普通の人々

私の手元に、粗末な装丁の洋書が一冊あります。 著者は、米国の歴史家でクリストファー・ブローニング(Christopher Browning)。 書籍は、普通の人々:警察予備大隊101とポーランドにおける最終解決(Ordinary Men: Reserve Police Battalion 101 and the Final Solution in Poland)と言うものです。

著書全文は、今では、インターネット・アーカイブで公開されています。

BROWNING Ordinary Men. Reserve Police Battalion 101 And The Final Solution In Poland ( 1992) https://archive.org/stream/BROWNINGOrdinaryMen.ReservePoliceBattalion101AndTheFinalSolutionInPoland1992/BROWNING-Ordinary%20Men.%20Reserve%20Police%20Battalion%20101%20and%20the%20Final%20Solution%20in%20Poland%20%281992%29#page/n0/mode/2up

内容は、ナチス・ドイツのユダヤ人等の少数民族虐待と殺害は、ナチス党の職業的殺人犯集団である親衛隊等に依るもののみでは無く、教師や郵便局員等の職に在った者から為る「予備警察大隊」等の「普通の人々」に依っても行われた事実を、克明な記録分析に基づいて実証したものです。

殺戮を目的とした移動収容所部隊とも言えるEinsatzgruppenと呼ばれる部隊の目的は、ただ一つでした。 占領地におけるユダヤ人等ナチスが絶滅を企図する対象を駆り集めて、現地で殺戮するのが任務でした。

絶滅収容所と違い、占領地等において銃器で殺害するのですから、流血が生じ、死体埋葬の必要もあり、当然のことに、爾後に集団殺戮の証拠は残ります。

ドイツ人は、そうした場合も克明に記録をとりもしますので、戦後になって参照も可能でした。

著書に依れば、最初は、自らの任務に戸惑いを見せた彼等も、大方の者は、何度も殺害を反復すると殺害対象に無関心になり、無慈悲に殺す任務に習熟して行ったのでした。

老人も婦女子も、幼い子供に対してさえも、何の慈悲も持たず淡々と殺したのでした。

著者ブローニングの告発は、ドイツでも論議になりました。

ヒトラー・ナチスの犯した罪は、何もナチスの専売特許では無く、広範なドイツの一般大衆が進んで犯したのが実際でしょう。 でもそれを一般大衆が認めるには、酷な一面もあることでしょう。

戦後に、連合軍が強制収容所の見学をドイツ人一般大衆に強いた事実を記録した映像がありますが、彼等は、無残な死骸の山を正視出来得ずに逃げるのでした。 収容所の囚人は、彼等一般ドイツ人は、収容所の中で何が行われていたかを知っていた、と冷たく語ります。

これ等の事実に鑑みると、日本の場合でも、帝国主義的侵略と他民族殺戮の事実は、何も自覚的な軍国主義者の蛮行に限るものでは無く、心優しいお父さん、純粋な青年、学生、等々の一般国民が進んで侵略戦争の手先になり、また、本土では、優しいお母さん、純情な少女、女学生、等々が、他国侵略のために勤労奉仕で侵略国を支えたのでした。

この事実に蓋をして、戦時に自己が犯した罪を自覚せず、さらに進んで、当時にさも戦争には反対したかのように装う知識人等の戦後の言行は、噴飯ものです。

一般国民も、何かといえば、戦争の被害のみを言い募るばかりです。

これでは、被害の記憶が薄れれば、戦争反対の声も消えるのが当然の成り行きでしょう。

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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