本年1月17日付のThe Wall Street Journal電子版で、或るコラムを読んでいて、恥ずかしながら、安倍首相の英語論文の存在を始めて知りました。 WSJでは、意識的に“Defense”(国防)と替えられていたのですが、論文の正式な題名は、“Asia’s Democratic Security Diamond”(アジアの民主的安全保障ダイアモンド)と云うもので、Project Syndicateのサイトに昨年の12月27日に掲載されたものでした。
http://blogs.wsj.com/japanrealtime/2013/01/17/abes-diamond-defense-diplomacy/
“Abe’s Diamond Defense Diplomacy” Wall Street Journal 1/ 17, 2013.
論文の全体は、短いもので以下に掲載のとおりです。
“Asia’s Democratic Security Diamond by Shinzo Abe” Project Syndicate 12/27, 2012
和訳を提供しておられるブロガ‐も居られます。
http://kennkenngakugaku.blogspot.jp/2013/01/blog-post_10.html?spref=tw
剣kenn諤々 2013/1/10
その要点は、WSJに掲載されている部分です。
I envisage a strategy whereby Australia, India, Japan, and the US state of Hawaii form a diamond to safeguard the maritime commons stretching from the Indian Ocean region to the western Pacific. I am prepared to invest, to the greatest possible extent, Japan’s capabilities in this security diamond.
私訳は、(インド洋地域から西太平洋に広がる共通海域を保護するために、オーストラリア、インド、日本、米国ハワイによって、ダイアモンドを形成する戦略を描いています。 私は、可能な限り日本の能力をこの安全保障のダイアモンドに投じる覚悟です。)
私がこの論文を読んで、すぐさま思い出したのが、国際政治が御専門の藤原帰一東大教授の論稿でした。 当初は、朝日新聞に掲載されたのですが、同紙の読者で無い私は、尖閣諸島の問題が緊迫する中で、つい最近に読んだので、直ぐに思い出すことが出来たのです。
教授の論稿は、昨年7月17日に、朝日新聞夕刊の「時事小言」に掲載されました。 教授は、「領土問題を主要な争点とすれば国際関係を不安定にするだけに、問題を棚上げにすることは、一般的には誤った選択ではない。だが、中国側から挑発的な行動が相次いで行われているとき、日本が棚上げと先送りを続けることもできないだろう。」とジレンマに在る現状を憂われます。 しかしながら「これを日中間の領土問題としてだけ捉えることにも賛成できない。問題は中国政府の領土に関する主張だけでなく、武力による威迫が行われている点にあるからだ。」と現実を見詰められます。 そして、「武力で領土を奪おうとする相手を前にすれば武力行使の必要が生まれる。だが互いに譲らなければ、威嚇の応酬が繰り返され、全面戦争に発展する危険もある。」その中で打開策としては、「海上の安全通航を妨害する行為を事前に抑制する、多国間の連合をつくることである。」と提言されていたのです。
「武力行使があったときには複数国が対抗する準備を整えることで、事前に中国政府の行動を抑制するのである。目標は領土問題の解決ではない。武力や威迫を用いた境界線の変更さえ排除できれば十分な成果であると私は考える。 」と云われる対抗策は、現実的で説得力がありました。
http://pari.u-tokyo.ac.jp/column/column64.html
「尖閣問題への向き合い方―「安全通航」軸に連携」 法学政治学研究科教授 藤原帰一
8/22、2012 東京大学政策ビジョン研究センター
安倍首相が、この観点に立ち、内に在っては海上保安庁の装備・体制を整え、外に在っては、国際的な海上交通の安全確保に共に力を尽くすことで、結果的に中国の軍事力に依る領土・領海への圧力に対抗出来得れるならば、中国の軍事力に依る支配の目論見が綻びるでしょう。
首相の訪問先には、ベトナムがあったことにも注目しなければなりません。ベトナムは、スプラトリー諸島に於いて非力な海軍に対するに、圧倒的な海軍を擁した中国からの攻撃を受けて多数が死亡しましたし、西沙諸島に於いても攻撃・侵攻を受けた苦い歴史を有します。 陸に於いても、「懲罰」と称する侵略を受けた過去があります。
先ごろ進水した海上保安庁の「しきしま」型(六千五百トン級)の二番船は、その名称を「あきつしま」と云います。 巡視船は、其々が属する管区に因んだ名称が付けられるのですが、「あきつしま」とは、日本の古式名称です。 秋には、任務に就く予定です。