2023年6月18日に沈没したタイタン観光潜水艇の引き上げが、僅か10日後に始まりました。 その一方で、不法移民の人々をぎゅう詰めにした漁船の沈没事故が続発し、6月14日に子供を含む500人以上を船倉に閉じ込めた不法移民難破船は、海底に放置されたままです。 しかしマスコミは、お一人様25万$(約3600万円)の道楽事件を根掘り葉掘り書き立てても、一人1,000$(約10万円)単位で売り飛ばされ海底に沈んでいる人々の追跡取材はやらないのです。
そんな中で、6月25日のBBC英国TVが、沈没の概要を伝えました。
① ギリシャ・ピュロス島沖で沈没した不法移民船:
2023年6月25日、BBC 英国TVが、「この漁船沈没事故で、国連は500人以上が溺死したと発表している。一方でギリシャは、災害への対応に十分な措置を講じなかったとして批判にさらされている。さらに、移民船(不法移民を積んだ漁船)は安全で安定した航路を進んでいたというギリシャの主張は、疑問視されている」と、前振りをして、真相を暴いていった。
頻発する不法移民船や麻薬密輸などを監視するため、EU(欧州連合)は、Frontex(フロンテックス・欧州対外国境管理協力庁)を設け、EU域外との国境警備について加盟国間の調整などを行っている。そのフロンテックスの飛行機が、リビアを出港しギリシャに向かう超満員の漁船を、初めて公海上で発見したのは6月13日の早朝だった。
フロンテックスは、漁船を監視する飛行機を出すようギリシャ当局に提案したが、ギリシャ沿岸警備隊は応じなかった。ギリシャ沿岸警備隊は、「乗船者がイタリアに行くんだから、放っといてくれと言った」と、主張した。しかも、ギリシャ沿岸警備隊は「該当漁船は安全平穏な運航を続けていた」と、報告した。しかし、この漁船は故障していて、転覆するまで少なくとも7時間以上、ほとんど動いていなかったのだ!
不法移民を積んだ漁船は、現地時間6月14日午前2時4分過ぎ、海岸沿いの町ピュロスの南西約80キロの地点で沈没した。100人以上が救助された。が、生存者らは、船倉にいた約100人の子供を含む750人もの人々が残されたままだと、明かした。アフリカの人々に混じって、パキスタン人やエジプト人も乗船していたそうだ。6月26日にギリシャの都市カラマタで、逮捕された9人のエジプト人男性が出廷し、人命を危険にさらし、難破船と人身売買を引き起こした過失致死の罪に問われた。しかし、全員が無罪を主張した。
② ランベドゥーザ島の沖で沈んだ不法移民船:
ピュロス島沖で沈んだ漁船の不法移民たちは、イタリアを目指していると語っていた。
イタリアは、北アフリカのチュニジアやリビアの対岸にあり、ヨーロッパを目指すアフリカからの不法移民にとって一番近く、密航船の目的地のひとつになっている。モロッコの対岸にあるスペイン沿岸やカナリア諸島も、同様だ。
みんなが憧れるイタリアの中でも一番近いのが、ランベドゥーザ島だ。島は、地中海のシチリア島南方、イタリア領最南端にあり、住民は約5500人で観光地として知られ、透明度の高い海で有名だった。最近は、アフリカや中東からの移民・難民の目的地となっていて、ランペドゥーザ難民収容センターが設けられている。が、定員を超過する状況が続き、ネを上げたイタリアは、他のヨーロッパ諸国へ難民を移動させようとした。しかし、フランスなどが反発し、難民を乗せた列車を国境で停車させるなどの妨害をしてきた。
2010年に起きたチュニジアのジャスミン革命時には、数万人単位の難民が島に押し寄せた。それ以降も不法移民は続き、島の近海ではしばしば沈没事故が発生してきた。2013年10月3日には、ランペドゥーザ島の沖で500人を超えるアフリカからの不法移民を乗せた船が沈没し、300人以上の死者を出している。
2011年にNATOの支援を受けた反政府勢力がカダフィ大佐を惨殺した後、今日に至るまでリビアでは無政府状態が続いていて、不法移民の拠点になっている。国連の傘下にあるIOM(国際移住機関)は2017年11月、アフリカから欧州を目指す人たちがリビアの<奴隷市場>で売られていると警告する報告書を発表した。IOM は、「密航業者や民兵組織に拘束されたサハラ砂漠以南から欧州を目指す若者数百人が、奴隷監獄に収容され、リビアの町の広場や駐車場で売られている」と、<奴隷市場>の実態を報告した。同年の2月にUNICEF(ユニセフ国連児童基金)が<子供たちの命をかけた旅>と題して、リビアからイタリアへ渡る大勢の子供たちがどのような危険にさらされるかという、報告書を発表した。報告書は、不法就労や虐待や性暴力などを生々しく語っているが、臓器売買の実態には触れていない。2016年には約2万6000人の子供が地中海を渡ったそうだ。
そして、2023年6月24日、再びランベドゥーザ島の沖で不法移民船が沈没し、49人が行方不明になった。
③ アフリカのワグネル庸兵たちは?:
6月26日、ラブロフ・ロシア外務大臣が、「マリと中央アフリカの治安維持への協力に変化はない、、マリと中央アフリカにはワグネル(ロシアの民間軍事会社)との関係だけでなく、ロシア政権との公式な交流もある」と述べた。 ワグネルが絡む、マリには金が、中央アフリカにはダイヤモンドやウランが、そしてリビアには石油が、いずれも豊富にある。ワグネルによる各国への軍事介入には、こうした地下資源を獲得しようとする魂胆もあった。
これまで数年間にわたるアフリカでの軍事的および経済的作戦で、ワグネルは関連企業のネットワークをつくり、傭兵が蠢いている国々では商業活動も行っている。中央アフリカでは、鉱物や木材の取引、モカフ・ビールやウォッカの製造を行っている。中央アフリカ共和国大統領の警護はワグネル傭兵が請け負っている。リビアでのワグネルは、反政府棟梁ハリファ・ハフタル将軍の首都トリポリ占領を援助した4年前から、リビアの東部と南部のハフタル拠点で主要な石油施設の周辺に、ワグネル傭兵を展開させている。一般に、アフリカのワグネル傭兵の給料は、現地の雇い主から出ているそうだ。現地調達ということになるのかな?
アフリカを狙うワグネル・ロシア民間軍事会社の求人ポスターは今も公布中
6月29日、国連安保理がMINUSMA(西アフリカ・マリの国連平和維持活動・PKO)の終了を決定した。マリの暫定政権はかねてから、PKO撤退を国連に要請していたそうだ。これで、2012年のイスラム過激派による北部掌握をきっかけに2013年から1万人以上の規模で展開してきたPKOが幕を閉じる。 撤退後の治安悪化が予測されるほか、マリと連携するワグネル傭兵の動向も懸念される。そして、マリ難民の急増は、避けられない。
6月29日の国連定例記者会見でジェームス記者が、「MINUSMA(ミヌスマ・国連マリ平和維持ミッション) は平和がないにもかかわらず閉鎖された。UNAMID (国連・アフリカ連合ダルフール・ミッション) も、スーダンに平和がなかったにもかかわらず閉鎖された。国連は、平和維持活動への意欲を失ってしまったのか?」と、質問した。「難民や避難民などの弱者に寄り添って、、」と、繰り返してきた元国連難民高等弁務官のアントニオ・グテーレス国連事務総長の副報道官による解答は、「国連安保理の決定に従う」だった。
MINUSMA(ミヌスマ・国連マリ平和維持ミッション) は、あっという間に解体されてしまいました。 国連の番記者が、連鎖反応で他の国連平和維持活動(PKO)も廃止されていくのでは??と、心配しています。
西サハラの難民・被占領民・亡命の民が唯一の拠り所にしているのは、MINURSO (ミヌルソ・国連西サハラ人民投票監視団) という国連平和維持活動(PKO)です。 「突然廃止!」の声を聴く前に、国連安保理自身が提案した<人民投票>に着手しましょう!
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「サラー西サハラ難民アスリート」の出版情報です。
著者:平田伊都子、写真構成:川名生十、画像提供:アマイダン・サラー、SPS、
定価:本体1,800円+税、
発行人:松田健二、
発行所:株式会社 社会評論社、東京都文京区本郷2―3―10、電話:03-3814-3861
同じ「社会評論社」が出版してくださった「ラストコロニー西サハラ(2015年)」、「アリ 西サハラの難民と被占領民(2020年2月)」にも、お目を通してください。
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Youtube2018年7月アップの「人民投票」(Referendum)もご案内。
「人民投票」日本語版 URL :https://youtu.be/Skx5CP3lMLc
「Referendum」英語版 URL: https://youtu.be/v0awSc25BUU
Youtubeに2018年4月アップした「ラストコロニー西サハラ」もよろしくお願いします。
「ラストコロニー西サハラ 日本語版URL:https://youtu.be/yeZvmTh0kGo
「Last Colony in Africa] 英語版URL: https://youtu.be/au5p6mxvheo
WSJPO 西サハラ政府・日本代表事務所 所長:川名生十 2023年7月1日
SJJA(サハラ・ジャパン・ジャーナリスト・アソシエーション)代表:平田伊都子
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座 https://chikyuza.net/
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