菅政権への期待
- 2020年 10月 3日
- 評論・紹介・意見
- スガ小原 紘韓国
韓国通信NO649
文在寅大統領が菅首相に祝辞と関係改善を求める書簡を送ると、日本は返書で「両国は重要な隣国」という認識を示した。5日後の9月24日には両首脳による電話会談が行われ、関係の改善とコロナ対策の克服などについて話し合われた。
日韓関係がこのままでよいと思う人はいない。安倍政権の継承を公言する新首相だが、従来の政府見解に固執せず、関係正常化への努力を期待したい。そのためにはまず国家間の賠償が解決しても、徴用工個人が受けた肉体的、精神的苦痛に対する請求権は消滅しないとする主張に真摯に耳を傾けることから始めたらどうか。
日本政府の見解を鵜のみにしたため、結果として感情的な対立を煽ったわが国のマスコミの責任は重い。歴史的、政治的、法的な観点から問題点を明らかにして、解決への努力をお願いしたい。
<韓国社会の変調?>
文在寅政権の任期が残すところ2年になった。5月に71%を記録した支持率が9月に入り39%へ急落。コロナ疲れ、生活の不安に加えて、最近の一連のスキャンダルに国民が不満を募らせた結果と思われる。
曹国(チョ・グク)法務部長官の娘の不正入学問題から始まり、元「挺対協」代表尹美香(ユン・ミヒャン)の使途不明金問題、次期大統領有力候補だった朴元淳(パク・ウォンスン)市長の自殺とセクハラ疑惑、さらに今月に入り秋美愛(チュ・ミエ)法務部長官の子息の兵役疑惑と続いた。問題が明るみになるたび社会全体は蜂の巣を突いたような騒ぎになった。これでは支持率の低下は免れない。
「過剰な家族愛」「ルーズな金銭感覚」「裏表のある人格」「権力の腐敗」はどこの国でもある話だ。韓国の人たちが真相の解明を求めるのは当然だ。特に権力者の不正には厳しい国柄だ。
わが国のメディアが伝えるスキャンダル報道にはあきれるばかりだ。報道姿勢に対してである。日韓関係悪化の原因を文大統領のせいと考えている人たちは、文在寅政政権の落ち目に期待感をにじませ、自分の「嫌韓」に納得しているように見える。
<韓国報道の「いかがわしさ」>
隣国のごたごたを、余裕をもって伝える気楽さ。「すべて解決ずみ」という政府見解に疑問を感じない立場では韓国内のもめごとは高みの見物なのかもしれない。気楽さからは、わが国が陥っている政治状況の危機感がまるで感じられない。いかがわしいと感じるのはその点である。韓国のことを心配する余裕が日本にあるのか。私には日本のほうがよっぽどスキャンダルの山のように見えて仕方ない。
「健康問題」で辞任したとたん、安倍政権の支持率が70%に急上昇、安倍政権を継承した菅政権は何もしないうちに支持率が60%を超えた。「日本人は一体どうなっているの!」と日本人が驚くほどだから外国人には理解を超えた現象に違いない。その原因は、日本の特別なマスコミと日本人の特別な思考が生んだものと考えられないか。
安倍政権のもと、不祥事件で更迭された閣僚は10人。現在逮捕され拘置所にいる3人の国会議員たちは、みな安倍前首相と菅首相のお友達だったというから呆れる。憲法違反の立法の数々。国政の私物化と虚偽答弁、文書の改ざんなど悪行を重ねた首相を忖度して守ったのは高級官僚ばかりではない。批判力を失った言論を担う人たちも同罪だ。
コロナ対策をめぐり日韓の対応の違いが浮き彫りになった例を見てみよう。
韓国政府が国防費を削減してコロナ対策に約1兆8千億ウォンの補正予算を組んだニュース。一方、同時期に、わが国はステルス戦闘機F35をアメリカが言うがまま2兆5千億円で購入を決めた。軍事費を削ってコロナ対策をしたニュースは「大事件」だった。安倍政権には国民に知られたくないニュースだった。マスコミの首相に対する忖度によって韓国から学ぶどころか、世論を喚起して政府を批判する大きな機会を私たちは失った。
<付和雷同>
「和」を尊ぶ日本人は自己主張を好まない。デモ隊を見る「善良」な市民の視線からいつもそう感じてきた。
論語の「和して同ぜず」「和而不同」の精神は人間の協調(尊重)を前提に主体性を求める。安易な同調は「付和雷同」と孔子は厳しく諭した。その点、韓国社会では正しい儒教精神が生き続けているように見える。わが国では権力者に和して同ずるばかりだ。韓国は自分の主張をしてやまないが、協調する社会でもある。民主的な社会とは本来そういうものだ。
安倍長期政権は国民の愚かなほどの寛容さに胡坐をかいた7年8か月だった。森友学園、加計学園、桜を見る会で明らかになった国政の私物化は、得体のしれない和の精神と忖度、付和雷同によって見逃された。
大統領の不正に抗議した1700万人のローソクデモが韓国社会を変えたのは2017年のこと。日本の権力者たちは「延焼」を恐れ、日本人は何も学ばなかった。重ねて言いたい。日本には韓国のスキャンダルを心配するゆとりはない。平和憲法を持つ日本を「戦争のできる国」にした安倍前首相が残した負の遺産を克服する仕事が私たちに残された。日本人は「和して同ぜず」の精神を学ぶ必要かある。
<ピアニストの伊藤恵さん>
NHKラジオの音楽番組「気ままにクラッシック」でピアニストの伊藤恵さんのファンになった。先日、ある音楽番組の最後に彼女がコロナについて語った言葉が印象に残った。
「今年はベートーベン生誕250年の記念すべき年なのに、コロナのせいで記念コンサートが次々に中止になりとても残念。10年後に盛大なお祝いをしたい。生誕300年にはもっと平和な社会でお祝いをしたい」という趣旨の話をした。
トランプやプーチン、習近平、安倍、菅の顔から10年後の世界は想像できないが、10年後、50年後の「幸福」「平和」を語った彼女の心のスケールの大きさに感動した。ドライブ中に聞いた話なので正確ではないかもしれないが……。未来のために私たちがやれることを考えた。
初出:「リベラル21」より許可を得て転載http://lib21.blog96.fc2.com/
〈記事出典コード〉サイトちきゅう座http://www.chikyuza.net/
〔opinion10159:201003〕
「ちきゅう座」に掲載された記事を転載される場合は、「ちきゅう座」からの転載であること、および著者名を必ず明記して下さい。