NHK会長職に見習い期間はない~視聴者コミュニティ、改めて籾井会長の罷免を申し入れ~

著者: 醍醐聡 だいごさとし : 東京大学名誉教授
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「安倍川の水と百田で実る籾」  神奈川県 古谷光郎
 今日の朝日川柳に載った一首である。
 籾井NHK会長はさる125日の就任記者会見で、「従軍慰安婦はどこの国でもあったこと」、「領土問題で政府が右と言っているときにNHKが左と言うわけにはいかない」、「特定秘密保護法は通ってしまったからしょうがない。カッカしない方がよい」など、国際放送に関する放送法の規定についての無知をさらけ出し、放送の自主自律を生命線とする組織の長としてあるまじき暴言・迷言を連発した。
 これに続き、26日には百田尚樹経営委員が選挙期間中の都議選で特定の候補者の応援演説に立つという異例の行動を行った。さらに、経営委員就任後も安倍首相の応援団を公言してはばからない長谷川三千子氏が新右翼の活動家で、朝日新聞東京本社で拳銃自殺した野村秋介氏について、「神にその死をささげた」などと讃える一文を野村氏の追悼文集に寄稿していたことがわかった。
 このうち、長谷川氏の後段の追悼文は経営委員就任前のもので、それ以外は経営委員に就任後ではあるが職務外の場での発言である。この点を理由に管官房長官もNHK経営委員会事務局も個人としての発言であり、問題とするにあたらないと述べた。本当にそうなのか?
 両経営委員の一連の言動については目下、私も共同代表の1人になっている「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」で責任の問い方を検討中なので、詳細は会としての見解が定まった時に述べる。ここで簡潔に私見をいうと、NHK経営委員といえども政治活動の自由が保証されているのは言うまでもない。しかし、不偏不党、政治的公平・公正、多様な意見の反映を基本原則とするNHKの役員で、しかも会長以下執行機関の役職員の職務の執行を監督する幅広い権限を持つNHK経営委員会の構成員という職務上の地位、権限を考慮すれば、NHK経営委員にも政治活動の自由が無制限に認められるとは考えられない。
 むしろ、いかに職務外とはいえ、公衆の面前で特定の政党なり政治家を積極的に応援するというきわめて党派性の強い発言をしたり、NHK経営委員であることを断った上で時の首相の応援団と自己紹介したりするとなれば、そうした発言を知った国民は当該経営委員の主義主張が職務遂行にも投影するのではないかという疑念を持つのは当然である。また、NHKの議決機関の構成員がそうした言動を繰り返すとなれば、NHKの放送自体への信頼も揺らぐことになるから、職務外での個人的発言で済まないのは当然である。

 
NHK
会長職に見習い期間はない
 視聴者コミュニティは2人の経営委員の言動を問うのに先立って、まずは、籾井会長の就任記者会見や国会質疑の場での数々の暴言・迷言を取り上げ、そこで露呈した同氏の資質に照らして、籾井氏はNHK会長の任に堪えないと判断し、昨日、26日、改めて同氏をNHK会長から罷免するよう、会長の任免権を持つNHK経営委員会に申し入れ文書を提出した。
 なお、会長就任会見の場での籾井氏の一連の暴言、迷言は個人的見解を述べたものであり、直ちに撤回したのだから、問題とするにあたらないという意見や、今回はともかく、2度目は容認しない、などという意見が経営委員会内外にあったと伝えられている。
 しかし、経営委員会が籾井氏をNHK会長に選任したのは、選考時点で同氏が公共放送の理念を理解する資質があると判断したからである。その意味で、籾井氏の個人的見識、資質を問題にしたのである。そうであれば、就任早々、籾井氏が公共放送のイロハを理解しない発言を連発したのだから、同氏にそもそもNHK会長としての任を全うする資質がなかったことになり、同氏をNHK会長に任命した経営委員会の不明、責任も厳しく問われなければならない。
 なお、今回の発言だけで解職とまではしないという意見についていうと、そもそも、NHK会長職に「見習い期間」があるわけではない。会長に就任した直後から籾井氏の言動は公共放送のトップの見解として国内外を駆け巡り、評価にさらされるのは言うまでもない。この意味で、NHK会長職に「お試し期間」があるかのような発言はこの職の重みを理解しない発言であり、通用するものではない。

NHKは籾井会長発言をなぜ報道しなかったのか
 なお、昨日、視聴者コミュニティは籾井会長の罷免を求める経営委員会宛の申し入れと併せて、最近のNHKの放送に現れた2つの問題、①籾井会長の就任記者会見での問題発言についてNHK128日までニュース番組で一切報道しなかった問題、②原発問題をテーマにしたラジオ番組を東京都知事選のさなかだからと言う理由で放送中止にした問題、について、それぞれその理由を質す文書を籾井勝人会長・石田研一放送総局長宛てに提出した。
 以下、それぞれの申し入れ文書のPDF版のURLNHK経営委員会宛の文書の全文を掲載する。

 NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ発、NHK経営委員会宛て
  「改めて籾井NHK会長の罷免を求める申し入れ(回答要望付き)
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/kaicho_himen20140206.pdf

 NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ発、籾井NHK会長・石田放送総局長宛て
  「最近のNHKの放送番組に関する質問書」
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/nhk_ate_situmon_20140206.pdf

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                         201426
 NHK
経営委員会御中
 
改めて籾井NHK会長の罷免を求める申し入れ(回答要望付き)
               NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ
                    共同代表 湯山哲守・醍醐 聰

 貴委員会におかれましては、日頃より、NHKの公共放送として充実をはかるためご尽力されていることと存じます。
 当会は127日に貴委員会宛に文書を提出し、その中で次の3点を申し入れました。
 1 125日に開かれた会長就任の記者会見の場で一連の発言によって、NHK会長の職に不適格な人物であることが明瞭になった籾井勝人氏をNHK会長職から解任するか、籾井氏に辞職を勧告していただくこと。
 2. 就任早々、言論・報道機関の責任者としての自覚のなさをさらけ出す発言をするような人物を選任した貴委員会の任命責任を十分に協議され、その議事録を全面的に公開していただくこと。
 3. 現在のNHK会長選考のシステムを、視聴者に開かれた、より透明なものにするよう抜本的に改革するための第一歩として、NHK会長選考のあるべき仕組みについて、広く視聴者から意見を求める機会(パブリックコメントや公聴会の開催)を近々に設けていただくこと。

 以上のような申し入れをして以降、128日に開催された貴委員会での籾井会長発言をめぐる審議の模様が報道され、さらに131日には衆議院予算委員会に籾井会長が招致されて、質疑が交わされました。これらの新たな情報にもとづいて、改めて後掲の申し入れをいたします。これらについて、27日付けの上記の3点の申し入れと併せ、215日までに別紙宛に文書で回答をお送りくださるようお願いいたします(先日の申し入れでは210日までに回答をいただくようお願いしましたが、上記23の申し入れと今回の申し入れに対するご回答を215日までと変更させていただきます)。

 籾井会長は125日の記者会見で、NHKが行う国際放送に関し、「領土問題については明確に日本の立場を主張するのは当然のこと。政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」と発言されました。こうした発言は「放送法」第65条で定められた、NHKが実施する国際放送は、明文にあるとおり、総務大臣からNHKに対する要請であって、NHKから言えば、それに応じるよう努める努力目標であって義務ではないこと、応じる場合も、放送番組の編集の自由に配慮すべきことをまったく理解しないものでした。
 ところが籾井氏は131日の国会での質疑において、この点を質された場面でも、国際放送はNHKの義務かのように答弁し、「右」「左」を「赤」「白」に訂正するという意味不明の答弁をしました。
 また、25日の会見での発言のどの部分を撤回したのかについても、「従軍慰安婦」に関する部分だけだったのかのような答弁をする一方、「全部取り消した」とも発言し、正確な真意はいまだ不明のままです。
 国会での籾井会長の答弁は終始、背後に控えたNHK職員から差し出されるメモを頼りにしたもので、「放送法」はもとより、公共放送に関する同氏の理解の欠落が露呈したものでした。
 これらの発言に接したNHK幹部からは「あの従軍慰安婦発言は無知すぎる。同じ組織の人間として恥ずかしい」という感想が出され、ある経営委員は「個人的な発言なので今回は支える。だが、2度目はない」と発言したと伝えられています(『西日本新聞』2014128日)。
 しかし、NHK会長に「見習い期間」や「試行期間」があるわけではありません。就任後は即、その言動にNHKのトップとしての責任が問われるのです。
 貴委員会はひとまず個人的見解として収拾するとされましたが、貴委員会内の指名部会で同意された「会長資格要件」は選考時点での籾井氏の個人的見識なり資質なりを問うたものですから、「従軍慰安婦はどこの国でもあった」と述べて当時の政府や軍が関与した戦時性暴力を是認するかのような籾井氏の個人的見解こそが問われなければならないのです。当会は、そのような人権意識の持ち主が「放送を公共の福祉に適合するように規律し」、「放送が健全な民主主義の発達に資するようにする」(「放送法」第1条)職責を担えるとは到底、判断できません。

申し入れ

 「放送法」は第55条で、「経営委員会は、会長、監査委員若しくは会計監査人が職務の執行の任に堪えないと認めるとき、又は会長、監査委員若しくは会計監査人に職務上の義務違反その他会長、監査委員若しくは会計監査人たるに適しない非行があると認めるときは、これを罷免することができる」と定めています。
 当会は上記のような理由から、籾井勝人氏はNHK会長の「職務の執行の任に堪えない」人物であると判断し、同氏をNHK会長職からすみやかに罷免するよう求めます。
                                     以 上

 

初出:「醍醐聡のブログ」より許可を得て転載 http://sdaigo.cocolog-nifty.com
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 http://www.chikyuza.ne/
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