<はじめに>
ウクライナ戦争やガザ紛争、トランプの第二期目政治などのもたらす負の影響は、直接的破壊はもとより、人道的危機および環境危機をもとめどなく深刻化させている。かつてであれば、曲がりなりにも国連や大国が介入したり、中立的諸国が仲介の労をとったりして、紛争の解決や危機緩和に向けて何らかの役割を果たしたであろうが、こんにちではそうした有効な動きは微弱である。良くも悪くも超大国中心に構築されてきた紛争解決、平和構築の国際的メカニズムが、ほとんど機能しなくなっている。本日取り上げるのは環境についてのトピックであるが、欧州中心にそれなりに盛り上がっていた地球環境の悪化をくい止めようとする運動は、ウクライナ戦争の勃発とともに、潮を引くように失せてしまった。グレタ・トゥーンベリら若者らの「未来のための金曜日(Fridays for Future)」運動は窒息させられ、また今まで政権の一角を占めていたドイツ「緑の党」も大きく後退して、環境政策への影響力を失ってしまった。したがって戦争や紛争の影で、地球環境の悪化は、まちがいなく惑星的スケールで進んでいるのである。
さて、かつてマルクスはその歴史研究(アジア的生産様式論)において、古代専制国家の成立を促したのは、大陸における巨大な水利施設の建設であるとした。巨大な土木工事に必要な莫大な労働力の徴募や物資の調達、計画の立案と工事の指揮統制・水利管理などが、官僚機構と専制的な統治スタイルを生み出したというのである。しかしそれは古代王朝時代の昔話ではなく、現に進行している物語であるところが要注意なのである。
中国湖北省の三峡ダムは、共産党内部や世論の強力な反対を押し切って、「天安門事件」の下手人李鵬首相のイニシアチブで完成されたものであった。当初から深刻な環境破壊が懸念されていたが、その最たるものは、NASAが三峡ダム2005年に発表した仮説的知見であった。巨大ダムの貯水量は、地球の質量分布をわずかながら変えるため、地軸にわずかなブレが生じて地球の自転に影響を与える可能性があるというのである。理論的推定であり直接にエビデンスのある話ではないものの、ぞっとするものであった。気候変動のみならず、惑星運動に影響があるかもしれないというのである。しかもその三峡ダム以後も、現代の中国(中華帝国?)は、イラワジ川の源流域にミッソンダム、メコン川本流域だけでも十数基もの巨大ダムを計画している。ミャンマーではサルウィン川流域でも中国による多数のダム計画があって、地元の少数民族が反対している。しかもこれに輪をかけて、いままたチベット地域に25兆円をかけて、インドやバングラデッシュなどがその影響を危惧する世界最大のヤルンツァンポ水力発電プロジェクト(三峡ダムの3倍)を計画、すでにこの7月、第一期工事に着工したというではないか。

チベット・ヤルンツァンポ川 イラワジ
習近平主席は,2021年に「グローバル開発構想(Global Development Initiative: GDI)」を発表して、「持続可能な開発」を促進し、より力強く、より環境に配慮した、より健全なグローバル開発の実現をめざすとしたが、チベット・ダム群のどこが持続可能なのであろうか。過剰生産能力・需要不足に悩まされ、アメリカとの貿易戦争に苦しんでいる共産党指導部にとって、巨大な土木工事は救国的な事業であり、チベット民族や他国のことなど構ってはいられないのであろう。古代専制国家隋の文帝・煬帝の大運河建設事業の伝統――大規模土木事業と権威主義的統治――は、いまなお脈々と受け継がれているというわけである。
以下の本文は、地球温暖化の影響が地殻変動にまで及ぶかもしれないという、これまた恐ろしい理論的推定である。エビデンス、エビデンスといっても、エビデンスが手に入ったときは、変化が不可逆的段階に入っていて手の施しようがなく、人類滅亡を甘受するしかない、そのようなデストピアに直面することにならなければよいがと思うのである。
気候危機と火山噴火 氷から噴き出す焔(ほのお)
――気候危機は、豪雨や干ばつなどの極端な気象現象のリスクを高めるだけでなく、火山噴火の発生確率も高めている。
原典:taz.20.7.2025 Von Nick Reimer
原題:Vulkanausbrüche und KlimakriseFeuer aus dem Eis
https://taz.de/Vulkanausbrueche-und-Klimakrise/!6098723

氷河(ここではカナダの例)は火山活動に影響を与えるFoto: Pond5/imago
これは、最初のうちは驚くべき関連性である――気候変動は、より激しい頻発する火山噴火と地震を引き起こすかもしれない。その理由は、氷河と氷冠の融解である。つまり世界的に氷の負荷が減少しており、これにより地殻への圧力が軽減され、その結果、火山のマグマ室やプレートテクトニクスへの圧力も軽減されている。南米の地質学者の研究結果によると、気温の上昇により、現在休眠状態にある数百の火山が噴火する可能性があり、特に南極大陸で、また北米とロシアでも発生する見込みだという。
アメリカ合衆国のウィスコンシン大学マディソン校の地質学者パブロ・モレノ=ヤエガー氏をリーダーとする研究チームは、モチョ・チョシュエンコ周辺の花崗岩に含まれる鉱物を分析した。それはチリのアンデス山脈の西端にある死火山にある。
放射性年代測定法を用いて、研究チームは最終氷期の前後および氷期中に形成された火山岩の年代を特定した。そのピークは2万6000年前だった。当時、その地域は1,500メートルの厚さの氷床に覆われていた。約1万3000年前の自然温暖化により、氷が溶け始めた。これにより、マグマ室への圧力が低下し、ガスが膨張した。鉱物の分析と年代測定の結果、一連の爆発的な噴火が発生したことが明らかになった。「氷河が消えた後、火山ははるかに頻繁に噴火するようになった」と、研究責任者のパブロ・モレノ=ヤエガー氏は説明する。溶岩はより粘性が高く、噴火時にはより爆発的であった。
気候変動が地球のテクトニクス(地殻の小さな動きから大きな動きまで)にも影響を与えるという指摘が、最近ますます増えている。デンマーク工科大学の研究チームは、グリーンランドが過去10年間で海面から23センチメートル上昇したことを明らかにした。グリーンランドの氷床は1980年代以降、1兆トンもの氷を失っており、そのため、その下の土地にかかる負荷が軽減されている。その結果、陸地が上昇し、海面(水準)が低下している。地質学の分野では、この現象は「等圧上昇」と呼ばれている。例えば、最終氷期が終わった約1万年前から現在も上昇を続けている融解したスカンジナビア半島で観察できる。現在、世界の海面水位は年間約3ミリメートル上昇しているが、ストックホルムの海面水位は19世紀以来、半メートル低下している。このような変化は、氷の融解により、現在「休眠中」の火山にも予測されている。例えば、アラスカには地球上で3番目に大きな氷河地域があり、特に南東部のセント・エライアス山脈の山頂部に数億トンの氷が堆積している。その巨大な重量は、その下の地殻にある「北米大陸プレート」に圧力をかけている。パブロ・モレノ・イェーガー氏のチームは、氷河の融解は西南極大陸にある少なくとも100の火山にとっても壊滅的な被害をもたらすだろうと警告している。現在、その氷はマグマ室に圧力をかけていますが、今後数十年で急速に重量を失っていくであろう。
「火山噴火は、一時的に地球を再び冷却する可能性がある」と、研究の著者であるパブロ・モレノ=ヤエガー氏は説明する。大気中に散布された粒子は日光を反射し、地球へのエネルギーの流入を最小限に抑える。科学では、このようなものは「ジオエンジニアリング(地球工学)」として検討されている――大気中への化学物質の粒子の人工的な散布。保証のない実験。スウェーデンでは2021年、その影響が予測不能と判断されたため、ある研究プロジェクトが中止された。
歴史を振り返れば、その理由は明白である。約200年前、インドネシアのタンボラ山が噴火した際、ヨーロッパは大規模な飢饉に見舞われた。1831年に西太平洋のシムシュール島で発生した火山噴火も、世界的な影響を及ぼした。作曲家フェリックス・メンデルスゾーン・バルトルディは、当時スイスアルプスを旅行中、日記に次のように記した:「天候はひどく荒れ狂い、大きな被害をもたらし、破壊をもたらした。人々は、過去何年間もこれほどひどい嵐と雨を記憶にないと言っている」
最新の知見
気候変動が地質構造に与える影響に関する知見は、2022年の研究が示すように、まだ比較的新しいものである。驚くべきことに、氷河の融解は、将来の火山噴火や地震に影響を与えるだけでなく、極端な降雨量の増加にも影響を与える。2009年8月、台風モラコットが台湾の南岸に上陸し、24時間で1平方メートルあたり3メートルの降水量を記録した。比較すると、2002 年のエルベ川の洪水の際、同じ時間でエルツ山地では 31 センチメートルの雨が降った。当時、西太平洋の島で複数の地震が発生し、科学者たちはこれらを関連付けた。パブロ・モレノ=ヤエガー氏率いる研究チームの研究は、現在未発表の状態であり、科学雑誌による審査の最終段階にある。これらの結果は、すでに7月初旬にプラハで開催されたゴールドシュミット地球化学会議で発表されている。科学は、いわゆる「査読」プロセスで専門家が研究の科学的基準を確認したときにのみ、「証明された」とみなされる。ただし、ゴールドシュミット会議は地質化学分野で最も重要な学術的なプラットフォームである。
(機械翻訳を用い、適宜修正した)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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