2023年1月13日に始まった<第16回ポリサリオ戦線会議>が、閉会予定の1月17日になっても終わらず、48時間の延長になりました。 これまでに参加した時も、1日、2日の延長は当たり前だったので、気に留めませんでした。 が、さらに72時間の延長が発表された時、もめたのかな?と、いささか気になりました。
① 西サハラで初めての民主的大統領選挙:
過去、15回にわたって開かれてきた<ポリサリオ戦線会議>の最後には、大統領の信任が問われてきた。1973年にポリサリオ戦線を創設したエル・ワリが初代ポリサリオ戦線事務総長となり、1976年にSADR(サハラウィ・アラブ民主共和国)を建国し、自身が初代大統領に就任した。西サハラ独立運動を起こしたのはポリサリオ戦線で、その組織がSADRを創った。従って西サハラでは、ポリサリオ戦線事務総長がSADR大統領より先にくる。
しかし、SADR(サハラウィ・アラブ民主共和国)建国後わずか3か月の1976年6月9日、創設者エル・ワリはモーリタニア砂漠の戦場で惨殺されてしまう。後を継いだアブデル・アジズはポリサリオ戦線事務総長とSADR(サハラウィ・アラブ民主共和国)大統領を兼任した。アブデル・アジズは2018年5月31日に肺がんで病死するまで、4年毎に<ポリサリオ戦線会議>を開催し、<事務総長兼大統領>職の信任を得てきた。アブデル・アジズ逝去の後、ポリサリオ幹部会はブラヒム・ガリをポリサリオ戦線事務総長とSADR(サハラウィ・アラブ民主共和国)大統領に選んだ。
第15回ポリサリオ戦線会議でもブラヒム・ガリは<事務総長兼大統領>職の信任を受け、今回、初の<事務総長兼大統領>選挙に臨んだ。
2023年1月20日10時、前夜に選挙管理委員会が発表した候補者ブラヒム・ガリとバシール・ムスタファ・エル・サイードのどちらかを選ぶ投票が始まった。投票は午後1時に終了。投票数は1,870、そのうち1,816が有効で54が無効、ブラヒム・ガリが1,253票で69%を獲得し、対立候補のバシール・ムスタファ・エルサイードは563票で、ブラヒム・ガリが向こう3年間のポリサリオ戦線事務総長兼SADR(サハラウィ・アラブ民主共和国)大統領に選ばれた。
ポリサリオ戦線事務総長 兼 SADR(サハラウィ・アラブ民主共和国)
大統領に再選されたブラヒム・ガリ
② <ポリサリオ戦線事務総長兼西サハラ大統領>選挙に挑んだバシール:
<事務総長兼大統領>選挙の前夜、候補者のバシール・ムスタファ・エルサイードが<第16回ポリサリオ戦線会議>で演説を行った。彼は、西サハラが直面しているモロッコとの戦闘状況、政治的課題、外交的課題、などを説明し、モロッコ占領地での闘争戦略や西サハラ難民キャンプに忍び寄るモロッコ諜報員などにも言及した。そして、モロッコ南部やモロッコの大学で若者たちにモロッコ占領政策の残虐ぶりを、SNSは勿論、様々な手段で知らしめていく必要性があると強調した。さらに、「この選挙が終わったら、西サハラ人民は一丸となってポリサリオ戦線の下に、独立に向けて戦っていこう」と、参加者に語りかけた。彼の話しっぷりは穏やかで、選挙演説というより情勢講話のようで、難民や被占領民の共感するどよめきが心地よく会場に広がった。
バシール・エルサイードは西サハラ独立運動の創始者でカリスマ的指導者であるエルワリ・エルサイードの実弟だ。兄の志を継いで西サハラの人々を引っ張ってきた温厚なバシールが、ここにきて大統領選挙に立候補したのは、第三次世界大戦ムードに煽られず自分たちの独立運動を続けていこうと、訴えたかったからだ。バシールは外務大臣と大統領補佐官とモロッコ占領地大臣を歴任し、国連西サハラ人民投票の交渉では、故ハサンⅡ世モロッコ国王と対面交渉し、モロッコ国王に国連人民投票を承諾させた。1979年にモーリタニアと和平条約を結んだのも、バシールだった。外交交渉のつわものだ。
日本びいきのバシールを日本に招待しようとカンパを募り、エアーチケットを送り宿を予約し講演会場を抑えた。いよいよ来日まで1週間と迫った時、「悪いけど行けない」と、バシールから連絡が入った。パスポートの期限が切れていて、ビザが下りなかったのだ。
そんな人です!バシールって!!
③ 第16回ポリサリオ戦線会議と新・事務総長兼大統領:
2023年1月13日、<ダハラ>と故郷の地名で呼ばれるアルジェリア砂漠にある西サハラ難民キャンプで、第16回ポリサリオ会議が開催された。5か所ある西サハラ難民キャンプで選ばれた代表、婦人同盟や青年同盟や<モロッコ占領地の収監者たちを助ける会>など様々な団体で選ばれた代表、モロッコ占領地の被占領民の代表、などなど、約2,000人の西サハラ人民と、外国の招待者約300人が一堂に会した。閉会の予定は1月17日とされていた。
1月13日と14日には、外国からの来賓が次々に、西サハラ独立運動に対する連帯と激励の挨拶を叫んだ。南アフリカ、アルジェリア、ナミビアなどは夫々、閣僚級の代表を送り込んだ。ロシア共産党と数人のEU議会議員も参加した。SADR(サハラウィ・アラブ民主共和国)を国家承認している東テイモール、ベネズエラ、そしてアフリカ諸国は国家元首の祝辞を送った。自分の挨拶を済ませた来賓たちは閉会日を待たず、会議主催者に送りの車を急かせる。砂漠の奥深くにある難民キャンプからアルジェリアのチンドゥフ空港まで約200キロメートルある。我儘でバラバラな来賓たちのために、砂漠の民の運転手たちは嫌な顔をせず、トヨタ・ランドクルーザーを走らせた。
外国人が掃けた後、<第16回ポリサリオ戦線会議>主催者はさらに48時間の会議延長を求め了承され、<事務総湯兼大統領>の選挙を実施した。新・事務総長兼大統領が選出されると同時に主催者は、さらに72時間の延長を決めた。会議に参加した西サハラ人民の代表は、181人の候補者の中から27人の全西サハラ事務局員(ポリサリオ幹部)を選んだ。
2023年1月22日夜遅く、「占領者を追放し、主権の完全な奪回に向けて闘いを強化する」というスローガンの下で開催された第16回ポリサリオ戦線会議は終了した。かくして、ポリサリオ戦線事務総長兼SADR大統領と全西サハラ事務局員(幹部)が、3年間の任務に就いた。
ガリ大統領は新任演説で、「2020年11月13日、モロッコ占領国は、1991年にサハラウィ軍とモロッコ軍の間で署名された国連安保理停戦協定を地雷で爆破した。国連安保理を無視する恥ずべき停戦破棄に直面した私たちは、国連に、国際条約によって保証された正当な権利を礎に、国連とアフリカ連合の憲章と決議に従ってアフリカ最後の植民地を脱植民地化する努力に協力する用意があることを伝えた。民族自決と独立に対する私たちの神聖な権利を破壊しようとする国家暴力に抗して、武力闘争を再開することも国連に通知した」と、述べた。そして、「占領を追放し、主権の完全な奪回に向けて闘いを強化する」という<第16回ポリサリオ戦線会議>のスローガンで演説をしめた。
「西サハラ:ポリサリオ戦線では、モロッコとの戦争を激化させる圧力が高まっている」との見出しで、フランスの新聞ルモンドは、ポリサリオ戦線の第16回会議を特集し、停戦合意に違反したモロッコの占領に抗する戦いをエスカレートさせようとの、会議決意を報じた。さらに、「モロッコ占領軍との戦闘強化は、若者と兵士の要望だ」と、強調する大統領発言を引用した。そしてルモンドは、「この地域での戦争再燃を予測し、アラブおよび外国のメディアが注目した」と、結んでいる。
1月22日、アルジェリアのアブデルマジド・テブン大統領は、ポリサリオ戦線事務総長兼SADR(サハラ・アラブ民主共和国)大統領ブラヒム・ガリに、大統領再任と第16回ポリサリオ戦線会議の成果を讃え、祝辞を送りました。
モロッコの反応は?、、ありません。 実をいうと、モロッコは、モロッコゲート(モロッコによるEUへの汚職事件)の決着がつくまで、EUへの出入り禁止となり、大変なんです。 モロッコの汚職外交はUNにもはびこっているそうで、その証拠隠滅に関係者はおおわらわだとか?!
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「サラー西サハラ難民アスリート」の出版情報です。
著者:平田伊都子、写真構成:川名生十、画像提供:アマイダン・サラー、SPS、
定価:本体1,800円+税、
発行人:松田健二、
発行所:株式会社 社会評論社、東京都文京区本郷2―3―10、電話:03-3814-3861
同じ「社会評論社」が出版してくださった「ラストコロニー西サハラ(2015年)」、「アリ 西サハラの難民と被占領民(2020年2月)」にも、お目を通してください。
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Youtube2018年7月アップの「人民投票」(Referendum)もご案内。
「人民投票」日本語版 URL :https://youtu.be/Skx5CP3lMLc
「Referendum」英語版 URL: https://youtu.be/v0awSc25BUU
Youtubeに2018年4月アップした「ラストコロニー西サハラ」もよろしくお願いします。
「ラストコロニー西サハラ 日本語版URL:https://youtu.be/yeZvmTh0kGo
「Last Colony in Africa] 英語版URL: https://youtu.be/au5p6mxvheo
WSJPO 西サハラ政府・日本代表事務所 所長:川名生十 2023年1月29日
SJJA(サハラ・ジャパン・ジャーナリスト・アソシエーション)代表:平田伊都子
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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