アベ改憲提案は無理筋だ。もう引っ込みたまえ。

本日(1月21日)のNHK「日曜討論」は、「明日から通常国会 与野党論戦の焦点は」というタイトル。その番組紹介は次のとおり。

「通常国会が22日に召集され、論戦が始まります。各党は国会審議で何を訴えるのか? 予算案の評価は? 働き方改革は? そして憲法をめぐる議論は? 与野党の幹部が討論します。」

今次通常国会最大のテーマは、アベ改憲発議の有無とその内容だ。自民党は、国民に向かって、説得的に改憲案の内容と必要性を説明しなければならないが、改憲案の必要性を説得的に説明するなどは無理筋の話し。

NHKオンライン(NHKの公式ホームページ)によれば、本日の「日曜討論」では、「憲法改正について、自民党は自衛隊の存在を明記すべきだとして、3月の党大会までに党としての方針をまとめたいとしたのに対し、立憲民主党などは9条の改正には反対する考えを強調しました。」と述べている。

討論における各党の発言を眺めておこう。
自民党の柴山筆頭副幹事長
「憲法学者の多くは、まだ、自衛隊は違憲だということを言っているので、混乱をなくすために自衛隊を明記することを、しっかりと進めていくべきだ。党大会がある3月の終わりには党の方針をなんとかまとめる方向で進めていけたらいい。与野党が衆参の憲法審査会でそれぞれの考え方を戦わせ、一定の方向性が見られればベストだ」
と述べたという。

「憲法学者の圧倒的多数が、自衛隊は違憲だと言っている」という自民党の認識は正確で、まことにそのとおりだ。しかも、それは今に始まったことではない。憲法学者に限らず、日本語をまともに読む能力のある者が憲法を素直に読んで、自衛隊の実態と照らし合わせれば、「正気の日本人の圧倒的多数が、自衛隊は違憲」だと判断するだろう。

だから、本来は憲法という規範に照らして、「違憲の自衛隊をなくす」「あるいは、縮小する」ことが正しい。少なくとも、これ以上は自衛隊を増強しないよう心がけなければならない。にもかかわらず、「混乱をなくすために自衛隊を明記することを、しっかりと進めていくべきだ」とは、「違憲の事実が明らかなようだから、憲法の方を変えてしまえ」ということではないか。何とご無体な。これが、自民党の憲法観。これでは何のための憲法か、存在の意味がなくなる。

公明党の斉藤幹事長代行はこうだという。
「憲法改正で最も大切なのは、やはり幅広い合意だ。衆議院、参議院それぞれで3分の2以上の賛成を得て、そのうえで国民投票にかけるので、国論を二分しない幅広い国民合意を作り上げていく姿勢こそ、今、われわれ国会に求められていると思う」

アベ自民よりよっぽど理性的で、真っ当な姿勢ではないか。もっとも、これまで何度も経験していることだが、いつの間にか大事なところで、自民党に擦り寄り屈服して変節する「下駄の雪」体質が、この党の政権にとっての利用価値。前回総選挙での国民の批判が骨身に応えているうちは、軽々にアベ自民の改憲策動に擦り寄ることはできまい。

立憲民主党の長妻代表代行
「安倍総理大臣は、9条について『自衛隊を書き込んだとしても一切、武力行使の限界は変わらない』と言っているが、2項を削らずに自衛隊を明記しても違憲の議論は消えないので、説明自体が間違っている」
と述べたという。「9条2項を削らずに自衛隊を明記しても違憲の議論は消えない」はそのとおりだろうが、全体として、えらく理論的に難しいことをおっしゃる。もう少し、端的に分かり易くできないだろうか。

希望の党の岸本幹事長代理
「安倍総理大臣は『9条に自衛隊を書き込んでも何も変わらない』と言っており、立法事実がない。立法事実がない改正はありえず、安倍総理大臣が言う9条改正には反対だ。議論はするが優先順位は相当、後ろにくる。期限を切る必要は全くない」と述べたという。

希望の党のこの発言はまことに興味深い。これまで、小池百合子党と見られたことが裏目に出て、権力に擦り寄る姿勢を批判されたことが堪えているのだ。右転落は、実は大きく支持を失うということ。この発言を読む限り、立派なものではないか。

民進党の川合幹事長代理は、
「9条の改正について、少なくとも、『国民の多くは安倍政権下で憲法改正することを望んでいない』という世論調査の結果も出ている。国民が望んでいないことに政府や政治が血道を上げ、発議を無理やり行うことが果たして適切なのか」
と述べたという。

「国民が望んでいないことに政府や政治が血道を上げ、発議を無理やり行うことが果たして適切なのか」は、まったくそのとおりだ。アベ政権の改憲路線に対峙する立場を明示するところなくては野党としての存在の意味はない。

共産党の小池書記局長は、
「自衛隊が書き込まれれば9条の1項と2項は死文化し、何の制約もなく海外で武力行使ができるようになる。憲法の不戦の概念が根本的に変わる。市民と力を合わせて絶対に発議を許さない」
と述べたという。

「自衛隊が書き込まれれば9条の1項と2項は死文化する」「憲法の不戦の概念が根本的に変わる」は、あり得ることだろう。「後法は前法を破る」のが原則なのだから。「市民と力を合わせて絶対に発議を許さない」には賛同する。

日本維新の会の馬場幹事長は、
「『9条が改正されれば戦争に巻き込まれるのではないか』という漠然とした不安を持つ人がいるが、根本的な原因は安全保障法制にあり、存立危機事態の中身を絞り込むべきだ
と述べたという。

いかにも、獅子に対する狐の論理。「存立危機事態の中身を絞り込むこと」で、9条改憲に対する国民の不安を払拭しようというのが維新案。「一応9条改憲反対派」という立場。

自由党の森幹事長代理は、
国家の私物化が強く疑われている安倍総理大臣が、権力を抑制する憲法の改正を提唱していくことに国民は怒らなければならない
と述べたという。

各論における批判では、全面的な批判たりえず時間も足りない。ズバリと、核心を衝いたアベ政治への基底的な批判。そのとおりではないか。

社民党の又市幹事長
「9条2項の戦力の放棄、交戦権の否認を有名無実化しようという狙いがあって、やろうとしているのは明らかだ」
と述べたとのこと。まったくそのとおりではないか。

9条改憲を狙っているのはアベ自民だけ。アベ自民の改憲提案は明らかに孤立している。アベ自民をさらに孤立させよう。たとえ保守でも真っ当な保守は9条改憲など主張してはいない。アベ君、もうキミの出番はない。アベ自民に引導を渡そう。
(2018年1月21日)

初出:「澤藤統一郎の憲法日記」2018.1.21より許可を得て転載

http://article9.jp/wordpress/?p=9792

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/

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