昔々、我が家の愛猫「とら」は、御近所の方から「空を飛ぶ」と言われたことがありました。 何でも、御近所の古家の庭に植わる楠の木の間から飛び出て、飛んでいた鳩を捕えたそうでした。 飼い主の私は、その鳩を咥えて悠々と帰宅した愛猫を迎えたので鳩を捕えたことまでは推測が出来ましたが、どのようにして捕えたのかは知る由も無かったのでした。
無断外出の際に飛ぶように戸外に出る愛猫を見ていましたので、跳躍力が半端では無い、とは思っていたのですが、鳩を捕えるのに樹上に登り、飛んでいる鳩に飛びつく、とまでは予想も出来なかったのでした。
何とか完全室内飼いにしたい、と試行錯誤をしていましたものの、猫の知恵の方が飼い主の知恵を上回るかのように、何度も、何度も、隙を見て外出するのでした。
一番腹が立ったのは、帰宅の際に飼い主と入れ違いで外に出る「技」でした。 飼い主が戸外から中に入る一瞬の隙に入れ違いに戸外に出るのでした。 正しく一瞬の「技」でした。 建築設備の専門家に相談して玄関の戸を二重にする他には方法がありませんでした。 それ程に一瞬の隙に乗じた猫の「技」だったのです。
思い出しては、笑みが出た後に涙する猫の「技」でした。 以下、「無断外出」と題した300字の小話です。
ぴーひゃら、ら、と悪趣味にデコレートされたスマホの着メロが鳴る。 うざったらしく女子高生の佳代が机の端に置いたものを手に取る。
「只今電話には出られません。 ピーとなりましたら、メッセージを。」と言いかけて、「え? とらちゃん、無断外出?」と訊く。
「来てないよ~。 外出可なら、もう佳代んちへ飛んで来るんだけどさ~。 真美んちかな~。 」と言い淀み、「あ、そか、知らないんだ~、由里姉ちゃん。 そだよ。 とらちゃん空飛べるんだ。 」
そして、佳代は、訝し気に由里に訊く。
「由里姉ちゃん、完全室内飼いにしたんだよね~。 なのにどして、外出たの?」
とその時、キリリと窓ガラスを掻く音が。 何故か、五階の窓辺にとら登場。 How?