ええカッコしいのサラーが、「僕はフランス人になるんだ!」と、メールをよこしてバシールのメールアドレスを<僕の後がま>とばかりに、付け加えました。 続くメールは、「もう僕は難民じゃない!!」と、三行半でした。 一か月ほど前の事です。 「フランス国籍取得、おめでとうさん。東京で会えなくて残念!」と、短い返信をしました。 が、真相は、体力的に能力的に自信がなくなったのだと思われます。 サラーは、FOC (フランス・オリンピック委員会)から2006年以降の公式国際大会記録がないと難民五輪選手団への推薦を断られました。 それでもIOC(国際オリンピック委員会)本部は、2018年以降の出場記録を出すようにと再三、声をかけてくれたのに、サラーは返信しませんでした。 そして、突然のギブアップです。
正直に、「僕はもう走れない」と言ってしまえば、カッコよかったのに、、
左に西サハラ難民アスリート第2号のバシール、右に第一号のサラー
① 西サハラ難民アスリート・バシール:
3月の半ば、突然、バシール本人からメールがきた。「僕はバシール、スペインに亡命中
の西サハラ難民アスリートです。友人のサラーから君のメールアドレスをもらいました。難民五輪選手団に入りたくて、UNHCR(国連難民高等弁務官)に問い合わせたのですが、返事がありません。応募方法など教えてください」との第一報だった。すぐに筆者は、「IOC(国際オリンピック委員会)、SOC(スペイン・オリンピック委員会)などにメールを送り、そのメール内容を転送するように」と、返信した。
3月17日、バシールから各組織にメールを送ったと連絡が入り、内容が転送されてきた。
「僕は1994年1月5日に西サハラ難民キャンプで生まれた西サハラアスリートで、2006年からスペインに亡命しています。身長175㎝で体重は66㎏です。陸上400メートルと800メートルに関する僕の記録を用意しました。僕の記録は、難民五輪選手の記録を上回ります。僕は難民五輪選手団の一員になりたいと願っております。応募方法をお教えください」
添付されたバシールの主なスポーツ記録を、下に記しておく。
「400メートルの最高記録:53.10”、800メートルの最高記録:1’55.03”
2013年、スペイン地方の山岳レースで優勝、
2015年、スペイン・セビリアのマラソンで優勝、
2017年、市民レースで地区優勝、
2017年と2018年、西サハラ難民キャンプのサハラ・マラソンで準優勝
2019年、アルジェリアの青年大会で、400mと800mで優勝、
2020年、スペイン地区大会の400mと800mで優勝、
② CEAR(スペイン難民救済機関)は西サハラ難民を知らない!?:
「僕は西サハラ難民キャンプで生まれ育ち、走ることが大好きな自分を発見しました。
走って学校に通い、先生方も応援してくれました。世界に僕らの事を知ってもらうには国旗を掲げて走ることが一番だと思いましたが、スポーツ設備がないうえに猛暑と砂漠気候という難民生活の現実に、心が萎えました。そんな時、僕はスペインに亡命してスポーツに励む機会を得ました。いつの日か故郷を代表してオリンピックに出場できるかもしれないという、希望に燃えています]と、バシールは走る事への想いを綴っている。
そんなバシールから3月23日、COE(スペイン・オリンピック委員会)から返事がきたと、メールが入った。最初にメールを送ってその返信が僅か数日後という速さに、「やっぱりスペインはかっての西サハラ宗主国だから西サハラ難民に関心があるのだな?」と期待した。サラーの時は、COF(フランス・オリンピック委員会)から最初で最後の返事がきたのは、5か月後だったからだ。バシールのメールを開くと、「CEO(スペインオリンピック委員会」から、CEARに連絡を取れとの指図があった。ところが、CEARの連中はサハラのことを全く知らなかった。僕は彼らに西サハラの初歩の初歩を教え、彼らに僕の経歴を送り、僕が西サハラ難民だということを伝えた。そして、難民キャンプでの西サハラ難民の日常生活がどんなものなのかを、説明しなければならなかった」と、意外な事実が書かれてあった。
CEARとは、1979年に創設された、NGOのスペイン難民救済派遣団のことだ。その使命は、難民・移民・流民の権利を守ることとある。西サハラは1884年から1975年の「マドリッド秘密西サハラ分譲」まで、名実ともにスペインの植民地だった。1976年にスペインは事務手続きもそのままに、スペイン植民地軍を勝手に撤退させた。西サハラ住民はこの時に難民となり、アルジェリアに逃げ込んだ。西サハラ難民の発生は、まさにスペインの無責任な植民地放置に起因する。その証拠に、国際行政上、西サハラはスペインの植民地なのだ。そのスペインの難民救済派遣団が西サハラを知らな~い?? 信じがたいことだが、スペイン難民担当者が西サハラ難民を知らないという真実をバシールのメールがばらしてくれた。
③ アントニー・ブリンケンVSアントニオ・グテーレス:
MAP(マグレブ・アラブ通信)やCORCAS(王立サハラ問題諮問評議会)やMWN(モロッコ世界ニュース)などのモロッコ・メデイアによると、3月27日、フランスのパリに、ヨーロッパ在住のモロッコ人団体がモロッコ王政官製集会に駆け付けたそうだ。彼らは「アルジェリアのテインドゥフに囚われている人々と連帯を」と、主張した。モロッコ王政新作戦の目的は、<西サハラ人を人質にしているアルジェリアとポリサリオ西サハラ難民政府の壊滅>だ。この王政作戦は、国連ニューヨーク本部や国連ジュネーブ本部でもモロッコ大使たちの手によって展開されている。
一方、モロッコ王政から非人道的テロ国家のレッテルを張られようとしているアルジェリアは、スペインにアルジェリア外務大臣サブリ・ブカドウンを送った。現職に就くまでアルジェリア国連大使を務めていたサブリ外務大臣はモロッコ外交団の手練手管に熟知している。「西サハラ紛争に関して、西サハラ植民地を放ったらかして退却した、スペイン宗主国に大きな責任がある」と、3月30日に訪問先のスペイン・マドリッドで、アルジェリア外務大臣サブリ・ブカドウンはスペインを非難した。
ワシントンではモロッコの西サハラ領有権を承認したトランプ発言を巡って、発言継承を求めるモロッコ王政と発言撤回を迫るアルジェリアが、バイデン米政権の周辺でロビー活動を活発化させている。モロッコは気候変動パリ会議の続きをマラケシュで開催したことを恩に着せ、ケリー気候問題担当補佐官にモロッコ支持を迫った。気候問題を最優先事項とするアントニオ・グテーレス国連事務総長を、3月29日、ワシントンのアントニー・ブリンケン米国務長官がバーチャルでニューヨーク国連本部に訪問した。ブリンケン米国務長官はグテーレス国連事務総長に、「空席になっている国連事務総長西サハラ個人特使を早急に任命するように、、」と急かした。米国務省報道官ネド・プライスは、「米国国務長官ブリンケンは、西サハラ紛争に関して、国連が主催する両当事者の政治交渉を支持している」と、付け加えた。
プライス米国務省報道官は、自ら公言するゲイの美男子です。 2020年12月10日の<
モロッコの西サハラ領有権を承認したトランプ発言>に決着がつくまで、ユーチューブでこの美男子にお目にかかることになります。 もとCIA職員で、共和党トランプ政権でも働いたという長身のプライスにご注目!
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「サラー西サハラ難民アスリート」の出版情報です。
著者:平田伊都子、写真構成:川名生十、画像提供:アマイダン・サラー、SPS、
定価:本体1,800円+税、
発行人:松田健二、
発行所:株式会社 社会評論社、東京都文京区本郷2―3―10、電話:03-3814-3861
同じ「社会評論社」が出版してくださった「ラストコロニー西サハラ(2015年)」、「アリ 西サハラの難民と被占領民(2020年2月)」にも、お目を通してください。
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Youtube2018年7月アップの「人民投票」(Referendum)もご案内。
「人民投票」日本語版 URL :https://youtu.be/Skx5CP3lMLc
「Referendum」英語版 URL: https://youtu.be/v0awSc25BUU
Youtubeに2018年4月アップした「ラストコロニー西サハラ」もよろしくお願いします。
「ラストコロニー西サハラ 日本語版URL:https://youtu.be/yeZvmTh0kGo
「Last Colony in Africa] 英語版URL: https://youtu.be/au5p6mxvheo
WSJPO 西サハラ政府・日本代表事務所 所長:川名生十 2021年4月1日
SJJA(サハラ・ジャパン・ジャーナリスト・アソシエーション)代表:平田伊都子
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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