今年の流行語大賞は早くも決まりだ。「忖度」以外にないだろう。これに、「口利き」「アッキード」「神風」「見えない力」などが有力に競う。そして、「安倍晋三記念小学校」「瑞穂の國記念小学院名誉校長」「私人・公人」「何むきになっているんですか」もノミネート。このレースに、新たに割って入ろうというのが、「恫喝」と「満額回答」である。
「忖度」って、昔からの我が国の伝統。和菓子屋よりずっと古い。17条憲法とは、忖度の教えだ。以和為貴。無忤為宗。承詔必謹(「和をもって貴しとなし、逆らうことなきを旨とせよ」「詔を承けては必ず謹め」)とは、「下々は、すべからく上の意向を忖度して、その意のとおりに行動せよ」ということ。
もう少し分かりやすく言えば、「分かっているだろう。一々口に出して言わせるな」。上司の望んでいることをいち早く察して動け。とりわけ、やばいことは上からの指図と見抜かれることのないよう細心の注意をし、しかも上司が満足するように取りはからえ。そうでなくては出世ができない。うまくやれば、国税庁長官にもなれるということ。徳による政治なんて所詮その程度のもの。
ところが、その程度の「徳治」も、行き詰まって余裕がなくなれば権力の地金がむき出しになる。「うしはく」「武断政治」とならざるを得なくなるのだ。その手段が、「恫喝」だ。アベ政権、いよいよ地金むき出しの恫喝に頼らざるを得ない危険水域に入ってきた。
その典型が籠池に対する偽証罪告発恫喝である。政府に不都合な言辞を弄する人物を国会に呼び出す。偽証罪の制裁で恫喝してびびらせようという見え見えの思惑。これがうまくいかないとなるや、今度は偽証罪告発だという。無茶苦茶というよりは、不気味で薄汚い。これを恫喝政治というのだ。籠池を黙らせ、籠池周辺のうるさい連中を萎縮させようという魂胆。この恫喝は、沖縄県や翁長知事にも向けられている。「損害賠償請求するぞ」と息巻く、あの手の恫喝。
もうひとつが「満額回答」。これは、「ゼロ回答」の対語。
籠池から首相夫人への要請に対する、首相夫人付き公務員からの回答ファクスの内容が、「ゼロ回答」だったから問題ない。「これで、口利きも忖度もなかったことが明らかになった」というのが、政権の立場。
政権の「ゼロ回答論」に果敢に切り込んだのが大門実紀史。昨日(3月28日)の参議院決算委員会質疑での反論。「ゼロ回答なものか。満額回答じゃないか」ということだ。
籠池側から、首相夫人付きに送られた封書の内容に、細かい要望が書かれている。官邸は、封筒のコピーだけは公表したが、どういう訳か(もちろん、都合が悪いから)、肝腎の中身は出そうとしない。それで、なんとかやり過ごそうとしたのだ。ところが大門は、独自にその手紙のコピーを入手したとして、これにもとづいての質問をした。その内容は、以下のとおり。
まず定期借地契約について、籠池さんの方の手紙で何を要望したか。定期借地契約10年は短過ぎると、50年契約にしておいた上で、実は一番の眼目は早く買い取ることはできませんかということ。財務省のファクスにはその部分がありませんで、その回答として10年は短くないと、50年契約は難しいということしかありませんので、いかにもゼロ回答のように見えますけれども、しかし、籠池氏が要望していた主な内容は早く買い取ることはできませんかということだったわけですね。これが実は、その後2016年6月20日、半年後に実現をしているわけであります。
二つ目の賃料ですね。これは籠池氏からの手紙によりますと、「賃料が高い」と。「227万円の賃料を半額程度にしてもらえないか」というような要望が出されて、それを財務省がファクスで回答されておりますけれど、契約上のことしか答えておられません。実はこのことも、その後の2016年6月20日に売買契約が締結されて、森友側から支払う年間支払額を月額にしてみるとどうなるかというと、月額100万円程度になった。森友が「227万じゃ払えない、半額ぐらいにしてくれ」と言った金額の範囲で月額の支払いが抑えられたということで、実はこの要望も実現しているわけでございます。
三つ目に、工事費の立替払、これも手紙の中で、ファクスで答えたように要望があります。結局、籠池さんの方は、「平成27年度予算で工事費を立替えした分返してくれると言ったのに、28年度に遅れるのは何事か」ということが手紙にかいてあるわけですね。ファクスでは、いろいろ考えます、その方向で検討中だということを書いていますが、結局これは年度またいだ28年度といっても、28年4月6日、年度変わった途端に支払われております。
つまり、ファクスだけ見ますと、いかにもゼロ回答が並んでいるように見えますけれども、籠池さんの手紙と突き合わせていくと、時間差はありますけれど、その後、籠池氏の要望は全て実現したことになります。ゼロ回答どころか、満額回答ではないか。
「『ゼロ回答』だったから問題はない」と言っ切っていた政府の見解が、「実は『満額回答』だった」となれば、それこそ「問題大あり」と考え直さねばならない。忖度も口利きもあったに違いない、ということになろう。まずは、首相の妻の証人喚問が必要だ。宣誓の上、偽証罪の制裁を科される土俵での証言をしていただきたい。国会も官邸もメディアも、何をためらい、何を恐れているというのだろうか。
(2017年3月29日)
初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2017.03.29より許可を得て転載
http://article9.jp/wordpress/?p=8346
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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