「我々は、長らく救世主の出現を待ち望んでいた、、そんなところへ、非常に重要な人物の任命という朗報が入った」と、ステファン国連事務総長報道官がもってまわった前置きで、2021年10月6日の国連定例記者会見を始めました。
① スタファン・デミストラ新西サハラ国連事務総長個人特使:
「本日(2021年10月6日)、国連事務総長はイタリアのスタファン・デミストラを、
西サハラの個人特使に指名した。彼は2019年5月22日に辞任したドイツのホルスト・ケーラーの後を継ぐ。事務総長は、西サハラに関して新しい政治的道筋をつけたケーラー氏の、強く弛まぬ努力に謝意を表した。新個人特使は事務総長代理の名において、<グッド・オフィス>を提供するものと思われる。彼は両当事者を含む全ての関係者や利害関係者と共に、国連安保理決議2548(2020年)に則って、交渉に当たるだろう。君たちに、デミストラ氏が数十年間にわたる外交的政治的経験を積んできたことを、ことさら私から話す必要はないと思う」と、ステファン国連事務総長報道官は国連外交官の西サハラ国連個人特使任命を公表した。
「2年半以上も放置していた事務総長個人特使を突然任命したのは、何か新しい計画があってのことなのか?」と、アルジャジーラTVのジェームス記者が尋ねた。報道官は、「勿論、2年の空白を経て、ご承知のように、明るい見通しが出てきた。彼の指名に至るまで、13人の候補者に当たったと、記憶している。彼は、11月1日から事務所に入ると思う。当該地域に関して、大きな進展だ。お手並み拝見、、」と、答えた。
新西サハラ国連事務総長個人特使に正式任命されたイタリア人スタファン・デミストラ氏
② モロッコの反応:
10月6日、MAP(マグレブ・アラブ・プレス)モロッコ国営通信は、「アントニオ・グテーレス国連事務総長がモロッコ・サハラ(西サハラのモロッコ式呼称)の新個人特使に、イタリア・スウェーデン国籍のスタファン・デミストラを任命したと、報道官が水曜日に伝えた」と、発表した。そしてMAP(マグレブ・アラブ・プレス)モロッコ国営通信は、「モロッコは数週間前に、対峙する相手と同様に、この任命を吟味したうえで承諾した。デミストラは、元ドイツ大統領でホルスト・ケーラー前任者を継いで、国連が目指す<現実的で実現性のある持続可能なモロッコ・サハラ(西サハラのモロッコ式呼称)の政治的解決策>を追及していくべきだ。この解決策とは、2018年の国連安保理決議に沿って作成された国連事務総長案だ。モロッコとアルジェリアとモーリタニア、そして<ポリサリオ>と言われる団体によって、モロッコ・サハラ(西サハラのモロッコ式呼称)問題を検討していかねばならないとしている、、これまで20年間以上にわたる国連安保理決議が示しているように、彼ら国連関係者は完全に国連西サハラ人民投票を抹殺してしまった。それ故、再びこの和平案が再浮上することはない。この観点から、モロッコ王国の領有権と不可侵の領土権に基づく<地方自治権案>のみが、交渉の対象になってくる、、2007年にモロッコが提案したこの<地方自治案>は、17の国連安保理決議で承認されている」と、主張した。
モロッコは、「西サハラはモロッコ領土で国連が指定する<非自治地域>ではないのだから、国連のいう脱植民地化当該地には当たらない」と、従来の言い分を繰り返している。従ってモロッコは、<国連西サハラ人民投票>などあり得ないとしている。
③ ポリサリオ西サハラ代表の主張は?:
10月4日、国連脱植民地化第4委員会が国連本部で始まった。委員会は1960年の国連植民地独立付与宣言と国連総会決議に基づき、非自治地域に対して脱植民地化と独立を促している。西サハラ、アメリカ・サモア、バミューダ諸島、英国バージン諸島、米国バージン諸島、フランス・ポリネシア、グアム、など、17地域が国連脱植民地化委員会の対象になっている。委員会では138人が証言し、11月11日まで論争が続く。
10月6日、SPS (サハラ・プレス・サービス) は、スタファン・デミストラ氏の西サハラ国連事務総長個人特使正式承認を伝えた。そして、西サハラ解放区にあるビル・ラハル拠点から送られてきた <ポリサリオ・西サハラ代表>の声明を添付した。その要旨は、「西サハラの脱植民地化が、まさに平和で正当で持続可能な西サハラ紛争の解決に繋がる。
UN国連とAUアフリカ連合が保証する西サハラ人民の民族自決権と独立権は、議論の余地がない大原則だ。ポリサリオ西サハラ代表は、モロッコと共に承認した1991年の<国連西サハラ人民投票>の実施を信じ停戦に応じた。そして、モロッコが停戦違反をした2020年11月までMINURSOミヌルソ(国連西サハラ人民投票監視団)に惜しみなく協力してきた。、、
国際社会とUN国連とAUアフリカ連合などの西サハラ人民に対する支援を鑑みつつ、ポリサリオ西サハラ代表は、いかにして新国連事務総長個人特使が西サハラ人民の民族自決権と独立権の行使を可能にしていくのか、見極めていきたい」
1991年から今日までの30年間、「国連西サハラ人民投票をやるぞ!やるぞ!!」の希望を、鼻先にブラつかせられ騙されてきた西サハラの人々、、「もうこれ以上騙されないぞ」との警戒心が先に立って、手放しで新個人特使誕生を喜べない。
交渉はまだ始まっていない!
新西サハラ国連事務総長個人特使スタファン・デミストラ(1947年生まれ)の、父はイタリア人で母はスウェーデン人です。 イタリアとスウェーデンの国籍を持ち、英語、フランス語、イタリア語、スウェーデン語、アラビア語など数か国語に堪能な国連高級官僚です。 2000年から2001年、ローマで国連情報センター課長やWFP(世界食料計画)で要職を務めました。 2001年から2004年までは国連南レバノン事務総長個人代理人を、2007年から2009年には国連イラク事務総長個人特使、2014年から2019年まで国連シリア特使、、と、40年以上にわたり国連で働いてきました。
<国連西サハラ人民投票>を支持するアルジェリアは、早速、ラムタネ・ラマムラ外務大臣をイタリアに派遣しました。
<国連西サハラ人民投票>の運命やいかに?
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「サラー西サハラ難民アスリート」の出版情報です。
著者:平田伊都子、写真構成:川名生十、画像提供:アマイダン・サラー、SPS、
定価:本体1,800円+税、
発行人:松田健二、
発行所:株式会社 社会評論社、東京都文京区本郷2―3―10、電話:03-3814-3861
同じ「社会評論社」が出版してくださった「ラストコロニー西サハラ(2015年)」、「アリ 西サハラの難民と被占領民(2020年2月)」にも、お目を通してください。
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Youtube2018年7月アップの「人民投票」(Referendum)もご案内。
「人民投票」日本語版 URL :https://youtu.be/Skx5CP3lMLc
「Referendum」英語版 URL: https://youtu.be/v0awSc25BUU
Youtubeに2018年4月アップした「ラストコロニー西サハラ」もよろしくお願いします。
「ラストコロニー西サハラ 日本語版URL:https://youtu.be/yeZvmTh0kGo
「Last Colony in Africa] 英語版URL: https://youtu.be/au5p6mxvheo
WSJPO 西サハラ政府・日本代表事務所 所長:川名生十 2021年10月7日
SJJA(サハラ・ジャパン・ジャーナリスト・アソシエーション)代表:平田伊都子
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
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