SJJA& WSJPO【西サハラ最新情報】378 サラー 西サハラ難民アスリート ⑨ペルソナ・ノン・グラータ(許されざる者)

 <ペルソナ・ノン・グラータ(許されざる者)>とは、ラテン語で<好ましくない人物>あるいは<許されざる者>を意味します。 この言葉は、1961年に締結された「外交関係に関するウィーン条約」第9条に出てきます。 具体的には、派遣された外交使節または外交官のような人に対して、受け入れ国が好ましくないと判断した場合、派遣国に<persona non grata(ペルソナノングラータ)>と通告し、国外追放することができるとする外交用語です。 難民アスリート・サラーは、外交官でもないのに、モロッコから<ペルソナ・ノン・グラータ(許されざる者))>というレッテルを貼られてしまいました。 

モロッコのマラケシュ空港で強制送還されたサラー : 
「2012年6月13日、モロッコのマラケシュ国際空港で、アマイダン・サラーがモロッコ空港警察に拘束され、27時間の尋問後に出発地パリへ強制送還された。サラーと兄弟たちはフランスに政治亡命中で、フランス当局から許可を得てモロッコ占領地.西サハラの家族を訪問しようとしていた」と、西サハラ作家協会会長(当時)のマライニン・ラホールが写真を付けて報せてくれた。その時、筆者は初めてフランスで訓練している西サハラ難民アスリート・サラーの存在を知った。<難民>といっても、サラーはアルジェリアにある西サハラ難民キャンプに住む<難民>ではない。フランスに亡命した、フランスが法的に保護する<難民>だ。フランス政府発行の難民移動許可書(Titre de voyage pour refugie )は、フランスに住むジプシーに出す許可書と同じで、<難民>として庇護されている。
「モロッコ空港警察は、国王に陳謝しろと迫った。僕が国王反逆の罪を認め、心を入れ替えて国王に忠誠を誓ったら、モロッコサハラ(西サハラのモロッコ式呼称)に入れてやってもいいと、言った。そして、フランス政府発行の許可書や身分証明書をはじめ、僕の所持品を全部取り上げた。入れ替わり立ち代わりモロッコ取り調べ官たちが登場し、僕を眠らせずに27時間も尋問を続けた。が、僕は彼らに屈しなかった。結局、僕たち兄弟はパリに強制送還され、モロッコのマラケシュから故郷西サハラのラユーンに飛ぶことはかなわなかった」と、サラーは述懐する。サラーはモロッコ当局から、「ペルソナ・ノン・グラータ(許されざる者)」というレッテルを貼られた。
「同行した兄弟というのは、アバチカの事?」と、筆者は遠慮勝ちにサラーに聞いた。サラーは、「そうだ」と、短く答えた。抜群の運動能力を持つ弟アバチカを、サラーは後継者にしようと考えていた。が、追放事件から3か月後に、アバチカは亡命先のフランスで何者かに暗殺されてしまう。(参照<難民アスリート➅ サラーの家族に連座罰>)

モロッコ占領地・西サハラのラユーン空港で再び強制送還されたサラー :
2013年7月18日,スペイン・カナリア諸島州都のラスパラマス空港で、サラーは地元  テレビのインタヴューに答えた。「ラスパラマス発の飛行機でラユーン空港に到着したら、モロッコ空港警察の係官が待っていた。有無を言わさず僕は空港取調室に連行された。僕は、乱暴に連行されなければならない理由を聞いた。お前は、<ペルソナ・ノン・グラータ(許されざる者)>だからだと、答えた。取調室で、僕はフランス政府から許可を貰って飛行機に乗ったんだと説明した。没収されたフランス政府発行の書類を見るように言ったが、係官は腕を組んだまま突っ立っていた。モロッコ占領地・西サハラのラユーンに来たのは、病気の父を見舞い家族に会うためだと言っても、取調官は全く僕を無視した。そして、この取調官も<改悛して国王殿下に忠誠を誓え>と、命令した」と、サラーは西サハラ訛りのアラビア語でモロッコ空港警察の扱いを非難した。「結局、僕はこの出発地・ラスパラマス空港に強制送還された。僕はフランス政府発行の身分証明書で、EU諸国に出入国している。今回のラユーン旅行は、父の病気見舞いだ。難癖をつけて拒否するモロッコは、国際法に違反するだけでなく非人道的な人でなしだ」と、サラーは眉間にしわを寄せ、厳しい表情で語った。

ラスパラマスで取材に応じるサラー

 ラスパラマスのマスコミやネット新聞が、サラーの強制送還事件を伝えた。ラスパラマスはラユーンから約200キロメートルと、モロッコ占領地・西サハラに一番近いスぺインだ。モロッコ占領地・西サハラのラユーンから空路でラスパラマスに脱出する西サハラの被占領民が、最近、増えている。ラスパラマスには西サハラ難民政府が代表部を置き、NGOの西サハラ支援団体も活発に活動している。事件の報道があって2週間後の8月6日にYoutubeなどを通じて、<サラーを助けるキャンペーン>が始まった。「私たちは西サハラ独立のため走っている、アマイダン・サラーに連帯します」という言葉に始まり、「サハラ・リブレ(サハラの解放)」とVサインで結ぶ映像メッセージが、Youtubeに流された。
お腹が出た初老の男性が西サハラ国旗を掲げて走ったり、主婦が陸上競技場に西サハラ国旗を広げたり、子供が西サハラ国旗を体に巻き付けたり、家族一同でリレーのバトンつなぎをしたり、、たくさんのスペイン人たちが投稿した。
 2009年10月、サラーと同様に<ペルソナ・ノン・グラータ(許されざる者)>のスタンプを押されてモロッコ占領地・西サハラのラユーンからラスパラマス飛行場に強制送還された平和活動家アミナト・ハイダル女史が、モロッコに抗議してハンガーストライキを決行した。20日間のハンガーストライキで彼女はモロッコに勝った。その時も、ラスパラマスの人々は、限りなく彼女を支えた。

ペルソナ・ノン・グラー (許されざる者) 北欧に入る :
 モロッコからペルソナ・ノン・グラータ(許されざる者)のスタンプを押されて追放されたサラーは、その2か月後のある夕刻、北欧の王国ノルウェーに降り立った。夏とは言え肌寒く、慌ててサラーはウィンドブレーカーを羽織った。到着ロビーではノルウェー駐在の西サハラ難民政府代表部やノルウェーの西サハラ支援団体などが、西サハラ国旗と横断幕で賑やかにサラーを迎えてくれた。8月6日、首都オスロで行われた10キロメートル・ロードレースでサラーは優勝した。さらに9月21日には、オスロで開催されていた西サハラ・バザールに参加し、西サハラ砂漠の文化を宣伝した。サラーは、ノルウェーにはノーベル平和賞委員会がノルウェーにあり、ノーベル賞のうちで平和賞だけがここで決定されることを知っていた。 その年のノーベル平和賞に、モロッコ占領地・西サハラのラユーンで活動するアミナト・ハイダル女史がノミネートされていたからだ。北国のノルウェーに、砂漠の民・サラーは、限りなく親近感を抱いていた。.
 領事条約第二十三条(ペルソナ・ノン・グラータ)を以下にそのまま転載しておく。
「接受国は、いつでも、派遣国に対し、領事官である者がペルソナ・ノン・グラータであること又は領事機関の他の職員である者が受け入れ難い者であることを通告することができる。派遣国は、その通告を受けた場合には、状況に応じ、その者を召還し又は領事機関におけるその者の任務を終了させる。 派遣国が1の規定による義務を履行することを拒否した場合又は相当な期間内に履行しなかつた場合には、接受国は、状況に応じ、1の規定に該当する者の認可状を撤回すること又はその者を領事機関の職員として認めることをやめることができる。 接受国は、領事機関の構成員として任命された者について、接受国の領域に到着する前に又は既に接受国にあるときは領事機関における任務を開始する前に、受け入れ難い者であることを宣言することができる。この場合には、派遣国は、その者の任命を取り消す。 1及び3の場合において、接受国は、派遣国に対し自国の決定の理由を示す義務を負わない」

 少々、長めではありますが、<ペルソナ・ノン・グラータ(許されざる者)>を読んでいただけましたか? どうこじつけても、サラーにこのレッテルは貼れないと思いませんか? 

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*難民アスリート・サラーの最新ドキュメンタリーがYoutubeにアップしました。
https://youtu.be/jz7lFr2c_Jk スペイン語ですが、西サハラ難民キャンプが見られます。

*占領地からの脱出―「アリ 西サハラの難民と被占領民の物語」只今発売中です。
著者:平田伊都子、写真:川名生十、画像提供:李憲彦、川上リュウ、SPS、
本:A5判横組みソフトカバー、4頁のカラー口絵、本文144頁
発行人:松田健二、
発行所:株式会社 社会評論社、東京都文京区本郷2―3―10、TEL:03-3814-3861
2020年2月3日 初版第一刷発行  定価 税抜き2,000円

*1月22日、「ニューズ・オプエド」で#1323<アフリカ最後の植民地>を放映しました。
YouTube オプエド平田伊都子 URL https://www.youtube.com/watch?v=citQy4EpU-I

Youtube2018年7月アップの「人民投票」(Referendum)をご案内。
「人民投票」日本語版 URL :https://youtu.be/Skx5CP3lMLc
「Referendum」英語版 URL: https://youtu.be/v0awSc25BUU

Youtubeに2018年4月アップした「ラストコロニー西サハラ」もよろしくお願いします。
「ラストコロニー西サハラ 日本語版URL:https://youtu.be/yeZvmTh0kGo
「Last Colony in Africa]  英語版URL:   https://youtu.be/au5p6mxvheo

WSJPO 西サハラ政府・日本代表事務所 所長:川名敏之     2020年7月10日
SJJA(サハラ・ジャパン・ジャーナリスト・アソシエーション)代表:平田伊都子

〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion9930:200711〕