
以上、私なりの提案は政党間の協議に委ねるだけでは進捗しないと思われる。ここで切望されるのは各党を共同行動、共通公約の協議へと促す広範な国民の後押しである。そのためには自分が何党を支持するにせよ、共同行動、共通公約の運動の対象になり得るすべての政党が掲げる政策を冷静に読みとり、各党が一致点でまとまるよう努力することに加え、不一致点をめぐって理性的な対話ができる環境を整える努力をすることだと思う。

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初出:「醍醐聡のブログ」より許可を得て転載
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〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.net/

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