17 次の日彼は学校に寄らずにまっすぐアパートに帰った。学校で受けるべき授業はなかった。気休めに山岡たちとだべっていようかという気持ちがあった。しかしそれよりも何よりも、自分の部屋でゆっくり眠りたかった。そのうえで、今の
本文を読む川元祥一の執筆一覧
小説 「明日の朝」 (その16)
著者: 川元祥一16 一つの奇跡はどのように続くだろうかー。続くのか、続かないのかー。確かに聖子の前で一つの選択をした。そしてその時、脳裡に千津子がいたのは確かだった。しかしだからといって、千津子と自分との間で何がどのように続くのか続か
本文を読む小説 「明日の朝」 (その15)
著者: 川元祥一15 昨夜は眠れなかった。あれから一人駅前に出て焼き鳥屋に入った。晩飯代わりに焼き鳥を食い酒を飲んだ。いくら飲んでも意識が冴えた。聖子のことが気にならないことはなかった。しかしもう取り返しのつかないことだろう。千津子
本文を読む小説 「明日の朝」 (その14)
著者: 川元祥一14 ノースリーブの肩口からのびる柔らかい腕が優しくて、まぶしい感じだった。朝付けていた薄いカーデガンをとって、代わりに胸に木製のネックレス姿だった。おしゃれに気を配ったこんなに活発な女の子が自分のアパートを目指して来る
本文を読む小説 「明日の朝」 (その13)
著者: 川元祥一13 突然異物が進入したかのような鋭い電気鋸の音が響き、煙とも埃とも見分けのつかない白いものが場内に舞い上がる。平崎はタイムレコーダーを肩に掛けてリンクサイドを歩いた。いつもなら今頃、暗い天井に小さな星が輝きショパンか
本文を読む小説 「明日の朝」 (その12)
著者: 川元祥一12 フロントの前の広場に人が群れて溜まっていた。先々週のチンピラ騒動と違って、やたらと人が多い。入場制限をしているように見えたが、この時期入場制限など考えられなかった。建物の中で障害事件でもあったのかー。 平崎は人
本文を読む小説 「明日の朝」 (その11)
著者: 川元祥一11 小春日和の中、薄茶色のスカートをゆらして歩く千津子は、さっきの糞真面目な表情を忘れ、解放感を楽しんでいるかのようだった。彼女が歩いてみたいと言うので、武松を出た後、二人は外掘通りを八重洲に向かった。銀座から東京駅
本文を読む小説 「明日の朝」 (その10)
著者: 川元祥一10 上腕に肩を触れてくる千津子を意識しながら彼は銀座の人通りを見ていた。乾いた光と影。一つの奇蹟がつづいて胸をふくらませていた。こんな奇蹟がどこまでつづくのかわからないのだったが、彼はその一瞬に幸運を感じていた。
本文を読む小説 「明日の朝」 (その9)
著者: 川元祥一9 遠いネオンを映して幻想的に光る水面から、人のつぶやきに似た水鳥の低い鳴き声が聞こえた。不忍の池。聖子の肩に手を置き、指に触れる頬のやわらかい感触を楽しみながら歩いた。 「あら鳥がたくさん泳いでる」 聖子が彼の手から摺
本文を読む小説 「明日の朝」 (その8)
著者: 川元祥一8 お茶の水駅に向かう電車の中で彼は今朝の聖子のことを思い出していた。土産を買ってきたとはしゃいで見せる聖子だったが、その言葉の向こうで果たして何があったのか。平崎はそのことが知りたかった。彼女は俺のことを父親に話すと
本文を読む小説 「明日の朝」 (その7)
著者: 川元祥一7 ローラスケート場の前の広場に向かって朝の打水を飛ばしていると、下の信号を渡って広場に上がってくる女がいた。薄茶色のスーツを着込みポニーテールをゆらして歩く聖子だった。 「お早うございます」 広場の向う側から聖子が
本文を読む小説 「明日の朝」 (その6)
著者: 川元祥一6 「音楽会なんかよく行くんですか?」 白いコーヒーカップに手をのばしながら平埼は千津子に聞いた。 「ええ、時々お友達と。この間中村紘子のリサイタル聞きに行きました。でも今日はとっても素敵でした」 農紺のワンピースの胸に
本文を読む小説 「明日の朝」 (その5)
著者: 川元祥一5 朝とも黄昏とも見分けのつかない光と影が行き交う駅の階段を平崎は一人下りた。彼が乗ってきた総武線の電車と、隣の山手線の緑色の電車が出入りするプラットホームはラッシュアワーの名残をもって混雑しているというのに、一つ離れた
本文を読む小説 「明日の朝」 (その4)
著者: 川元祥一4 聖子の電話を切った後、平崎は椅子に座って一息ついた。電話器の上にある時計の針は九時三十分を回っていた。最初の巡回の時間が迫っていることもあって、叔母に電話するかどうか迷っていた。昨日の礼を言うだけかも知れないし、考え
本文を読む小説 「明日の朝」 (その3)
著者: 川元祥一3 窓の外で突然ワッと歓声が沸き、続いて笛や太鼓の音が人のどよめきと共にふくれあがる。人の姿はどこにも見当たらないというのにー。 ローラスケート場の北側の窓から、野球場の巨大で無機質なコンクートの壁と、例の鉄柱の一
本文を読む小説 「明日の朝」 (その2)
著者: 川元祥一2 赤い目を前にして立ち止まると、前方に灰色の巨大な鉄塔が見えた。人の頭上を見下ろすかのような、大きな存在感のある鉄塔ではあったが、昼間の太陽の下ではそれがなぜそこにあるかわからい、不思議な、無意味とも思える存在だった。
本文を読む小説 「明日の朝」 (その1)
著者: 川元祥一【小説『明日の朝』発表について】 この小説は文芸誌『千年紀文学』に連載中の「明日の朝は…」の原稿の後半(未発表部分)を訂正書き直したものである。当文芸誌に投稿した時に、後半、特に最後の場面は書き直すことを告げて連載を始め
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