「昨日のオリンピックは明日のオリンピックではない」という名言を発したのは、IOC委員でパリ2024オリンピック組織委員のギィ・ドゥリュ元フランス・スポーツ大臣です。 彼は、<2020オリンピック>延期決定後の2020年4月26日、フランスの公共放送グループ「France Info(フランス・インフォ)」で、オリンピックについての自論を披露しました。 新しいオリンピック案には、「プログラムに追加するスポーツの数を制限すること」とか、「今ある施設を利用するため、他国での競技を認める」など、、前述の名言と共に、興味あるテーマがたくさんあります。
⑫昨日のオリンピックは明日のオリンピックではない
昨日のオリンピック :
「オリンピックで重要なのは、勝つことではなく、参加することに意義がある、、」とは、近代オリンピック創設者・クーベルタン男爵(1863~1937)の名言とされている。が、実は、アメリカのエセルバート・タルボッタ・ペンシルバニア大司教が、アメリカ選手団を激励するために発した言葉だった。その台詞をクーベルタン男爵が、オリンピック晩餐会で借用したら、クーベルタンの名言となってしまった。しかし、<今日のオリンピック>では、クーベルタン名言は全く無視され、「オリンピックは参加することではなく、勝つこと」と、なってしまっている。
フランス帝国時代にパリで生まれたクーベルタン男爵は教育者となり、イギリス・パブリックスクールの心身を鍛える厳しい教育を範とした。ヒットラーの強さと規律に感銘し、
ナチス・ドイツが1936年のベルリン・オリンピックで示した情熱に感動した。彼は社会進化論の信奉者であり、優れた人種は劣等人種に社会的恩典を与えなくてもよいと考えていたそうだ。彼の後継者だったアベリー・ブランデージ(アメリカ人IOC 会長任期1952~1972)や、フアン・アントニオ・サマランチ(スペイン人、独裁者フランコのファランヘ党員)も、ナチ寄りの政治思想を持っていた。オリンピック本体は、当初から政治的だった。
「オリンピックは政治と関係ない」?と、ブランデージIOC会長(当時)が、黒人差別反対を訴えた金メダリストと銅メダリストを、オリンピックから永久追放した。時は1968年10月17日夕刻、所はメキシコシティ・オリンピック。男子200メートルを19秒の世界記録で優勝したアフリカ系アメリカ人のトミー・スミスと2位のオーストラリア人ピーター・ノーマンと3位のアフリカ系アメリカ人ジョン・カーロスの3人はOPHR(Olympic Project for Human Rights人権を求めるオリンピック・プロジェクト)のバッジをつけて表彰台に上がった。アメリカ国歌が演奏され星条旗が掲揚される間、二人のアフリカ系アメリカ人は首を垂れ、黒の手袋をはめた拳を高々と突き上げ<ブラック・パワー・サリュート(アメリカ公民権運動を支持)>の意思表示をした。
二人は靴を履かず靴下で表彰台に上がり、スミスは黒人の象徴である黒いスカーフを、カーロスは白人至上主義者のリンチで死んだ黒人を悼むためロザリオを着けていた。
アメリカ人のブランデージ会長(当時)は、即刻、二人をアメリカ・ナショナルチームから除名し、オリンピック村から追放した。IOCの広報官は、2人のパフォーマンスが「オリンピック精神の基本原理に対する計画的で暴力的な違反」と、断定した。
スミスとカーロスは、事件後アメリカ・アマチュア・スポーツ界から追放された。が、スミスはオリンピック後、アメリカンフットボールチーム・シンシナティ・ベンガルズに入団した。その後、オーバリン大学の体育学助教授に着任した。現在はコーチや講演をしながら、黒人の権利獲得運動を続けている。カーロスは、オリンピック直後、陸上競技を続け、男子100mの世界記録に並ぶ記録を打ち立てた。が、1970年にはアメリカンフットボールチーム・フィラデルフィア・イーグルスに入団した。しかし、怪我や妻の自殺などの不幸が続いた。現在はパームスプリングスの学校で陸上のコーチをしている。
ブランデージ会長(当時)は、オリンピックにプロフェッショナリズムが持ち込まれることを忌み嫌った。1972年冬季札幌オリンピックでは、オーストリアのカール・シュランツが、プロであるとの理由で競技から排除された。<反ユダヤ主義・ブランデージ>の名を世界に知らしめた事件として、1972年夏季ミュンヘン・オリンピック襲撃がある。1972年9月5日4時40分、オリンピック開催中にパレスチナ武装組織<黒い九月>が選手村を襲い、ユダヤ人国家であるイスラエルの代表選手11人を殺害したのだ。事件が終結した真夜中、ブランデージはオリンピック競技の継続を命令した。ブランデージへの非難は多かったが、オリンピックから去る選手はほとんどいなかった。反ユダヤ主義のブランデージは9月6日午前10時から行われた追悼式の演説で、殺されたイスラエルの選手には一切触れず、オリンピック精神の強さを自画自賛した。同日9月6日午後4時50分、34時間ぶりにミュンヘン・オリンピックは再開された。
ブランデージはミュンヘン・オリンピック後の1973年に、IOC会長を退いた。ブランデージの退陣と共に、1974年ウィーンでのIOC総会でオリンピック憲章からアマチュア条項が削除された。プロ選手の参加は各競技の国際競技連盟に任されることになった。
今日のオリンピック :
<近代オリンピック>は創設者クーベルタンを継ぐ、規律あるナチズムに倣った精神主義だったようだ。<現代オリンピック>は、儲かるオリンピックを目指す<商業主義>と言える。オリンピックを<アマチュアリズム>から<プロフェッショナリズム>へと、180度の変換をさせたのは、1984年のロサンゼルス大会は画期的な大会で、オリンピックをショービジネス化し、約2億1500万ドルの黒字を上げた。スポンサーを「一業種一社」に絞りスポンサー料を吊り上げ聖火リレー走者からも参加費を厳しく徴収し、大会進行の雑用はボランテイアーに無料奉仕させ、商売商売で黒字を達成した。「オリンピックを最高の選手が集う場にする」というIOCの方針で、プロ選手の参加が奨励された。オリンピックは回を重ねる毎に、<より強烈に、より派手に、よりショッキングに>なっていった。
当然、IOCも世間も、競技者より金を出すテレビ局やスポンサーの意向を優先させる。アメリカのテレビ局NBCは、<2020年東京オリンピック>の競技時間を、局などが希望する放映時間に合わさせたし、アメリカ国内のプロスポーツスケジュールがファーストで、オリンピック開催時期を酷暑の7~8月に設定させた。金を出す者がファーストの<今日のオリンピック>を象徴している。
公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会によると、オリンピックのスポンサーシッププログラムは4つの階層からなるそうだ。最上位のものがIOCのオリンピックパートナープログラム。基本的には4年単位の契約で1業種1社に限定されており、毎回計9〜11社ほどが契約を結んでいる。東京2020をサポートしている最上位の<オリンピックパートナープログラム>は、コカ・コーラ、アトス、ブリヂストン、GE、ダウ、マクドナルド、パナソニック、P&G、トヨタ、ビザの各社だ。最上位の<オリンピックパートナープログラム>は指定された製品カテゴリーの中で独占的な世界規模でのマーケティング権利と機会を受ける事ができる。また、IOCや各国オリンピック委員会、オリンピック組織委員会といった関係団体と共に商品開発などをする事も可能である。
その他の3つの階層は国内向けのスポンサープログラムになり、国内最上位のゴールドパートナー(一社約数十億円)、オフィシャルパートナー(一社約数億円)、オフィシャルサポーターから構成されている。中核となる国内契約スポンサーは、<東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会>を含む、6年間に及ぶオリンピック・パラリンピックの日本代表選手団に対するパートナーとして、呼称やマークの使用などをはじめとした権利を行使することが可能となる。
明日のオリンピック :
<明日のオリンピック>とは、日本が挑戦している<コロナ禍のオリンピック>だ。
2021年オリンピックを<2020東京オリンピック>と名称にこだわり続ける、律儀な日本政府のオリンピックだ。一般庶民は些かウンザリしている。が、東京オリンピックのスポンサーのため、日本政府はコロナ感染状況を操作し、ワクチン獲得のため奔走している。
しかし、完全な形を目指した日本政府の<昨日のオリンピック>は、もう存在しえない。
<明日のオリンピック>は、必然的にコロナ対策優先の国際スポーツ競技大会となりそうだ。そんな制約だらけの中で、一般庶民も喜んで後押しできる<東京オリンピック>を、工夫と創意で作って欲しい。思いつくまま庶民のお願いを挙げてみる。
① 東京オリンピック誘致の際に挙げた、<福島復興オリンピック>という旗を、再び、
高々と掲げて欲しい。
➁ 競技者の人格を尊重して欲しい。競技者の意見に耳を傾けて欲しい。競技者はスポンサーの奴隷ではない。<ブラック・ライブズ・マター>や<香港民主化運動>がスポーツ界にも広がっている。運動に共感する競技者を、真摯に受け止めて欲しい。
➂ 商業主義のオリンピックが、ほんの僅かな人件費を節約するため、<ボランテイア>などという耳障りの良い言葉で騙して、庶民をタダ働きさせるのは、止めて欲しい。
、、、まだまだあります。が、きりがないのでここまでとします。
近代オリンピック創設者クーベルタン男爵が絶賛した<ナチヒットラー・ベルリンオリンピック>で、孫基禎(そんきてい)選手が日本代表として男子マラソンで優勝した。孫選手は朝鮮人だったが、当時の母国は日本の占領下にあり、日本代表として走らざるを得なかった。モロッコ代表として走らざるを得なかったサラーの悔しさに通じるものがある。
2019年、元フランス・スポーツ大臣ドゥリュ氏は、IOC国際関係部門ディレクターのソフィ・ローラン氏とともに「オリンピック精神を、ユネスコの無形文化遺産に登録を」と、「パリ2024組織委員会」に提案しました。 そして2019年10月、同委員会はマクロン大統領とIOCのバッハ会長に同案を提出しました。 が、提案はコロナ襲来前のこと、、ドゥリュ氏は自らの提案を自らの名言によって<昨日のオリンピック>と、葬り去ることができるのでしょうか?
フランスでは今もコロナ感染者が増え続け、2024年のパリ・オリンピックを危ぶむパリ庶民の声が、広まってきています、、
自分自身の参加も未定なのに、東京オリンピックを心配するサラー
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*難民アスリート・サラーの最新ドキュメンタリーがYoutubeにアップしました。
https://youtu.be/jz7lFr2c_Jk スペイン語ですが、西サハラ難民キャンプが見られます。
*占領地からの脱出―「アリ 西サハラの難民と被占領民の物語」只今発売中です。
著者:平田伊都子、写真:川名生十、画像提供:李憲彦、川上リュウ、SPS、
造本:A5判横組みソフトカバー、4頁のカラー口絵、本文144頁
発行人:松田健二、
発行所:株式会社 社会評論社、東京都文京区本郷2―3―10、TEL:03-3814-3861
2020年2月3日 初版第一刷発行 定価 税抜き2,000円
*1月22日、「ニューズ・オプエド」で#1323<アフリカ最後の植民地>を放映しました。
YouTube オプエド平田伊都子 URL https://www.youtube.com/watch?v=citQy4EpU-I
Youtube2018年7月アップの「人民投票」(Referendum)をご案内。
「人民投票」日本語版 URL :https://youtu.be/Skx5CP3lMLc
「Referendum」英語版 URL: https://youtu.be/v0awSc25BUU
Youtubeに2018年4月アップした「ラストコロニー西サハラ」もよろしくお願いします。
「ラストコロニー西サハラ 日本語版URL:https://youtu.be/yeZvmTh0kGo
「Last Colony in Africa] 英語版URL: https://youtu.be/au5p6mxvheo
WSJPO 西サハラ政府・日本代表事務所 所長:川名敏之 2020年8月7日
SJJA(サハラ・ジャパン・ジャーナリスト・アソシエーション)代表:平田伊都子
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion10007:200807〕