Global Headlines:帝国の包摂―中国とミャンマー

<はじめに>

 スーチー女史が事実上トップの座に就いているときは、習近平もプーチンもミンアウンフラインに自分たちへのお目通りを許さなかった。2021年の2・1クーデタのあとも3年間ほどはその状態が続いた。武器供与をはじめ、様々な便宜をあたえつつも、格下であるだけでなく、汚辱にまみれた、ロヒンギャを含むミャンマー国民の虐殺の責任者である悪名高き人間をまともに扱うのは、国際社会の手前はばかられたからであろう。しかしそれだけにミャンマーの軍事政権にとって、政権としての正統性を確保するためにも、中国のトップから拝顔の栄に浴する機会を与えられることを渇望していたのである。したがってここへきて中国が自分を赤いカーペットで迎えてくれて、VIP待遇の扱いをしてくれることで、天にも昇る気分になっていることであろう。2年前までは反政府軍の攻勢に国土の半分ほどを奪われ、国軍内部でのクーデタの憶測まで出るようなきわどい状態であっただけに、その喜びはひとしおであろう。これを機会に、孤立状態から脱却するために、西側諸国に対抗する「上海協力機構(SCO)」などの地域の国際機構――とくにロシア、中国、ベラルーシ、ミャンマーの連携――への加盟も狙うことになる。

 しかしそのつけの清算には、国を売るほどの犠牲が必要となるであろう。計算高い中国によって、レアアース、銅、鉛、亜鉛、錫、タングステン、金、銀、アンチモンなどの鉱物資源や木材資源、電源開発用河川の開発権など買いたたかれていくであろう。ベンガル湾に抜けるイラワジ川などの航行権もそのうち課題になるであろう。その他、「一帯一路」構想に関わる様々な中国企業に有利な土地利用やインフラ整備、工業団地造成など、ミャンマーではなく、中国に圧倒的に有利な開発が進むであろう。

 中国はこの1年間余、内戦に直接介入して、少数民族武装勢力が2023年以降占領した北シャン州の土地を軍事政権に返還するよう強いてきた。そして、中国との国境地帯に広がる少数民族地域への中国からの物流をストップさせ、兵糧攻めにして締め上げ、二つの武装勢力――タアン民族解放軍(TNLA)とミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)――を屈服させたのである。しかも最近、最大の武装勢力であるワ州連合軍(UWSA)――かつてのビルマ共産党の流れを汲み、中国の圧倒的影響下にある――に強権発動し、他の少数民族武装勢力への武器供与をいっさい禁止する措置をとらせた。武装勢力の10月からの乾季攻勢を見越して、中国は先手を打ってきたのであろう。12月の総選挙を何としてでも成功させたい中国は、その前に国軍の軍事的な反抗作戦を後押しして、抵抗勢力の息の根を止めようとしている。このところ深夜にジェット戦闘機を使って、学校の寮や公共施設を爆撃し、多くの死傷者を出している。

 しかも軍事政権にとって好都合な国際社会の大きな変化が起きている。それはトランプ政権の登場である。このファッショ的性格の政権は、対外援助の政府機関である米国際開発局(USAID)を国務省と統合し、実質閉鎖した。このため、「ラジオ・フリー・アジア」、「VOA」などの放送局が活動できなくなり、ミャンマーの政局や実情が報道されなくなった。それでなくとも情報統制が進み、中国から直伝の監視システムが整備されて、ミャンマー国民も海外の我々もミャンマーの暗黒政治の実態が分かりにくくなっている。これに気をよくした軍事政権は、トランプ政権に感謝の念を表明し、国交正常化の意思を表明した。トランプもまたミャンマーのレアアースに食指を動かしており、中国とアメリカという二つの帝国が、独裁によって弱り切ったミャンマーという国をこれからしゃぶりつくそうとしているのである。総選挙をめぐって大激動が予想されるミャンマーであるが、一転窮地に追い込まれつつある民主派抵抗勢力が、どのように反転攻勢に転ずるのか。世界の平和と民主主義を願う世論の支援をミャンマーの抵抗勢力に集める秋(とき)が来ているのである。

ミャンマー軍事政権を丸抱えする習近平中国

2025年8月31日、天津にてミャンマー軍事政権のミンアウンフライン最高司令官、

中国の習近平国家主席と夫彭麗媛夫人

出典:The Irrawaddy/September 9,2025 by Thet Htar Maung
原題:In Myanmar, China Is Embracing a Fascist Regime

https://www.irrawaddy.com/opinion/guest-column

 2025年9月3日、中国はファシズムに対する勝利を記念する盛大な式典を北京で開催した。南京大虐殺などの残虐行為の犠牲者を追悼する目的も一部にあったこのイベントに、皮肉にもミャンマー軍事政権の最高責任者ミンアウンフラインも招待された。彼の政権が自国民に対する暴力と弾圧を続けているにもかかわらず、彼がレッドカーペット上に姿を見せたことは、すべての中国国民にとって恥じるべき瞬間であるべきだ。2024年8月、北部シャン州の州都ラショー陥落後、中国の王毅外相がネピドーを訪問して以来、北京は軍事・政治・経済支援を通じて苦境にあるミャンマー軍事政権を支え続けている。4年以上にわたって外交的孤立に耐えてきたミンアウンラインにとって、上海協力機構(SCO)サミットや北京での軍事パレードといった注目度の高いイベントへの招待、そして公式のレセプションは、外交上の大きな勝利である。

中国のミャンマー軍事政権に対する姿勢

 中国は、ミャンマー軍内部で分裂が生じ、北東部の戦闘で抵抗勢力が勢力を拡大しつつあった決定的な瞬間に介入した。一部のアナリストは、もし北京が支援を遅らせていたならば、ミャンマー軍内部での指導部交代や、同国の政治情勢におけるより広範な変化を引き起こした可能性があると指摘している。

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 代わりに、中国はミンアウンフラインを支援する道を選び、彼が権力を固めるのを助けた。多くの専門家は、中国の支援はミャンマー軍が崩壊した場合に同国が混乱に陥り、北京の戦略的利益が脅かされる恐れがあるという懸念に起因すると見ている。しかしミンアウンフラインをこれほど公然と支持する決定は、より深い動機を示唆している。むしろ、これは中国が米国との広範な対立において、軍事政権を代理勢力として育成する戦略の一環であるように見える。中国はミャンマー軍事政権を支援することで、インド洋への戦略的アクセスを提供する同国に傀儡政権を確保していることになる。もしミャンマーの軍事・政治構造に何らかの変化が生じれば、北京がこうした影響力を維持する能力が脅かされることになる。ミンアウンフラインが最近訪問した際、軍事政権には北京が提案するあらゆるプロジェクトを承認する意思があり、継続的な支援と引き換えに、あらゆる国家資源を割安価格で売却する用意があることが明らかになった。同政権はまた、中国に対しミャンマー国内の民族武装勢力への圧力を求めた。ミンアウンフラインは北京の支援に対し公に感謝の意を表明した。ミャンマーの主権を政治的存続のために売り渡す用意があることを示した以上、政権が最終的に国全体の一部を中国の影響下に委ねることも不思議ではない。

代理政治

 中国が9月3日の軍事パレードで表明した「米国とは異なり、他国を威圧したり脅したりしない」という主張は、北京からの圧力を増大させられているミャンマーの少数民族グループにとって空虚に響いた。中国が国境沿いの民族武装勢力との関係を、軍事政権が望むような形で断絶する可能性は低い。むしろ、北京はこれらのグループを政権への支配を維持するための手段として利用しようとしている。この力学は、ミンアウンフライン政権が中国への依存を強め、長期的な代理勢力へと変貌していくことを示唆している。中国はミンアウンフラインとの結びつきを強化することで、軍事政権に具体的な利益を提供してきた。広範な戦争犯罪を犯したとされる政権への支援は、軍部に戦場、刑務所、市街地、農村部における残虐な弾圧を、責任を問われる恐れなく継続させる勇気を与えている。ミャンマー国民の苦しみはさらに深まるばかりだ。

 報告によれば、2021年のクーデタ以降、1万人以上の民間人が殺害され、約5万人が逮捕された。10万戸以上の住宅が焼失または破壊された。並行政府である国民統一政府(NUG)によれば、2025年だけで軍事政権は105件の虐殺を実行し、1,081人を殺害した。7月、ミンゴン(サガイン管区)で、人民防衛軍(PDF)のメンバーであると告発された民間人を軍政部隊が斬首し、遺体を切断する様子を捉えた動画が拡散した。目撃証言が映像を裏付けており、国際的な怒りを引き起こしている。北京がこの政権を支援することを決めた際、軍事・経済援助だけでは不十分だと認識した。国境付近の民族武装組織に対し圧力をかけ始め、彼らが従うまで武器や必需品の供給を遮断した。ミャンマー軍は依然として脆弱である。しかし北京の支援に勇気づけられた政権は、優位に立っていると確信し、今や少数民族勢力の殲滅を図っている。これは内戦を長期化させ、ミャンマー国民の苦難を増大させるだけである。中国の最近の公的な支持表明は、ミンアウンフラインの権力掌握を固め、政権を国際的な説明責任から守り、国民和解への期待を損ない、ミャンマーの主権を危険に晒している。

中国の失策

 しかし中国政府はミャンマー政策において二つの重大な誤算を犯した。その根源は、同国の内部力学に対する真の理解よりも戦略的利益に駆られた外交政策にある。最初の誤りは1967年から1985年にかけて発生した。当時北京は国境地帯においてビルマ共産党に軍事支援を提供した。これは戦略的目標——国民党と米国の諜報活動への対抗——および世界的な共産主義運動の促進を動機としていた。しかしこの取り組みはミャンマー国民の意思を無視したものであり、最終的には失敗に終わった。

 第二の誤りは2021年のクーデタ後に生じた。中国が現在この政権と関与していることは、反米冷戦戦略の一環と見なされているが、これもまたミャンマー国民の願望に反しており、したがって成功する可能性は低い。中国の支援にもかかわらず、政権は汚職と無能にまみれている。軍は強制徴兵で膨れ上がっているが、規律と士気は低下している。広範な戦争犯罪は国民の抵抗をさらに煽る結果となった。中国はこうした批判を拒否する可能性が高く、軍事政権への支援は内政干渉ではなく安定維持を目的としていると主張するだろう。選挙後の国民和解の重要性を引き続き強調している。しかし軍事政権の行動には和解への真摯な姿勢が全く見られない。中国からの持続的な圧力のみが軍に方針転換を迫る可能性がある。北京が和平を推進するか、それとも独裁政権への支援を続けるかは、2026年までに明らかになるだろう。

(テッターマウン氏は、ミャンマー人の政治アナリストである)

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座  https://chikyuza.net/
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