<はじめに>
本日ご紹介するのは、本年2月のドイツ連邦議会選挙で、選挙戦前の予想をくつがえし復活を果たしたドイツ左翼党の勝利について分析を行なった論考である。ドイツ左翼党は、東独の支配政党「ドイツ社会主義統一党」の後継政党である「左翼党-民主社会党」と西独SPD最左派が、2007年に合同したもの。2024年にザーラ・ヴァーゲンクネヒトが離党して、反EU、反難民、親ロシアを掲げるポピュリスト政党「ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟」を結成。2024年秋の州議会選挙で躍進したところから、連邦議会選挙では左翼党は同盟躍進の煽りをうけて敗北するとみられていた。ところが意外や意外、「ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟」は5%条項もクリアできずに惨敗。それに対し極右政党AfDが大躍進するとともに、その対極にある左翼党が、最盛時(2009年76議席)に近い議席を回復した。

総選挙前から左翼党に目を付けていたのは、じつは極東に位置する日本共産党であった。志位議長は、2024年8月にドイツを訪問、ドイツ左翼党のマルティン・シルデワン共同議長と会談した。志位氏の狙いは、両党が発達した資本主義国における左翼政党として、多くの共通課題(と困難)に直面していることを踏まえ、相互に学び合い、一致点での協力関係を強化することにあったという。マルクス主義系譜の政党は西側諸国ではほぼ消滅したなか、稀少な生き残りというべき左翼党と日本共産党は、ともに復活再生の重い課題を背負って苦闘していたのである。
本年初頭の総選挙での躍進の予兆ともいうべき変化が左翼党にはあったことが、共同議長の話からわかる。同党は、新しい形のファシズムに対抗し、人権擁護のために奮闘するなかで、この党と共にたたかいたいと、24年夏場の数カ月で青年を中心に約8000人が新たに入党したとされる。これがハッタリでなかったことは、調査機関インフラテスト・ディマップの総選挙の出口調査で証明された。18歳から24歳の若者から25%と最も多くの票を得たのは左派政党の左翼党であり、それに次いだのが、AfDの21%の票だったという。つまり青年層では、中道右派・左派の退潮に伴い。左右の両極が躍進したのである。
共同議長の自党の闘いの紹介に対して、志位議長は、「この間の党勢後退の最大の客観的原因が、旧ソ連・東欧の崩壊などを利用して『共産主義には自由がない』という反共攻撃が繰り返されてきたことにあるとして、自身の『共産主義と自由』「自由な時間」にかかわる二つのテキストを渡し、反共攻撃をはね返すための理論・実践活動を抜本的に強化している」と述べたという。党勢後退の客観的原因―反共攻撃―は語りえても、その主体的原因については語りえないところが悲しいところである。主体的原因については、政治戦略、指導や党活動の在り方に勇気をもって自己分析のメスを入れることが条件となる。そのために必要な知的倫理的率直さが同党指導部に欠けていることは、多くの識者の長年指摘するところである。ましてや、共産主義もさることながら、足元の松竹伸幸氏除名問題で「共産党には自由がない」と、少なくない支持者も含め世論の多くをして日本共産党中央への不信感を募らせているところではないか。それに対して、マルクス主義テキストの座学が行動提起だとは、政治感性の鈍さには恐れ入る。日本共産党と同様に、来る都議選や参院選において後退が予想されている日本維新の会ですら、「党再建に向け、我々の存在意義、改革の必要性、志を全党的に共有していく」(岩谷幹事長)と、しおらしく反省の態度を見せているではないか。
以下、ドイツ左翼党のことも念頭に置きながら、日本共産党について感じるところを記しておこう。あくまで厳密な論証を欠いた感想の域を出ないものではあるが、問題提起の一端として受け止めていただければ幸いである。
まず、成功は失敗の元という話から。宮本顕治体制発足以後の日本共産党の屋台骨を財政的に支えたのは、機関紙「赤旗」を中心とする新聞事業であった。個人献金のみで企業団体献金はご法度とするなか、新聞事業の収益なしには、全国津々浦々まで広がり、多数の専従職員をかかえる党組織の維持は不可能であったろう。レーニンによって独自の政治的意義を与えられた全国政治新聞の発行は、宮本体制の下で自主独立路線を担保する財政的な要の役割も担ったのである。
宮本顕治氏は共産党中興の祖であるにしても、前身は文芸評論家である。労働運動や社会運動、市民運動の経験はなかった。これは有田芳生氏の経験談の受け売りであるが、上田耕作一郎と小田実の対談が企画されたが、事前に宮本氏に察知されつぶされたという。宮本氏は市民運動に不信感をもっており、そのためであろう1970年代以降、先進国で顕著になりつつあったケインズ体制から新自由主義への変動にともなう階級闘争の変化―搾取と収奪様式の変容―には鈍感であったのではなかろうか。いや鈍感なのは宮本氏にかぎらず、日本左翼全体であったろう。(大学のシンパの若手研究者の間では、不破哲三ではなく、実兄の上田耕一郎の方が、教条に囚われないという意味で断トツ人気があった)
1970年半ばまでに、学園闘争、反公害などの住民運動、革新自治体運動などの政治的高揚が終焉を迎えるなか、共産党は新聞事業への選択と集中を進める。「赤旗が増えれば、社会変革が起きる」として、赤旗読者の拡大が自己目的化していくのである。大衆の護民官としての党の役割が次第に薄れ、それらの役割は各級の議員に代行的に担われるだけで、一般党員は赤旗拡大に専念することになる。その結果、党支部は一般社会とのインターフェースを縮小させ、大衆からエネルギーを汲み取って、党を活性化させる機会をますます失っていく。党の官僚化、知的精神的エネルギーの枯渇が進む。一般商業新聞に伍して日刊紙・日曜版の配達・集金網を維持するのに、過大な多くのエネルギーが注がれたためである。新聞屋に成り下がったという古参党員の嘆きと反発は、地域で住民活動をしていれば、耳にすることはまれではなかった。
疲弊したのは下級ばかりではない。党中央の理論政策能力も低下した。松竹問題で露呈した党中央の理論的反論の水準の低下は、政治学者の中北浩爾氏の指摘を待つまでもなく、一目瞭然であった。官僚主義とは、前例踏襲と事なかれ主義をもっぱらとするが、民主集中制の組織原則は、時代の変換にともない変化が求められるときには、異論の排除により内部革新のブレーキとなる。私は、党首公選制がそれだけでは内部改革の良策だとは思わないが、呼び水の役割は果たすかもしれない。
1990年代からいよいよ顕著になってきた新自由主義的グローバリゼーションという時代の新しい条件を理論的に分析し、変化に対応して新しい活動分野や活動様式を開拓し、新しい社会階層、特に青年層に食い込んでいく新規の試みの不在。ミュニティを破壊し、個人のますますの原子(アトム)化を進める新自由主義に対抗して社会理論を形成し、社会連帯の在り方を探究すること等々の不在。かつて共産党は、高度経済成長による社会変化に対応し「自由と民主主義の宣言」という西欧型社会に適応した政治理念を打ち出し、市民社会から評価されて、国会の議席も増やしていった。しかしそれから半世紀近く立って、理論・政策の蓄えはほぼ使い尽くした。今日、世界のいろいろなところで新しい理念的実践的な試みがなされている。脱成長社会主義、グリーン資本主義、コモンズ社会主義、生態学的社会主義、ミュニシパリズム等々、これらの試みに掉さして新たな挑戦を試みること、これは共産党にかぎらず、我々すべてに課された挑戦である。いくらSNSだといっても、元になる知的道徳的発信力そのものがなければ、長くは続かないのである。
ただし、今回の左翼党の躍進は、新しい理念の提起によるものではなく、青年学生層向けに彼らに切実な要求を組織し、政策化し運動化したところによるものらしい。もちろん動画共有アプリTikTok(ティックトック)での情報発信に力を入れたことも勝利に貢献した。理念ができるまで待つという姿勢ではなく、できるところから始めて運動化する。そして運動の成果を理念形成にフィードバックさせていくという理論と実践の往還運動を築き上げることが重要である。以下、左翼党の成功体験をぜひご一読願いたい。
奇跡の後の左翼党大会
――左翼党は劇的に変化した世界情勢を前に、新たな答えを見つけなければならない。平和のフレーズだけでは十分ではない。
出典:taz 9.5.2025 Kommentar von Stefan Reinecke
原題:Parteitag der LinksparteiNach dem Wunder https://taz.de/Parteitag-der-Linkspartei/!6083286/

左翼党を左翼運動に変える:イネス・シュヴェルトナーとハイディ・ライヒネック 写真: ケイ・ニートフェルド/dpa
世界的に右翼政党が抬頭している。あからさまな人種差別が再び社会的に容認され、しばしば無制限なハイテク略奪資本主義や狂暴なナショナリズムと結びついている。左翼党は、通常、嘆き悲しんだり、知ったかぶりの態度をとったり、現状維持を無力に擁護したりする以外に、これに対抗する手段はほとんどない。左翼党の成功はさらに目覚ましいものだった。予想に反し、敗北するどころか、連邦選挙でほぼ10パーセントの票を獲得した。5万人の新たな同志が入党。絶望的な権力闘争に陥っていた時代遅れの組織は、たちまち運動へと変貌を遂げ、戸別訪問による選挙キャンペーンを成功させた。この奇跡的な救出は苦労の末のものであり、絶妙なタイミングの結果だった。ザーラ・ヴァーゲンクネヒトの分裂により、麻痺と対立は消えた。左翼党の自己救済の中心的な要素は、一種のバーニー・サンダース効果だった。高額な負債に喘ぐ何百万人もの若い学生が、2016年と2020年の予備選で米国の左派を支持した。アメリカの大学の学費は非常に高額である。サンダース氏の大学無償化の呼びかけは、多額の負債を抱える学生の間で大きな反響を呼んだ。この国の都市部の学生たちは、大都市ではほとんど払えない家賃に絶望している。左翼党の家賃キャンペーンは、現実的な利益を約束する暖房費チェックによって巧みに補強され、この問題に対処している。
政治プロドモ(利益のための政治)
他の左派政党のキャンペーンと異なるのは、中流階級の学生が下層階級の代弁者として行動しているのではなく、プロ・ドモ(pro domo)として政策を立案している点である。通例、利益政治は慈善活動や革命活動よりも強固な基盤となる。一つの利点は、確かに左翼党の選挙運動能力である。これは、貧弱な権力管理機構であるSPDに現在完全に欠けているものである。イネス・シュヴェルトナーとヴァン・アーケンからなる新指導部は、これまでのところ、ほとんど妨害されることなく、様々な周波数で放送を続けている。シュヴェルトナーは東ドイツの錆びのない社会主義の伝統を体現しており、言説的にも適合している。ヴァンアーケンは、より効果的な対ロシア制裁を求め、プーチン擁護派という党のイメージを巧みに払拭した。新しいソーシャルメディアのスター、ハイジ・ライヒネックは、コロナウイルスの隔離によって傷つき、左翼党に共同体感覚を見出すことを望む都会の若い聴衆にリーチする。
左翼党の選挙での成功は、選挙直前に連邦議会でAfDと連携したフリードリヒ・メルツ氏のおかげでもある。それは反右翼運動にとってアドレナリンが噴出するようなものだった。
要するに、左翼党がこれほど成功したのは、運動ブームと総選挙が好都合に重なったからである。この幸運な偶然と成功のもろさを見過ごすのは愚かなことだ。運動は、政党とは異なる論理に従う。 「運動は起こったり消えたりするものだが、何よりもそれは消えていくものだ」と社会学者ウルリッヒ・ベックは言う。党指導部の複雑な課題は、この運動エネルギーを制度化することだ。何をすべきか?何をしてはいけないのか?おそらく我々は、反ハーツ4世党が12%近くを獲得した2009年の左翼党の最大の成功から何かを学べるかもしれない。ラフォンテーヌ氏はその後、ますます激しい修辞的な反論でSPDの裏切りを非難し、党を窮地に追い込んだ。対立してコンクリートを混ぜるのは、考えが貧しい。さらに地面も揺れている。連邦共和国の建築はもろい。国内政策は圧倒的な中道が支配しており、ほとんどが中道右派で、中道左派はまれだった。ほとんど失敗に終わったメルツの選挙が示したように、この中道政党の砦は今や砂でできている。このことを考えれば、左翼党は反対するだけでは済まされない。民主主義に対する責任を負っているのだ。いずれにせよ、左翼党が、メルツ氏を第2回投票に進めるよう迅速に支援したのは賢明だった。そのメッセージは、「黒と赤に対する鋭い批判はあるが、AfDの混乱戦略には何のメリットもない」というものだった
外交政策に関しても、左翼党に必要なのは単なるアンチではない。連邦共和国はNATO支持派であり、左派はNATO反対派であった。このゲームのセットアップは昨日のものだった。黒(キリスト教民主連盟)と赤(社民党)の連立協定は、NATOと「大西洋横断パートナーシップ」を絶えず想起させている。 ケムニッツで開催される党大会の主要な動議では、左翼党は「平和政党として」自らを讃え、「増大する軍国主義化」に強く反対している。
左翼の答えはなにか
簡潔にするため、左翼党の主要提案では、トランプ大統領のNATOからの脱退の可能性、プーチン大統領のウクライナ侵略戦争、新世界秩序については触れられていない。それは理解しがたい。野党の役割は、束縛されることなく考えることができるという贅沢を提供してくれることだ。日常的に平和の決まり文句にしがみつき、事態が深刻になると、ブレーメンやメクレンブルク=西ポメラニアのように中途半端に再軍備に同意するのではなく、新しいアイデアを探す必要がある。新しい世界秩序に対する左翼の答えは何だろうか?アメリカ抜きでヨーロッパを守るための防衛軍備構想はあるのか?
平和主義を他と差別化するための呪物として用いることの多い政党にとって、これは難しい問題だ。 左翼党がそのニッチな在り方を維持し続けるなら、その潜在力は発揮されないままだろう。ウクライナへの武器供給を継続するかどうかという問題に関しては、左翼党の有権者の多くは党自体よりもはるかに現実的である。忘れてはならないのは、国民政党制以降の民主主義においては、気分の変動は上向きにも下向きにも極端であるということ。
(機械翻訳を用い、適宜修正した)
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion14226:250518〕