アメリカの主導で、イスラエルが主催する<ネゲブサミット①>が、初めて開かれたのは2022年3月でした。 アメリカとイスラエルが描く新中東地図と、注目されました。
しかし、2023年5月28日に、「<ネゲブサミット②>が、中断!<ネゲブサミット②>の会場としてモロッコが、モロッコ占領地・西サハラのダハラを提案したためだ」と、西サハラ難民キャンプのMAP通信社が伝えてきました。 ネゲブサミット構想と、暗躍するアメリカ・イスラエル・モロッコの動きを報告します。
① <ネゲブサミット>とは?:
2022年3月27日と28日、イスラエル南部ネゲブ砂漠のスデ・ボケルに、アメリカのアントニー・ブリンケン米国務長官、アラブ首長国連邦のシェイク・アブドラ・ビン・ザイード・アル・ナヒヤーン外相、バーレーンのアブドゥ・ラティフ・ビン・ラシード・アル・ザヤニ外相、エジプトのサメ・シュクリ外相、モロッコのナセル・ブリタ外相、そしてイスラエルのヤイール・ラピッド外相、が集まった。ラビッド・イスラエル外相の司会で、地域安全保障を議論する多国間会議<ネゲブ・サミットー①>が開催された。
<ネゲブサミット①>はアメリカが主導した中東再編成作戦で、イスラエルと国交のあるアラブ諸国、1978年にイスラエルと和平を結んだ最初のアラブ国家であるエジプトや、アブラハム合意の一環として2020年に関係を正常化したUAEアラブ首長国連邦、バーレーン、モロッコなどが招待された。その後、 6 つの作業グループが組織され、 2023年の<ネゲブサミット②>の開催を目指した。ヨルダンも招待されたが、<ネゲブサミット①>も、その後の作業グループにも参加しなかった。
仇敵であるイランとシリアを潰すため、イスラエルは、アメリカと共謀して<反イラン・シリア戦線>を構築しようと、<ネゲブサミット>をイスラエルと国交のない中東諸国に向け大いに売り込んだ。
しかし、2022年11月1日のアルジェ・アラブ連盟サミットでパレスチナを含むアラブ諸国が再結集し、3月10日に中国の仲介でサウジアラビアとイランが劇的和解をし、3月19日にアサド・シリア大統領がUAEを訪問し、5月17日にはシリアがアラブ連盟に歴史的復帰をし、、イスラエルとアメリカが画策する、<アラブとイスラエルの対イラン・シリア網>は、形骸化してしまった。
<ネゲブサミット>は、パレスチナを含め21か国あるアラブ諸国のうち、イスラエルがてなずけた数か国だけを集め、アメリカとイスラエルの意向に従うアラブ世界を創ろうとしている。しかも、2023年になってパレスチナに強行なネタニヤフ氏が首相に返り咲いた。ネタニヤフ首相は、パレスチナ・イスラエルの二国家共存を否定し、国連管轄下のエルサレムをイスラエルの首都と位置づけ、パレスチナ人の土地を奪いイスラエル人入植を促進している。彼はユダヤ強硬派と組んで組閣し、イスラエルをますます右傾化させている、、
② <ネゲブサミット>を報じるオンライン・イスラエル紙イスラエル・タイムズ:
<ネゲブサミット①>の取材を続けてきたオンライン・イスラエル紙イスラエル・タイムズが、<ネゲブサミット頓挫>を報じた。イスラエル・タイムズは2012年に創刊され、無党派を売り物にするオンライン新聞だ。
2022年9月15日、2023年1月6日、2023年1月9日、と、<ネゲブサミット②>の準備委員会が重ねられた。3月に予定されていた、モロッコでの<ネゲブサミット②>開催に向けて軌道に乗っているかのように見せかけた。が、<真っ赤なウソ>で、3月の<モロッコ・ネゲブサミット②>は、ラマダン月を理由に延期された。
さらに、モロッコが開催地と提案していた<モロッコ占領地・西サハラのダハラ>に、アメリカ・バイデン政権がクレームをつけた。米バイデン政権は、モロッコ占領地・西サハラは国連が指定した植民地・非自治地域で、国際会議の開催地として不適格だとした。トランプ前政権のように、バイデン米政権も占領地西サハラをモロッコ領土だと認めるものだと、たかをくくっていたモロッコの思惑は、外れた。
2023年1月3日に政権を奪還したネタニヤフ首相は、<ネゲブサミット>の名称を変えれば、イスラエル色が消えヨルダンやサウジなどもなびいてくると、名称変更を提案した。2023年5月16日、アメリカは<ネゲブサミット>の名称を変更する報告書を出した。
モロッコやバーレーンやUAEはこの報告書についてのコメントを拒否した。
<ネゲブサミット>の生みの親でもあったイスラエル前政権の外務大臣ラピッド氏はツイッターで、「この政府は国家の誇りが何なのかを理解していない」と名称変更を検討しているネタニヤフ政権を激しく非難した。
イスラエルとアラブ・パートナー国との関係に不和の兆しが現れ、UAEはパレスチナをないがしろにするイスラエル指導者や新政権下の政策を繰り返し公然と非難し始めた。
時間の経過と共にイスラエルとアラブの<アブラハム合意>にも疑問の声が出てきた。
<アブラハム合意>とは、ネタニヤフ首相(当時)とトランプ大統領(当時)の娘婿でユダヤ系アメリカ人のクシュナーが仕組んだ新中東工作を指す。2020年8月13日のイスラエルとUAEの国交正常化に始まり、同年12月10日にはトランプ大統領がイスラエルとモロッコの国交正常化と引き換えに、モロッコ占領地・西サハラのモロッコ領有権を承認する書類にサインをし、モロッコ国王を狂喜させた。
<アブラハム>とは、旧約聖書にでてくる、イスラム教とユダヤ教とキリスト教に共通の予言者だ。
③ ダハラを狙うモロッコとイスラエル、米国がダメなら英国があるさ:
モロッコ占領地・西サハラの未開発の漁場と鉱物資源と大地を狙うモロッコとイスラエル現政権は、アメリカとイスラエル前政権が作った<ネゲブサミット>の名称を変更しアラブを騙す作戦を続けつつ、イギリスを巻き込もうとしている。イギリスは、パレスチナにユダヤ人を送り込んでイスラエルを建国させた、パレスチナ悲劇の元凶だ。が、西サハラ獲得しか頭にないモロッコは、頓着しない、、
モロッコ占領地。西サハラを統治するCORCAS(王立サハラ問題諮問評議会)は、「モロッコ英国大使館がロンドンで、数人の英国国会議員を前に西サハラを巡る円卓会議を開いた」と、発表した。この会議に、問題のダハラに住むガラ・バヒヤ氏(モロッコ人入植者?)が出席し、太陽光発電所や風力発電所や港湾施設や観光施設などの計画を紹介し、企業誘致を促した。さらにCORCAS は、「モロッコのハキム・ハジュイ駐英大使が、ムハンマド6世国王の王令で、モロッコ政府が南部の州(西サハラ)に投資した、、モロッコの自治案は、この地域紛争を解決するための唯一の現実的な提案である」と、言及した。
モロッコは英国の国会議員リアム・フォックスをモロッコに招待し、2023年5月31日、首都ラバトで声明を発表させた。CORCAS によると、フォックス氏はモロッコ南部(西サハラ)の地方自治州案に賛同したうえで「地域の人々にとって何が最善かに焦点を当て、地域レベルで政策を進めるための実際的な解決策を探すことが重要」と、言ったそうだ。
CORCASは「2007年にモロッコによって提案された南部州(西サハラ)の自治計画は、スペイン、フランス、ドイツ、オランダ、キプロス、ルクセンブルク、ハンガリー、ルーマニア、ポルトガル、セルビアの国々から明確な支持を得ている」と、自画自賛した。
モロッコが真っ先に挙げている西サハラのモロッコ化賛成の国は、スペインだ。スペインのサンチェス首相はモロッコに招待されて、2022年3月18日、西サハラはモロッコ領だと表明させられた。が、サンチェスは5月28日のスペイン統一地方選挙で大敗し、12月末の議会選挙を7月23日に前倒しせざるをえなくなった、モロッコ国王のサンチェスがこけたら、??、、モロッコは変わらず西サハラ強奪作戦を続けるだけだ。
モロッコ占領地・西サハラにあるダハラ飛行場、
滑走路をモロッコ国旗で塗り潰してある(出展CORCAS)
他国の権利を無視し、他所の土地を自分のものにしようとする強欲は、モロッコもイスラエルに引けを取りません。 欲で蛇のように絡んだ2国は、西サハラとパレスチナを丸呑みしようと、英国にも囁きかけました。
2匹が誘惑する英国は、2022年4月18日に欧州から英仏海峡を渡ってきた亡命希望者の一部を、東アフリカのルワンダへ移送する計画を発表しました、、かくも、非情な国です。
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「サラー西サハラ難民アスリート」の出版情報です。
著者:平田伊都子、写真構成:川名生十、画像提供:アマイダン・サラー、SPS、
定価:本体1,800円+税、
発行人:松田健二、
発行所:株式会社 社会評論社、東京都文京区本郷2―3―10、電話:03-3814-3861
同じ「社会評論社」が出版してくださった「ラストコロニー西サハラ(2015年)」、「アリ 西サハラの難民と被占領民(2020年2月)」にも、お目を通してください。
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Youtube2018年7月アップの「人民投票」(Referendum)もご案内。
「人民投票」日本語版 URL :https://youtu.be/Skx5CP3lMLc
「Referendum」英語版 URL: https://youtu.be/v0awSc25BUU
Youtubeに2018年4月アップした「ラストコロニー西サハラ」もよろしくお願いします。
「ラストコロニー西サハラ 日本語版URL:https://youtu.be/yeZvmTh0kGo
「Last Colony in Africa] 英語版URL: https://youtu.be/au5p6mxvheo
WSJPO 西サハラ政府・日本代表事務所 所長:川名生十 2023年6月3日
SJJA(サハラ・ジャパン・ジャーナリスト・アソシエーション)代表:平田伊都子
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
〔opinion13055:230603〕